CREフォーラム レポート

(レポート)CREフォーラム第100回記念シンポジウム「ロジスティクス分野での女性の活躍について」

(レポート)CREフォーラム第100回記念シンポジウム「ロジスティクス分野での女性の活躍について」

【基調講演】ロジスティクス分野/物流業における女性の活躍推進に向けて

株式会社NX総合研究所 リサーチ&コンサルティング ユニット2 主任研究員
大原 みれい 氏


まず「女性活躍」と聞いて、どんなことを思い浮かべるでしょうか。

「女性活躍推進法」によると、「働く場面で活躍したいという希望を持つすべての女性が、その個性と能力を十分に発揮できる社会を実現する」ために、女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表や、女性の職業生活における活躍に関する情報の公表が事業主(国や地方公共団体、民間企業等)に義務付けられた、とあります。

「女性活躍」というと、「女性管理職を増やすこと」や「女性社員が管理職になること」を思い浮かべがちですが、それだけではありません。目指すべきは「ダイバーシティ経営」で、女性だけではなく、すべての社員が年齢や性別、国籍などにかかわらず、生き生きと働くことができる環境づくりが大切です。

ロジスティクス分野に関していうと、管理的立場にある女性の割合が増えることで、企業の意思決定プロセスに多様な意見を取り入れられるようになり、経営基盤の強化へとつながります。

ですが、ロジスティクス分野における女性活躍の現状はまだまだで、女性管理職(課長相当職以上)の割合は、製造業で約7.4%、運輸・倉庫業で約6.9%に留まっています。

ただ、そもそも管理職を望む女性社員自体が少なく、男性の約60%に昇進意欲があるのに対し、女性は約25%に留まっています。

管理職への昇進を望まない理由としては、女性社員からの回答では、「責任が増えて精神的な負担になる」が81.6%、「残業や急な対応等で労働時間が増える」が71.4%、「自分の能力に自信がない」が59.2%、「仕事と家庭の両立が困難になる」が51%となっています。

ロジスティクス分野での女性管理職を増やすために

ロジスティクス分野での女性管理職を増やすために、以下の5つのことを考える必要があります。

①働き方改革+休み方改革
・長時間労働を改善する
・(特に管理職の)業務負荷を軽減する、魅力を上げる、魅力を発信する
・現在の管理職が「しっかり働いてしっかり休む、人生を楽しむ」姿を見せる

②家庭内における家庭的責任の分担(家事、育児、介護など)
・固定的性別役割分担意識、賃金格差などの課題もあるが「分担」「負荷軽減」が必要
・「配偶者のキャリアも大切に」という観点をもつ

③上司によるサポート体制の強化、社内の意識改革
・【前提】経営戦略での位置づけなどトップダウンによる推進、社内の意識改革
・アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)や働き手の意識変化の理解
・上司の意識改革研修、女性部下育成研修、上司を巻き込んだ女性社員キャリア研修

④「成長の機会」の提供
・ライフイベント前:早期育成・意識づけ
出張、転勤、現場経験など、ハードだがやりがいのある、成長につながる「ストレッチ」を提供する(成功体験、仕事の醍醐味)、年代別/階層別のキャリアデザイン研修(次期管理職候補者、管理職など)、メンター制度、スポンサーシップ制度などを取り入れる

・ライフイベント中・後:キャリア継続
在宅勤務制度などの支援による早期復職を実現し、マミートラック(仕事と子育ての両立はできるものの、昇進・昇格とは縁遠いキャリアコースのこと)に追いやらない、専門職でモチベーションを維持、早期フルタイム化(それには社内全体におけるノー残業の定着が重要)

・「セカンドチャンス」を与える
退職者再雇用制度/ジョブリターン制度、配偶者転勤同行制度、雇用形態転換(パートなど非正規雇用から正規雇用への登用)、制約社員や時短社員にも成長の機会を提供する

