第1部:バローHD小池社長に聞く本物のロジスティクス経営|物流クロスオーバー【日雑シリーズ 小売編】

インタビュー

小売から卸・調達・製造まで、垂直統合 ビジネスモデルで製配販連携に先陣

小売から卸・調達・製造まで、垂直統合  ビジネスモデルで製配販連携に先陣

連載インタビュー記事「物流クロスオーバー」

 「物流企業と荷主業界の垣根をクロスオーバーした相互理解と問題解決を支援し、産業界全体の発展に寄与する」ことをパーパスに掲げた<物流クロスオーバー>。日用雑貨物流シリーズ第5回の掉尾を飾るのは、東海地域でスーパーマーケットほかの小売チェーンなどを幅広く展開するバローホールディングス(以下バローHD)。今回は、小池孝幸社長にご登場いただきました。
 同社は小売事業から製造、卸、物流その他を垂直統合した稀有の企業グループとして成長を遂げ、サプライチェーン全体最適化を推進。小売としていち早く「ホワイト物流」推進運動に参画し、グループ企業相互間を軸とする製配販連携で他を寄せ付けない成果を生み出しています。
 また同社は早い時期から米国流の本格ロジスティクス経営を追求し、物流を経営戦略の中核に置く独自のビジネスモデルを構築。物流の新たな可能性を切り拓く小池社長のお話は、今こそわが国産業界が学ぶべき示唆に満ち満ちていました。ぜひ、ご一読下さい。
(インタビュー・企画構成/エルテックラボ 菊田一郎)

今回のゲスト 株式会社バローホールディングス
取締役社長 流通技術本部長 小池 孝幸 氏  株式会社バローホールディングス

この夏、物流の「潮目」が変わった

株式会社バローホールディングス
取締役社長 流通技術本部長 小池 孝幸 氏

株式会社バローホールディングス
取締役社長 流通技術本部長 小池 孝幸 氏

今回、本企画で小池社長にご登場いただいた直接の趣旨は、この日用雑貨シリーズで製造業から卸売業、物流業とサプライチェーンの川上から各キーマンに話を聞いてきて、最後に川下の最終着荷主=小売業のリーダーから製配販連携のお話を聞く、ということでした。御社の主力事業はスーパーマーケットをはじめとする小売業であり、その立場からお話を伺うのが第一の目的です。2019年には小売業界でいち早く「ホワイト物流」推進を宣言し、物流の全体最適に取り組んでこられました。
 しかし同時に御社は、東海地区でのドミナント戦略として、調達・製造から販売まで58社の子会社で自社運営し、卸売、物流、保守、メンテナンスまで手掛けるという究極の「垂直統合型ビジネス」を実現しておられます。「製造・流通・物流・小売業」とも言うべきこのビジネスモデルは、少なくとも国内では他に例がないのではないでしょうか。

小池氏 そうですね、ここまで垂直統合型を進めた他の例は、私もあまり聞いたことはありません。当社はいわゆるコングロマリット形式で、各分野の機能集団を連結させ運営しています。当地域社会の活性化につながる事業であれば、幅広く手掛けるという姿勢で取り組んできました(後に詳述)。

 この連載インタビューでは、製配販連携の強化や物流2024年問題への対応が大きなテーマとなっているようですが、物流の近況について実感を申し上げると、この8月お盆明けくらいからまた「潮目」が変わりましたね。ドライバーが本当に集まりにくくなりました。2024年4月から(時間外労働時間の短縮など)法律が適用され大変なことになる、と騒がれましたが、数か月のタイムラグを経て、その影響がいよいよ顕在化してきたように感じます。さらに、年度末の3月には各社が監査を控えている。そこでまた、時間外労働時間・拘束時間が法定ラインを超えて働けないという現実に直面することになる。人員を確保できない緊急事態はもうひと波ありそうだと、皆で話しているところです。

