インドネシアの高速鉄道の現状
インドネシアの高速鉄道は2023年10月に開通し、今年で丸2年を迎えました。試乗会は満席、運行開始後も順調に利用者数を伸ばしていましたが、最近では「赤字」「利用者の低迷」などといったネガティブな声も聞こえてくるようになっています。
本記事では、インドネシアの高速鉄道の現状や今後の課題について解説していきます。
インドネシアの高速鉄道とは
インドネシアの高速鉄道は、当初日本と中国の両国で受注合戦が繰り返されていました。2009年から日本政府による事業化調査が行われ、一時は日本の受注が確実視されていました。しかし、2014年10月にジョコ・ウィドド氏が大統領に就任した頃から流れが変わり始めます。
総工費は日本が50億ドルで金利0.1%、中国が60億ドルで金利2%と、金額面では日本が有利な条件を提示していました。しかし、日本は円借款方式で総工費75%を賄い、残りはインドネシア側の負担、さらには政府の保証を求めた一方で、中国は融資方式で国家債務とせず全額を負担して資金調達の必要がない旨の提案を行っています。
また、完成時期について日本は2021年としていたのに対して、中国は2018年と3年早い提示をしていました。結果的に、2015年9月に中国が受注したことが発表され、9月29日にはソフィアン国家開発企画庁長官が来日して、日本の不採用を官房長官に伝えています。
中国が主導して進めることになりましたが、用地調達の遅れや建設費の高騰、新型コロナウイルスの流行などが理由で、最終的に2023年10月の竣工となりました。また、最終的に総工費は72億ドルにまで増え、開業式でジョコ大統領は「高いコストがかかったが、今後経験を積めば将来的なコストも減る」と発言しました。こうした発言からも、インドネシア側でも少なくない費用を負担したことがわかります。
インドネシアの高速鉄道の今
ここでは、インドネシアの高速鉄道が竣工してから現在までの経過を解説していきます。
現在はジャカルタ〜バンドン間が運行
インドネシアで開通した高速鉄道は「Whoosh(ウーシュ)」と呼ばれ、現在はジャカルタ〜バンドンの全長143.2キロの区間で運行しています。開通後はインドネシア全土で大きな話題となり、100日間で145万人以上が利用しました。
始発のHalim(ハリム)駅から終点のTegalluar Summarecon(テガルアール)駅までは最短47分ほどで結びます。始発から終点までの運賃は「エコノミー:30〜35万ルピア(約2,700〜3,150円)」「ビジネス:45万ルピア(約4,050円)」「ファースト:60万ルピア(約5,400円)」です。
将来的に延伸を予定
インドネシアの高速鉄道は、バンドン〜スラバヤ間の延伸する計画があります。スラバヤはインドネシア第2の都市であり、この区間が開通すれば2都市間の移動は約4時間まで短縮される見込みです。
しかし、建設に必要な資金調達のめどは立っておらず、先行して検討されていた在来線(ジャワ北幹線)の準高速化計画も財源不足で頓挫しています。高速鉄道の利用者も伸び悩んでおり、計画の具体化にはまだ時間がかかると見られます。
利用者の低迷や事業費の膨張により赤字傾向
2023年10月に開通した後は順調に利用者を伸ばしていました。しかし長くは続かず、2024年1月に地元紙ジャカルタ・ポストは「Whoosh、赤字の到来」との社説を掲載し、何年も国家予算の足を引っ張る負債という現実に直面しなければならない、と警鐘を鳴らしました。一部では、経営危機と表現しているメディアもあります。
2025年7月時点での累計乗客数は1,070万人で、これは想定の4分の1〜3分の1程度の客数です。こうした背景には、運賃が高い上に駅から街の距離が遠く、利便性が低いことがあるとされています。
40年→60年の返済延期で合意
利用者の低迷を受け、インドネシア政府は中国からの融資の返済期限を40年から60年に延期したことを明らかにしました。Whooshの60%超の株を持つインドネシア企業連合は、2024年に4兆2,000億ルピア(約390億円)、2025年上半期にはさらに1兆6,000億ルピア(約150億円)の赤字の発生を報告しています。
今後は赤字に加えて、中国側への返済と金利の支払いが発生します。現役のプラボウォ大統領はWhooshの延伸に対して前向きな姿勢を見せているものの、肝心の財源は確保できていない状況です。
インドネシアの高速鉄道の今後
ここでは、インドネシアの高速鉄道の今後に関する内容を解説していきます。
返済延期で合意したものの抜本的な解決には至っていない
返済延期によって毎年の計画に多少ゆとりが出たものの、負債を減らすという抜本的な解決には至っていません。今後も政府の財政負担が拡大する可能性が高いといえるでしょう。
インドネシア中国高速鉄道会社の社長リヤディ氏は、黒字化まで38年かかるという試算をしています。今後も具体的な解決策がない限り、赤字は拡大するものと考えられます。
運行区間の延伸で採算改善を目指す
インドネシア政府はジャカルタ〜バンドン間に続き、スラバヤまでの延伸によって利用者数を拡大し、長期的な採算改善を図ろうとしています。延伸計画は日本もパートナー候補の一つですが、過去の失注や路線接続の複雑さの懸念によって消極姿勢です。現在は中国を主なパートナーとする方向になりつつあります。
しかし、中国を取り巻く環境は以前とは異なります。中国は不動産市場の崩壊による深刻な景気減速に直面しており、かつてのように潤沢な資金と強気の投資姿勢を当てにできないとの見方も強いです。
まとめ
インドネシアの高速鉄道は、開通当初は好調なスタートを切りましたが、2024年始め頃から利用者が低迷し、毎年大きな赤字を計上するようになりました。中国への返済延期によって一時的な負担は和らいだものの、改善には程遠く外資に主導権を握られる懸念も残っています。
政府はスラバヤまでの延伸に活路を見いだそうとしており、中国との協力を軸に議論が進んでいます。しかし中国の景気減退によって、かつてのような資金力を前提としたプロジェクトの実施は難しくなる可能性もあるでしょう。