インドネシアの地震対策と耐震事情
2026年6月にフィリピン・ミンダナオ島沖でマグニチュード7.8の大地震が発生し、周辺国でも津波警報が出されました。同じ東南アジアでも地震が少ない国が多い中、環太平洋火山帯に位置するインドネシアやフィリピンは例外的にリスクが高い地域です。
本記事では、インドネシアの地震事情と耐震対策、日系企業への影響について解説していきます。
インドネシアの地震事情とは
インドネシアはインド・オーストラリアプレート、ユーラシアプレート、フィリピン海プレート、太平洋プレートの4つにまたがる位置にあります。プレート同士がぶつかり合う部分にはひずみが蓄積し、それが解放される際に地震や火山噴火が発生します。
インドネシアではこうした事情により地震や火山噴火が頻発しており、企業活動においても無視できないリスクの一つとなっています。
地震発生頻度は世界トップクラス
インドネシアは、年間のマグニチュード5.5以上の地震発生頻度(1980〜2000年のUNDPデータに基づく)において、世界2位(日本は4位)にランクされています。体に感じる程度の地震は日常的に発生し、マグニチュード6以上の大地震も年1回程度の頻度で起きています。
地震が多い地域はスマトラ島、ジャワ島、スラウェシ島、パプア州など国土の広範囲にわたります。インドネシアに進出している企業は、拠点を問わず地震のリスクを想定しておく必要があるといえるでしょう。
過去には甚大な被害を出した大地震も
2004年のスマトラ島沖地震はマグニチュード9.1を記録し、周辺国を合わせた死者・行方不明者は22万人を超えました。近年でも2018年のスラウェシ島パル地震・津波、2022年の西ジャワ州チアンジュール地震など、規模の大小を問わず地震が繰り返し発生しています。
日本であれば大きな被害につながらない規模の地震でも、建物の倒壊など深刻な被害に発展するケースが目立ちます。また、震源が内陸に近く浅い場合や、都市部の建物密度が高い場合には、被害がさらに拡大しやすい傾向があります。
インドネシアの耐震事情とは
インドネシアでも建築物の耐震性を確保するための基準は存在していますが、その運用面には課題が残されています。
国家規格「SNI」で耐震基準を規定
インドネシアの耐震基準は、国家規格「SNI 1726」で定められています。現在の最新版は2019年版であり、米国の耐震基準を参考に策定されました。
SNIでは建物の構造や性能に加え、使用する建築資材に至るまで最低限の品質要件が定められています。都市部のジャカルタはこの基準を満たす建物が多く、地方と比較して被害が抑えられる傾向にあります。
運用・施工品質に課題
*JICAや*JETROは、インドネシアでは耐震規格自体は整備されているものの、現場で順守されていない点を指摘しています。順守されていない理由は、コスト面で採算がとれないためであり、一般的な住居の建築では徹底されにくいのが実情です。
都市部では規格に準拠した設計が広がる一方、地方では簡易な構造のまま建てられるケースも多く、地域ごとの耐震性の差が生じています。さらに、基礎の強度不足やコンクリートの品質の低さも、倒壊リスクを高める要因として指摘されています。
*JICA:独立行政法人国際協力機構の略で、現場で日本の政府開発援助(ODA)を担う
*JETRO:独立行政法人日本貿易振興機構の略で、貿易、投資促進、海外の市場調査などを行う
インドネシアの地震対策
政府や関連機関は、地震・津波の被害軽減に向けた体制整備を進めています。
防災法の制定と国家防災庁(BNPB)の設立
2004年のスマトラ島沖地震を契機に、2007年には防災法が制定され、2008年には国家防災庁(BNPB)が設立されました。あわせて全国の州・県市には地方防災局が置かれ、地域レベルでの防災体制が整備されています。
一方で地方防災局の設置が始まってから日が浅く、人員体制や職員の能力が十分でない自治体も多いです。また、防災計画の策定状況にも地域差がある点も課題となっています。
津波早期警報システム「InaTEWS」を運用
気象気候地球物理庁は、地震計や加速度計などで構成される津波早期警報システム「InaTEWS」を運用しています。これは地震観測から津波警報の発出までを担うシステムです。
ただし2018年のパル地震・津波では、地震発生からわずか数分で津波が到達し、警報が住民に届かなかったり、精度に課題が見られたりした事案も報告されています。JICAはこうした課題を受け、観測・情報発信能力の向上に向けた協力を続けています。
JICAによる耐震化支援が進む
JICAは「建築物耐震性向上のための建築行政執行能力向上プロジェクト」を通じ、耐震化が遅れがちな地方の住宅を対象とした基準整備を支援してきました。特に専門的な設計者が関与しない住宅(ノンエンジニアード)に対して、構造上の仕様を示す資料を整備し、普及を図っています。
2006年のジャワ島中部地震や2018年のスラウェシ島地震の被災地復興でも、こうした取り組みが活用されてきました。復興段階から耐震化を組み込むことで、次の災害への備えにつなげる狙いがあります。
地震リスクが日系企業に与える影響
インドネシアの地震リスクは、進出企業の拠点運営にも直結する要素です。
工場・倉庫の立地選定に関わるリスク
西ジャワ州のカラワン工業団地や東ジャワ州のスラバヤ工業団地など、地震・津波リスクを抱える地域にも点在しています。進出先選定の段階では、地盤の強度や津波浸水域からの距離といった点を確認しておくことが重要といえるでしょう。
工業団地ごとに管理体制は異なり、日系企業が集まるエリアとそうでないエリアでは、防災対応の水準にも差が見られます。既存拠点についても、建物の耐震診断や保険の補償範囲を定期的に確認しておくことが必要です。
サプライチェーン寸断のリスク
製造業では、一つの拠点が被災した際にサプライチェーン全体が停止するリスクがあります。過去の大地震では道路の寸断や停電が復旧の遅れの原因となったことから、単一拠点への依存はリスクの集中につながります。
一部の企業では、調達先や生産拠点を複数地域に分散させる動きが進んでいます。インドネシアで事業を行う企業にとって、拠点の分散や代替調達先の確保は検討事項の一つになるでしょう。
まとめ
インドネシアは地震発生頻度が世界でも高い水準にあり、耐震基準は整備されているものの、運用面や地域差といった課題が残っています。防災体制の整備や早期警報システム、日本からの技術支援なども進んでいますが、地震リスクそのものが解消されたわけではありません。
インドネシアで事業を展開する企業にとっても、拠点の立地や建物の耐震性、サプライチェーンの分散は継続的に把握しておくべきポイントといえます。今後は各企業がリスクを織り込み、事業計画にどのように反映させていくかが問われることになるでしょう。