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(レポート)「間違いだらけの土壌汚染」~今、改めて土壌汚染リスクとは何かを検証する~

土壌汚染対策法の目的

土壌汚染対策法の目的

昨今、豊洲移転問題等で土壌汚染が注目される機会が増えましたが、土壌汚染に対して間違った認識を持たれている方も多くいます。本日は、土壌汚染のリスクとは何か、また、汚染された土壌は完全に除去しないといけないのかという点を中心にお話ししたいと思います。

平成15年に施行された土壌汚染対策法の目的は、国民の健康を保護すること、つまり、「健康リスク」の防止です。土壌汚染の可能性が考えられる土地については、まずは土壌汚染があるかどうかの土壌調査をする「汚染把握」の義務が生じます。また、調査の結果、汚染があるということが判明したら、健康リスクがないように適切に「汚染管理」をする必要があるということで、その土地は区域指定されます。

つまり、土壌汚染法というのは、「汚染把握」と「汚染管理」が義務づけられているものであり、発覚した土壌汚染を完全除去しなさいという法律ではないのです。

土壌汚染対策法再改正のポイント

環境省は土壌汚染法を施行した際に、約5年おきに改正していくという方針を打ち出しました。第1回目の改正は平成22年に行われ、第2回目の改正法案が今年の5月に参議院を通過し、2年以内には本格施行される予定です。

今回は、規制緩和方向で3点、規制強化方向で2点の改正が予定されています。

規制緩和の3点はすべて、汚染された土地を完全浄化しなくても土地開発が容易にできるという法改正です。

1つ目は「臨海部の工業専用地域の特例」です。これは、臨海部の工業専用地域は隔離された場所にあるので、一般の人が健康リスクをこうむる土壌汚染の可能性は低いということで、法的な手続業務を緩和して土地を開発しやすくするというものです。

2つ目は、「自然由来・埋立材由来汚染土の取り扱いの緩和」です。日本は火山国なので、自然地層内に土壌汚染法の規制対象である有害物質の重金属類が含有されている土地が全国にあります。このような自然由来の土地については、手続業務を緩和して土地開発をしやすくするというのが2点目の規制緩和です。

3つ目は、「法4条の届出及び調査に係る手続の迅速化」です。今までは、3,000平方メートル以上の形質変更時に調査を求める法4条の申請は、申請→行政審査→調査→報告の流れをとるため、数カ月の時間がかかっていましたが、事前に行った調査結果を添付することで手続が簡略化されるというのが3点目の規制緩和です。

一方、規制が強化されるものとして2点あります。これは土壌汚染の把握はきちんと行うべきであるという考えに基づいてなされる変更です。

1つ目は「要措置区域における措置計画提出の義務化」、2つ目は「操業中の事務所における形質変更の際の調査義務(法3条の規制強化)」です。

後者は、製造業界に大きな影響を与える内容で、今回の法改正の目玉とも言われています。有害物質使用特定施設を廃止するときに調査の義務が発生するというのが第3条の内容ですが、特定施設を廃止した後、同じ事業場にある工場が継続して操業していれば操業期間中は調査義務が猶予されるという特例措置がありました。改正法では、この特例措置を受けている事業所において形質変更を実施する場合、形質変更前に土壌調査の実施義務が生じることとなります。

例えば、今までは地下配管で漏洩があった場合、突貫工事で水道管を入れ替えて修復し操業することができたのですが、改正法では、工事の前に調査し、その結果を行政に報告してからでないと工事に入れなくなるので、突貫工事をしてすぐに操業を始めることができなくなってしまいます。これに関しては、産業界から多くの反対意見が出ているので、環境省の中でも現在再検討中だということです。

環境省と国土交通省等他省庁との土壌汚染に対する考え方の違い

先ほどから述べているとおり、環境省の土壌汚染に対する考え方は、健康被害がないように土壌を適切に管理すれば問題はないという、「健康リスク」を前提としたものです。

一方、国土交通省を初めとするその他の省庁は、土壌汚染は土地の資産価値の減額要因になるという、「経済的リスク」を前提とした考えをとっています。汚染されていない通常の状態の土地の金額から、浄化に要する費用と人々の嫌悪感を数値化したものを差し引いたものが汚染地の鑑定評価であるという考え方です。土壌汚染があると資産価値が低下してしまうので、不動産にとっては大きなダメージ(=悪)であると考えます。

「健康被害さえ防げるのであればある程度の土壌汚染は容認する」という環境省の考え方と、「土壌汚染は土地の資産価値を下げるので完全浄化が望ましい」とする国土交通省の考え方、この土壌汚染に対する違いが、人々の土壌汚染に対する理解を混乱させる要因になってしまっています。

今の日本は、国土交通省の考え方のように土壌汚染に対しても「経済的リスク」に重きを置きがちです。その風潮に対して、「健康リスク」に焦点を当てて、汚染された土地の開発をしやすくし、完全浄化を減らしていこうというのが、環境省が進める今回の土壌汚染法改正の趣旨の1つであります。

法規制のない土壌汚染(油汚染)

ここまでは法律を中心に土壌汚染について説明してきましたが、土壌汚染対策法で規制されていない土壌汚染というものも存在します。それは油汚染です。油による土壌汚染は人の健康被害のおそれがなく、また油は、様々な成分の複合体であり、基準値の設定が非常に難しいため、土壌汚染対策法で規制されていないのです。しかし、見た目や臭い等により人に不快感を与えるため、不動産取引時や開発の際には、法で規制されている有害物質と同様の事前の評価や浄化が必要となってきます。

