S&OPとは?需要と供給を最適化する経営戦略の基礎
S&OP(セールス&オペレーションプランニング)は、企業が市場の需要と生産・供給能力を統合的に管理し、最適な意思決定を行うための経営戦略です。
昨今の企業を取り巻く物流環境において、「サプライチェーン改革が上手く進められない」、「2024年問題などによる法改正への対応が後手になってしまう」などの課題を抱える一方で、物流現場では、経営や戦略とのミスマッチ、意思疎通の齟齬を感じている企業も少なくないはずです。
物流における両者の目標と取り組みは共通ですが、それぞれの立場によって視点は大きく異なります。この視点の不一致を解消しない限り、根本的な物流改革にはつながりません。
本記事では、経営層と物流現場の視点を連携し、サプライチェーン全体の課題を解決するための仕組みとなる「S&OP(Sales and Operations Planning)」について解説します。
S&OPとは?
Sales and Operations Planning (S&OP)とは、企業の経営と販売、生産、調達、在庫計画を統合して全体的なビジネス戦略と一致させることで、サプライチェーンを最適化していくプロセスのことです。
S&OPは、市場環境などの外部環境への対応に取り組む経営層と計画に基づいたオペレーションを実行し、現場改善に取り組む物流現場との視点を連携させ、双方が抱える課題を解決するための鍵となる仕組みです。S&OPによって、収益やコスト管理といった「金額」の観点と、SCMにおける販売や生産、調達、在庫計画といった「数量」を基軸とする物的な観点を結びつけることで、全社的な共通目標の達成に向けた統合的な計画・実行・管理を可能にします。
S&OPが注目される背景
グローバル競争や需要の変動の激化に対応するため、企業は在庫の適正化と迅速な経営判断を求められています。S&OPが注目される背景には、変化の激しいビジネス環境に柔軟に対応する必要性が挙げられます。
多くの企業は、需要の波や市場トレンドへの対応を後手に回してしまうと、過剰在庫や欠品など大きな不利益を被る可能性があります。特に、顧客の嗜好が短期間で大きく変化する現在では、タイムリーな情報収集と意思決定が必須です。また物流インフラ観点の変化として2024年問題をはじめとするドライバーの稼働時間なども挙げられます。S&OPを導入することで、従来の属人的な判断に頼りがちなプロセスを、よりデータ起点の判断に変換できる点が注目されています。
さらに、企業規模の拡大によって製造・販売拠点や取引先が増えれば、調整すべきステークホルダーも増加します。複数の部門が独自に動いてしまうと、全体最適から遠ざかるため、S&OPを取り入れることで、需要と供給のバランスを常に検討しながら、迅速かつ的確に軌道修正ができる体制構築が可能になります。
S&OPとSCMの違いと役割分担
S&OPは需要計画と供給計画を統合する一方、SCMは供給網全体の効率化にフォーカスします。それぞれの目的や役割を理解し、連動させることが非常に重要です。
SCM(サプライチェーンマネジメント)は、調達から生産、物流、販売に至るサプライチェーン全体の効率化を狙います。これに対してS&OPは需要と供給の整合性を密にとりながら、収益性や財務的視点までカバーする点が大きな特徴です。つまり、在庫や生産コストだけでなく、利益率やキャッシュフローなどのビジネス指標を踏まえた意思決定が行いやすくなります。
両者をうまく組み合わせることで、サプライチェーンの可視化と、需要予測データを活用した柔軟な生産調整が可能になります。SCMがモノの流れに注力する一方で、S&OPは経営レベルの判断も含むため、経営層と物流現場の視点を連携する基盤としても機能します。
S&OPが企業にもたらす効果
在庫の最適化
S&OPによって、需要予測に基づいた供給計画が可能になり、過剰在庫や在庫不足を防ぎながら、適正な在庫水準を維持できます。この結果、無駄な在庫が削減され、保管コストが抑制されるため、資産の過剰な抱え込みを防ぐことができます。
効率的な資源配分
生産計画と需要が一致することで無駄な生産が削減され、ラインの稼働率が向上するため、従業員や設備をより効率的に稼働させることができます。また、急な発注や在庫不足を抑えることで、サプライチェーン全体のコスト最適化につながります。
部門間の連携強化とスピード感のある意思決定
販売、製造、物流など、複数の部門が共通のデータを基に情報共有を行うことで、目標を全社的に統一できます。これにより、必要な調整を部門横断で迅速に行えるようになり、経営層を含む全社的な意思決定スピードを加速することができます。結果として、外部環境の変化に素早く対応できる競争力が高まります。
上記のS&OPの実行がもたらす効果によって、欠品や配送リードタイムの短縮による高いサービスレベルが実現し、顧客満足度や企業の競争優位性が高まり、売上拡大に貢献します。また、関係部門が需要と供給のバランスをリアルタイムに把握し、状況に応じた意思決定を行うことで、事業計画の目標達成の確度が高まり、企業の収益の最大化に寄与します。
S&OPの実行手順
1.データ収集
