(レポート)気象データを元にした需要予測情報の共有化による省エネ物流への取組
日本気象協会の概要
日本気象協会は、1950年に旧運輸省の外郭団体として設立され、2009年に一般財団法人になりました。
従業員数は、2017年7月1日現在707名で、そのうちの279名が気象予報士で、国内で一番多く気象予報士を抱えている企業になります。
日本気象協会は気象庁と間違われることがよくありますが、気象庁は国の機関で、日本気象協会は民間企業になります。気象庁は国の機関なので、国民の生命・財産を守るという観点から、主に防災情報の提供を中心に活動しています。一方、日本気象協会は、防災関係の業務も行っていますが、気象データを使ったビジネスの創出等の事業も展開しています。
気象の特徴
気象には、「あらゆる産業に気象リスクが存在する」「気候変動により未経験な極端気象が出現する」「未来の予測が可能である」という、3つの大きな特徴があります。
1つ目の「あらゆる産業に気象リスクが存在する」は、2016年に台風第10号が北海道十勝地方を襲った際に、鉄道網寸断による輸送分野の被害や農業被害など、多方面の産業に影響が出た例からもおわかりいただけると思います。
2つ目の「気候変動により未経験な極端気象が出現する」は、気候変動の影響で、竜巻や短時間強雨(ゲリラ豪雨)など、将来、今まで経験したことのない極端な気象現象が起こることが予想されるということです。
そして、3つ目の「未来の予測が可能である」に関しては、気象というのは物理学的な法則があるので、スーパーコンピューター等を使って計算すれば将来の予測ができるということです。
気象情報の活用
気象情報は、天気予報・防災情報など、各機関が一般に無償公開する「一般向け気象情報」と、民間気象会社から道路管理や河川管理などの特定事業者に有償提供する「特定向け気象情報」、そして気象庁から予報事業者に有償提供される「予報事業者向け気象情報」の3種類に分けられます。
「特定向け気象情報」の活用は、これまでは防災利用やインフラ保守利用に限られていました。しかし、全産業の3分の1は何らかの気象リスクを持っているといわれており、気象データの適用が可能な産業は多いはずなので、今後、私たちは、水産業や農業、製造業をはじめ、さまざまな分野の経済活動に気象情報を利用していきたいと考えています。
「平年差」と「前年差」-企業にとっては「前年差」が重要な情報-
さてここで、気象データを扱うにあたっての注意点を1点述べたいと思います。天気予報等で、気温が「平年より高い・低い」や、「平年並み」という言葉をよく耳にすると思います。気象で使われる「平年」とは何かというと、30年間の平均になります。現在の平年気温は1981年から2010年の30年間を平均したものです。これは気象庁が定義したもので、10年ごとに更新されることになっています。
しかし、企業が生産計画を立てる際などに必要に情報は、「平年より暖かい、寒い」といったような30年間という幅の広い期間の「平年」との気温差ではなく、「前年」との気温差です。そこで、私たち日本気象協会は、企業に前年との気温差の情報提供も行っています。
気象を活用した商品需要予測-食品分野での気象データの活用-
近年、企業の社会的責任が注目され、環境負荷を考慮した経済活動が消費者や社会から求められており、食品業界においては、「食品ロス」(売れ残りや食べ残し、期限切れ食品など、本来は食べられるはずの食品が廃棄されること)の削減が課題となっています。
日本気象協会は、平成26年から平成28年の3カ年、経済産業省の「次世代物流システム構築事業」という補助事業を受託し、多くの企業と研究者と協力し、気象情報を利用した食品ロス削減の実証実験を行ってきました。
ここではそのうち、製造部門、配送部門、販売部門でそれぞれ1つずつ、実証実験の取組事例を紹介します。
製造部門:豆腐の廃棄ロス削減
まずは、群馬県の豆腐メーカー・相模屋食料との取組事例です。
豆腐は、生産リードタイムが2日であるにもかかわらず、小売から来る発注は前日なので、今までは見込み生産を行っていて、廃棄ロスが多いという状況がありました。
そこで私たちは、気温・降水量・日射量等のさまざまな気象データや、暦等の気象以外のデータをAI技術により解析し、最大2週間先までの商品売上予測情報を相模屋食料に提供しました。この精度の高い予測情報を使うことで、相模屋食料は廃棄ロスを約30%削減することができました。
配送部門:飲料の輸送コスト削減
次に紹介するのはネスレ日本、川崎近海汽船と行った配送面での取組事例です。
