CREフォーラム レポート
セコム株式会社

(レポート)物流・製造拠点に忍び寄る海外特有の犯行手口 ~ TAPA・C-TPATなどのサプライチェーン認証が注目を浴びる理由 ~

セコムグループの概要

セコムグループの概要

私たちの会社は、1962年に日本警備保障株式会社という名称で、日本で初めての警備保障会社として設立されました。そして1983年に、セコム株式会社という現在の社名に変更いたしました。

現在、セコムグループの総会社数は約200社で、日本のみならず、海外の21の国と地域に展開しています。2016年3月期の連結売上高は8,810億円です。セキュリティ総契約件数は約300万件で、国内が約220万件、海外が約80万件となっています。


設立して2年後の1964年には東京オリンピックの警備を受注し、その後、企業向け安全システム、家庭向け安全システムを開発し、セキュリティを中心に、防災、メディカル、保険、地理情報サービス、情報通信、不動産事業などを展開してきました。

セキュリティで培ったネットワークをベースに、安全・安心・便利で快適なサービスシステムをトータルで提供する、新しい社会システムづくりに取り組んでいます。

セコムのビジネスモデル

私たちは、ご契約先の建物にさまざまなセンサー類を取り付けています。侵入や火災などの異常が発生したら、センサーがそれを感知し、セコム・コントロールセンターに異常信号を送ります。その信号を受け取ったコントロールセンターが全国約2,800カ所にあるセコム・緊急発進拠点に急行を指示し、緊急対処員がご契約先に赴き、適切な処置を行います。これがセコムの基本的なビジネスモデルとなっています。

私たちのビジネスモデルの強みは、単に物を売るということではなく、「人」と「機械」と「通信ネットワーク」を連携させたサービスを提供していることにあります。総合的な判断力に富み、臨機応変な処置がとれるという特性を持つ「人」、そして単純・繰り返し動作が得意であり、長期間の統計傾向の分析を容易にできるという特性を持つ「機械」、これらを「通信ネットワーク」でつなぎ、それぞれの良さを生かしたサービスを行うことが私たちのビジネスモデルの根幹です。

日本と海外の道徳観の違い-「性善説」ではなく「性悪説」を前提にした安全対策へ

日本は現在、少子高齢化が急激に進んでおり、労働人口の減少が社会問題となっています。不足する労働力を補うためには海外から人を呼んでこなくてはなりません。さまざまな国から来る外国人は、言語だけでなく、道徳観も日本人とは異なっています。日本人は、義務教育課程の道徳教育を通じて道徳を学ぶ機会を持っていますが、海外の人たちはそうではありません。善悪の判断や規則の尊重・公徳心、法の遵守などの道徳を日本のようにしっかり教わらずに海外で育った人たちが日本で働くことで、いろいろな問題が起こってきています。

今後は、「性善説」ではなく、日本の旧来の道徳観が通用しない人たちもいるという「性悪説」を前提にして、日本全体のセキュリティを考えなければならないのです。

「不正のトライアングル」理論

では、人は、どのようなときに不正を犯すのでしょうか? アメリカの犯罪学者のクレッシーは、犯罪者を調査して、「機会」と「動機」と「正当化」の3つの条件がそろったときに不正が起こるという「不正のトライアングル」理論を導き出しました。

企業を例にとると、企業の内部統制や規律の緩みにより、やろうと思えばいつでも不正ができるという「機会」、給料が安いなどの会社の処遇への不満による「動機」、ほかの人もやっているんだから自分もやっていいんだという、不正行為の実行の「正当化」、この3要素がそろうと、人間は不正行為を行ってしまうのです。

海外の工場や倉庫で起きている犯行-内部犯行

それでは、日本とは異なる道徳観を持つ海外では、実際にどのような犯行が起きているのでしょうか。今回は、工場や倉庫で起こる事例を中心に見ていきたいと思います。

紛失するものはさまざまありますが、代表的なものは、電子部品や建築足場用パイプ、機械部品、電気工具、音響製品、塗料缶、鋼材等です。そして、これらの犯行を実行したほとんどの人は、外部からやってきた人間に限らず、契約社員・従業員・学生アルバイトなどの内部の人間も含まれます。

