(レポート)日産自動車の物流技術革新
日産自動車の概要
日産自動車は、1935年に国産の自動車メーカーとして横浜で創業しました。その後、1952年にイギリスのオースチン社と技術提携を結び、1966年にはプリンス自動車工業と合併、1980年代に入るとアメリカやイギリスに工場を作り、生産を加速していきました。
そして1999年にルノーと資本提携を結び、現在の日産自動車の社長であるカルロス・ゴーン氏をルノーからCEOとして招聘。ゴーン氏のもとで「日産リバイバルプラン」を実施し、今日の礎を築きました。ルノー・日産連合としての2014年の販売台数は約520万台で、世界第4位、売上げは約10兆円になります。
アライアンスの目玉
ルノーとのアライアンスのもっとも大きな特徴としては、車の基本部分である車台(プラットフォーム)の共通化が挙げられます。グローバルでのSUVはルノーと日産で共通のプラットフォームが採用されています。これによって、開発生産コストの大幅な削減を実現できました。
外国人との仕事の仕方
ルノーとアライアンスを組み、車台(プラットフォーム)の共通化を行うことで、さまざまなシナジー効果を出しましたが、異なる文化を持つ人たちとともに仕事をするのは簡単なことではありませんでした。なぜなら、人間性や、人間関係のつくり方、コミュニケーションの仕方、時間の捉え方、信頼関係の築き方などに大きな違いがあるからです。これらの壁を乗り越えないうちは、真の意味で我々はルノーと一緒に仕事をできていませんでした。
壁を乗り越え、スムーズなコミュニケーションをとろうと努力していくなかで学んだことのひとつに、「“Slow,slow,quick,quick”is better than“quick,quick,crash”」という認識があります。急いで事をなそうとすると、決裂するおそれがあります。はじめのうちは様子を見つつ、ゆっくりスタートして、壁がなくなったと思ったら、そこからスピードを速めていけばいいのです。
また、会議などで話し合う際に必要なのは、「Soft on people,Hard on points」という態度で、指摘された問題点については厳しく考えていく一方で、意見を言った人に対しては優しく接することで、コミュニケーションをうまくとることができます。誤解のないコミュニケーションをしていくためには、短い言葉で簡潔に表現し、ゆっくり話すとことが肝要になります。
文化の違う会社とのアライアンスを成功させるために必要な要素は、「チームワーキングスピリットをいかに作っていくか」です。お互いに理解し合うためには、テレビ電話ではいけません。実際に現地に赴いて、フェース・トゥ・フェース、お互いの顔を見て話し合い、仕事をすることで、信頼が醸成され、業績の向上につながっていくと感じています。
物流コスト低減への貢献と課題
文化の壁を超え、アライアンスを組んだことで得られた結果はさまざまありますが、物流コスト面においては、梱包された荷物の形状である「荷姿」の改善を、国内・国外問わずグローバルに行うことで、約90億円のコスト削減効果を上げることができました。
海外物流の内容は、時代によって変遷します。最初は日本からの完成車輸出が中心でしたが、その後、円高などもあり、アメリカやイギリスなど海外の主要拠点での生産、日本からの部品供給が増えました。さらに生産台数が増えた結果、アメリカやイギリスだけでなく、東南アジアでも生産するようになりました。そして、日本からの部品供給だけでなく、部品コストの安い国、中国やタイなどからの部品供給が始まりました。
現在は、「品質・コスト・リードタイム」の3つの条件をクリアできる部品であれば、「世界のどこからでも、持っていけばいいのではないか」と考えるようになりました。そして我々は、部品供給を効率的に行うために、世界中に部品の出荷基地を作りました。
現在、グローバルでの部品の総流通量は、1年間で、40フィートコンテナ換算で約20万本、東京ドーム10個分です。月に東京ドーム約1個分という大量の部品を海上コンテナで運んでいる計算になります。したがって今後は、この部分の効率化を考えていかなければなりません。
物流技術の役割と最適化への取り組み
我々は、世界中から低価格の部品を集めることで増大した物流コストを最適化するために、物流技術部を2006年に創設しました。
