2025年のベトナムの法改正とは
ベトナムでは、2024年8月にトー・ラム氏が書記長と国家主席に就任して以降、さまざまな法改正が行われています。2025年には1月と7月に大幅な改正がありました。これらの改正には、現地在住の日本人の生活や日系企業のビジネスに影響を与えるものも少なくありません。予期せぬトラブルを避けるため、理解を深めることが重要です。
本記事では、ベトナムで2025年に行われる法改正についてまとめました。現在ベトナムに住んでいる人や、今後訪問する予定のある人は、ぜひ記事を参考にしてみてください。
2025年1月のベトナムの法改正による具体的な変更点
2025年1月に行われた改正は以下の通りです。

上記のうち「道路交通秩序法の改正」と「電子タバコと加熱式タバコの禁止」は、ベトナムに来る観光客にも該当します。違反した場合、高額な罰金を科せられる可能性があるため、十分に注意してください。
2025年7月の法改正は、保険や税金、企業法など、ベトナムでビジネスを展開する人が対象となるものが中心です。
2025年7月のベトナムの法改正による具体的な変更点

ここでは、2025年7月に実施される法改正について詳しく解説していきます。
社会保険法の改正
2025年7月より社会保険法が大幅に改正されます。主な改正点は以下の通りです。
● 加入対象の拡大:パートタイム労働者やベトナム人配偶者がいる外国人も、社会保険加入を義務化
● 保険料を遅延、未納の罰則強化:日率0.03%の延滞利息に加え、未納者には行政処分が行われる可能性
● 支払い時期の変更:対象月の末日から翌月末日支払いまで猶予
● 退職年金受け取りのための最低加入期間の変更:20年から15年に
社会保険加入や未納に関する罰則が強化された一方で、支払い時期や退職年金受け取りの加入期間が緩和されました。ただし、これらの措置によって外国人労働者が受けられる恩恵は限定的であり、負担が増える側面の方が大きいといえるでしょう。
企業法の改正
企業法に関する主な改正は以下の通りです。
● 名義人の報告義務:企業がベトナム人名義で設立(ノミニー契約)している場合、実質的所有者の報告が必要
● 現金による経費の支払い上限が変更:非現金決済の限度額が2,000万VND以上から500万VND以上に下がる
外資企業がベトナム人を会社の名義人にしている場合、実質的所有者の氏名、生年月日、国籍、所有比率などを明確にして報告しなければなりません。また、企業として500万VND以上の支払いがある場合、基本的に非現金決済が必要になります。500万VND以上を現金で支払った場合、一部の例外を除き仕入VAT控除の対象になりません。
外国人のレベル2電子身分証明書アカウントの発行
ベトナムに住む外国人は、出入国管理部の窓口でレベル2の電子身分証明アカウント「VNeID」の発行が必要になります。電子身分証明アカウントには「レベル1」と「レベル2」の2種類があり、レベル2の電子身分証明アカウントは、顔写真と指紋の生体情報や対面での登録が求められます。
対象になるのは、永住カードや一時滞在許可証(TRC)を保有している外国人です。観光やAPECビジネス・トラベル・カード以外でベトナムに滞在する人は、基本的に発行が必要です。
付加価値税(VAT)や納税に関する法律の改正
付加価値(VAT)税や納税、インボイス発行に関する法律も変更されます。主な変更点は以下の通りです。
納税者の範囲変更:納税者の対象を、ECを行う海外事業者やSNSのプラットフォーム上で活動する管理者や電子商取引管理者にも拡大
VAT課税割合の変更:肥料や漁船、農業機械などがVAT非課税から5%、砂糖や研究・科学試験に使われる設備などが5%→10%に
インボイス発行ルールの変更:インボイス発行日が明確に
出入国一時停止の基準が明文化:個人事業主や企業の法定代表者が出国一時停止の対象となる未納額、未納期間が明確に
今回の改正で、これまで曖昧だった部分も含め、制度の運用ルールが明確になってきています。
2025年のベトナムの法改正による今後の影響

ここでは、ベトナムの法改正によって、日本人や日系企業がどのような影響を受けるかを解説していきます。
コストの増加
社会保険の加入範囲が拡大されたため、コストの増加が予想されます。特にパートタイム労働者やベトナム人配偶者がいる外国人が多く働く会社では、負担が大きくなる可能性が高いでしょう。
一部の業種ではVATの税率も変更されます。改正によって一部の企業には恩恵がある場合もありますが、多くの企業にとってはコストの増加が避けられない内容となっています。
法務および税務面での見直し
今回の改正では、法務や税務面での見直しが求められています。企業は制度対応に向けて、社内規定や業務フローなどを見直し、実務に反映する必要があるでしょう。
また、経営層や各部門の責任者も、今回の改正内容を正確に理解するべきといえます。適切な経営判断のためにも、早期の情報共有と対応方針の検討を進めることが求められます。
行政手続きの利便性向上
VNeIDの発行によって、さまざまな手続きや申告が電子化されます。まだすべては明らかになってはいませんが、電子署名や法人手続き、税務・保険・電子契約などがオンライン上で利用できる見込みです。
一方でこうした機能を活用するためには、ITリテラシーも求められます。制度の本格運用開始に遅れないよう、今後も継続的に情報をチェックして準備を進めていきましょう。
まとめ
2025年に入り、ベトナムでは大幅な法改正が行われています。法改正の範囲は保険や企業法といったベトナムで働く人向けのものから、訪れる観光客向けまで多岐に渡ります。
本記事では、法改正の概要のみ紹介してきました。企業ごとに対応内容は異なるため、詳細については専門の会計事務所や法律事務所、公的機関へ確認することをおすすめします。