第2部:バローHD小池社長に聞く本物のロジスティクス経営|物流クロスオーバー【日雑シリーズ 小売編】
小売から卸・調達・製造まで、垂直統合 ビジネスモデルで製配販連携に先陣
連載インタビュー記事「物流クロスオーバー」
第1部のインタビューでは、バローHDの小池孝幸社長が、同社の独自ビジネスモデルや米流通業から学んだロジスティクス経営についてお話しされました。今回は、さらなる深掘りとして、グループ内の上流・下流連携による物流効率化や、クロスドック/フロントセンター設置による抜本改革について伺います。また、オリジナルドーリーの開発やバース予約システムの成果と課題、さらにはサステナビリティへの取り組みなど、現代の物流業界が直面する重要なテーマにも触れていきます。
小池社長の洞察から、今後の物流戦略における新たな視点を得られること間違いなしです。ぜひ、ご一読下さい。
今回のゲスト |
株式会社バローホールディングス 取締役社長 流通技術本部長 小池 孝幸 氏 株式会社バローホールディングス |
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グループ内の上流・下流連携で物流効率化
株式会社バローホールディングス
取締役社長 流通技術本部長 小池 孝幸 氏
さて以上の経営戦略に関する事項に続き、具体的な物流効率化施策についてお聞きしていきます。社長を兼任される物流事業会社の中部興産は、下流・着荷主の小売と、上流・発荷主の調達先・製造側の両方を、物流でつなぐ役割を果たしているのですか?
小池氏 そうですね。中部興産の得意分野は、卸からの調達物流と、店舗配送の部分です。川上へのアプローチも色々と手がけてきましたが、今年の4月には鷺富運送という北陸の運送会社をM&Aしたのも当社らしいと思います。同社はメーカーから集荷して、卸の物流センターまで届ける部分が得意で、両社の機能を合わせてサプライチェーンの一歩上流、発荷主から着地までをカバーできるようになりました(図表4)。協業によって新たに受けられる仕事が増え、補完し合うことも可能になっています。
「それくらい、上流と下流をマッチングすればできるだろう」と安易に言う人もいるかもしれませんが、そうは問屋が卸さない、というやつですね。簡単なものではありません。両社が配送時間や量を自由に調整できるならともかく、わずかでもズレがあれば成立しません。やってみれば分かりますが本当に難しいのです。どの仕事が融通が利いて、どうすれば調整できるのか。どんな情報が必要なのか、細かな実務を理解していないとできません。
例えば、北陸から知多まで商品を届ける仕事の依頼があったとします。鷺富運輸は北陸から多治見の当社センターまでは運べますが、知多まではもう1時間かかるなら時間オーバーで運べないとなります。しかし中部興産では知多地域を回る配送ルート便を持っているので、時間を合わせて繋げれば、この仕事は獲れるわけです。でも発着時間をぴったり合わせないと成立しません。川下と川上のマッチングがなかなかできないのは、このためです。実際にこうした努力を重ねることで、鷺富運輸の年間想定計画量はこの上半期だけで達成できてしまいました。
そうなんですか。私は多くのメーカーの物流リーダーに話を聞いていますが、物流部があっても「調達は購買部の仕事なので関与していない」ところが多数で、社内物流の上流・下流連携もできていない会社が多いように感じます。
小池氏 その通りですね。物流と営業の連携も同じで、それぞれが別の数字をKPIにして動いているといった状況があります。少し配送ルートや時間を変えようとしても、営業ではメリットが出るのに物流が納得しないなど、縦割りの部門調整ができないケースが多いのです。小売でも商品部と物流部が連携しにくい場合があります。企業内での個別最適にこだわると改善が進められません。一企業の中でさえそうなのに、多くの企業の物流連携になると、なおさら難しいでしょうね。
現在、様々な共同物流プラットフォームのチャレンジが始まっていて、私もフォローし、応援しているのですが……。
小池氏 そうしたきめ細かなマッチングができることが理想ですが、他社同士では簡単ではないかもしれません。先の例で挙げた「その1時間」が確実に空いているかどうか、空いていなかったときにどうするか。最後にはどちらかが無理をしなければいけない時の取り決め云々となると、1回っきりはできても持続可能でなくなります。面倒くさいのです。私どものようにグループ内で腹の底まで握り合っている状況でないと、容易ではないというのが私の実感です。
クロスドック/フロントセンター設置で抜本改革
続いてバローHDの製配販連携・物流共同化施策をさらに深掘りします。まず「フロントセンター」の取り組みですが、図表5はお米の事例ですね。