そこで最初に手がけたのが「物流コストの見える化」です。「自分の会社の物流コストが幾らかかっているか」というのは、実はわかっているようでわかっていません。そこで、自社の物流コストを把握するために、今まで部品メーカーが担っていた輸送部分を日産自ら行うことにしました。結果、複数の部品メーカーの荷物を1台のトラックに積んで運ぶことが可能になり、トラックの積載率も上がり、物流コストの低減につながりました。
さらに、部品メーカーによる輸送から日産輸送へ切り換えたことで、輸送距離を把握でき、データ化できるようになりました。「1台の車を作るために必要な平均輸送距離」がどれくらいかが、わかるようになったのです。そうすると、次は、長い距離を運ばないで済ませるために、または大きい容積を運ばないで済ませるために、どのような形で部品を設計すればよいのかという発想へとつながっていきます。
今までやってきた物流の改善は、製品ができた後の物流の効率化でしたが、現在は、「生産開始前に物流の最適化へつなげることができないか?」と考え、取り組んでいます。
自動車は部品点数が多いので、それらを「どこで組み立てるか」が、物流費に大きく関わってきます。工場から遠い場所で組み立てて、運びにくい形にしてしまったら、それだけ輸送費がかさみます。そこで我々はいま、部品メーカーさんに工場に来てもらい、工場で組み立ててもらうようにしました。結果、物流費を抑えることができたのは、いうまでもありません。
また、部品設計の段階で、物流に適した形状にするために、我々は部品のCAD図面から包装設計をシミュレーションできるソフトを開発しました。さらに、このようなツール開発だけでなく、物流にあまり関心のない設計・開発技術者に物流コストを意識してもらうために、容積の目標値の明確化などを行いました。その結果、現行の「マーチ」は、旧型に比べて、部品容積で約25%の低減を達成することができました。
サプライチェーンマネジメント(SCM)の目指す姿
今回は、物流に重きを置いた話になりましたが、物流とは本来、サプライチェーンの一部です。そして日産自動車としてサプライチェーンマネジメントを行う目的は、お客様に喜んでいただけるような形で車とサービスを供給することです。
SCM本部としては、設計開発・研究チーム、生産、営業の間に立ち、これらすべてのつながりに目配りしながら、部品調達からお客様までの物と情報の流れを最適化することで、日産自動車が掲げる「人々の生活を豊かに」というビジョンを実現していきたいと考えています。
講師紹介
日産自動車株式会社
SCM本部 SCM企画部 特別顧問 安藤 康行 氏
1977年に日産自動車に入社、九州工場に配属される。
1980年より本社の物流管理部に移動し、以降、海外工場への物流に従事する。欧米の工場の展開にSCMの視点から参画。1990年からは東南アジア向けの物流改善に取り組む。
2001年に中国東風とのプロジェクトに参画した後、2002年より3年間Renaultに出向。
2006年より物流技術部長、2012年よりSCM部門の副本部長の要職を経て、2014年にはRenault・日産のSCMに関する戦略企画を担当。両社を合わせて約340億円の物流費を低減させた。
1995年から日本マテリアル・ハンドリング協会に参画し、2015年には 副会長に就任。
特に中国支部設立を視野に活動している。
募集要項
イベント名 | 第25回CREフォーラム|『日産自動車の物流技術革新』 |
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日時 | 2016年 6月24日(金) 14:30開場 15:00開始 16:40終了 |
会場 |
虎ノ門ツインビルディング西棟地下1階 東京都港区虎ノ門2-10-1 |
参加対象者 | 荷主企業 様、物流会社 様 |
参加費/定員 | 無料/70名限定 (定員数を超えた場合、申し込み期限前でも終了する場合があります) |
本件に関するお問合せ
- お問合せ先:
- 株式会社シーアールイー マーケティング部
- メール:
- leasing_mail@cre-jpn.com
- 電話:
- 03-5572-6604