⑤女性社員本人の意識改革・ロールモデル
・女性本人の意識改革(モチベーションアップなど)
マインド醸成や意識変革で、女性自身が抱く能力の制限(アンコンシャス・バイアスやインポスター症候群など)を取り払う

・多様なロールモデルの創出
ロールモデルが少ない(そもそも女性が少ない)場合は、まずは女性社員の定着を図る取組みを行う、ロールモデルにも多様性が必要、社内にいない場合は社外を参考にする

・ロールモデルの周知・活用
社内報やウェブサイトの活用(現場職が多い場合は携帯アプリなども)、社内講演会、研修、座談会(女性管理者の存在と定着に肯定的な関連性がある)の実施

女性活躍を進める効果

2014年の愛知県の調査では、過去3年間で売上高や経常利益が5%以上増えた企業を見たところ、この5年間に女性管理職数が「5%増加した」企業の方が、「大きな変化がない/減少した」企業よりも割合が高かったそうです。

「女性管理職の登用に積極的な企業は業績が向上する傾向にある」ということができ、このことからも、女性活躍は経営戦略であるといえます。

出典)愛知県、「企業経営に女性の力を~女性の活躍によるメリットと取組事例~」(2014.12)

【ショートプレゼンテーション】管理職諸氏へのメッセージ

SCMソリューションデザイン 代表
魚住 和宏 氏


とある企業経営者がこうつぶやきました。

「女性の戦力化の重要さは理解できるし、努力しているけど、管理職への登用までは考えなくていいんじゃないの?」

この考えは根本的に間違っています。まず、中年男性ばかりで判断したところで良い判断はできません。そして女性の所得が向上すれば、男性以上に消費に向かい、経済へのプラスが大きくなります。またそもそも、能力を正当に評価すれば女性の登用は進むはずです。能力を正当に評価することを阻む企業文化が、日本企業にあるのではないでしょうか。

実は、女性の就業者に占める大卒比率は52.1%と高く、現在は男性を上回っています。女性の高学歴化と社会進出は進んでいるのです。

しかし女性の管理職比率はわずか13.5%で、世界188カ国中175位という体たらくです。日本には、分厚い「ガラスの天井」があるのです。

企業経営者や管理職の方々は、女性の能力や成果を正当に評価する文化を醸成し、産休や育休、育短がキャリア形成に不利にならない人事システムを構築してください。そうすれば、「管理職になって、部下を使いながらより大きな権限と責任を持って仕事をしたい」という女性は増えるはずです。

ロジスティクス分野でいうと、原材料調達や生販バランス管理、物流管理など、製造や販売など他部門との「調整力」、そして地道に業務改善に取り組む「根気」が重要となる職種、また意外に物流業、特にフォワダーの営業職などが気配りのきく女性に向いていると思います。

ロジスティクス分野で活躍する女性を増やすには、調達、生販管理、物流管理の3機能を備えた「ロジスティクス統括部」をつくり、存在感のある組織にすることとロジスティクスを「専門職」として認知することがまず重要です。そして管理職諸氏は彼女たちの業務内容をしっかり知ること、キャリアプランを一緒に考えてモチベートすること、そして何より、管理職自身が誠実に仕事をすることが大事です。彼女たちは上司を良く見ていて、誠実に仕事をしているかどうかをシビアに観察しています。

【プレゼンテーション】ロジスティクス分野で活躍する女性の皆様へ ~しなやかに変化を起こそう~

郵船ロジスティクス株式会社 執行役員 東アジア地域総括
永溝 香織 氏


郵船ロジスティクスは国際総合物流企業です。従業員数は2万5562人。日本、アメリカ、ヨーロッパ、東アジア、南アジア・オセアニアで営業しており、連結営業収益は約8460億円です。

私は、1992年に郵船航空サービス(現:郵船ロジスティクス)に入社し、現在は執行役員、東アジア地域総括を担当しています。当社を選んだ理由は、当時では珍しい「男女同一賃金だった」こと、英語が使えて海外とつながれること、通関士などの国家資格を取得できること、手に職つけられること、などでした。