まず、販売データ、在庫データ、生産能力など需要予測に必要な情報を収集します。
販売データは、過去の販売数量や売上金額、主要顧客の購入サイクルや購入点数などの購買動向、商品別の販売実績を含みます。また、今後のキャンペーンや割引施策、新商品のローンチなどのプロモーション情報も含まれます。
在庫データは、商品や原材料、部品、梱包資材に関する情報です。具体的には現時点における全体在庫数および拠点別在庫数、在庫回転率を指します。
生産能力は、物流現場においては在庫の入出庫や保管、仕分けの処理能力を指し、具体的には、倉庫の最大保管能力や、稼働率、作業員の人数やシフト体制、作業生産性などが挙げられます。
2.需要予測
収集したデータをもとに需要計画を立てます。計画を立てる際、経済や社会動向、市場の成長率、競合他社の動きなどの外部環境の情報も考慮し、市場全体の方向性を把握します。また、販売部門やEC事業においては、レビューやカスタマーサービスで得た顧客のフィードバックや特定顧客の需要動向、大口注文の予定も反映させます。こうした情報を統合することで、現実的で柔軟な需要計画を策定します。
3.供給計画の策定
需要予測と生産能力を基に、生産スケジュール、在庫補充計画、調達計画を策定します。さらに、策定した計画に則って、資材手配、倉庫管理の効率化を行い、需要に応じた供給体制を確保します。
供給計画を立てるにあたって、物流現場には、ピーク需要を見越してキャパシティの増強を行うことや、代替ルートの確保、配送計画に余裕を持たせるなどの工夫が求められます。
4.実行計画
予測した需要と供給のバランスを取り、各部門が合意した最終的な販売計画を策定します。物流現場においては、計画通りに入荷・配送されるよう、サプライヤーとのリードタイムを考慮し、スケジュール管理を行います。また、需要変動に対応するために商品ごとの適正な在庫量を設定し、欠品や過剰在庫を防ぎます。 また、実行計画の成功を測るために、進行状況や達成度を評価するKPIを設定します。
5.実行とモニタリング、計画の修正
各部門が策定したS&OP計画に基づき、生産、販売、在庫管理などの具体的な活動を実行します。進捗管理では、リソース配分やKPIを確認し、実績データの収集と目標との差異分析を通じ、部門間での進捗共有や課題解決を図ります。モニタリング結果に基づき、需要変動に応じた計画の柔軟な見直しと改善サイクルの実施を継続的に行います。
このプロセスは通常月次単位で行われますが、状況や業界の特性に応じて週次、日次単位の管理も行われます。
例えば、ファッション業界では、季節やトレンドの影響で需要が急変しやすく、特に春夏・秋冬のシーズン切り替え時期には、日次・週次で在庫状況を見直し、供給体制の調整が求められます。また、季節性のあるプロモーションやセールなどで需要が急増することがあるEC事業者においても、日次で情報を共有し計画を見直し、リソースを柔軟に調整することがあります。
S&OP導入で陥りやすい課題と対策
S&OP導入には多くのメリットがある一方で、運用面でいくつかの課題が生じるケースもあります。ここでは代表的な課題とその対策を紹介します。
部門間コミュニケーションの不備
S&OPでは、販売、製造、財務、物流や委託先の企業など多岐にわたった連携が不可欠です。各部門がそれぞれの目標や優先事項を持って連携していくには、全社共通のビジョンや目標を明確にし、定期的な連携会議などの情報共有の場を整備することが重要です。関係部門と協力するための土台を整えることで、初めてS&OPの成果が最大化されます。
共有データの欠如やシステム連携不足
S&OPを実行するにあたって、各部門から収集したデータの正確性が欠かせません。データが不正確であれば、計画と現実にギャップが生まれ、経営と現場が乖離します。人的作業によるデータ収集や分析は、ミスや属人化のリスクが高いため、データ管理や分析の自動化が推奨されます。統合システムの導入やマスターデータの整備に注力することで、情報の重複や矛盾を抑え、より精度の高いS&OPを実現できます。
継続的な見直し・改善
S&OPは、外部環境や市場動向の変化に応じて定期的に見直し、改善を重ねる必要があります。PDCAサイクルを取り入れ、S&OPの関係者全員が連携することで計画の精度が高まり、変化への適応力が向上します。こうした改善が継続されることで、S&OPは企業の目標達成に寄与します。
まとめ
S&OPは、企業が市場の変動に迅速に対応し、ビジネスのパフォーマンスを最適化するための重要なプロセスです。 適切に運用することで、在庫管理の最適化、生産効率の向上、顧客満足度の改善、収益の最大化など、多くのメリットがあります。
S&OPの実行には、社内外の部門間の連携やデータの正確性の確保、継続的な改善などがポイントとして挙げられますが、ITシステムの活用や自社に合った仕組みづくりが重要です。経営と物流現場をS&OPによって連動させることで、企業全体の目標達成および、市場変動への対応力が高まり、企業の競争力の向上にもつながります。
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