ベトナムの改正消防法とは
ベトナムでは、ここ数年で消防法が改正され続けており、既存の小規模なアパートや飲食店からビルや工場など、大小問わずあらゆる建物で対応に追われています。新築においても、法律に適合していないという理由で工事が進まない建物が多くあります。
今回は、ベトナムの消防法の概要や改正が始まった理由、今後への影響をまとめました。
本記事でまとめている内容は執筆時点(2024年6月24日)での暫定のものです。今後も変更される可能性があるので、詳細は管轄の公安や専門家に確認するようにしてください。
ベトナムの改正消防法とは

消防法とは火災の予防や消火、人命や財産の保護を目的とした法律です。具体的には、火災の発生を未然に防ぐための対策や適切な消火設備、火災時の安全な避難経路などが定められています。
ベトナムにおいて消防法は2001年6月より施行されている法律ですが、まだ遵守していない建物も多くあり、曖昧な認識で運用されてきた過去があります。しかし、都市部には集合住宅が増え、火災によって大きな被害が発生する事故が頻発したことで、2021年頃から細かくチェックされるようになりました。
特にここ2〜3年は規則が目まぐるしく変わっており、多くの事業者が対応に追われています。
ベトナムの消防法が改正された理由
ここでは、ベトナムの消防法が改正されるようになった理由を紹介していきます。
2022年8月〜9月:カラオケ店の相次ぐ
2022年8月〜9月には、ハノイやビンズオンのカラオケ店で火事が発生し、多くの死傷者が出る事故が発生しました。
・2022年8月:ハノイ市内のカラオケ店で消防士3名が死亡
・2022年9月:ビンズオン省トゥアンアン市のカラオケ店で顧客と従業員計32名が死亡
カラオケ店の建物は窓が少なく、換気が悪い作りになっていることが多いです。上記の事故でも火が瞬く間に広がり、逃げ遅れた人がいたため、大きな事故につながってしまったようです。
2023年〜2024年:アパートでの火事
2023年〜2024年の間では、ハノイ市を中心に集合住宅やミニアパートでの火事が相次いでいます。
・2023年9月:ハノイ市の10階建ての集合住宅で50人以上が死亡
・2024年5月:ハノイ市の住宅が密集した狭い路地にある建物で14人が死亡
・2024年6月:ハノイ市の住宅で4人が死亡
火事は電動自転車のバッテリーの発火や配線のショート、家庭での火の不始末などが原因と考えられています。近年EVやカーボンニュートラルが推奨される裏では、バッテリーや配線を原因とした悲惨な事故も発生しています。
ベトナムの消防法の改正内容
ベトナムの消防法の改正内容は、省やエリアによって大きく変わります。ここでは一例を紹介していきます。
耐火塗料
ベトナムの建設省は、2022年〜2023年にかけて防火ガラスの基準に関する規定を数回発行しました。しかし、この規定に準ずる防火ガラスと耐火塗料はベトナム国内で入手できず、国外からの輸入が必要です。
新しい防火と消防に関する規定を適用するためには、通常の数倍の費用が発生します。また、対策を講じたのにも関わらず当局からの承認を得られず、営業に支障が出ているケースもあります。
こうした動きがある中で、建設省のグエン・タイン・ギー大臣は「耐火塗料は標準化できないものであり、規定されていない」と述べました。管理側にも認識の違いがあり、混乱を招いています。
防水タンク
ホーチミン市企業協会副会長は、建設省より「企業が3000~5000㎡の工場を建設する際は、約400㎥の水タンクの設置が必要」という通達を受けたことを述べています。これには場所と多額の費用が必要であるため、実現は困難です。
これについてホーチミン市警察は、変更前に承認された企業は、旧基準に基づいた建設工事の継続を許可する通達を出しています。
防火・消火設備
アパートや集合住宅では、屋内と屋外で防火・消火設備が必須ですが、長年放置されていて故障していることも少なくありません。
観光地で賑わうリゾート地のニャチャンでは賃貸アパートの需要が急増していて、多くの集合住宅で増設工事が行われています。しかし、防火・消火設備には注意が行き届いていないことも多く、管轄の人民委員会は急ピッチでの検査を進めています。
ベトナムの改正消防法による影響
ベトナムの改正消防法は既存の建物だけでなく、新規のプロジェクトにも影響が出ています。改正消防法の影響により、プロジェクトの開始遅延や作業を中断せざるを得ないケースも多いです。
2024年に入ってからも、消防法への不適合を理由に事業の一時停止に追い込まれ、罰金を科されるといった事例が多発しています。既存建物の改修や増築時には、消防法警察の公式の見解を得た上で、弁護士など専門家からの助言が求められます。
まとめ
ベトナムの消防法の改正内容は地域によっても違いがあり、多くの事業者が適合に苦戦しています。ここ数年の間でも状況は変化しているため、弁護士や専門家の意見を仰ぎ、最新の情報を受け取ることが重要です。