新型コロナウィルスの影響で、世界各国の観光業は大きな打撃を受けました。ASEAN諸国も例外ではありません。本稿では、ASEAN諸国の観光業に関する最新情報をお届けします。
ASEAN諸国の観光業2022 ~各国のコロナ対策~
2021年は観光史上最悪の年
2021年はASEAN観光史上、最悪の年となりました。ASEAN全10ヵ国への観光客数は、コロナ前の1億3,000万人(2019)から2,000万人(2021)に激減。85%減となりました。
観光立国のジレンマ
ASEAN域内には28ヵ所の世界遺産が存在します。
これらは都市部と農村部の双方に存在するため、外国人観光客を国内に入れると、都市部から農村部へのスーパースプレッダーとなりかねません。
豊富な観光資源が、コロナ渦中にあっては仇となったかたちです。
お互いの出方をうかがうASEAN各国

上図は、ASEAN各国への観光客数ランキングです。
1位のタイは断トツですが、2~5位はかなりの僅差。逆転も容易に起こりうる範囲です。
仮にコロナによる入国規制が各国で大きく異なった場合、現在のパワーバランスをゆるがしかねません。
そのため、各国はお互いの出方をうかがい、入国規制の厳格さも似通ったものとなっています。
高級化・長期化路線で共通
ASEAN諸国の観光政策は、高級化を志向しています。もはや域内を放浪するバックパッカーは歓迎されず、富裕層の外国人のみが歓迎される傾向が顕著になりつつあるようです。
そして、そのような富裕層の外国人たちが長期間滞在することが期待されています。次の項目からは、「大同小異」ながらも生じている各国の特徴的なコロナ対策(2022年1月現在)をお伝えしていきます。
タイ
「ASEAN観光客数ランキング」1位である、タイの特徴的な施策は「サンドボックス」です。
サンドボックス
サンドボックスとは、外国人観光客が強制隔離期間なしに指定区域内を自由に移動することができる制度です。
もともとサンドボックスは砂場の意味で、「子どもは砂場の中では自由に遊んでよいけれども、砂場の外で遊んではいけない」という含意があります。
タイの観光地の中でもとりわけ人気の高いプーケット島がその1号となりました。現在、サンドボックス拠点が増加中です。
大麻・カジノ解禁も

サンドボックス以外にも、大麻・カジノ解禁、美容ビザ発行、ビットコイン長者優遇など、観光客誘致の目玉政策が目白押しです。まさに観光立国の面目躍如といったところです。
なお、日本国籍者は、海外旅行時であっても大麻吸引は禁じられています。
マレーシア
マレーシアのコロナ対策は、タイに酷似しています。
ランカウイ島
プーケットサンドボックスのマレーシア版が、ランカウイ島です。
ただし、これは観光客向けの施策ではなく、「ビジネスパースンがサンドボックス期間内にランカウイ島で観光を楽しんでもらおう」という趣旨の、あくまでビジネスパースン向けの施策です。
コロナ回復者には隔離義務なし
マレーシアでは、「11~60日前にコロナに感染して回復した人」には隔離義務を課さないという、世界的にみてもユニークな施策がとられています。
シンガポール
シンガポールでは、コロナ対策に「コンタクトレスサービス」(非接触サービス)のコンセプトを掲げ、入国規制においてもその影響があらわれています。
オンライン化による迅速な入国手続
シンガポールへの入国手続は、すべてがオンラインで完結し、飛行機の着陸からタクシー乗り場までが「10分以内」と非常に迅速になっています。
賃金補償率75%
シンガポールでは、観光従事者への賃金補償が75%と手厚く、観光業の競争力低下を国策レベルで防いでいます。
ベトナム
ベトナムは、当初はコロナの抑え込みに成功し、「コロナ対策の優等生」と目されていましたが、現在はコロナ拡大中です。
観光業従事者の60%が失業中
ベトナムでは観光業従事者の60%が失業中で、旅行代理店の95%が閉鎖済です。ベトナム政府は、外国人観光客ではなく、自国民の国内観光の推進に活路を見いだしました。
国内観光焦点化

自国民によるラグジュアリー路線の国内観光を推進しています。ブランド品購入など富裕層の優遇措置がとられ、4〜5つ星ホテルも恩恵を受けています。
インドネシア
「特徴がないのが特徴」といえるのが、インドネシアのコロナ対策です。
アフリカ諸国からの入国に強い規制
特徴にとぼしいインドネシアのコロナ対策ですが、あえて挙げれば、オミクロン株の震源地となったアフリカ諸国からの入国に強い規制がかけられています。
まとめ
ASEAN諸国は地域経済の復興のため、一致団結して域内のトラベルバブルの構築を画策しています。将来的にはベトナムを含めて、国内観光から国際観光への大胆な回帰が見込まれています。
朝令暮改と揶揄されるASEAN諸国のコロナ対策ですが、観光目的の開国が早い国は、ビジネス目的の開国も早い傾向があります。そのため、ビジネス進出の優先順位付けに役立てることもできるでしょう。