ベトナムのオフショア開発企業の今と今後
ベトナムは世界でも有数の親日国であり、17万人を超える日本語学習者がいます。2005年頃からは中国での人件費の高騰やチャイナリスクを嫌って、多くの日系企業がオフショア開発拠点を設立してきました。
しかし、近年は円安や人件費の高騰など、市況が変化したことで以前のようには採算が取れなくなってきています。今後はオフショア開発企業の撤退が始まり、日本語ができるエンジニアの成り手が減るかもしれません。
本記事では、ベトナムのオフショア開発企業の今と今後について、詳しくまとめていきます。
ベトナムのオフショア開発とは

オフショア開発とは、海外のエンジニアを使って日本の開発案件を行うことです。
日本人とベトナム人ではコミュニケーションで使う言語は異なりますが、開発で使われるコンピュータ言語は共通です。日本の案件でも、仕様を理解でき指定のコンピュータ言語を使いこなせるエンジニアであれば国籍は問われません。
発注をする日本側に対して、実作業を行うベトナム側では、日本語のできるブリッジSEやコミュニケーターを任命し、開発を進めていきます。オフショア開発には、人件費の違いで開発費を抑えられることに加え、人材不足を解決できるメリットがあります。
ベトナムのオフショア開発の歴史

オフショア開発自体は、1980年頃から中国で始まりました。1990年台からはNECや富士通などの大手ベンダーも続々と進出し、2000年頃にピークを迎えます。
当時はオフショア開発といえば中国一択ともいわれていましたが、2005年頃から人件費の高騰や政情不安に起因するチャイナリスクを嫌って、撤退する企業が出始めます。
そうした企業が次に目指したのは、日本から5時間程度の近い距離にあり、時差も2時間と少ないベトナムでした。ベトナムは比較的政情が安定している親日国であることに加え、日本語学習者もここ10年の間で増加しており、今は大小問わず多くの開発企業が進出しています。
現在のベトナムのオフショア事情

ここでは、現在のベトナムのオフショア開発事情を紹介していきます。
人月単価は上昇傾向
2022年ベトナムのオフショア開発で、一般的なプログラマーの平均人月単価は「31.73万円」日本とのコミュニケーションと開発を行うブリッジSEは「51.34万円」でした。
日本の一般的なプログラマーが「40万円〜60万円」のため、まだ差はあります。しかし、ベトナム人の給与は毎年5%〜6%ほど上がっているので、近い将来追いついてもおかしくはありません。
日本よりコストが割高になることも
オフショア開発では、日本語が使えて開発もできるブリッジSEや、日本とのコミュニケーションを専門に行うコミュニケーターをつけることが一般的です。この2つはオフショア開発特有のポジションであり、日本の企業への発注と比較してコストが割高になることもあります。
特にプログラマーが2〜3人程度の小規模案件では、ブリッジSEやコミュニケーターのコストが予算を圧迫し、スケールメリットが出しづらくなります。
オフショア開発企業も採算が取れなくなりつつある
日系企業が盛んに進出していた15年前は、新卒の給与は250ドル程度(約3万5,000円)で、一般的なプログラマーの人月は20万円前後でした。
現在の新卒の給与は300ドル程度(約4万2,000円)と上昇はしているものの、大きな変化は見られません。しかし、高い技術を持つベテランエンジニアは4,000ドル(約56万円)以上の給与を得ていることも少なくなく、ここ数年で急速に円安も進んでいることからも、採算を取ることが難しくなってきています。
日本のエンジニア不足を解決する手段にはなっていない
日本では、現在デジタル人材が大きく不足しています。これを補うためにオフショア開発の活用が期待されていますが、解決手段にはなっていないのが現状です。
具体的には、以下の問題があると考えられます。
・バグの多さ
・クオリティレベルの違い
・文化の違い
・人材が定着しない
・コミュニケーションコストの増大
新たにオフショアの利用を始めるためには、企業の選定や視察から技術者の面接、開発体制の準備、認識のすり合わせなど、さまざまな手順を必要とします。そうしたことに対する時間とコスト、リスクを懸念し、日本のニアショア(発注する企業から比較的近い地方企業)への発注を希望する企業も少なくありません。
ベトナムのオフショア開発の今後
ベトナムでは年々給与が上がっていることから、人件費の差は埋まってきています。今後はミャンマーなどの人月単価が比較的低い国や、バングラデッシュやフィリピンなど英語でコミュニケーションがとりやすい国へ移行する可能性があります。
一方でベトナムには日本語をしゃべれる人が在籍し、日本の案件を豊富にこなしてきた実績を持つ企業も多いです。そのため、他国への移行が進んだとしても、一定数は残り続けることでしょう。
また、円安や賃金が上がらないことが原因で魅力が低下し、日本離れが進む懸念もあります。人手不足の今、外国人に対する仕事の依頼や雇用体制を見直すべき時期に入っているのかもしれません。
まとめ
かつてはベトナムへのオフショア進出はトレンドであり、うまく活用して大きな利益を挙げた企業も多くありました。しかし、最近は人件費の高騰や円安などの影響で、人員削減や撤退を検討する企業も増えてきています。
ベトナムは毎年5%以上の経済成長を遂げており、給与水準や市況は短い年数で大きく変化します。今後進出する企業は、業界の動向に気を配り、適切な判断をしていくことが求められるでしょう。