ジャカルタの問題点と首都移転計画

インドネシアの首都ジャカルタ（ジャワ島）は、長年苦しんできた「地盤沈下」慢性的な洪水」「渋滞 」「人口過密」に抜本的解決をもたらすため、2024年以降、首都機能を新首都「ヌサンタラ」（カリマンタン島）に移します。

本稿では、ジャカルタの数的データと、東南アジアの土地勘を養える情報を提供いたします。

ジャカルタは、およそ500年前の1527年、イスラムの将軍・ファタヒラが、ポルトガル軍を撃退し、「ジャヤカルタ」（偉大なる勝利）と名づけたときから歴史が始まりました。

現在の名称「ジャカルタ」になったのは、日本占領時代。1942年のことです。同年6月のミッドウェー海戦で、戦局はすでに悪化していました。

戦後、ジャカルタは、人口約1,000万人の巨大都市に成長しました。都市圏人口は約3,000万人で、東京圏に次ぐ世界第2位です。

2019年、ウィドド・インドネシア大統領は、ジャカルタの問題点「地盤沈下」「慢性的な洪水」「渋滞 」「人口過密」を解決するため、首都機能を新首都「ヌサンタラ」（列島の意）に移すことを発表しました。

ジャカルタは、1970年代以降、毎年10cmずつ沈んでいます。1970～2020年の50年間で、ジャカルタの多くの地区は4m以上沈みました。これは世界一の沈下スピードです。

ジャカルタの沈下スピードがここまで速い理由は、何なのでしょうか？

ジャカルタの沈下スピードが地盤沈下に悩む他の都市の4倍なのは、違法な地下水の汲み上げと、温暖化による海面上昇のダブルパンチが原因です。

ジャカルタ市民の6割が、地下水を違法に汲み上げているといわれており、このままのペースでいくと、2050年にはジャカルタの3分の1が水没すると予測されています。

ジャカルタはたびたび大洪水に見舞われていますが、2019年年末から2020年年始にかけての洪水は、1996年以来の大被害といわれました。最大水位は6mに達し、約300の村を水没させます。

ジャカルタの慢性的な洪水は、水はけが悪いのが原因です。ジャカルタの水はけは、なぜ悪いのでしょうか？

水はけの悪さには、先ほどの地盤沈下と関係があります。地盤沈下により凹地ができると、洪水が海に排出されなくなってしまいます。

また、森林が伐採され、地面がアスファルトやコンクリートで舗装されると、かつては森林地帯にとどまっていた水が、一気に都市部に流れ込んでくるのです。

さらに、都市部の排水溝や排水路が「ゴミ詰まり」によってふさがれてしまうのも、水はけを悪化させる原因となります。

ジャカルタの渋滞は世界一ひどく、「インドネシア人は、人生のうち10年を渋滞中の車内ですごす」といわれるほどです。ジャカルタの渋滞がここまでひどい理由は、何なのでしょうか？

ジャカルタの渋滞がひどい理由は、単純に自動車の数に対して、道路が少なすぎるからです。自動車の「詰まり」がいたるところで発生し、致命的な渋滞が発生してしまいます。実際、ジャカルタではオランダによる植民地時代以来、ほとんど道が増えていません。

計画都市「ヌサンタラ」を待望する声は、この異常なまでの渋滞から生じています。

ジャカルタの人口密度は、東京の倍、インドネシア全土の平均のおよそ100倍となっています。ジャカルタの人口密度がここまで高い理由は、何なのでしょうか？

ジャカルタの人口密度が高いのは、極貧層が過密化した状態で居住するスラムが多く存在するためです。住民は地権を持たないため、実数すら正確には把握されていません。

イスラム教徒が人口の9割を占めるインドネシアでは、スラム街もイスラム系がほとんどです。

相互扶助の教義に従って暮らしていますが、スラムの発生は周囲の地価を落とし、教育水準が下がり、さらなる所得と地価の下落を招くという悪循環を生んでいます。

ジャカルタの港は、タンジュンプリオク港で、インドネシアのコンテナ貨物の50%以上を扱っています。こちらも陸地同様、貨物の渋滞の問題が生じています。

コンテナの滞留は、旧ターミナルの処理能力不足によるものでしたが、こうした不満を解消すべく、三井物産が新ターミナルの建設・運営事業に参画しました。

インドネシアでは、首都のジャカルタに、人口とGNPの6割が集中しています。ジャカルタ内部でも、貧困層地域と富裕層地域の格差が問題となっていますが、ジャカルタのあるジャワ島とそれ以外の島にも格差が生じ、問題となっています。

インドネシアは13,466もの島からなる群島国家です。ジャワ島には6割を超える人口が住んでいますが、新首都ヌサンタラを建設予定のカリマンタン島は、国土面積の7割を占めるにも関わらず、わずか7%の人口しか住んでいません。

計画都市は、道路や下水を計画的につくることで、渋滞や洪水を解消するというメリットがあります。

一方で、現役の国民に長期間に渡って、重い税負担がのしかかる、というデメリットも存在します。

ヌサンタラ遷都は、2019年の発表当初から「インドネシアがジャングルに遷都」と世界中の人々を驚かせていました。急速に先進国化するインドネシアにとって、にわかには信じがたいニュースだったからです。フェイクニュースだと疑った人も少なくありませんでした。

2022年3月14日には、ウィドド大統領主催の式典が現地で開かれたのですが、新首都の「一丁目一番地」がいまだにジャングルであることに、世界の人々はまたしても驚かされました。

なお、同日、大統領は現地で「ソロキャンプ」を行っています。

＞＞ AFPBB News（動画） - Twitterより

ヌサンタラは、総面積＝25万6千ヘクタールの遠大な構想を発表していますが、実際は、細かいことはほとんど決まっていません。

ウィドド大統領がソロキャンプを行う3日前の2022年3月11日には、これまで4兆円のヌサンタラへの投資を約束していたソフトバンクグループの孫正義氏が、投資計画を白紙撤回してしまいました。

ジャカルタでの住民投票では、遷都反対が95%超を占め、前途多難といえます。

ストロングマン（剛腕の政治的リーダー）が朝令暮改を繰り返すのが、東南アジアの政治の常ですから、政権交代があった際にヌサンタラ遷都がスムーズに引き継がれるかは、疑問符がつきます。

インドネシアは、日系企業の東南アジア進出の「本丸」と目されることも多い重要国です。本稿でご紹介したジャカルタの数的データを、東南アジアのリファレンスポイント（相場感）形成にお役立ていただければ幸いです。