土壌汚染によるブラウンフィールド化問題

これまでお話ししてきた法規制のある土壌汚染、また油汚染は、発見されれば不動産の流通の妨げになることは間違いないです。土壌汚染がネックになって塩漬け状態になってしまう土地のことを「ブラウンフィールド」と言いますが、一般的に浄化対策費用が土地価格の約30%を超えると売却が困難になり、その土地はブラウンフィールド化すると言われています。

不動産取引においては、汚染した土壌は掘削除去により完全浄化するというのが一般的で、それには非常にお金がかかるので、ブラウンフィールド化する土地がどうしても出てきてしまうのです。

土地取引において完全浄化が主流となる三大要因

土地取引において、汚染された土壌の浄化の方法が掘削除去による完全浄化が主流となっている要因としては、土壌汚染がなくなることによる不動産価値の低下の防止、重要事項説明時における説明のしやすさ、企業コンプライアンス等の間接的リスクへの考慮があります。

掘削除去というのは、汚染された土を掘って、場外に出し、きれいな土を入れるという手法なので、どんな汚染物質があっても関係なく短期間で対応できますが、浄化工事の中でも最もコストを要する手法となるため、「土壌汚染=悪」というイメージを増幅させることにもなっています。

豊洲移転問題と土壌汚染問題

さて、土壌汚染に人々が注目するきっかけとなった豊洲移転問題ですが、ここにおいて問題になったことは、現在、土地取引において問題となっている土壌汚染と共通点が多くあります。これらの問題は、土壌汚染のリスクに対する誤解、「安全」と「安心」に対する理解の不十分さに起因しています。

豊洲市場では、土壌汚染、地下水汚染は現在も残っています。ただ、土壌汚染については、健康リスクを回避する措置がとられており、また地下水汚染については、地下水は利用しないので、「安全」ということが言えます。基準値を少しでも超過したら直ちに健康被害につながるというのは大きな誤解です。

一方、不動産取引における土壌汚染問題については、土壌汚染が発覚した場合、法の考えでは、健康リスクを回避する措置をとれば「安全」に利用できるということになっています。にもかかわらず、土地の資産価値の低下や嫌悪感を考慮して、すべて完全浄化を行い、過剰な「安心」を手に入れているという側面があるのです。

私たちは、豊洲問題においても、不動産取引においても、「安全」と「安心」をきちんと区別し、土壌汚染問題に適切に対応していく必要があります。

手法の組み合わせ~土壌に応じた対処法(「封じ込め」「原位置浄化」「掘削除去」)~

現在、土地取引において、汚染された土壌に対する対処法は「掘削除去」による完全浄化がほとんどであると先ほど述べましたが、「掘削除去」以外にも対処法はあります。

代表的なものが、汚染物質を敷地外へ流出しないように施行する「封じ込め」や、現場で汚染物質を薬剤や微生物を使って分離・分解する「原位置浄化」です。

それぞれの対処法は、その土壌に含まれる特定有害物質の種類やコストにおいてメリット・デメリットがあるので、費用対効果を考慮し浄化手法を選択し、組み合わせて、「完全浄化」にとらわれることなく、土壌汚染をコントロールし、リスク管理していくことを私たちは提案したいと思います。

完全浄化からの脱却~土壌汚染と上手につき合う~

土壌汚染対策法が施行されてから14年経ちますが、現在、土壌汚染に対しての考えが歪曲化されてしまっていると思います。「土壌汚染=悪」というイメージが付いてしまい、土壌汚染は完全に除去しないと問題が解決しないと多くの人が考えるようになってしまっています。今回の土壌汚染対策法の改正は、その考えを変える良いきっかけになると思います。土壌汚染というのは、決して怖いものではありません。私たちは、リスクを管理することで、土壌汚染とうまきつき合っていくことができると考えます。


エンバイオ・ホールディングスグループ
株式会社アイ・エス・ソリューション
営業第1部部長 兼 関西支店長
瀬田 英男 氏

講師紹介

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営業第1部部長 兼 関西支店長
瀬田 英男(せた ひでお)氏

エンバイオホールディングスグループ
株式会社アイ・エス・ソリューション
営業第1部部長 兼 関西支店長
瀬田 英男(せた ひでお)氏

JFEテクノリサーチ株式会社土壌環境部営業グループ長を経て、現職となる。

約20年前より、土壌汚染調査~対策工事、コンサル業務に携わり、土壌汚染対策法施行後は、不動産取引を契機に発生する土壌汚染問題を専門に、主に金融機関・不動産仲介業者・デベロッパー・弁護士等より依頼を受け、数多くのソリューション活動を展開。土壌汚染に関する勉強会、講演多数。

募集要項

イベント名 第2回CREフォーラムin大阪|『間違いだらけの土壌汚染』~今、改めて土壌汚染リスクとは何かを検証する~
日時 2017年 9月29日(金) 14:00開場 14:30開始 16:00終了
会場 大阪府大阪市中央区備後町1-7-3 ENDO堺筋ビル2階
参加対象者 荷主企業 様、物流会社 様
参加費/定員 無料/100名限定 (定員数を超えた場合、申し込み期限前でも終了する場合があります)

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティング室
担当:
野村 (ノムラ)
メール:
cre_osaka@cre-jpn.com
電話:
06-6225-3161

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