CREフォーラム レポート
SCMソリューションデザイン

(レポート)改めて求められる「グローバルサプライチェーンの強靭化」

(レポート)改めて求められる「グローバルサプライチェーンの強靭化」

米中の対立や新型コロナウイルスの流行、ロシアによるウクライナ侵攻、海上・航空輸送の混乱、工場閉鎖など、サプライチェーンの維持が困難な時代が到来しています。

企業の努力だけではどうにもならない状況も増えていますが、今改めて、サプライチェーンを有事に強く、強靭なものに変えていかなければなりません。

混沌とする世界の政治・経済

世界は今、さまざまな要因により混迷する時代へと突入しています。

1. グローバリズムの変質

米国主導の世界はすでに終焉を迎え、世界は3極に分かれてブロック化しています。

【西側陣営】
米、英、EU、日、豪、韓、カナダ、スイス、EU域外北欧諸国。GDPでは世界の過半を占めるが、人口では多数派ではなく、影響力に陰りが出ている

【中立パワー群】
インド、ブラジル、 南アフリカ、サウジ、 トルコ、インドネシアなど。欧米と中露を両天秤にかけ、国益を追求。秩序を左右する存在に。ただ、結束はしていない

【中露陣営】
中国、ロシア、イラン 北朝鮮、キューバ ミャンマー、ベラルーシなど。GDP、人口ともに圧倒的に中国が主役。中国の経済支援、イランの軍事支援でロシアの敗北はない?

日本が重視すべきASEAN諸国は「中立パワー群」に属しています。

2. コロナ感染リスク

タイやベトナムなどASEAN諸国で感染が拡大していますが、世界的に見れば感染は収束傾向にはあります。行動制限を課す国は今はほとんどなく、ウィズコロナ時代に突入しています。しかし中国はいまだにゼロコロナ政策を行っており、最大のリスク要因になっています。

3. 国際貨物運賃相場

2020年代後半から海上輸送、航空輸送ともに運賃が暴騰。特にアメリカ向けで運賃上昇が著しく、2021年末には、横浜からニューヨークへの40フィートコンテナの海上輸送費が1万5000ドルを突破。また香港からシカゴへの航空貨物運賃が1kgあたり14.87ドルに達しました。

さらには、「高額な運賃を受け入れても予約自体がなかなか取れない」という状況が発生しています。輸送費の上昇はサプライチェーンにとって最大のリスク要因であり、この状況が続くと今後、輸送需要は大幅に減っていくでしょう。

4. 貿易総額 vs GDP

貿易総額とGDPの伸び率を見てみると、1990年から2010年までは、貿易総額の方がGDPよりも伸び率が高かったのですが、2010年から2021年は、逆に貿易総額の伸びはGDPよりも下回っています。これは、この10年でスロートレードが常態化していることを意味しています。

5. 世界 対外直接投資

対外直接投資も2015年以降、低調になっています。2018年はマイナスになり、投資よりも撤退の方が多い結果となりました。近年は米中貿易戦争の影響で、中国からアメリカへの投資が大きく減っており、さらに右肩下がりになっています。

トータルで見てみると、実はコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻の前から、企業の内向き志向は始まっていたことがわかります。そして今後も対ロシアや中国への経済制裁が続く限り、対外投資の低調は続くでしょう。サプライチェーンを構築するうえでは、これらのカントリーリスクを考慮しなければなりません。

日本企業のサプライチェーンの現状と課題

このような混迷する世界情勢の中で、日本企業はどのような状況下にあるのでしょうか。JETRO調べによると、約6割の日本企業が「サプライチェーンに関して見直す方針」だといいます。

中でも注目したいのは「調達の見直し」で、「調達先の切り替え」や「複数調達化」が増えています。これは、意外にも多くの企業がシングルソースに頼っていることを意味します。

次に「原材料の供給」について見てみると、半導体や電子部品の不足感が強く、部材調達市場では業界横断的な「囲い込み」「奪い合い」が発生しています。このような状況下では、往々にして日本企業は「買い負け」することが多く、対処が必要です。

同じくJETRO調べによると、サプライチェーンを見直す最大理由は「輸送の混乱」だそうです。「生産しても船のスペースが確保できず出荷できない」「海上運賃高騰により調達先の国内回帰が必要」と回答する企業が多く、対応できていないケースが目立ちます。