そうですか。私も2年前からこの問題を取り上げ、「このままでは運べなくなる物流危機が、今に来る、きっと来る」と講演や記事で訴えてきました。ところが景気がなかなか盛り上がらず物流需給は緩いままで、なかなか危機が訪れない。私も本当に危ないのは2025年3月の年度末と、その前の2024年末だと指摘してきたのですが……。

小池氏 予測通りに危機が現実のものとなり、警告が的中したわけですね。この今年度の上期が終わるところで、「いよいよ深刻な状況になるかも知れない」という可能性がでてきました。どうすべきか見通しが持てないまま、やみくもに走しっている企業が多い、ということが物流業界全体の問題ですね。

製配販垂直統合の独自ビジネスモデル

その通りですね。具体的な話に入る前に、いま触れた貴社グループの特徴的なビジネスモデルについて、「主力3業態」を通して確認させてください(図表1)。頂いた図によると「小売」だけでもバローほかの計9ブランドのスーパーマーケット、ドラッグストア、6ブランドのホームセンターに、ペットショップ、スポーツクラブ、移動販売までを手掛けておられます。「物流・加工」は物流事業会社の中部興産(株)が調達物流・保管と店舗配送を担い(社長は小池氏が兼任)、「製造・調達」分野では農業・総菜・水産・ベーカリー、畜産・日用品・日配・資材・調味料・その他商材……と、通常は企業間サプライチェーンとなる「製配販」の大半を、ほぼ自社グループでカバーされている。「自給自足」が可能なほど、驚くべき幅広さですね!

小池氏 そうですね。そのため、製配販の連携といっても「自社グループ内での綱引き」を調整すればよい部分も多く、外部の会社同士で連携強化に苦労する一般企業に比べれば、やりやすい面があると思います。

図表1 バローホールディングスのビジネスモデル~主力3業態を支える垂直統合モデル
図表1 バローホールディングスのビジネスモデル~主力3業態を支える垂直統合モデル

今回、バローHDさんへのインタビューを「製配販連携にすごく協力的な企業だから」と強く薦めてくれたのが貴社取引先の日用雑貨卸企業でした。ナショナルブランド品の調達も多いので当然、外部企業との取引・連携も実践されていると思います。しかし自社グループ内で完結する部分の連携は有利で、それ自体が「垂直統合ビジネスモデルの勝利」ですよね。

小池氏 スーパーなどの小売事業を構造的に強くするためには、「安く仕入れられる仕組み」が不可欠です。調達の仕組みを突き詰める中で、製造もカバーしよう、そして卸の機能も、調達・配送の物流機能も、包材などの資材も……という具合に垂直統合の体制を整備してきました。他にも例えば、メンテックスという設備会社を持ち、総合ビルメンテナンス事業まで手掛けています。これらの事業インフラを整えることで、バリューチェーン全体で考え、最適コーディネートする――そんな機能集団になりたいと考えています。

 それらの諸機能をつなぎ、骨格をなすのが物流・ロジスティクスです。それを人任せにしたのでは、決して最適化はできない。例えばスーパーマーケットへの配送なら、朝便のあとで昼便があります。一般にはどの企業も朝便に集中し積載率が高いのに対し、昼便は積載効率が低い。それなら昼便に包材を載せて平準化すればいい……という具合に、我々には自社グループだからこそルールそのものを見直し、きめ細かい対応ができるのがメリットです。 

米流通業に学んだロジスティクス経営

以前に御社の上口物流部長の講演でお聴きしたのですが、そもそも御社が物流・ロジスティクス重視の戦略を採ってこられた源流には、ウォルマートなどアメリカの流通業を研究して学んだご経験があるとのことでした。この研究をされたのは、小池社長だったのですか?

小池氏 それは当社の代表取締役会長兼CEO、田代正美です。田代はメーカー出身で、一般の小売企業経営者とは異なる価値観を持っていました。ウォルマートなどに学んで兵站、つまりロジスティクス戦略に非常に早い時期に着眼し、「物流を戦略部門として扱う」という大方針を打ち出したのも会長です。私は会長のもとで社長室長を務めるなどして、その考え方を学び、M&Aも含めて担当させてもらう中で、物流の大切さを実感してきました。

それが1989年に業界で初めての物流センターを構築する決断につながった……?

