CREフォーラム レポート
株式会社カスミ

(レポート)カスミの改善活動とソーシャルシフト

「ソーシャルシフトの経営」

「ソーシャルシフトの経営」

カスミは、1961年に創業したスーパーマーケット事業を行う会社です。本社は茨城県つくば市にあり、現在、北関東を中心に177店舗を展開しています。年商は約2,500億円です。

母体となるのは北関東ですが、人口減少が加速する昨今は、人口減少率の低い都市部への出店が成長の源泉となっています。ただ、人口減少地域となってしまった茨城県をはじめとする、北関東地域のお客様に育ててもらったという地元企業としての使命も持っています。そこで、北関東にある既存店舗の付加価値を上げるために、私たちが取り組んでいるのが「ソーシャルシフトの経営」です。これは、地域に居住する方々とカスミの関係性を企業価値とする経営戦略で、地域の皆様にカスミのファンになってもらうことが目的です。

「カスミの価値観」とソーシャルメディア

具体的にはまず、若手従業員を中心に立ち上げた「未来委員会」が、“お客さまのために”というカスミの企業理念を実践するための行動指標「カスミの価値観」を作りました。そのうえで、カスミの使命を「よろこびを分かち合える食卓づくり」としました。

この「価値観」を共有化し、実現するための施策を広げるために、私たちはFacebookを利用しています。Facebookを使うことで、他店舗との情報交換やお客様の声の拾い上げをより簡便に行えるようになり、従業員やお客様一人ひとりの意見を生かした売場づくりができるようになりました。

物流セクションの課題

お客様の要望は地域によって異なるので、それに応える店舗づくりをしていくと、店ごとに扱う商品群が異なるものになり、また扱うアイテム数も増えていきます。これは物流の面からいうと、スケールメリットを生かせなくなるという問題につながります。また、少子高齢化の影響で、ドライバーの高齢化・人材不足という課題も出てきています。

物流改善活動を継続するポイント

このような物流を取り巻く環境変化に対応するために、カスミは2004年から物流の改善活動を行っています。まずはトヨタさんにコンサルティングをお願いし、トヨタの「カイゼン」(全員参加で行う作業の見直し活動)を学ぶことから始めました。それから、改善の成果を4カ月に1回トップマネジメントの前で報告する現場報告会を行うようになり、これは現在も続いています。現地・現物・現実を重視する「三現主義」という考え方のもと、現場の実態を、最終決定権を持つトップマネジメントに知ってもらうということが、改善活動を継続していくうえで重要なポイントになります。

そして、改善活動を継続していくために重要な2つ目のポイントは、自分たちの活動が他者によってきちんと評価されるということです。私たちは、2010年から日本ロジスティクスシステム協会主催の全日本物流改善事例大会にエントリーを始めて、現在まで複数チームがエントリーし全国大会で入賞しています。このように評価されることによって、現場の人たちのモチベーションは上がり、この先の改善活動にもつながっていきます。

「WINの循環」~5つの改善事例から~

①店舗との連携によるドライバーの負担削減
カスミが行ってきた改善事例のなかから、まずは、ドライバーと店舗との連携による改善事例を紹介します。

ドライバーは、店舗に商品を運んだ後、商品の入っていた容器を回収して物流センターに戻さなければなりません。センターでメーカーごとに異なる回収容器を仕分けするのはドライバーの仕事です。一方、店舗で空容器を台車に積むのは店側の仕事になりますが、その積み方が乱雑なためセンターでの整理作業に時間がかかってしまうという不満の声がドライバーから多くありました。そこで店舗側に「台車に積む際に、容器を整理してから積んでほしい」とお願いしました。

これだけだと、店舗側からすれば自分たちの負担が増えるだけなので、要望を受け入れることはできません。しかしこれ以前に、ドライバー側は、「商品台車を該当する売場の通路まで運んでほしい」という店舗側の要請を引き受けていました。この事実があったので、今度は店舗側がドライバー側の悩みを聞き、解決する方向に動いてくれました。お互いが連携して作業負担を減らし合うことで、「WINの循環」が起こったのです。

