新型コロナウィルスが蔓延してから2年以上が経過しました。長い間帰国できず、苦しんでいる外国人労働者や実習生は数知れません。本記事では、長引くコロナ禍で帰国できなくなってしまった、ベトナム人技能実習生の今をお伝えします。
ベトナム人技能実習生の実態 ～コロナ・不法労働・ヘイトの三重苦〜
コロナ鎖国で帰国できないベトナム人実習生が3万人
日本の勤務先の倒産・雇い止め等により帰国を希望しているベトナム人実習生の数は、現在3万人以上にのぼります。
帰国手段は、ベトナム政府が手配する不定期のチャーター便に頼らざるを得ない状況となっています。チケット代も高額なため、いまだに帰国の目途が立たないベトナム人実習生がほとんどです。
来日できないベトナム人実習生も5万人
帰国を待ち望むベトナム実習生が3万人いる一方で、来日を待ちわびる新人実習生も5万人程度といわれています。
現在、日本には外国人技能実習生が約40万人おり、その半数がベトナム人です。数ある国の中で、なぜベトナム人がそれほど来日するのでしょうか？
それは、2012年以降、ベトナムでは「日本への実習生の送り出し」が副業として大ブームとなっているからです。
実習生を1人「送り出し（紹介）」すれば、紹介者には数十万円の紹介料が支払われる制度が存在しています。平均年収が25万円程度といわれるベトナムで働く人々からすると、元手がいらず割も良い副業になってしまっているのが現状です。ベトナム農村部では特に高い人気を誇っています。
紹介者は金銭目当てに甘い言葉で若者たちを勧誘し、日本への派遣を促すわけです。
失踪したベトナム人実習生はどこに行く？
出典：法務省 2019年版「出入国在留管理」日本版 第1部 出入国在留管理をめぐり近年の状況 および 公益財団法人 国際研修協力機構 技能実習生の行方不明発生防止対策について
自給の違約、過労死ラインの長時間労働、残業代の未払い、不衛生な環境、パワハラやセクハラ等により、日本での勤務先の変更を希望するベトナム人は後を絶ちません。2020年に行われた厚生労働省の調査によれば、技能実習生が働く職場の70.8%で違法や違反があったといいます。
ところが、技能実習生には転職が認められないため、勤務先から逃げ出し、失踪するケースが年々増えています。
埼玉県に存在している「失踪村」
失踪したベトナム人は、仕事と寝床を一度に失うことになります。そのため、ホームレスとしてバス停で夜を明かしたり、危険を承知で見知らぬ人の家に泊めてもらったりする実習生もいます。
個人農家では人手不足が著しく、労働法なども頭にないことから、身元不詳のベトナム人を雇ってくれることも多い実態があるようです。また、ひ孫請けの零細企業やグレーな派遣会社から送り込まれているといった実情も考えられています。
ベトナム人技能実習生の受け入れを行なっているJVNET株式会社によると、失踪したベトナム人実習生は1都6県だけでも約7割近く占めており、特に埼玉県、群馬県あたりに多く存在しているといいます。
2021年の朝日新聞の取材で、埼玉県と群馬県の県境にある埼玉県上里町に「失踪村」と呼ばれる失踪した元技能実習生のベトナム人が身を寄せ合うエリアが話題となりました。
各地に「ベトナム人駆け込み寺」
寝る場所すらない流浪のベトナム人実習生たちに、救いの手を差し伸べたのが、全国のお坊さんです。
全国各地に「ベトナム人駆け込み寺」が誕生しています。食費無料・家賃無料で、ベトナム人をあたたかく迎え入れています。
ベトナム人ホットライン
弁護士団体主導のベトナム人用ホットラインが開設され、各種の悩み事の相談に応じています。ベトナム語での日本の弁護士への相談が無料でできます。
日本政府による支援
民間だけでなく、日本政府もようやく重い腰を上げました。帰国できなくなった技能実習生のために、在留資格の見直しを行い、転職も認められるようになりました。
継続困難となった実習生に在留延長措置
日本政府は、継続困難となった実習生のために、在留延長措置を行う一方で、短期だが職種選択の幅の広い在留資格も認めています。
短期（90日）の在留資格は、フレキシブルな労働が可能な一方、健康保険に加入できないという新たな問題を生んでいます。
夏は蒸し暑く、冬は寒い日本の気候は、ベトナム人には合わないことが多く、体調を崩す者も少なくありません。
入院が長引き、短期（90日）の在留資格に切り替えたのが裏目に出て、健康保険が効かないばかりに、数百万円の借金を背負うことになった人もいます。
ヘイトやパワハラの標的に
悲しいことに、東南アジア人を見下す日本人が一部存在しており、ベトナム人実習生に対するヘイトやパワハラが後を絶ちません。
加速するベトナム人の日本脱出
円安の進行と日本の国力の低下により、ベトナム人実習生が日本で働くメリットはかつてに比べ半減してしまいました。
日本人がベトナム人実習生に暴力を振るう動画も複数拡散され、ベトナム人の日本離れが顕在化しつつあります。
最新情報
日本は出遅れているものの、世界各国ではアフターコロナの流れができつつあります。そのため、ベトナム人実習生にも大きな動きがでています。
外国人実習生の受け入れようやく
2022年3月24日、コロナ禍の長いトンネルを抜け、ようやく技能実習生の本格的な入国が再開しました。4月14日に第二陣、4月15日に第三陣と、新人実習生たちが続々と日本に到着しています。
ただし、日本円が下落するなかで、ベトナムでは物価が上昇していることからも、日本行きを考え直し始めている労働者も出てきているようです。
半グレ化するベトナム人も
日本人からのヘイト行やパワハラに対して、ベトナム人も無抵抗というわけではありません。。失踪したベトナム人の一部は半グレ化し、日本人の半グレ集団と手を結ぶことがあります。そのため、車盗難などの犯罪行為が活発化しています。
ヘイトがヘイトを生む負の連鎖に陥らぬよう、外国人実習生はリスペクトをもって接するべきではないでしょうか。
まとめ
異国日本で苦しむベトナム人実習生たちの悲劇は、マルチ商法まがいの「実習生送り出し」副業ブームと、日本人の「安い労働力は欲しい／移民はいらない」というエゴが生み出した日本の恥部ともいえます。
現在、失踪したベトナム人たちは自らを「Bộ Đội」（ボドイ：兵士）と名乗り、日本全土で抗日グループを形成しています。SNSで「Bộ Đội」で検索すれば、彼/彼女らの動向に関するナマの最新情報が手に入るでしょう。