その他

インドネシアの首都移転費用の縮小について

インドネシアの首都移転費用の縮小について

インドネシアの新首都「ヌサンタラ(IKN)」は、発表当初の勢いから一転し、予算規模が縮小しています。政府は首都移転作業の継続を主張していますが、食料安全保障・国防優先による予算削減や公務員の移住が進んでいないことがあり、計画自体の存続が危ぶまれているのではないか、という声もあります。

本記事では、ヌサンタラを巡る現状と予算縮小の背景、日系企業への影響について解説していきます。

インドネシアの新首都ヌサンタラ(IKN)の現状

インドネシアの首都をジャカルタからヌサンタラへ移転を行う計画ですが、現状は当初の想定より慎重な進み方になっています。

ジョコ前大統領は2019年8月に東カリマンタン州への首都移転を正式発表し、2022年1月には国家首都法を可決、同年3月には新首都の開発工事が始まっています。2024年8月17日には独立記念式典をヌサンタラとジャカルタで同時開催するなど、同年10月の政権交代直前までに移転を既成事実化し強調する動きが続きました。

新政権になった後も庁舎や商業施設の建設は継続され、2026年1月にはJETRO*が計60人ほどを派遣し、公務員向け住宅施設やダム、新空港などを視察しました。しかし2026年は予算の急減や法的地位を巡る司法判断など、計画の勢いを削ぐ要素が相次いで表面化しています。

*日本企業の海外展開や外国企業の日本誘致、貿易・投資の促進を行う独立行政法人

国家予算は2024年度の43.3兆ルピアから2026年度は6兆ルピアに急減

七十七銀行の現地レポートによると、ヌサンタラ関連の国家予算は2024年度の43.3兆ルピア(約4,000億円)から、2025年度は14.4兆ルピア(約1,330億円)、2026年度は6兆ルピア(約550億円)まで急減しています。2026年1月時点の総投資額は65.3兆ルピア(約6,040億円)にとどまっています。

わずか2年で予算規模が7分の1程度まで縮小した計算になります。首都移転という国家プロジェクトとして、当初の勢いを大きく失っていることが数字からも読み取れます。

2026年5月、憲法裁判所はジャカルタが法的な首都であることを確認

2026年5月、インドネシア憲法裁判所は「ヌサンタラ首都法」への違憲審査請求を退けました。憲法裁判所は、首都としての権限を移すには大統領令の公布が必要で、それがまだ出ていないことから、法律上の首都は今もジャカルタのままだと判断しています。

ヌサンタラでは大統領宮殿や省庁の建物は増えている一方、2029年までの移住者目標120万人に対して現在の住民は約1万人、2026年内に追加移転を予定しているのは4,100人にとどまっています。建物はできても、都市としての実態はまだ追いついていないのが現状です。

首都移転の予算が縮小している理由

なぜここまで急速に予算が絞られているのか、その背景には政権の優先順位の変化があります。

プラボウォ政権は食料安全保障・国防を優先

プラボウォ大統領は2025年1月末、各省庁に歳出見直しを指示し、当初予算の約1割にあたる306兆ルピア(約2兆8,000億円)の削減方針を決定しました。学校給食無償化など貧困層向け政策が重点化される一方、道路整備などの公共投資関連の歳出は削減対象となっています。

限られた財政の中で優先順位が付け直され、国民生活に直結する政策が優先されました。結果として、ヌサンタラのような長期インフラ投資は後回しになった形です。

移転の対象は「首都機能全体」から「政治機能」へ

2025年6月、プラボウォ政権は、ヌサンタラの位置付けを2028年までに三権(政府・国会・裁判所)を移す「政治首都」とする方針を大統領令で定めました。これはジョコ政権時代の「首都機能を丸ごと移す」という構想からは明確な後退であると考えられます。

当初は省庁や企業本社、住民の生活基盤までヌサンタラにすべて移し、ジャカルタに代わる新しい都市として機能させる構想でした。しかし今の位置付けでは、大統領府や国会など一部の政治機能だけをヌサンタラに置き、経済や行政の実務機能は引き続きジャカルタが担う形に近づいています。

日系企業への影響と今後

予算縮小や政策の不透明さは、進出を検討する企業の判断にも影響を及ぼしています。

進出企業の多くは様子見で投資判断はより慎重に

現地の日系企業関係者からは、計画遅延が現実のものとなったため、投資判断により慎重な姿勢を取っているとの声が聞かれます。予算の減少や法的な不透明さが重なったことで、投資を保留する見方がより強まっています。

大型インフラ投資には長期的な予測が欠かせません。政策の変更や方針転換が相次ぐ今の状況において、当面は情報収集を続ける企業が中心になるでしょう。

法人税を最大10年間免除する優遇税制も用意

こうした状況でも、政府は投資を呼び込むための制度整備を続けています。ヌサンタラに本社や支店(地域統括拠点)を新設・移転する国内外の法人には、最初の10年間は法人税を100%免除し、その後10年間は50%減免する優遇税制が政令・財務大臣規程で規定されました。

また、土地の使用権についても、最長80年を2サイクルまで認めるなど、一般の土地より有利な条件が設定されています。ただ、こうした優遇税制だけでは首都移転そのものの停滞感を打ち消すまでには至っていない状況です。

スマートシティ関連では日本への期待も

2026年1月にJETROが現地視察団を派遣した際、新首都庁のバスキ長官は日本に特に期待する投資分野としてスマートシティ関連を挙げました。この視察でJETRO側は「将来的に政治機能はヌサンタラ、経済機能はジャカルタという形で役割を分け合うのか」と質問していますが、バスキ長官はこれを否定し、大統領令に基づき2028年までにヌサンタラが国家首都になるという説明にとどめました。政府は機能分割を否定しているものの、経済や行政の実務機能が実際にいつヌサンタラへ移るのかは依然として不透明なままです。

日系企業にとっては首都機能をまるごと担うような大型インフラ投資よりも、都市運営の技術分野で強みを生かせる余地が残されているといえそうです。今後も進捗が不透明な状況が続く中、日系企業はこうした個別分野への投資タイミングを見極めていく姿勢が求められるでしょう。

まとめ

インドネシアの新首都ヌサンタラは、当初の壮大な構想から一転し、予算規模の急速な縮小や法的地位の不透明さに直面しています。プラボウォ政権が食料安全保障や国防を優先する中、ヌサンタラは「政治首都」としての限定的な役割へと変わりつつあります。

日系企業にとっては、こうした不確実性を踏まえた慎重な判断が引き続き求められる一方、法人税の優遇措置やスマートシティ分野への期待など、部分的にはビジネス機会も残されています。首都移転そのものの行方だけでなく、ジャカルタとの役割分担がどう固まっていくかを継続的に注視する必要があるでしょう。

海外のレンタル倉庫・工場をお探しの方へ

CRE倉庫検索 for ASEANではベトナム・インドネシアを中心とした海外の物件を取り扱っております。
これから海外進出をご検討されている企業様、または既に海外展開中の企業様もお気軽にお問い合わせください。

電話でのお問合せはこちらから

TEL : 03-5114-5442

(携帯電話・PHSからもご利用いただけます)
営業時間 : 午前9時30分から午後6時まで (平日のみ)

ページの先頭へ