②ドライバーと連携した積込時間の削減
2つ目として、センター作業員とドライバーとの連携による改善事例を紹介します。

物流センターでは、作業者の「積み方基準」を作っていたのですが、その積み方はドライバーの望む積み方とは異なっていました。そのため、ドライバーは積み直しをしなければならず、4トントラック1台の積込作業にかかる時間64分のうち、23分を積み直し作業に費やしていました。

そこで私たちは、「ドライバーがトラックに積み込む前に積み方の異常を発見したら、センター作業者が積み直しをする」というルールを作りました。当初は大量の積み直しが出てしまい、センター作業者から不満の声が上がりました。そこで、積み方を熟知したドライバーにノウハウを伝授してもらうことにしました。その結果、私たちがそれまで作っていた「積み方基準」は間違っており、ドライバーが望む積み方とは、商品が破損しない「揺れない積み方」であることがわかりました。

ドライバーにノウハウを教えてもらうことで、センター作業員は無駄のない荷物の積み方をできるようになり、一方ドライバーは積込作業にかかる時間を36%削減することができ、ここでも「WINの循環」が実現しました。

③女性にも優しい荷役作業の導入
3つ目は、スポット的な改善事例になりますが、女性にも優しい荷役作業の導入という事例を紹介します。

私たちの会社にも、時代の流れで近年、女性の従業員が増えてきました。彼女たちから、「重い商品が上積みされていると降ろすのが大変だから、積み方を変えてほしい」という意見が出てきたのです。

そこで、私たちは女性に優しい「積み方基準」を作ることにしました。台車の積載効率は落とさずに重いものは上に載せない積み方を研究し、マニュアル化したのです。これは女性のために行った改善ですが、結果的には高齢者や、ひいては男性従業員にも優しい改善になりました。

④共同配送ネットワークの構築による物流効率化-「TC型SCM」
4つ目の事例は、より大きな視点からの改善活動である、物流企業と協力して行った「TC型SCM」の事例を紹介します。

センターには在庫型のDCと経由型のTCがありますが、必要な商品を必要な時間に必要な分だけ仕入れ、新鮮な商品を消費者へ届ける私たちのような食品小売業は、TC型のセンターを多く展開しています。このTC型センターを中核に配置し、小売企業のサプライチェーンにおいて「物流コストの削減」と「物流品質の向上」を同時に目指す物流システムを、私たちは「TC型SCM」と呼んでいます。これは、生産・流通・販売の工程で必ず付随する物流をサプライチェーン企業間で、より利益の出る仕組みに変化させることを目的としています。

「TC型SCM」を実現するために私たちが行ったことのひとつは、協力物流企業に、TCセンターの構内に「センター前センター」とでも呼ぶべき、もうひとつのセンターを作ってもらい、そこでメーカーの納品代行業務をやってもらうということです。メーカーからの入荷配送とセンターからの店舗配送を同じ物流企業が行うことで、TC型センターの特性を利用した1車両2運行体制が可能となり、車両稼働率向上による物流コストの削減(メーカーメリット)、入荷のタイミングをコントロールすることでのスペース効率化、作業効率化(センターメリット)、店舗へのカテゴリー管理の推進(店舗メリット)、物流協力企業の増収(現場メリット)を同時に推進するWIN/WIN/WINのSCMを実現することができました。

カスミは、物流を外部化せず、センターを自分で持っている強みを活かし、そこで多くの納品業者と知り合うことで、SCMへの参加企業を増やし、同時に実際に物流の現場で働く人たちや、納品ドライバーから聞き出した悩みをきっかけとして、新たな物流改善の仲間を増やしているのです。

⑤地域コミュニティとの連携による離職率削減-「岩瀬流通センター」
最後に、5つ目の改善事例として、カスミが持つ物流センターのひとつである「岩瀬流通センター」における地域コミュニティと連携して行った改善事例を紹介します。

岩瀬流通センターのある茨城県桜川市は、少子高齢化の影響を受け、若年層の人口が低下している地域です。改善前の岩瀬流通センターでは、20代から50代の働き盛りの人たちを中心に採用していたのですが、年間で平均63.5人が退職してしまう状況に陥っていました。慢性的人材不足によって職場環境が悪化し、作業品質、モチベーション、モラルの低下を招いていました。