小池氏 フロントセンター構想で大切なのは実現させるまでに各社と相当に議論することです。米の場合にも物流センターの前工程をもっと効率化するにはどうすべきか、米のベンダーさんとしっかりと話し合いました。従来は各ベンダーが個別に、精米した商品を店舗別にカゴ車に載せ、いったん周辺倉庫に横持ちしてからバローグループの物流センターに納品していました(TC1型納品、図表5上段)。それが店舗数拡大に伴い、出荷待ちの店別カゴ車がボトルネックになっていたのです。米の消費量の低下もあってカゴ車の積載率は1/3ほどとスカスカなのに、大量のカゴ車が納品される状態でした。
そこで共同出荷センターとなるフロントセンターを新たに設け、ベンダーさんはパレット積みで総量納品する仕組みを提案しました(TC2型納品、図表5下段)。クロスドックセンター機能を持つ当センターで店舗別に仕分け、各社の商品をカゴ車にまとめて混載し、バロー店舗に届けます。そうすれば積載率の低い多数のカゴ車を減らし、配送車両も減らせるはずです。
初めはベンダーさんから「コストが上がるのでは」との抵抗もありました。しかし「フロントセンターの商品はベンダー在庫であり、決めた枠内なら自社倉庫として自由に使ってください。ここにまとめることで御社の周辺倉庫は1つ減らせますよね」と互いのメリットを明らかにし、辛抱強く理解を求めていきました。小売側がイニシアチブを取って「絵」を描かないと、できない仕組みだったと思います。結果として、「納品車両を1,638台削減」+「店舗納品カゴ車数を67,150台削減」という大きな成果を生み出すことができました。
なるほど。互いのメリット・デメリットに疑心暗鬼が生まれたら、話は進まない。相互理解にかなりのご苦労があったとお察しします。
小池氏 今後のお米は産地から直接買うことが増えると思います。構想レベルの話ですが、その際、例えば当社が現地から原料米を購入し、米卸業に精米業務を委託するということもできるようになります。お米は精米したてが一番美味しい。最近は白米より栄養価の高い3分精米(3分づき)・5分精米(5分づき)・7分精米(7分づき)などのニーズも高まっています。そこで当社からつき方を指定して精米してもらい、直ちに運んで新鮮なお米を店舗で販売する。こうすれば、お米の付加価値を高める流通手段を手に入れたことになるのでは、とも思います。
現在の積載効率を向上させつつ、そのインフラが将来の事業の種の仕込みにもつながる。物流の工夫でここまでできる! そんなことを考えるのは、本当に楽しいですよ。物流は私のライフワークだと考える所以です。
いやあ素晴らしいですね!「物流は(戦略的に取り組めば)、もっとできることが一杯あるんだ! 楽しいんだ!」ということを、私も日本中の人に知ってもらいたい気持ちです。
小池氏 物流2024年問題の本質は、人手が足りなくなることですよね。突き詰めれば問題回避のカギは積載率の向上しかない。その環境の中でどうやって物流を止めずに回すか。フロントセンターの仕組みも、物流効率を大きく高めて物流を持続可能にするための取り組みの1つです。
上流の調達工程にまでさかのぼり、本質的な物流効率化を進められるのがバローさんならではの圧倒的な強みですね。
小池氏 スーパーマーケットは、商品力を高める努力も当然ですが、物流(調達・配送)の間接コストを削減することも極めて効果の高い重要施策だと思っています。
オリジナルドーリー開発で圧倒的な効果
次に図表6は、カゴ車をドーリーに変換して積載効率等を劇的に高めた事例ですね。
小池氏 従来は店別ピッキングしてカゴ車で納品してもらっていたのを、ドーリー納品にできないか検討しました。当社の50ℓオリコンに合わせて、自分たちで一番使いやすいドーリーをオリジナルで開発することにしたのです。結構難しくて何度も試作しては失敗し、金型をいくつも作り直しましたが、良いものができたと思います。
新型ドーリーを導入した結果、こんな成果を出すことができました。
*車両積載率の向上……柱の分機材のサイズが小さくなり積載率を9.5%改善
*荷物の積み込み簡易化……全方位からの積込みが可能となり生産性向上
*回収効率の改善……什器のみの回収はドーリー10段積みで容積を従来比23%に圧縮
*約85%の軽量化でトンキロ改善……CO2排出量を約4ポイント改善
*店舗での売り場補充時、カゴ車からの積替え+カゴ車片付け作業が不要に
*カゴ車移動に伴う労働災害も大幅減少など、現場でのオペレーション改善
*コスト削減……近年の鉄の資材価格高騰でカゴ車価格が@2万円レベルに値上がり。対して新型ドーリーは@6000円程度と圧倒的に安い。
カゴ車(ロールボックスパレット)は、異なるサイズのカートン箱商品をまとめて載せるには、三面に壁になる柱があってよいのですが、邪魔にもなり、重い。規格オリコンに荷姿が統一されていれば、柱のないドーリー化で圧倒的な効果が出せるというお手本の事例ですね。
バース予約システムの成果と課題、「持たない経営」
ところで、4年前の取材では「ホワイト物流」推進施策をいろいろお聞きし、バース予約システムで成果を挙げたことなどを伺いました。その後も効果が出ているのでしょうか?