小池氏 私どもの本社は岐阜県の多治見という山間部にあります。名古屋に良い商品やメーカーさんがあるので「届けてください」と頼んでも、当時は多くの場合、「そこまで持っていけない」と断られたようです。だから欲しい商品があれば、自分で取りに行くしかなかった。苦労して名古屋の市場まで毎朝買いに行くなどしていましたが、時間もコストもかかって仕方なかった。これでは勝負できない、自前で物流センターを持たないとやりたいことができない、というのが出発点だったようです。不便な地理的条件という逆境が、自社物流体制を整えるきっかけになったというのは面白いですね。
そして物流センターを作るにも我々はそれをコストユニットでなくどう武器にして、プロフィットユニットにするかを考えたのが大きな違いです。ウォルマートのように自社在庫をもつための拠点を作り、トラック1車買い付けなど、仕入改善とセットにして意識的に進めてきました。す(図表2)。

図表2 バローHDが物流機能を持った歴史的背景と拘り
図表2 バローHDが物流機能を持った歴史的背景と拘り

そうして本格的にバローHDのロジスティクス経営が始まったんですね。田代会長の方針を引き継ぎ、現在は小池社長がその陣頭指揮を執られている。ちょうど現在、改正物流2法の施行を前に、「物流統括管理者」と「CLO(ロジスティクス最高責任者)」の役割についての議論が盛んですが、流通技術本部長も兼任する小池さんは、まさに「社長兼CLO」であられますね!

小池氏 私は物流というテーマは「ライフワーク」にするくらいの価値があると思っています。物流・ロジスティクス戦略抜きの経営を行うつもりは微塵もありません。ちなみに物流事業会社である中部興産の社長も兼務しています。そろそろ後輩に任せなければと思うのですが、物流が好きなのでもっと自分でやりたくて続けているのですよ(笑)。

物流センター設計、インテグレーションも自社で

そうした物流体制を、1990年前後から作りこんでこられたわけですね。

小池氏 そうです。会長方針を受け、自分たちで研究を行い「自社物流体制」を作ってきた歴史があります。今振り返ると、それがよかった。単に倉庫ができたらそれで終わりというのではなく、当社では物流センターの図面もCADを使って自社で作成し、レイアウトを研究してきました。さらにマテハン機器もメーカー任せではなく、自分で決めたレイアウトで最適な機能を果たす設備機器を探して、「部材」として調達し、自社で組み立ててきました。例えば、ローラーとかソーターなどですね。そうして経験を積み重ねてきたのです。

センター設計からマテハンのシステムインテグレーションまで、自社でやってしまう?

小池氏 そうですね、インテグレーションもです。だから消耗や不足ないし破損が生じた際など、必要な部分だけ部材として発注しますし、ちょっとした変更・改修も自社で対応できます。もしメーカーに頼んでいたら、センターのここをこう変えよう、とかカスタマイズに大変な時間とコストがかかります。でも自社ならより手軽に、より早いサイクルでできるのです。

私も以前にセンターの現場を取材させてもらったとき、手作りのパレットリフトなどを拝見し、大変感銘を受けました。自社設計で必要とする機能が先にあり、その機能を満たす機器を自社で設計し、それを作るために必要な部材を購入する、ということですよね?

小池氏 ええ、現在はそのリフトにセンサなどの電子機器も自社で取り付け、進化させていますよ(写真1)。当初は確か、足踏み式のモデルでしたが……。

写真1 内製でセンサ付きに進化したパレットリフト(左奥)
写真1 内製でセンサ付きに進化したパレットリフト(左奥)

はい、そうでした! ということはエンジニアリングのできる専門部隊もある?