対象商品はペットボトルコーヒーです。ペットボトルコーヒーは気温変動の影響を大きく受けるので、今までは気象庁が発表する1週間先の気象予測に基づいて生産調整し、配送計画を立てていました。ネスレ日本は以前からモーダルシフトに取り組んでいて、輸送手段として船も積極的に使っているのですが、ペットボトルコーヒーの場合、1週間しか時間がないので、船は使えずトラックで輸送していました。
そこで私たちは、長期予報に関して世界でもっとも精度が高いECMWF(欧州中期予報センター)のデータを活用し、2週間先までの日別気象予測情報を提供しました。これにより、日本ネスレは意思決定を早めることができ、ペットボトルコーヒーの輸送に関しても、船へのモーダルシフトが実現できました。これは、トラックから船の輸送に切り換えることで、輸送コストとCO2排出量の削減が可能になったという事例になります。
販売部門:気象パターン別の推奨商品情報で販売促進
3つ目は販売部門の事例です。小売は、製造業と比べると扱う商品が非常に多いです。1つひとつの商品の細かい情報がたくさんあっても大変なので、私たちは、小売が使いやすいように、気象のパターン別の推奨商品、売れ筋の商品の情報を提供することで、販売促進や食品ロスの削減につなげていこうと考えました。
具体的には、焼き肉用の厚切り肉としゃぶしゃぶ用の薄切り肉に関する情報を提供しました。暖かい日はしゃぶしゃぶ用の薄切り肉、寒い日は焼き肉用の厚切り肉が売れるという気温との相関関係が調査により明らかになったので、気象予測データをもとに棚の陳列を調整し、棚割を最適化することで、売上を上げることができました。また、店頭で行う、薄切りにするか、厚切りにするかという肉のスライスも、気象データに基づいた需要予測に応じて行うことで、見込みと販売数のミスマッチによる廃棄ロスの削減も実現できました。
今後に向けて
・気象データ×POSデータ
日本気象協会は今年の8月に、POSデータ収集・配信を行っているインテージと需要予測で連携を開始することを発表しました。
POSデータは、今までは過去の売上を分析することでマーケティングに利用されてきましたが、POSデータと気象データと組み合わせることで、過去の分析だけでなく、将来の需要予測も可能になります。この需要予測は、食品をはじめ、化粧品やヘルスケアなど、さまざまな分野で活用できるので、気象×POSデータで新たなサービスを今後構築していきたいと考えています。
・需要予測の共有化による「物流革命」
先ほどは、製造(メーカー)・配送(中間流通・卸)・販売(小売)におけるそれぞれの実証実験の事例を紹介しましたが、今後は、製・配・販が個別に取り組むのではなく、製・配・販が協働して需要予測を開発していくことが必要です。そのためには情報を共有するためのプラットフォームを構築していかなければなりません。需要予測を連携利用できれば、注文量と実販売量のミスマッチが解消でき、サプライチェーン全体における食品ロスも削減できます。
日本気象協会としては、今後、製・配・販と連携することで、事業所(メーカー・卸・小売)と消費者を含めた社会全体で利益を共有できる「物流革命」の一端を担っていきたいと考えています。
講師紹介
日本気象協会
事業本部 防災ソリューション事業部 商品需要予測事業 マネージャー
本間 基寛(ほんま もとひろ)氏
2003年3月 | 東京大学大学院理学系研究科修士課程修了 |
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2003年4月 | 日本気象協会入社 首都圏支社調査部配属 |
2011年12月 | 群馬大学大学院工学研究科博士(工学)の学位取得 |
2012年10月 | 京都大学防災研究所 特定助教(~2015年9月) |
2015年10月 | 事業本部防災ソリューション事業部 専任主任技師 |
2016年4月より現職
2016年9月 日本自然災害学会学術奨励賞を受賞
資格:気象予報士、技術士(建設部門)、博士(工学)
募集要項
イベント名 | 第39回CREフォーラム|『気象データを元にした需要予測情報の共有化による 省エネ物流への取組』 |
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日時 | 2017年 10月13日(金) 14:30開場 15:00開始 16:40終了 |
会場 |
虎ノ門ツインビルディング西棟地下1階 東京都港区虎ノ門2-10-1 |
参加対象者 | 荷主企業 様、物流会社 様 |
参加費/定員 | 無料/70名限定 (定員数を超えた場合、申し込み期限前でも終了する場合があります) |
本件に関するお問合せ
- お問合せ先:
- 株式会社シーアールイー マーケティング室
- メール:
- leasing_mail@cre-jpn.com
- 電話:
- 03-5572-6604