CREフォーラム レポート
SCMソリューションデザイン

(レポート)ASEANの加工食品市場とロジスティクス - 最新事情

名目GDPと購買力平価GDPの違い

名目GDPと購買力平価GDPの違い

SCMソリューションデザイン
魚住 和宏(うおずみ かずひろ)氏

一人当たりの名目GDPは、ASEAN平均で約4,200ドルと日本の約10分の1でとても低いですが、この数字はASEAN各国の実態を表していないと思っています。名目GDPではなく、購買力平価GDPで見る必要があります。

購買力平価GDPとは、各国の現地通貨ベースのGDPを米ドルに換算する場合に、為替レートでなく、同じ商品を米国で購入した場合と各国で購入した場合を比較して計算された「換算レート」を用います。購買力平価GDPは名目GDP同様に、OECD、IMF、世界銀行から発表されており数字は微妙には異なりますがほぼ同水準です。

ASEAN各国は購買力平価GDPで見ると、名目GDPの約3倍の規模になります。タイの一人当り購買力平価GDPは約18,000ドルでマレーシアに至っては約29,000ドルです。

食品・日用雑貨のマーケティングを考えた場合には、名目GDPで見てしまうとASEAN各国の経済規模・購買力を過小評価しかねませんので、購買力平価GDPに着目してほしいと思っています。

ASEANにおける食の健康志向

ASEANの先進6か国は既に後進国ではありません。中進国、あるいは先進国と言っていいと思います。食に関しては、飽食の時代に入ってきており、肥満や高血圧、糖尿病等が社会問題化しており、より健康志向の強いものが求められています。Health and Wellness がキーワードです。今後、加工食品分野で、ASEANへの進出、またASEANでの事業拡大を考える際には、そのようなニーズを念頭に置いておいていただきたいと思います。

ASEAN6の国別加工食品市場推移

加工食品市場は、ASEAN6(インドネシア・マレーシア・フィリピン・シンガポール・タイ・ベトナム)各国においてそれぞれ伸びていますが、中でもマーケットが一番大きいのは、人口が最も多いインドネシアです。そして、今後注目すべきはベトナムで、2023年にはタイ、フィリピンを凌駕するのではないかと見られています。

ただし、インドネシア市場がASEANの中で最大だといっても、内訳は食品カテゴリーによって異なっています。すべてのカテゴリーにおいてインドネシアが一番というわけではありません。

主要カテゴリー別市場分析

ベビーフード
ASEANの人たちは「子どもに栄養のあるものを食べさせたい」という思いがとても強く、ベビーフードの市場が伸びています。ベビーフードの中で最も大きな市場は調製粉乳・調製液状乳で、インドネシア、ベトナムの伸びが大きいです。

・乳製品
調製粉乳・調製液状乳と類似の乳製品においては、タイやベトナムの伸びが大きいです。乳製品の伸びはコールドチェーンが整備されているかどうかと関わりがあります。コールドチェーンの整備が進んでいるタイやベトナムの伸びに比べて、コールドチェーン未整備のインドネシアの伸びは鈍いです。今後、各国でコールドチェーンが整備されていけば、さらにこのカテゴリーの市場は伸びていくと思われます。

・菓子類
菓子類はインドネシアの市場が一番大きいです。所得水準の上昇により、菓子市場は今後大きく飛躍する可能性があります。

・パン・焼き菓子類
パンも、インドネシアの市場が最大です。宗主国のオランダの影響があると言われており、インドネシアではパンがよく食べられています。また、パンを置いていないコンビニはありませんので、コンビニが現在急増しているベトナムでも、今後市場が伸びていくと予想されます。

・アイスクリーム・冷凍デザート類
アイスクリーム・冷凍デザートの市場は、他の加工食品と比べるとまだまだ小さいです。乳製品と同様、市場の拡大にはコールドチェーンの整備が関わってきます。既にコールドチェーンがほぼ整っているタイがさらに伸びていくと予想されます。また、コールドチェーンの整備をどのように進めていくかという問題はありますが、人口のわりに市場が小さかったインドネシアも今後伸びていくと考えられます。

・麺類
麺類(即席麺)の市場はインドネシアが圧倒的に大きいです。しかし、市場の伸びは現在頭打ち状態になっています。ASEANにおける即席麺の主流は袋麺ですが、今後、それをカップ麺に移行させ、市場を広げていけるかどうかが課題です。

・油脂類
油脂類は、ベトナムが最大の市場です。ASEANにおいても、現在、食品に対する健康志向が高まっており、オリーブ油、カノーラ油のウエイトが増えているのが特徴です。

ASEANの流通構造(モダントレードとトラディショナルトレード)

小売りの形態は、スーパー、コンビニ等の近代的な小売りのモダントレード(MT)と、市場(いちば)や個人経営の小売りのトラディショナルトレード(TT)の2種類に分けられます。

MTの割合が70%ぐらいになると先進国のレベルですが、タイは2017年において既に68%です。インドネシアは、食品加工市場の伸びは大きいですが、MTの割合は36.7%で、まだまだTTの割合が大きいです。ベトナムは13.1%と、数字だけ見ると小さいですが、5年前と比べると伸び率が大きく、現在コンビニが急増しており、今後もMTの割合が増えていくと見られています。

ASEAN5カ国の流通(タイ・ベトナム・マレーシア・インドネシア・フィリピン)

・タイ
タイは、MT比率が68%まで伸びてきている一方、かつて道路沿いに並んでいた屋台が大きく減少しています。屋台が減った分、コンビニの即食性の高いアイテムが現在どんどん増えている状況です。

