インドネシアと米国との相互関税交渉について
2025年4月2日、米国のトランプ大統領は貿易相手国に最低10%、最大50%の相互関税を課すことを発表しました。割合は米国の貿易赤字の比率が大きい国ほど高く設定されており、インドネシア含む各国に大きな混乱を招いています。
本記事では、インドネシアと米国の相互関税交渉の概要や、今後の展望について解説していきます。
インドネシアと米国の相互関税とは

相互関税とは貿易の公平化を図るために2国間に共通の税率を課すことで、米国はインドネシアに対して32%の税率を発表しました。この32%の関税は、他の東南アジア諸国とは比べても低い水準にとどまっています。
米国はインドネシアにとって第2位の輸出相手国であり、近年は電気製品や衣類の輸出量が増加傾向です。関税の増加は利益率の低下や拠点の撤退、生産量の見直しなどを迫られる要因になる恐れがあります。
一方でインドネシア経済は約2.8億人が支える内需主導型であり、東南アジア諸国の中でも影響度は低いという見方もあります。執筆の2025年5月17日時点では4月9日に発表された90日間の延期措置の真っ只中にあり、インドネシア政府と米国政府との間で交渉が行われています。
インドネシアと米国の相互関税交渉とは

インドネシアの米国に対する輸出額は281億ドル(約4兆1,000億円)、輸入額は102億ドル(約1兆4,800億円)で、収支は179億ドル(約2兆6,100億円)の黒字でした。米国は中国に次ぐ貿易相手国であり、インドネシアにとっては看過できない状況です。
ここでは、インドネシアと米国の相互関税交渉の現状や両国の関係性を解説していきます。
米国はインドネシアに対して32%の関税を発表

前述の通り、米国はインドネシアに対して32%の関税を課すことを発表しました。税率32%という数値はベトナムの46%、カンボジアの49%、タイの36%、ラオスの48%と比較しても低い値です。
この税率は、相手国との貿易赤字額を米国への輸出額で割り、その数値を2で割る方法で算出しています。インドネシアに対する貿易赤字は比較的軽微であり、抑えられた水準となっています。とはいえ、小さい値ではないため、今後の動向次第ではさらなる影響が懸念されます。
4月上旬に代表団を派遣
2025年4月2日の関税に関する発表が行われた後、インドネシア政府は4月16日に代表団を派遣し、米国との交渉に入りました。インドネシアのプラボウォ大統領は、交渉について「良い関係を築くために、アメリカと交渉を開始する。公平で対等な関係を望む」と発言しています。
インドネシア政府は、交渉の材料として綿花や小麦、石油、ガスなど米国製品の輸入を拡大し、税制の優遇措置を提案する準備を進めていることを表明しています。
米国企業の製造を担う現地企業が複数ある
インドネシアと米国の関係は良好で、多くの経済的なつながりを持っています。具体的には以下の企業が米国向けの製品を製造しています。
PT. Foxconn Indonesia:Apple社製品の組み立てを担う
PT Pan Brothers TbK:アディダスやナイキ、コロンビアなどの衣料を設計 と製造する
PT. Mattel Indonesia:玩具メーカーMattelの製造を行う
インドネシアはベトナムと並び「チャイナプラスワン」で選ばれる国の一つです。豊富な労働力と安価な人件費で、多くのメーカーが製造拠点を構えています。
インドネシアと米国の相互関税交渉の今後

ここでは、インドネシアと米国の相互関税交渉の今後の展望について詳しく解説していきます。
90日間の発動猶予期間内での交渉妥結を目指す
米国が発表した関税措置は4月9日より90日間の延期期間に入っており、この間にインドネシアとの交渉が行われる見通しです。現在、双方は代表団による交渉を通じて、対立を回避しつつ合意点を探る動きが続いています。
インドネシア側は米国市場への輸出維持のため、譲歩可能な分野を模索しています。交渉の結果は、今後の輸出企業の事業にも大きく影響することになるでしょう。
中国と連携強化の動き
インドネシアにとって中国も重要な貿易国の一つです。2025年4月21日に第1回の外務・国防担当閣僚協議を開催し、中国の王毅外相は「我々は平和と安定の維持が両国の利益に合致する点で一致した」と発言し、両国の関係性を強調しました。近年は中国との経済関係を重視しており、対米交渉での重要な焦点となります。
一方で、南シナ海の安全保障上の課題に対処するために、米国との安全保障面での連携が進んでいます。領土問題において中国の強硬な行動に直面する中、インドネシアは米国との防衛協力を通じて、安全の確保を図ろうとしています。
2025年は5%前後の成長率を維持
インドネシア政府は、2025年も約5%の経済成長を見込んでおり、相互関税による大幅な景気悪化は想定していません。米国向け輸出は全体の約2%と限定的であるため、他の東南アジア諸国に比べて影響は抑えられる見方が強いです。
ただし、関税コストの増加による拠点の撤退や事業縮小が懸念されています。現状、相互関税に関する結論は出ていませんが、今後の動向はインドネシア経済に大きな影響を与えることになるでしょう。
まとめ
インドネシアにとって米国は重要な貿易国であり、相互関税は無視できない問題です。現在は90日間の延期期間の中にあり、今後の動向が注目されています。
同時に、インドネシアは最大の貿易相手国である中国との連携も重視しており、米国との交渉ではそのバランスが鍵となります。交渉では中国との関係を維持しつつ、米国との関係強化を図る姿勢が求められることになるでしょう。