小池氏 エンジニアリング部門として設備部を設けています(図表3)。この部門には最近、ベトナム出身の特定技能者を配属し、活躍してもらっています。一般的な物流センターにおける外国人技能実習生の活用方法とは、かなり異なるアプローチを取っていると思います。

図表3 サプライチェーンの最適化+センター設計力
図表3 サプライチェーンの最適化+センター設計力

エリア密着の「デスティネーションストア」

「小売事業を構造的に強くするため」という大目的達成のための、バローHDの「ロジスティクス経営」と「自社物流」の凄さが改めて分かってきました。

小池氏 この戦略方針には、「全国統一型の平均的なスーパーマーケットを広く展開しよう」という考えは全くありません。私たちは「その地域」で、「本当に必要とされる企業」になりたい。そのエリアに関してはひたすら深く、エリアのニーズに即したビジネスの可能性を掘り下げていきます。

 当社では、あるべき小売店の姿を「デスティネーションストア」と呼んでいます。「目的を持って訪れる、頼りにされる店」といったイメージです。地域住民の方々はもちろん、地域の行政や事業者の皆さまにも頼りにされ、「バローに相談すれば、何とかなる」と言っていただけるような店になりたいと考えています。

 スーパーマーケット以外にも例えば学校のプールとかも面白いです。少子化で生徒数が減る中、水を貯めて維持するのも大変ですし、事故防止のため先生も今まで以上に監視で張り付かなくてはいけない。また、寒すぎる時も暑すぎる時も使用できないため稼働日数も少ない。こういった理由が重なり、学校で適切に運営するのがとても難しい施設となってきています。

 当社はそれならば、「プロのノウハウを持つバローグループのスポーツクラブでその仕事を受けましょうか」と提案できる。同じように学校の購買部も成り立たなくなってきており、「ならば我々の無店舗販売の事業スキームが使えないか」など、様々な形でお役に立てる可能性があるわけです。

 現在、地方では人口減少は避けては通れない問題です。生活に関わる流通量が減る中で、我々の資産である既存の店舗を維持していくにはどうすればよいのか。来店してくれる方だけでなく地域全体を対象にどうお役に立てるのかを考えていく必要があります。つまり「商圏を重層化し、マーケットを再把握」しないと、生き残っていけません。

人口減少が加速する地域で、公的セクターまで範囲を広げ、ローカル商圏に密着した住民ニーズに応えるサービスを展開されるのですね。

小池氏 はい、今後はそうした広範なサービスを含む事業モデルを確立し、現在の東海地方だけでなく、他の地域にも展開できないかと考えています。例えば、静岡や北陸、関西などです。これが規模拡大に関する当社グループの考え方です。

東海で実証された事業モデルをパッケージ化し、他の地域に横展開する…。もちろん地域特性に応じたカスタマイズは必要でしょうが、それは大変な可能性があるように思います。現在は東海ドミナントで年商1兆円の達成が間近であられますが、横展開に成功すれば2兆円・3兆円へのグロースも十分可能ではないでしょうか。素晴らしいご構想ですね!

 

続きは第2部へ

小池社長が語るバローHDの革新的な物流戦略の全貌をお見逃しなく。第2部では、グループ内連携による効率化、クロスドック/フロントセンター設置、独自開発したドーリーの効果、そして環境対策への取り組みなど、さらに踏み込んだ話題をお届けします。物流業界の未来を左右する重要な洞察が満載です。ぜひ第2部もご覧ください。

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介
L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト

㈱大田花き 社外取締役、流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。

著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。

CREのBTS型の開発物件【ロジスクエア】

ロジスクエア久喜Ⅲ

ロジスクエア久喜Ⅲ

ロジスクエア久喜Ⅲは埼玉県久喜市にBTS型として開発予定です。
久喜市は埼玉県の北東部に位置しており、内陸部にあるため津波などの対策に優位性があります。また、東北自動車道と圏央道が交差する久喜JCTへも近いため、首都圏と北関東エリアの一円をカバーする広域物流拠点の立地としても優位性を備えています。

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ロジスクエアふじみ野C棟

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ロジスクエアふじみ野C棟は埼玉県ふじみ野市にて開発予定のBTS型物件です。
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