エスカレートしていく内部犯行

工場や倉庫で起きる内部犯行の最初の第1ステップは、個人が小さな物を盗むことから始まります。この犯行に成功すると、犯行実行者は仲間に自慢をし始め、「おまえもやらないと損をする」と仲間を洗脳し始め、第2ステップのグループ犯行へと進んでいきます。そして、より大規模な犯行を計画するようになり、見張り役・輸送役などを外部に求め始めます。また、自分たちが欲しい物を盗むだけでは満足できなくなり、換金するために外部組織と接触をし始めます。そして第3ステップでは、換金するブラックマーケットで知り合った外部組織と結合します。最初の犯行から年を経ると、グループのリーダー格は社内のポジションが上がっていき、権力が強くなり、自分に従わない従業員を排除し始めます。

最終ステップでは、犯罪組織が完成され、人事・総務・資材・経理などの要所が組織メンバーで固められてしまい、社長のコントロールが不能になります。ここまで組織化が進んでしまうと、会社がこの組織を崩すことはほとんど不可能になります。

内部犯行対策の大原則

このような内部犯行を防ぐ大原則は、「早期発見」「早期摘発」「徹底根治」です。犯行を早く見つけることができれば、被害も小さく、組織が大きくなるのを防止できます。そして、犯行を見つけたら、どんなに小さな犯行であっても、制裁することが重要です。些細な犯行だと、日本人は「これくらいは大目に見よう」といって制裁を加えないことがありますが、そのような見逃しは決して行ってはいけません。

その気を起こさせない環境づくり

内部犯行を未然に防止するには、「会社の物を盗んではいけない」と思わせる環境づくりが必要です。そのために一番重要なのは、企業のトップがセキュリティに関心を持っていることを行動で示すことです。具体的には、例えば、金曜日の夕方に、社長が自ら会社の敷地を巡回するということです。なぜ金曜日かというと、会社が休みになる前日の犯行がもっとも多いからです。会社のトップがセキュリティに目を光らせているということを従業員に行動で示すことが、一番効果があります。

2番目に重要なのが、在庫管理の徹底です。しかし、徹底するといっても、文房具やトイレットペーパーなどの小物の管理を逐一行うのは大変なので、チェックをしている振りをするだけでも構いません。「振りをする」だけでも、犯行を企んでいる人たちへの抑止効果があります。

そして3番目に効果があるのが、私たちのような警備会社による監視システムの整備になります。

その他の労務関係問題

内部犯行が起こる原因には、セキュリティの甘さだけではなく、労務関係の問題もあります。東南アジアの国々や中国では、日本と比べると、従業員を解雇するのが非常に難しいです。例えば、「解雇するときには30カ月分の給料を払わなければならない」など、厳しい条件がある国もあります。また、解雇された従業員の家族・親戚が会社に乗り込んできたりすることも多々あります。会社の物を盗んだぐらいで自分が首を切られることはないと考え、内部犯行に手を染めてしまう場合があるのです。

グローバル化する社会への対応

このように、犯罪事情ひとつとっても、海外と日本では大きく異なります。最初にも述べましたが、超高齢化社会で労働力が不足する日本には、今後多くの外国人労働者が入ってくると予想されます。そうすると、海外で起きているような犯罪が日本においても起きる可能性があるわけです。したがって、今までのセキュリティ対策では犯罪を防止することは難しくなってきます。日本は現在、グローバル化する社会における新たなセキュリティ対策を考えていく時期に来ているのです。

グローバル展開する物流・製造拠点のセキュリティ対策―グローバル・サプライチェーン・セキュリティ認証(認定)

新たなセキュリティ対策を考えなければならないということは、物流業界においても同じです。特にグローバル展開している物流企業においては急務です。

物流過程で起きる犯罪には、大きく3つあります。盗難・不正などの「荷抜き」、模倣品・偽装品などへの「すり替え」、不法薬物や拳銃などの「荷差し(紛れ込ませ)」です。

これらの犯罪に対する取り組みとして、現在、いくつかの国際的な認証制度(規格)がつくられています。

代表的なものには、TAPA(輸送資産保全協会)認証、C-TPAT(テロ行為防止のための税関-貿易事業者パートナーシップ)、AEO(認定された貿易関連事業者)制度などがあります。これらの認証を取得している日本の企業は、海外に比べると圧倒的に少ないです。その理由は、先ほど述べましたように、日本は「性悪説」ではなく「性善説」に基づくセキュリティ対策しかしてこなかったからです。

TAPA、C-TPATなどの認証が注目を浴びる理由

日本においても、数年前からTAPAやC-TPATに対する関心が高まっています。なぜなら、TAPAやC-TPATなどは、性悪説的な考え方をする欧米で発達してきた基準で、性悪説に起因する諸々の事案の対策が盛り込まれているからです。これらの認証を取得すれば、性悪説に基づく犯行の防止に効果があるのです。

