インドネシアの反政府デモとは
インドネシアは、政府に反対する勢力が主導し、度々大規模なデモが発生する国です。そうしたデモは、時に略奪や火災、建物の破壊など過激な行動に発展するケースも多く、現地に滞在する外国人の生活に大きな影響を与えることがあります。
本記事では、2025年8月に発生した反政府デモについて詳しく解説していきます。
インドネシアの反政府デモの概要
ここでは、インドネシアの反政府デモの発生場所や背景、実際にどのような影響があったかを詳しく解説していきます。
2025年8月25日よりジャカルタ市を中心に発生
2025年8月25日に、ジャカルタで現政府の方針に反対する民衆によるデモが発生しました。そして8月28日には、バイクタクシーの運転手が機動隊の車両にひかれて死亡したことで怒りに火がつき、デモ隊は暴徒化しました。結果的にデモの規模は、ジャワ島全域や南スマトラ島、スラウェシ島にも拡大しています。
大規模なデモは約1週間ほどで鎮静化しました。しかし、小規模なデモは執筆時点での10月20日現在も続いており、予断を許さない状況が続いています。
政府に対する不満が背景
今回のデモの原因は、国会議員の住宅手当の支給額を5,000万ルピア(約45万円)に引き上げたことが発端です。インドネシアの平均月収である330万ルピア(約3万円)からは大きくかけ離れた数字であり、国民の怒りは収入格差や雇用対策不足などにも波及しました。
インドネシアでは2024年10月に発足したプラボウォ政権下で、低所得者層向けの給食無償化の政策を推進しています。しかし、物価上昇や雇用不安といった国民の切実な課題への対応は遅れており、政府への不満が一層高まる要因となっています。
政府施設の破壊や議員への攻撃が発生する事態に
8月28日にデモ隊が暴徒化し、公共施設の破壊や議員個人への攻撃が行われる事態へと発展しました。8月31日にはデモが発生した原因に深く関わったとされるムルヤニ財務相の住宅を襲撃し、家を破壊して家財道具を略奪したと報じられています。
デモによってスラウェシ島で4人死亡、国内では20人以上が行方不明、拘束者は1,240人を超えることとなりました。インドネシアの戦略国際問題研究所(CSIS)のデニ・フリアワン上級研究員は「デモは国民に寄り添わない国家への失望が積み重なった結果であり、スハルト政権崩壊につながった1998年のような事態を招く可能性がある」と述べています。
政府は議員の待遇を見直して来年増税を行わないことを発表
今回のデモを受け、政府は議員住宅手当の即時廃止と国会議員による海外出張の当面禁止、来年以降の増税や新税の導入をしない方針を決定しました。また、抗議者を「愚か」と呼ぶなど不適切発言で批判を招いた数人の議員資格が剥奪されています。
政府はデモを重く見て、一定の譲歩を示した結果となりました。しかし、住民の怒りは根本的に収まっておらず、今もなお燻っている状況にあります。
インドネシアの反政府デモ後の動き
インドネシアの反政府デモは、9月3日には一度収まりを見せました。ここでは、同日以降の動きを紹介していきます。
政府は対話姿勢を見せる一方で民衆へのメッセージを発信
前述の通り、議員に対する手当の廃止や増税の停止など、政府は民衆に対して一定の譲歩を見せました。一方で、政府は民衆に対して現政権の正当性を訴えるメッセージも発信しています。
デモ沈静化後の9月9日には、映画館でプラボウォ政権の成果をアピールする、1分間ほどの広告を上映しました。その広告の中でプラボヴォ大統領は「今こそ対処しなければならない」という、民衆に協力を促すメッセージを発信しましたが、まだ感情は燻っておりSNS上では「政府による宣伝色が強い」として批判が噴出する結果となっています。
学生や労働者より「17プラス8の国民要求」が拡散
反政府デモ後には、SNS上で「17プラス8の国民要求」が拡散されるようになりました。17プラス8の国民要求は、インフルエンサーのJerome Polin氏らによるメッセージであり、期限が1週間以内(実施期限2025年9月5日)の「17個の短期的要求」と、1年以内(実施期限2026年8月31日)の「8個の長期的要求」に分かれています。
短期的要求には「デモ参加者を犯罪者として扱わない」「拘束者を解放する」「大量解雇に対処し、賃金を適正化する」「議員手当の一部廃止」といった内容が含まれます。長期的要求には「各政党は財務報告書を作成し発表する」「汚職防止委員会を設置する」など、政治の透明性を求める項目が並びます。
政府と国会は17プラス8の国民要求に概ね同意し、拘束者の解放や議員手当の廃止などは即座に実施しました。ただし、こうした一時的な対応が根本的な改革につながるかどうかは、今後の政府の動向次第といえるでしょう。
デモ沈静化後も不満が燻っている状況
9月3日には、ジャカルタの在宅勤務解除指示や公共交通機関の運行も再開し、一連の抗議デモが落ち着いたという報道が行われました。しかし、9月4日以降も学生団体や労働団体、市民団体による小規模なデモが続いており、不満が燻っている状況です。
10月に入っても、ジャカルタ中心部の独立記念塔周辺では連日デモが行われています。
今後、政府が民衆の要求をどこまで政策に反映するかが焦点になるでしょう。
まとめ
今回の反政府デモは、政治への不信感が積み重なった結果として、若者や労働者を中心に全国へと広がりました。政府は当初強硬姿勢を見せたものの、最終的には「17プラス8の国民要求」の大部分を受け入れ、一部の改革に着手するなど柔軟な姿勢を示しています。
今後、政府がどこまで実行力を伴った改革を進められるかが注目されています。現在も一部地域ではデモ活動が続いているため、現地を訪れる際は、情勢の変化に十分注意が必要です。