(レポート)物流センターにおける「ロボット活用」の現実とこれからの課題
株式会社シーズコンサルティング 代表取締役
兼)株式会社ストラソルアーキテクト コンサルティングパートナー
實藤 政子 氏
ストラソルアーキテクトについて
株式会社ストラソルアーキテクトは、「個別解の追求」を事業コンセプトとした物流コンサルティング会社です。
個々のお客様に最適化したシステム構築やロボット導入を支援しています。
TSUNAGERU(つなげる)インテグレーションのコンセプト
近年は「物流DX」や「自動化」「ロボティクス」などが話題ですが、これらの流行り言葉に惑わされるのは危険です。目的は省人化・効率化であって、マテハンやロボットの導入ではありません。
そこで私たちは「経営環境の今と将来を見据え、あるべき姿を描く」ことを起点に、オペレーション改革やユーザー主導による物流システムインテグレーションを提案しています。
私たちの改革アプローチの特徴は、改革効果の最大化を追及する「合わせ技」にあります。特定製品をソリューションするのではなく、ユーザー主導で最適な運用とシステムを選び、構想策定からシステム導入まで伴走いたします。
拡大する物流ロボット市場と追い風となる2024年問題
いわゆる「ロボット」のなかで、中心となるのは無人搬送車です。
無人搬送車システムは、コロナ期に販売数が減少しましたが、「2024年問題」対策や、自動フォークリフト導入などの「物流革新緊急パッケージ」のため、今後投資が促進される想定です。
ロボット導入で直面する課題
ロボット導入においては、2つの課題があります。
ひとつ目は「ROI(投資利益率)を出しにくい」ことです。5年程度の投資回収期間では、同工程における労務費を代替するほどの効果はなかなか出ません。これは日本の人件費が安いこと、またロボットがそれほど高能力ではないことが理由に挙げられます。
ふたつ目は「能力確保に想定以上の機器台数が必要」なことです。「作業者と交錯する可能性がある」「想定外の制約条件がある」といった現場において、ロボットはシミュレーション結果よりも低い能力しか出せないのがその理由です。
以上から、現状ではROIよりも「安全」や「人手不足」を解消するためにロボットを導入する企業が多いのが特徴です。
ROIが出ない事例をいくつかご紹介します。
①シミュレーション通りにAGVが動かない
消費財メーカーAは、AGVとアームロボ(積替ロボ)を導入。自動倉庫からのパレット在庫商品をAGVでアームロボまで運搬し、アームロボで出荷パレットへと積み替えています。しかし「通路幅が足りず渋滞が発生する」「エラー、異常、故障が頻発する」という問題が発生しました。
②AGVに問題が頻発する
アパレルメーカーBは、GTP(Goods To Person)スタイルでAGVを導入。しかし品質が悪く、「AGVが運ぶ棚を障害物として検知しエラーになる」「AGVの回転、振動で上に載っているものが落ちる」「電源を落とす際にマニュアルでの操作が必要」「バッテリー残量不足で充電器まで辿り着けない」などの問題が起こりました。
③ロボットの台数が足りない
3PL(サード・パーティー・ロジスティクス)の事例。倉庫のレイアウトをキャドに落とし、シミュレーションを行ってAGVの導入台数を決定しました。しかし実際は柱やドアなど想定外の条件があり、シミュレーションよりも台数が必要になりました。また、実際に運用した結果、人が歩く場所との交差でロボットが走れない場所があり、シミュレーション通りの性能を出せませんでした。
④ロボットの数が膨れ上がり、作業生産性が低下した
同じく3PLの事例。シミュレーションを行い、AGVとステーションを導入しましたが、カタログ値(理想的な状態で上手くいった場合の数字)をもとに計算したため、パフォーマンス不足になりました。結果、AGVとステーションが足らず、拡張を繰り返すことになりました。しかし梱包場所にステーションを増設したため、梱包場所が圧迫。梱包スペースが足りなくなってしまいました。
ロボット利活用における留意点
上記の例から、ロボットの利活用においては、以下のことを留意する必要があります。
①ロボット活用の目的を明確化する
目的にROIを設定する場合、工程間搬送の往復だけではロボットの効果は高くありません。ROIを意識して導入する際は、 棚への投入や搬出、ピッキングなど、より複雑な作業や荷姿を変えるなど付加価値作業をメインにしましょう。
②現場環境の調査を十分に行う
既存倉庫に導入する際は、現状のレイアウトや機器、システムの調査、イレギュラーパターンの洗い出しなどを行いましょう。
③モノの流れ全体を設計する
現場の環境と運用フローのなかで、人との動線の交差、渋滞、前後のモノの流れなど全体を見てロボットが活用できるかを検討しましょう。
④ロボットが止まった場合の代替策を準備する
ロボットは新しい分野のため、想定外の故障や不具合が頻発します。 制約条件を洗い出し、止まった時の代替策をつくる期間が必要です。