小池氏 バース予約システムを導入後は目に見えて待機車両が減りました。センター周りの風景がガラッと変わったので、これは役に立っただろうと思って、その後取引先さんに聞いてみたのです。すると予想外に「半分は良くなったが、半分は良くなっていません」という声が返ってきた。なぜかというと、当社はA社、ある小売はB社、別のところはC社と、予約システム自体がバラバラなので、それぞれに登録が必要。使いにくくて今一つ効果が出せていないとのことでした。
やはりクラウドベースで標準化した物流情報を集約して行かないと、本質的な解決にはならないと実感しましたね。政府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「スマート物流サービス」でも、物流情報標準化の提案(物流関係者間のデータ連携を可能とする物流・商流データ基盤の構築)が出されているのも良く分かります。
現在では日本フィジカルインターネットセンター(JPIC)が物流情報標準ガイドラインの推進事業を引き継いで、標準化を訴えています。
小池氏 当社もJPICの活動には参加していて、協調路線で進めていくつもりで準備しています。物流情報を共有して最適な組み合わせ、積み合わせを提案していきたい。現在当社では受発注の連携基盤であるEDIシステムを刷新中で(2025年予定)、これをSIP基盤と標準連携し、メーカーを含めた取組みが進めやすい環境にしていく計画です(図表7)。
またホワイト物流宣言で、すぐに対応した「リードタイムの延長」は、直後のコロナ禍に際してものすごく効果がありました。店舗への翌日納品を翌々日納品にして時間が取れたことで、当社の物流はこの時期もほぼ問題なく動きました。突発的な注文や変更に対しても調整する時間が取れ、その間に応援体制を組むこともできました。(総合物流施策大綱が掲げた)「しなやかな物流」を、この施策によって実現できたと思っています。
なるほど、リードタイム延長はドライバー不足対策だけでなく、「危機対応/レジリエンス確保」にも大きな効果があるということですね。これは強調すべき点だと思います。なお、最近の改正物流効率化法で話題になっている規制的措置、「1運行当たり荷待ち・荷役時間2時間以内ルール」への効果はどうでしたか?