ですが入社してみると、当時の物流業界は男社会でした。当時はよく現場に赴き、周りの人にさまざまなことを質問しました。そしてグローバルに貨物を動かすという仕事の面白さ、責任の重さを知りました。

私のキャリア形成において、大きな意味を持つのはマレーシアへの海外長期研修でした。

「チャンスがあれば挑戦してみる」「理不尽な人や物事に囚われない」「サポーターを探す、増やす」「与えられるのを待つのではなく、自分で動く」など仕事のスタンスを学び、社内の評価、認知が上がりました。

次に大きかったのは、グローバルキーアカウント(外資顧客)マネージャーへの就任です。これは海外の顧客や外資系グルーバル企業向けの営業責任者で、ここでは「次のステップに挑戦する重要さ」「自分で勝手に『できない』と決めつけない」「苦労や犠牲ではなく、自分自身のキャリア、成長への投資と考える」などの視点を学び、多様性を理解し、自己肯定と自信を持ちました。

その後、グローバル本社の部長や現職など、リーダー業務を担当しています。「女性に営業ができるの?」や「男性部下はついてきてくれる?」などと思われることもありますが、重要なのはジェンダーではなく、「人間力」と「結果」です。

仕事に真摯に向き合い、チャンスを逃がさず挑戦し、差別や理不尽などの問題があれば自ら行動する。しかし肩肘を張らず、しなやかに変化を起こしていく。ロジスティクス分野ではたらく女性の方々には、このことを意識していただけたらと思います。

【プレゼンテーション】私のキャリアを振り返って

味の素株式会社 食品事業本部 物流企画部 部長
森 正子 氏


味の素は、調味料・食品、ヘルスケア食品、冷凍食品などを開発・生産・販売しています。従業員数は3万4615人。アジアやアメリカ、ヨーロッパなどに117の工場があり、売上高は約1兆3591億円です。

私は、1993年に味の素に入社し、それ以来、物流関係業務に従事しています。現在は、食品事業本部 物流企画部 部長です。

私自身のキャリアを振り返ってみると、ずっと物流部門ではたらき続けてきましたが、受注・需給・スタッフ・システム・物流費担当など業務内容はさまざまなことにチャレンジさせてもらえました。自分としては、与えられた仕事をただ、誠実にこなしてきました。それを上司が見てくれていたのだと思います。

私が、業務をするうえで意識してきたことは以下の8つです。どれも当たり前のことですが、大事なことだと思います。

①楽しく仕事をする
②相手の立場に立って、気づかう(わかるようにお伝えし、相手が動きやすいようにする)
③仕事内容に優先順位をつける(やらなくてもいい仕事もある。ほかの人と違って構わない。迷ったら確認する)
④実務仕事は大切(地味で褒められない仕事が、一番大事)
⑤感謝の心を忘れない
⑥いただいたチャンスは活かす
⑦思いたったときにやる
⑧無理をしすぎない(無理をすると続かない)

味の素の女性登用状況

少し話は変わりますが、当社の女性登用状況をお伝えします。

国内外の女性の従業員比率は31%、そのうち基幹職は27%です。ですが、国内で見ると、女性の従業員比率は29%と同程度ですが、基幹職はわずか12%に留まっています。

女性管理職の割合は13%です。加工食品会社としては高いですが、「女性比率が高い」といわれている他業種の企業と比べると、まだまだ低い状況です。

ただ、私自身の意見としては、「女性が」や「女性を」というよりは、「自然な状態で女性も男性もいる」ことがあるべき姿だと思います。それが当たり前となるまでは、まだ少し時間がかかると思いますが。

【パネルディスカッション】ロジスティクス分野における女性管理職を増やすには

大原氏:永溝さんと森さんのおふたりは、女性の昇進やキャリアアップについてどう思いますか。またご自身はその機会をどう得てきたのでしょうか。

株式会社NX総合研究所 大原みれい氏

永溝氏:今は女性にも昇進の機会があり、機会は均等だと思います。ただ会社の中で、なんとなく「これは男性が対象だよね」というアンコンシャス・バイアスが発生しているケースが多いです。この思い込みを断ち切り、自分から動くことが大切です。

