(レポート)大塚倉庫の営業改革 ~やめるを決める~
去る2011年、大塚製薬でポカリスエットなどのマーケティングで業界に名を馳せた大塚太郎社長(現・大塚倉庫会長)が大塚倉庫に着任した。その後の大塚倉庫はこれまでの常識が非常識となる、全てを覆す大胆な営業改革が行われた。
濵長一彦社長は当時、営業部長だった。濵長氏のデスクの隣、30cm隔てた位置に大塚氏の社長席が置かれ、唐突に1か月間の営業活動停止を命じられた。
100円玉を拾う仕事をするな
大塚倉庫は大塚グループの物流子会社としてグループ内の物流業務を担いながら、ネットワークとノウハウを活かし、物流事業者として外販事業を約30%展開していた。
大塚氏がまず要求したのは、顧客リストの提示だった。当時の取引先180社について、「この顧客の仕事はなぜ受注できたのか、どんな課題があったのか、その課題をどうやって解決したのか、評価されているから仕事を受けたならもっと仕事を受注できないのか」と詳細について質問攻めの毎日だった。
そんなある日、営業用プレゼンテーションを大塚氏にするよう命じられ、営業部員が緊張しながらも精一杯行ったのだが、大塚氏は内容を聞かないばかりか提案書をいきなり破り始めた。「自慢話ばかりで顧客の課題については触れていない。物流業界とはそんなことにも触れないものか」と舌鋒鋭く切りつけた。
濵長氏は連日、大塚氏より〈目標がない、戦略がない、仕事をしていない〉と、厳しい言葉を投げかけられたが、言い返すことができなかったのは「あなたは100円玉を拾う仕事をしている。濵長さんは100円玉が落ちていたら拾うタイプだ。だから大塚倉庫は駄目なんだ。人以外は何でも運ぶだろう、ポリシーが全くない」と言われたからだ。大塚氏の戦略は小口の顧客“100円玉”ではなく、大塚倉庫の強みとシナジーを100%発揮でき、大きな利益を得ることができる“1万円札”の顧客のみを営業ターゲットとすることとなる。
大塚氏の厳しい指導は続き、大塚倉庫の最も得意とするエリアである大塚製薬のお膝元の四国地域の営業活動を禁じられたことで、八方塞がりとなってしまった。
顧客の課題を押し出す営業戦略
大塚氏の方向性を理解できたのは、倉庫や運送の他社営業マンが大塚氏に営業で持参した提案書に端を発する。提案書を濵長氏の机に山積みにし、大塚氏は「俺の悩みを知らないくせに、なぜ倉庫を使え、トラックを使えと言ってくるんだ」とぼやく。実はそれこそが当時の大塚倉庫が展開してきた営業方法だったことでもある。
これまでの営業戦略と大塚氏の理想とする戦略に大きな差異があることに濵長氏は気がついた。営業先が課題とされている部分ではなく、別の箇所ばかり突いている営業方針を行っていたことに。
そこで「やめる」時がきた。当時、濵長氏が一番恐れたのは外販営業を停止だったが、大塚氏は条件付きで積極的な外販営業を押し出す営業方針を打ち出した。3年以内に最低50%の外販比率を得るという予想以上の高い目標だ。
そこで100円玉ではなく、“1万円札”を探すことの営業ターゲットを決定。営業の方向転換のポイントは(1)顧客から本当に感謝されているのか、(2)1万円札の価値がある顧客なのかの2点。営業先の検証を行ったところ、180社から3社に大幅に削減した。
当時、営業部署は各支店に3~4名在籍していたが、営業マンを全て本社に集約したうえで30名から10名に人員削減も行った。営業マンは同じ部屋で肩を並べ、1万円札以外の営業先に行こうとすると、大塚氏から烈火のごとく怒られる。全員でターゲットの3社に対し、どうすれば食らいついていけるかを考えた。
共通プラットフォームを構築
大塚倉庫の特性はポカリスエットに代表されるような夏型商品に偏りがある点だ。季節波動は大きく、夏と冬では6倍もの物量の開きがある。ポカリスエットは水物で重量物のため、パレットで段積みができないばかりか、車両容積は50%程度。それ以上の車両積載は重量オーバーとなってしまう。
これを強みで押し出していけばいいじゃないか――と大塚氏は閃く。冬用商品を持ち納品先が同じメーカーの荷物を扱う共同配送だ。軽量かつ冬型商品に特化する営業方針を打ちたて、社員一丸となりターゲットとなる1万円札顧客探しを開始した。
共同配送は企業枠を超えた商品の組み合わせとなり、同社ではそれを「共通プラットフォーム」称し、マーケットを構築していった。
今回学んだことは以下3点。
(1)強みを知る
(2)強みを活かす
(3)差をつける
大塚倉庫では外販比率の目標を30%から50%にまで拡大したが、そのゴール到達までのプロセスを全員で考えることが重要だった。
2016年には売上500億円を超える見込みだ。そこは通過点で1,000億円を目指すプランを社内で作成、社員全員がさらに高い山に上る強い目的意識を持ち始めた。
講師紹介
大塚倉庫株式会社 代表取締役社長 濵長一彦 氏
1991年4月に大塚倉庫株式会社に入社。
物流業務を約8年間経験した後、大塚製薬受注センター立上げに参画。経営企画部門、大塚グループ営業、外部荷主営業に従事。
外販の拡大に反して業績が伴わない現場において、営業方針の大胆な見直しを行い、営業利益を大幅に改善するという結果を導いた。その功績が認められ、大塚倉庫は2013年のJILSロジスティクス大賞経営革新賞を受賞。2014年宝島社より、同社の激動の改革を記録した『やめるを決める』を発刊。
募集要項
イベント名 | 第17回CREフォーラム|『大塚倉庫の営業改革~やめるを決める~』 |
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日時 | 2015年 8月21日(金) 14:30開場 15:00開始 16:40終了 |
会場 |
虎ノ門ツインビルディング西棟地下1階 東京都港区虎ノ門2-10-1 |
参加対象者 | 荷主企業 様、物流会社 様 |
参加費/定員 | 無料/70名限定 |
本件に関するお問合せ
- お問合せ先:
- 株式会社シーアールイー マーケティング部
- メール:
- leasing_mail@cre-jpn.com
- 電話:
- 03-5572-6604