グローバルサプライチェーン強靭化への対策

では具体的に、グローバルサプライチェーンを強靭化するためには、どのような対策を取ればよいでしょうか。大きくは「国際輸送安定化」「生産拠点と調達先のリスク分散」「原材料調達リスク管理」「グローバルSCM・ロジスティクス人材の育成」の4つの施策が考えられます。

国際輸送安定化のための方策

1. グローバルフォワダーのパートナー業者としての活用

各社ごとに船会社と直接やりとりするのではなく、各方面ごとに1~2社の「パートナー業者」を選定します。発注量が増えることで、キャリアやフォワダーにとってより優先順位の高い荷主になることができます。

「パートナー業者」は、海上輸送から航空輸送への変更対応をよりスムーズに行うため、海上輸送・航空輸送の双方を取り扱っており、世界中にネットワークを持つグローバルフォワダーとします。また海上輸送・航空輸送ともに「ドアトゥドア一貫輸送」を基本とします。

2. 定期・定量輸送へのシフト

発注量をできるだけ標準化するために、サプライヤーや納入先と連携し、「出たとこ勝負」から「定期・定量輸送」にシフトします。

フォワダーと1カ月先、2カ月先の大まかな予定を共有し、2週間前確定などの運用を行うことで安定したスペース確保につなげます。現地販社と生産法人等のグループ間取引では、現地販社発注の「Pull型」から、生産法人が現地販社の在庫バランスを確認した上での「Push型」供給にシフトします。

3. 「細切れ委託」から「一気通貫委託」へ

日系企業は数多くの業者を使いがちで、これにより海上輸送は業者当たりの数量が減り、キャリアにとって魅力のない荷主になってしまっています。そこで、レーンごとではなく方面ごとにグローバルフォワダー1社に任せ、彼らの「業務進捗・貨物動態管理システム」を活用してもらい、業務効率化を図ります。

4. パートナーとのリスクシナリオ・対策の共有

グローバルフォワダーをパートナーとして起用すれば、自然災害や都市のロックダウンが発生した際に輸送手段を変更するなど、柔軟な対応を取ることができます。リスクシナリオを共有することで、いざという時に慌てずに対処することが可能で、そのためにも普段からのコミュニケーションが重要です。

生産拠点と調達先のリスク分散

1. 主力商品の複数生産拠点化推進

可能な限りSKU単位で2拠点生産できるように見直しを図ります。

2. 地産地消型・地産エリア消費型サプライチェーンの追求

輸出入はできるだけ避け、輸出入を行う場合は友好国を原則とします。

3. 調達先リスク管理の徹底

「サプライヤーリスク評価」の定期的実施と、その結果に基づく調達リスク低減のための調達戦略を推進します。原則は複数サプライヤーからの調達を徹底し、特注品を避けて汎用品を使用することをR&D部門、事業部門に徹底します。またESG・SDGs観点でリスク評価を行い、原材料・中間品在庫の管理徹底と在庫適正化を図ります。

4. サプライチェーン見直しの具体例

TDKラムダ……マレーシア・中国で生産する電源部品を国内でも生産を開始。特注品を除く4000品目のほとんどを2拠点生産できるように見直しを図っています。

日本航空電子……日本のみで生産していたスマホ部品の一部を台湾でも生産開始。中長期的な国内外での安定供給を目指しています。

セイコーエプソン……インドネシアで生産していたプリンターのインクタンクをタイでも生産可能にしています。

原材料調達リスク管理手法

1. 調達管理の基本

原材料・包材等の「直接材」だけでも売上高の30%から50%を占めるため、「原材料調達」は重要なポイントです。

またBCPの観点から「安定供給」も同様に重要。常に需給動向を注視し、特に供給元が限定されている品目は「ハイリスクアイテム」として管理します。業務としては「サプライヤー管理」、特に既存サプライヤーの評価・監査、新規サプライヤー探索が重要です。