郵船ロジスティクス株式会社 永溝香織氏

森氏:私は上司から「今がチャンスだよ。あなたが女性初の管理職になって、後輩たちのロールモデルになってほしい」とはっきり言ってもらい、チャレンジする機会を得ました。

味の素株式会社 森正子氏

大原氏:おふたりは男性社会の中で、ジェンダーギャップを感じたことはありましたか? また、どのように乗り越えてきたのでしょうか。

森氏:私は兄がふたりいる男家庭で育ったので、男社会に慣れている部分があり、あまりジェンダーギャップは感じませんでした。

永溝氏:普段、ジェンダーを意識して仕事はしていませんが、実際はありました。女性初の営業課長になったときも、「もし失敗したら、もう今後、女性が営業課長になることはないぞ」とプレッシャーをかけられたこともあります。今の時代は、このような発言は完全にアウトですから、ほとんど聞くことはありません。ただほんの一部、そういう人は残っています。彼らから何かを言われ、繊細な人だとショックを受けることがあるかもしれませんが、気にしないでください。精神衛生上良くないし、関わらないことをお勧めします。私はそうやって乗り越えてきました。

大原氏:管理職になって感じたことや魅力を教えてください。

永溝氏:私の場合、「部下を持つこと」が良い意味でプレッシャーになりました。「いかにチームのみんなに気持ちよく仕事をしてもらうかが、管理職の役割だな」と感じたのを覚えています。管理職になると自分で決められることの範囲が広がり、それに伴って責任も大きくなります。自分がチャレンジしたいことを、会社の力を借りて実現できるのが大きな魅力ですね。

森氏:私は、自分のチームができ、「仲間が増える」ことにすごく楽しさを感じます。仲間が増えていくと、さまざまな人も増え、ときには大変なこともありますが、その分成果も増えるので、やりがいがありますね。

大原氏:魚住さんは会社員時代、女性社員にどのようにチャンスを与えてきたのでしょうか。また女性に管理職を打診した際、「自信がない」や「家庭との両立が不安」などの理由で断られたことはありますか。

魚住氏:私が当時、女性社員に管理職を打診した理由は、単純に「そろそろ昇格適齢年齢だな」と感じたことと、あと会社内に「女性管理職を増やしたい」という空気感があり、「今ならイケるな」と感じたことが大きかったですね。打診した際は、その方に若干のためらいがありましたが、森さんが言われたように、私も彼女に「女性管理職のロールモデルになってほしい」と後押しし、引き受けてもらいました。

SCMソリューションデザイン 魚住和宏氏

魚住氏:管理職になると、年上の男性が部下になることもあると思いますが、心がけていることを教えてください。

森氏:とにかく会話することですね。特に、問題があるかもしれない人には積極的に近づき、コミュニケーションを取っています。一見、何がしたいのかわからない人でも、ちゃんと話を聞くことで理解できるようになります。理解したうえでその人のやりたいことを後押しすると、ものすごいパワーを発揮してくれることが多いと思います。

募集要項

イベント名 2/16 ハイブリッド開催:CREフォーラム 第100回記念シンポジウム『ロジスティクス分野での女性の活躍について』
日時 2024年2月16日(金) 13:30受付開始 14:00開始 17:00終了 ※日本時間
会場 ●リアル会場
TKP新橋カンファレンスセンター
〒100-0011 東京都千代田区内幸町1-3-1 幸ビルディング13F

●オンライン
Zoomウェビナー
参加対象者 物流企業様、女性登用を検討中の企業様
参加費/定員 リアル・オンラインともに無料/リアル:50名限定、オンライン:100名限定 ※先着順

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティンググループ
担当:
浅沼(アサヌマ)
メール:
leasing_mail@cre-jpn.com
電話:
03-5570-8048

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