この状況を改善するために私たちがやったことは、管理標準化です。年齢・性別に関係なく、頑張った人がきちんと評価される仕組みを作ったのです。この仕組みのおかげで、女性や中高年の働き手のやる気が上がり、職場の雰囲気もよくなっていきました。

もうひとつ取り組んだことは、「地域優先雇用制度」と「紹介雇用制度」の導入です。雇用に関しても、年齢・性別にこだわらず、センター周辺の地域に住んでいる人や従業員の信頼できる知り合いを優先して採用することにしたのです。これらの雇用制度を採用することで離職率を63%削減することができました。

「人」が改善活動を支える

ここでご紹介した5つの改善事例に共通するキーワードは「WINの循環」です。経済活動のなかで「WIN」というと「利権」や「お金」などが真っ先に浮かびますが、改善活動における「WIN」は、「思いやり」や「感謝」や「誇り」や「やりがい」などになります。これらの気持ちを持って改善活動をしていくと、それに関わる人たちの間に共感が生まれ、それが連携に結びつき、やがて大きな力や価値となっていきます。

「人」「物」「金」という経営資源のなかで、私たちは「人」に最重点を置いて改善活動を行ってきました。人の知恵は無限です。それを最大限に活用していけば、これから起こるであろう、さまざまな環境変化にも対応していくことができると考えています。

講師紹介

株式会社カスミ ロジスティック本部
物流部 物流戦略担当マネジャー 齋藤 雅之 氏

株式会社カスミ ロジスティック本部
物流部 物流戦略担当マネジャー 齋藤 雅之 氏

多業種の物流業界に在籍した経験を活かし、2004年株式会社カスミの第2センター開設に物流協力企業として参画。2008年に同センター長に就任し、改善活動を主導する。
2013年に荷主である株式会社カスミに転籍し、第3センター開設プロジェクトを推進。
物流協力企業と連携しながら、TC型センターの特性を活かした調達物流ネットワーク『TC型SCM』を構築し、新センター開設に関連する納品メーカーの悩みを解決する。
現在は物流戦略担当マネジャーとして、カスミ物流体制の再構築を推進中。
【受賞歴】
2010年 JILS全日本物流改善事例大会2010 「仕分ミスの削減と組織改革」(全国2位)
2011年 JILS全日本物流改善事例大会2011 「関連部署との3つの連携~3PLの役割とは・・・」(全国1位)
2012年 JILS全日本物流改善事例大会2012 「離職率の削減と組織改革~WINの循環型改善推進とは・・・」(全国1位)
2014年 JILS全日本物流改善事例大会2014 「事務による改善推進~カスミ事務大部屋化方式とは・・・」(全国2位)
2015年 JILS全日本物流改善事例大会2015 「前後工程との3つの連携~現場を主役にしたWIN・WIN・WINのSCMとは」(優秀賞)

募集要項

イベント名 第28回CREフォーラム|「カスミの改善活動とソーシャルシフト」
日時 2016年 9月23日(金) 14:30開場 15:00開始 16:40終了
会場 虎ノ門ツインビルディング西棟地下1階
東京都港区虎ノ門2-10-1
参加対象者 荷主企業 様、物流会社 様
参加費/定員 無料/70名限定 (定員数を超えた場合、申し込み期限前でも終了する場合があります)

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティング部
メール:
leasing_mail@cre-jpn.com
電話:
03-5572-6604

物流・貸し倉庫に関する お役立ち情報

CRE倉庫検索で物件をお探しの方へ

CRE倉庫検索を運営するシーアールイーでは、業界トップクラスのネットワークを活用し、
経験豊かなプロフェッショナルが、お客様のご要望に合わせた物件情報のご提案、物件探しをご支援します。

電話でのお問合せはこちらから

TEL : 0120-007-521

(携帯電話・PHSからもご利用いただけます)
営業時間 : 午前9時30分から午後6時まで (平日のみ)

ページの先頭へ