2. 原材料調達リスク評価のポイント

品目別原材料調達リスク評価手順の一例を記します。

・品目別 調達情報整理
└調達実績(調達額、品質およびサービス、トラブル)、代替品 発注先別割合(シェア)
└サプライチェーン上の規制、収穫時期(天然物の場合)の制約
└単価履歴、推定コスト構造、製造フロー
└マーケット情報の入手方法
└これまでの調達改善取組(サプライヤー集約、コストダウン施策等)
└市場環境、サプライヤー動向
└サプライヤー調査票、サプライヤー監査報告書

・事業影響評価
└年間調達額が大きい原材料
└売上利益貢献度の高い商品に使用されている原材料
└重要顧客の重要製品向けに使用されている原材料

3. 調達リスク低減を踏まえた調達戦略作成

上記の調達リスクを踏まえたうえで、以下の調達戦略を実施しましょう。

・サプライヤーとの関係強化……サプライヤー監査(実地監査)を定期実施、サプライヤー数の適正化、新規サプライヤーの探索・育成

・開発部門・工場との連携……原材料仕様の見直し、代替原材料の探索と導入、省資源技術の導入、原材料SKU数の削、特注原料の削減

・新しい調達スキームの導入……グループ共同調達の拡大、、他社との共同調達の検討、先物取引・為替予約などリスクヘッジ手段の適切な活用

・ESG・SDGsへの貢献……より環境負荷の低い原材料導入、ESG・SDGs視点を入れたサプライヤー監査の実施、発注権限規定・購買倫理規定などの整備

グローバルSCM・ロジスティクス人材の育成方法

多くの企業は「グローバルでSCM改善をやろうとしても、そんな人材が社内にいない」と言います。その状況を打破するために以下の方策を取りましょう。

1. SCM統括部門を設立する

生販バランス管理、原材料調達、ロジスティクス管理の3機能を束ねるSCM統括部を設立します。この3部門で2~3年ごとにローテーションを行い、SCMの専門職としてキャリア形成します。

2. 日本ロジスティクスシステム協会(JILS)主催セミナーを活用する

実務経験が豊富な一流の講師陣の実例や最新の情報を交えた講義が行われており、他企業や異業種人材と人脈を構築できます。企業内の研修プログラムに組み込んでいる企業も多く、特に「ロジスティクス基礎講座」「物流技術管理士資格認定講座」がおすすめです。

3. 製造業における、ロジスティクスを本格的に学んだ学生を積極採用する
「東京海洋大学 海洋工学部 流通情報工学科」と「神戸大学 海事科学部グローバル輸送科学科ロジスティクスコース」は日本の大学で数少ない「ロジスティクス」を専門に学ぶ学科で、優秀な学生がそろっています。

皆様へのメッセージ

「軍事衝突」「経済制裁」「疫病の大流行」「大規模自然災害」 「国際物流網の寸断」などのリスクは今後も発生し、混迷する時代は続きます。

今こそ、日本企業はリスクに強い強靭なサプライチェーンの構築に取り組むべきです。キーワードは「分散」と「地産地消」。調達先と生産拠点を分散させ、地産地消型の生産・販売体制へとシフトしていく必要があります。

SCMソリューションデザイン 代表 魚住 和宏 氏

講師紹介

SCMソリューションデザイン
代表 魚住 和宏 氏

SCMソリューションデザイン
代表 魚住 和宏 氏

1981年味の素株式会社入社。米国駐在、インドネシア駐在を経て、グループ調達センター グローバル戦略グループ長、物流企画部専任部長、味の素物流(株)理事等を歴任。
2017年3月末に味の素(株)・味の素物流(株)を退職、SCMソリューションデザインを設立、SCMのコンサルタントとして活動中。

現在、(株)シーアールイー他企業数社の顧問、アドバイザー等を務める傍ら神奈川大学、東京海洋大学、横浜商科大学等で講師を務めている。専門領域は「グローバルサプライマネジメント論」、「ASEANの経済及びロジスティクス」等。
著書に『ASEANの流通と貿易』共著 成山堂書店 2016年、『アジアのグローバル経済とビジネス』共著 文眞堂 2021年等がある。

募集要項

日時 2022年8月24日(水) 16:00~17:00
会場 オンライン受講(Zoom)
参加対象者 荷主・物流企業 様
参加費/定員 参加費無料 / 定員100名

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティングチーム
担当:
立原(タチハラ)
メール:
leasing_mail@cre-jpn.com
電話:
03-5570-8048

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