ベトナムの二人っ子政策廃止による影響
ベトナムでは過去人口が爆発的に増え続けていた時代に、二人っ子政策が実施されました。この政策は1家庭あたり三人以上の子供を産んだ場合に、罰金の徴収や昇進への影響を及ぼすものでしたが、2025年6月に正式に廃止されました。
本記事では、ベトナムの二人っ子政策の概要と、廃止による影響を解説していきます。
ベトナムの二人っ子政策とは
ここでは、二人っ子政策が始まった経緯と、三人以上の子供が生まれた場合の罰則、過去から現在までのベトナムの出生率を紹介していきます。
人口増大を抑制するため1988年に導入
ベトナムの二人っ子政策は、人口増大による食糧不足を抑制するため、1988年に導入されました。当時は1986年に始まったドイモイ政策による市場自由化の導入初期であり、経済が安定していませんでした。当時GDPに対する政府予算が「-9.9%」の赤字を記録したことからも、国家財政が非常に厳しい状況であったことがわかります。
二人っ子政策を導入した1988年の出生率は「3.62人」でしたが、1995年に「2.7人」2000年「2.03人」と一定の効果を見せました。しかし、これらは政策のみならず、物価上昇によって出産を避ける選択をしたり、女性の就労機会が拡大したなど、さまざまな要因があったとされています
公務員や共産党員が影響
三人以上の子供をもうけた場合の罰則は、主に公務員と共産党員に適用されます。罰則には罰金や左遷、昇進試験の評価への影響、最悪の場合には解雇など、厳しいものもありました。2017年に発表された「規則102-QĐ/TW」には、第三子以降の子供を持つ党員には、戒告、警告から除名に至るまでの懲戒処分を処すことが規定されています。
一般企業に勤める人や個人事業主の家庭には、そうした厳格な処分が課されることはありませんでした。しかし、省や区によっては、三人目以降の子供を出産した際には20万VND〜50万VND(約1,200円〜3,000円)程度の罰金を課していた、という報告も確認されています。
そうした罰則は2025年6月に廃止され、すでに出産を奨励する仕組みを設けている省もあります。例えばベトナム南部のティエンザン省では、出産適齢期の夫婦の60%が3年連続で2人の子供を産んだ地域に、3,000万VND(約18万円)を支給しています。
2024年に「合計特殊出生率:1.91」を記録
近年ベトナムの合計特殊出生率は低下傾向で、2024年には「1.91」を記録しました。一般的に合計特殊出生率は「2.1」を下回ると、親世代と同じ人数を維持できなくなると言われています。
特に都市部では顕著で、ホーチミン市では「1.39」を記録しています。中部や北部の山岳地域など、一部ではまだ「2.1」を超えているエリアもあるものの、今後さらに出生率の低下が進むと予想されています。
ベトナムの二人っ子政策廃止による影響
ここでは、ベトナムの二人っ子政策廃止によって、どのような影響があるかを解説していきます。
各世帯の子どもの数に制限がなくなる
長年運用されてきた二人っ子政策ですが、2025年6月以降は各世帯の子どもの数に対する制限が撤廃されています。何人の子どもを持つかは、各家庭の判断に委ねられる形となりました。
前述の通り、廃止の背景には想定以上に出生率の低下が進んでいることがあります。制度導入当時から状況は大きく変わっており、政府は出生率の底上げを重視する姿勢を強めています。
すでに若年労働者数は大幅に減少
出生率の低下に伴って若年労働者数も減少傾向にあり、将来の労働力不足が懸念されています。2020年末から2022年末にかけて、15~24歳の労働者数は1255万人から1060万人と大幅に減少しました。
長年にわたって少子化が進んでいた経緯があるにも関わらず、今二人っ子政策の廃止をするのは遅すぎると指摘する声もあります。特に都市部では物価上昇や住宅、教育費の負担増により、子どもを持つこと自体のハードルが高まっています。
胎児の性別選択をした場合の罰金は引き上げ
二人っ子政策が廃止された一方で、性選択のために行われる中絶の罰金は引き上げられます。2025年6月には最大1億VND(約60万円)に大幅引き上げされる草案が提出されました。
ベトナムでは男児が好まれる傾向にあり、従来より性別選択のための中絶が実施されてきました。2024年時点では女児100人あたりで男児110人がいるとされており、今もなお不均衡が指摘されています。ベトナム政府は妊娠中の性別選択を減らそうとしていますが、過去2年の間でも男女比は悪化傾向です。
政府は出生支援を実施
ベトナム政府は、2020年5月に2030年までに合計特殊出生率を「2.1」にする目標を定めました。目標達成のための具体的な内容は以下の通りです。
・出生率が低水準21の省・市合計における特殊出生率を10%増加
・出生率が高水準(2.2人超)にある9の省の合計特殊出生率を10%減少
・出生率が人口置換水準(同2.0~2.2)を満たす33の省市はこれを維持する
また、以下の内容を試験実施することを発表しています。
・結婚や家族に関する相談サービスによる支援
・小さい子供を育てる家族に適した環境、コミュニティの構築
・女性が妊娠、出産し2人の子供を産むことの支援
・夫婦が2人の子供を持つことの支援、奨励
しかし、2020年以降も出生率は低下を続けており、効果的な施策として機能していないと考えられます。
まとめ
1988年より運用されてきたベトナムの二人っ子政策は、2025年6月に正式に廃止されました。この廃止は近年の出生率低下によるものが大きく、ベトナム政府は改善のためにさまざまな対策を実施しています。
しかし、二人っ子政策を廃止しても、出生率は大幅に改善しないのではないか、と指摘する声もあります。隣国の中国では、一人っ子政策が2015年に廃止されましたが、2025年時点でも目立った結果に至っていません。今後は都市部における生活コストの抑制や、若年層が安心して子育てできる社会の構築が不可欠になるでしょう。