ただ、TAPAやC-TPATの認証を取得するにはお金も時間もかかるので、認証を取るところまではいかなくても、TAPAやC-TPATの「性悪説」対策のコンセプトだけでも導入したいという会社が増えてきています。

TAPAの「施設セキュリティ(FSR)」と「輸送セキュリティ(TSR)」要求事項の主な項目

TAPAには、施設セキュリティ認証(FSR)と輸送セキュリティ認証(TSR)の2つがありますが、TAPAの施設セキュリティに関する要求事項には、例えば、敷地の周りのフェンスや照明などの「周囲セキュリティ」、施設入り口・事務所エリアなどの「出入管理」、従業員の採用や解雇に関する「従業員の管理」などがあります。

一方、TAPAの輸送セキュリティに関する要求事項には、荷台ボディーの仕様、トレーラーを切り離した際の措置などの「車両の物理的セキュリティ」、途中で荷物を下ろすことを防ぐためのルート計画、安全な駐車、同乗者規定などの「車両運行管理」などがあります。

ハード面の対策とソフト面の対策

これらの要求事項を満たすための対策は、ハード面、ソフト面の2つがあります。

ハード面においては、例えば、監視カメラシステムや赤外線センサーシステム、物理フェンスの設置による関係者以外の侵入対策などがあります。

ソフト面においては、危機管理体制の構築・維持、リスクの洗い出しと対策の実施、リコール対策などがあります。

TAPAにおいては、このようにハード、ソフト双方の対策が求められています。

最後に―企業の財産を守るために

企業が持つ財産には、従業員などの「人」、建物・生産設備などの「物」、現金・有価証券などの「金」、ノウハウ・内部マニュアル・顧客データなどの「情報」、ブランド・評判などの「イメージ」の5つがあります。

これらを守るための基本方針やルールを決めるのは各々の企業の役割で、具体的なツールを使ってこれらの対策を実現するのが私たち警備会社の役割です。両者が協力しあうことで企業の財産を守ることができると考えています。

「この世に生き残るものは、最も力の強いものでもなく、最も頭のいいものでもない。それは、変化に対応できる生き物である」というダーウィンの言葉がありますが、これは企業にとっても同じです。これから企業が生き残っていくためには、世界で起きているさまざまな変化に柔軟に対応していかなければならないと考えています。

講師紹介

セコム株式会社 ALL SECOM推進部
担当部長 桜井 俊之 (さくらい としゆき) 氏

セコム株式会社 ALL SECOM推進部
担当部長 桜井 俊之 (さくらい としゆき) 氏

1984年:セコム株式会社入社
緊急対処員を経験後、米国に社費留学。1988年より海外向けシステムの開発や技術・業務指導を担当。
2004年:インドネシア現地法人副社長
ジャカルタ・ジャパンクラブ邦人安全対策連絡協議会メンバー。当時現地で連続多発した自爆テロをきっかけに現地の日本語メディアへ防犯・テロ対策の記事を連載。2010年からグループ国際事業本部 技術部長。上海分室・シンガポール分室を管轄し、膨大な犯行事例を収集。また、イスラエルで開催されたテロ対策国際会議に、米国連邦捜査局(FBI)、国土安全保障省(DHS)専門官などと共に参加、世界最高水準のテロ対策についての指南を受ける。
2013年:グループ国際事業本部 営業部長を兼務
中国・東南アジア特有の犯罪の実情、テロ対策などについて講演多数。
2014年:現職
「セコム海外赴任者パッケージ」を企画・発売。

著書に『企業の護身術』(2008年、NNAインドネシア社)、作成メンバーとして『海外派遣者ハンドブック(インドネシア編)』(2013年、日本在外企業協会)に寄稿。

募集要項

イベント名 第33回CREフォーラム|『物流・製造拠点に忍び寄る海外特有の犯行手口』 ~ TAPA・C-TPATなどのサプライチェーン認証が注目を浴びる理由 ~
日時 2017年 4月21日(金) 14:30開場 15:00開始 16:40終了
会場 虎ノ門ツインビルディング西棟地下1階
東京都港区虎ノ門2-10-1
参加対象者 荷主企業 様、物流会社 様
参加費/定員 無料/70名限定 (定員数を超えた場合、申し込み期限前でも終了する場合があります)

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティング部
メール:
leasing_mail@cre-jpn.com
電話:
03-5572-6604

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