⑤現場での小規模テストから開始し、問題をつぶしておく
いきなりフロア全体にロボットを導入すると、取り返しがつかなくなる可能性があります。小規模のテストから始めて徐々に広げていきましょう。
ロボット利活用のステップ(全体像)と展開手順
ロボットを利活用する際は、以下のステップで展開していきましょう。
①導入の目的・ゴールを設定する
現行の物流プロセスや課題を詳細に評価し、導入の目的やゴールを設定。ニーズや課題に基づいて、ロボットをどのように活用するかを決定します。具体的には、倉庫内における入荷から出荷までのプロセスと荷姿に応じた設備を検討するとよいでしょう。
②技術調査とベンダーを選定する
物流ロボットの種類やテクノロジーについて調査し、プロジェクトに最適なロボットを選定します。複数のベンダーを比較し、適切なパートナーを選定します。
③ROIを算定する
導入にかかるコストと期待される効果を詳細に算定し、ROIを算定します。これには初期投資、運用コスト、生産性向上、保守費用などを含めます。
④プロジェクト計画を策定する
プロジェクトのスケジュール、予算、リソース配分を含む詳細な計画を策定します。プロジェクトの進捗監視やリスク管理の計画も行います。
⑤インフラと環境を準備する
物流ロボットが作業するための環境を整えます。作業スペースの整備や必要なセンサー、充電ステーションの設置などを含みます。
⑥受入れ体制を整備する
スタッフに対してロボットの操作や管理方法に関するトレーニングを行います。また、新しい技術やプロセスへの適応を促進するための体制の整備も重要です。
⑦試験導入(POC)を実施する
ロボットを導入する前に小規模な試験導入を行います。これにより問題や課題を洗い出し解決することで、本格導入に備えます。
⑧本格導入し、最適化する
試験導入の結果を踏まえ、本格的な導入を行います。システムや運用の調整・最適化を行い、全体効率を向上させます。
⑨モニタリングし、改善する
ロボットの稼働状況や生産性などを定期的にモニタリングし、必要に応じてプロセスの改善を行います。フィードバックを取り入れてシステムを最適化します。
⑩継続的にサポートし、保守する
導入後も適切なサポートと保守が提供されるようにし、ロボットの安定運用を確保します。定期的なメンテナンスやアップデートを実施します。
物流省人化・自動化における課題と解決方向性
ロボットの利活用に関しては、「拡張導入を諦めるケースが多い」といえます。その理由は「コンベヤからの荷取り・荷置きなど、別設備と連動する場合に開発難易度が極端に高くなる」「メーカー違いで連動できない」などが挙げられます。
また、依頼先が複数社にまたがるプロジェクトは担当者の負荷が大きいため、新旧のシステムを組み合わせる際に発生する問題を整理する必要があります。
したがって、ロボットの拡張導入する際は、複数のシステム・ベンダーをまたぐプロジェクトの管理と、パートナーとなるベンダーの選択がもっとも大きな課題となります。
具体的なソリューションとしては、「WCS(Warehouse Control System:倉庫制御システム)や「WES(Warehouse Execution System:倉庫実行システム)」を導入し、各ソリューション、ロボットを連携する必要があります
ユーザ主導で物流省人化・自動化を進める 「オーナーズエンジニアリング」とその有効性
マテハンやITベンダーにお願いをすると、その会社の最新機器・システムを提案してもらえます。しかしながら、「自社に必要なコトとモノ」を明確化したうえでなければ、適切な評価はできません。なぜなら、ベンダーの思惑とユーザー側の思いには、相反する部分があるからです。
そこで私たちは「オーナーズエンジニアリング」をご提案しています。これはベンダーの提案を次々に受け入れるのではなく、「ユーザーが自分ゴトとして設計していく」という考え方です。
完全自動化の前に正視すべきことを整理し、「あるべき姿を自ら描く」。オーナーズエンジニアリングなら、ベンダーとのギャップを解消し、ユーザー主導で、ゼロベースで構想を進めることができます。
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■講師
株式会社シーズコンサルティング 代表取締役
兼)株式会社ストラソルアーキテクト コンサルティングパートナー
實藤 政子 氏
募集要項
日時 | 2023年11月22日(水) 16:00~17:00 |
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会場 | オンライン受講(Zoom) |
参加対象者 | 荷主・物流企業 様 |
参加費/定員 | 参加費無料 / 定員100名 |
本件に関するお問合せ
- お問合せ先:
- 株式会社シーアールイー マーケティンググループ
- 担当:
- 浅沼(アサヌマ)
- メール:
- leasing_mail@cre-jpn.com
- 電話:
- 03-5570-8048