・ベトナム
ベトナムは、かつては外資規制が一番厳しい国でしたが、現在は外資規制はほとんどなくなっています。2017年6月にセブン-イレブン・ジャパンがコンビニ1号店をホーチミンに出店しましたが、その後、地元勢のコンビニが急拡大し、現在苦戦を強いられています。今後もコンビニをはじめとするMTが増加していくのは必定で、2020年にはMT比が43~45%に達するという見方もあります。

・マレーシア
マレーシアは、かつては郊外型の大規模スーパーであるハイパーマーケットが小売市場を牽引していましたが、最近は、消費者がより便利さを求めており、近場のコンビニやミニマート、また、ガソリンスタンド併設型のコンビニが急成長しています。

・インドネシア
インドネシアはいまだに外資規制が厳しいです。特に小規模小売店、コンビニに関しては外資の参入は厳しく制限されていて、地元資本のミニマートが店舗網を拡大しています。

・フィリピン
フィリピンも外資規制が厳しく、小型店には外資の参入は認められていません。しかし、最近は、インドネシアのアルファマートが地元大手小売業と提携してミニスーパーを展開しており、MT比率の増加に加速がついています。

ASEANのロジスティクス最新事情

・世界銀行LPI(Logistics Performance Index)2018
「通関手続の効率性」「貿易・物流インフラ」「輸送サービスの質」「納期内到達度」「国際輸送便の確保」「貨物トレース」の6項目を5点満点で1,000社の物流業者が評価するLPIの2018年版が先週リリースされました。

これを見ると、例えばタイは45位から31位、ベトナムは64位から39位まで大きく順位を上げています。ASEAN各国は、新たな港や鉄道網を整備し、輸送の迅速化・効率化を進めている状況です。

・クロスボーダー輸送(陸送)のメリットと課題
カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム、タイ及び中国のメコン河流域において、大メコン圏(GMS:Greater Mekong Sub-Region)の名の下に道路の整備や橋の建設が進められてきました。これらの整備により、GMS域内の交通が大きく改善し、大幅にリードタイムを短縮することが可能になりました。

GMS内のクロスボーダー輸送には、このようなメリットがある一方、課題もあります。域内国間の経済格差が大きく、往復の荷量バランスが悪く、空の状態での回送が常態化し、その点でコストが高くなってしまっています。また、国境での通関手続が複雑で、国境で時間がかかってしまうという点も課題のひとつです。

・コールドチェーンの構築のポイント
前半で、「乳製品やアイスクリーム等の加工食品の市場を広げるには、コールドチェーンの整備が不可欠」という話をしました。現在、ASEAN各国の冷凍・冷蔵倉庫事業に日系企業が進出しつつありますが、コールドチェーンを構築するには、倉庫、トラック等のハードを整備すればいいという話ではありません。コールドチェーンにおいては、冷凍・冷蔵品を出発点から最終納品先まで、サプライチェーン全体に切れ目なく温度管理を徹底させることが重要です。ハードだけでなく、品質教育というソフト面も必須で、ここにおいて日系物流企業のノウハウが必要になってきます。これは日系物流企業にとっては大きなビジネスチャンスであると考えます。

ハラル対応について

イスラム人口は世界で約18億人、そのうち6割がアジアに居住しています。2015年の市場規模は100兆円で、そのうち60兆円が食品であり、食品業界にとってハラル市場は非常に魅力的な市場です。

タイでは、中東をはじめイスラム圏からの観光客を呼び込むために、タイ政府が食品関連企業のハラル認証取得を後押ししています。今や3,600社もの企業がハラル認証を取得しており、年間約600万人ものイスラム圏からの観光客を呼び込んでいます。

イスラム圏でない日本がハラル食品を作り、物流においてハラル対応するのは、手間もかかり大変ですが、できる限りハラル対応していくことが、今後の食品生産・食品物流において必要だと考えます。

講師紹介

SCMソリューションデザイン

代表
魚住 和宏(うおずみ かずひろ)氏

SCMソリューションデザイン

代表
魚住 和宏(うおずみ かずひろ)氏

1957年北海道生まれ。1981年筑波大学第二学群比較文化学類卒、同年味の素株式会社入社。米国駐在、インドネシア駐在を経て、グループ調達センター グローバル戦略グループ長、物流企画部専任部長、味の素物流(株)理事等を歴任。
社歴後半は、主に味の素(株)のASEAN及び南米の海外法人のサプライシェーンマネジメント(SCM)改善に従事。2017年3月末に味の素(株)・味の素物流(株)を退職、SCMソリューションデザインを設立、SCMのコンサルタントとして活動中。

 現在は(株)シーアールイー他企業数社の顧問・アドバイザーに従事する傍ら、神奈川大学経済学部非常勤講師(「国際商取引論」「貿易コミュニケーション」)、東京海洋大学海洋工学部非常勤講師(「通関実務論」)、横浜商科大学商学部兼任講師(グローバルビジネス論)、流通経済大学流通情報学部客員講師(「食品物流」)等を務め、また日本ロジスティクスシステム協会(JILS)、日本国際フレイトフォワダーズ協会(JIFFA)等業界団体が主催するイベントでの講演、セミナーの講師等も積極的に引き受けている。

専門分野は「ASEANの食品流通」、「グローバルコミュニケーション」等

募集要項

イベント名 第47回CREフォーラム|『 ASEANの加工食品市場とロジスティクス – 最新事情 』
日時 2018年 8月17日(金) 14:30開場 15:00開始 16:40終了
会場 虎ノ門ツインビルディング西棟地下1階
東京都港区虎ノ門2-10-1
参加対象者 荷主・物流企業 様
参加費/定員 無料/70名限定 (定員数を超えた場合、申し込み期限前でも終了する場合があります)

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティング室
担当:
山賀幸恵 (ヤマガ)
メール:
leasing_mail@cre-jpn.com
電話:
03-5572-6604

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