小池氏 バース予約システムの導入当初から待機時間は30分以内を維持できていて、荷役作業時間を含め、おおむね90分以内を実現できています。
なるほど。ところで先般、新物流センターを開設されたそうですね。
小池氏 10月に名古屋と大阪で中部興産の新物流センターを相次いで稼働させました(図表8)。新たにセンターを動かすのはなかなか大変で、商品が揃わないなどかつては問題が頻発したこともありましたが、今回は本当に順調に、何の問題もなく稼働開始できました。大阪・枚方はキューソー流通システム、名古屋みなとは(写真2~6)西濃運輸の拠点を利用しています。
これらの物流拠点について、これまでは自社保有を基本方針にしていましたが、建設コストが場合によっては以前の2倍以上にまで高騰している現在、経営リスクヘッジの観点から「持たざる経営」へのシフトを考えています。共同物流センターの設置であれば、当社は全体をデザインしコーディネートする、といった役回りをイメージしています。グループの製造拠点の持ち方も同様です。物流や拠点施設などのインフラを持った以上、稼働率をいかに上げるかが勝負ですから、共同化は重要な選択肢になるのです。
サステナビリティ、脱炭素の環境対策も注力
私は以前から「物流でSDGs」「脱炭素物流」を主張していまして、貴社のサステナビリティ、環境対策についてもぜひ聞かせてください。
小池氏 太陽光パネルは早い時期から各地の物流センターに設置しています。太陽光パネルは貼っただけ効果がありますね。当初、北陸は曇りが多いから効果が薄いのではないかとの話もありましたが、設置したらちゃんと成果が出ました。今後も力を入れていきます。また、地道に積載効率を上げていくことがCO2削減に直結する施策だと考えています。
悩みどころはEVトラックの導入ですね。業界で一番に導入しようとメーカーに依頼していたのに、思わぬ時間がかかってしまいました。今は助成金があるから導入でき、近距離配送に利用していますが、ビジネスベースに持って行けるかどうか、先行きが見えないのです。
私は中長期的には、より走行距離の長いFC(燃料電池)EVが有効な選択肢になると考えています。いま北海道・中国・九州地区では使い切れない大量の太陽光発電電力が事実上、捨てられています。そんな勿体ない話はないので、私はこの電力でグリーン水素を作り、FCEVの燃料として活用すべきだと主張しています。実証実験に取り組んでいる友人の話によると、今は高価なFCEVも2030年前後にはリーズナブルなコストにできる見込みとのことです。もう1つ期待しているのは、大容量蓄電池です。20フィートコンテナサイズで相当の電力を蓄えられる製品が出ていて、物流センターへの導入も始まっています。
では最後の質問になりますが、貴社では大半を自社グループ内で完結できている製配販連携について、では一般企業がそうした物流連携を進めるにはどうすべきでしょうか。あるいは他社も含めたサプライチェーン連携の強化に、貴社はどう貢献していかれるのでしょうか。
小池氏 当社グループの中で製配販連携が成功しやすい大きな要因は、「情報の持ち寄り方」です。どの情報があれば一緒に連携できるのか。これを突き詰めて共有することが一番のポイントで、他社と話をする際にも留意しています。実務レベルでのコミュニケーションを丁寧にやれば、他社同士でもできない話ではないと思うのです。
そうした環境を作れたら、メーカーにも卸にも小売にも、まだまだできることはたくさんありますよ。日本のトラックの積載率は約38%と聞きます。限界といいながら、どれだけ空気を運んでいるのか。そんな問題意識のある者同士で、より突っ込んだ具体的な話し合いをする――それがスタートになると思います。我々は他社とも話し合って、「種」を蒔いているつもりです。そう、物流連携・共同化の「種を蒔く」ことが大事ですね。
では製配販にわたるサプライチェーンの最適化、物流連携は誰がコーディネートすべきか。私は、その終着点で販売を担う小売がリードし、着地からの逆算で最適化していくのが一番良いと思います。2024年問題に際し、卸も含めもう個別の物流は限界まで来ています。当社グループも、そんな物流改革のリーダーシップを担える企業になれればと考えています。
日本の物流、サプライチェーン・ロジスティクス最適化の陣頭指揮を、ぜひ小池社長に執ってもらえればと願っています。今日は「物流愛」あふれるお話をたくさん、ありがとうございました!
執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介
1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。
著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
CREのBTS型の開発物件【ロジスクエア】
ロジスクエア久喜Ⅲ
ロジスクエア久喜Ⅲは埼玉県久喜市にBTS型として開発予定です。
久喜市は埼玉県の北東部に位置しており、内陸部にあるため津波などの対策に優位性があります。また、東北自動車道と圏央道が交差する久喜JCTへも近いため、首都圏と北関東エリアの一円をカバーする広域物流拠点の立地としても優位性を備えています。
お問合せ | ロジスクエア久喜Ⅲのお問い合わせはこちら |
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ロジスクエアふじみ野C棟
ロジスクエアふじみ野C棟は埼玉県ふじみ野市にて開発予定のBTS型物件です。
ふじみ野市は埼玉県の南部に位置しており、都心部へのアクセスにも優れ、物流拠点立地として県内でも有数のニーズの高いエリアです。開発予定地は道路ネットワークの活用により広域物流拠点立地としても優位性を備えています。
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