インドネシア政府の無償給食政策とは
インドネシア政府は、2025年1月より学校に通う子供や妊婦に向けて、無償給食政策を始めました。無償給食政策は栄養を補い長期的な発展を促進するものとして期待されていますが、一方で国家の予算を圧迫しており廃止すべきとの声も広がっています。
本記事では、インドネシア政府の無償給食政策の概要や運用状況、今後の課題を解説していきます。
インドネシア政府の無償給食政策とは
インドネシア政府の無償給食政策は、2024年10月から始動したプラボヴォ政権の目玉政策です。プラボヴォ氏は、選挙時に以下の政権公約を掲げて当選を果たしました。
◆最優先8プログラム(2029年まで)
1.学校給⾷の無償化、妊婦・乳幼児への⾷料⽀援
2.健康診断の無償化
3.村落、地域、国規模での農地整備と生産性向上
4.先進教育学校の設置、教育施設の修復
5.社会福祉プログラムの拡充
6.公務員・警官・兵⼠の給与引き上げ
7.インフラ、現⾦直接給付、住宅供給
8.国家歳⼊庁の設置と納税率の向上
無償給食政策は対象者が多く、社会への影響が大きい国家的プロジェクトです。次からは、その具体的な内容を解説します。
妊産婦や乳幼児、小中高生が対象で2025年1月より実施
無償給食政策は就学前の幼児から高校生までの子ども、妊婦や授乳中の母親などが対象で、栄養状態の改善を目的としています。インドネシアでは5歳未満児の約21.5%が発育不良に陥っており、身体的成長だけでなく、将来的な学習能力や労働生産性にも影響を及ぼすことが課題となっています。
同政策は2025年1月6日に開始され、1年後の2026年1月6日には約5500万人が受益したと発表されました。政府は段階的に対象を拡大し、2026年末までに8000万人以上への提供を目指しています。
経済成長と雇用創出が期待される
無償給食政策は、経済成長と雇用創出の両面で効果が期待される長期的な国家プロジェクトです。無償給食によって育った子供達が将来経済を支える一員となり、GDPの押し上げにつながると見込まれています。
また、食材の調達や調理、物流などを通じて関連産業が動き、地域経済の活性化や新たな雇用の創出にもつながります。短期的には雇用を創出し、長期的に人材育成にも貢献する、インドネシア経済を支える政策といえるでしょう。
日本政府は支援を約束
2025年1月、日本政府(石破政権)は、インドネシアの無償給食政策を支援する方針を発表しました。日本は長年にわたり学校給食制度を運営してきた実績があります。今後食育や衛生基準の策定に関する専門家を、現地へ派遣することを約束しています。
2024年9月にはインドネシアの政府関係者を日本に招き、小学校の給食制度を紹介しました。日本型の給食運営モデルが、インドネシアの無償給食政策の土台づくりに貢献することが期待されています。
2026年の予算は大幅増
インドネシア政府は、無償給食政策の予算計画について「2025年:71兆ルピア(約7,000億円)」から「2026年:335兆ルピア(約3兆1,000億円)」に増額する予定です。これは国家予算全体の約8.8%に相当する規模となります。
2026年からは新たに高齢者約40万人も対象に加わる予定で、前年以上の財政負担が見込まれています。制度拡大に伴い維持費はさらに膨らむとみられ、今後安定的な財源確保が大きな課題となるでしょう。
インドネシア政府の無償給食政策の課題
ここでは、無償給食政策の課題について解説していきます。
政策が国家の財源を圧迫
インドネシアの無償給食政策は、国家財政に重い負担になっていると指摘されています。前述の通り2025年の予算は「71兆ルピア(約7,000億円)」でしたが、最終的には「171兆ルピア(約1.7兆円)」にまで膨れ上がったこともあり、2026年も計画以上の支出が懸念されています。
現在インドネシア政府は、2045年までに首都をジャカルタからヌサンタラへ移転する国家的プロジェクトも進めています。しかし、無償給食政策による歳出拡大が続けば、こうした大型プロジェクトの進捗に影響が出る可能性もあるでしょう。
1万1千人を超える集団食中毒の被害者が発生
無償給食政策を監督する国家栄養庁のダダン・ヒンダヤナ長官は、2025年11月上旬までに1万1千人を超える食中毒の被害者が発生したことを発表しました。利用者の中からは、制度の急速な展開に衛生体制が追いついていない、という声もあがっています。
こうした動きを受けて、プラボウォ氏は「食中毒の発生件数は無償給食の提供数の割に少なく、子供の栄養失調対策として有効」と主張しています。2026年以降も制度は継続・拡大する方針であり、さらなる安全対策が求められることになるでしょう。
制度廃止訴える抗議デモが発生
2025年8月末、ジャカルタで学生が暴徒化する大規模なデモが発生しました。デモの背景には、無償給食政策によって他の予算が削られる一方で政府が議員を優遇していることへの不満や、中間層の成長が停滞していることへの危機感などが挙げられます。
また2025年10月には、約300人がジャカルタの大統領公邸の近くに集まり、無償給食政策の廃止を訴える抗議デモが行われました。デモ参加者は食中毒問題や衛生管理への不信、教育予算の配分への不満を口にしており、政策そのものへの批判が広がっています。
まとめ
無償給食政策は、短期的に雇用を生み出す景気刺激策、長期的には人を育て経済を底上げすることが期待されています。日本を始めとした諸外国からも理解を得られており、国家的な成長戦略の柱として位置づけられています。
一方で、予算の膨張や他分野へのしわ寄せ、食中毒の発生など運用面の課題も浮き彫りになっています。今後は制度維持のための安定した財源を確保し、安全管理や運用体制の強化が重要になるでしょう。