CREフォーラム レポート
株式会社NX総合研究所

(レポート)日本の物流を取り巻く課題と将来への指針~「物流の2024年問題」を越えてグローバルな視点から~

(レポート)日本の物流を取り巻く課題と将来への指針~「物流の2024年問題」を越えてグローバルな視点から~

株式会社NX総合研究所
リサーチフェロー 田阪 幹雄 氏

日本の物流の直視すべき実情

これまで、日本の経済は緩やかながら成長してきました。しかし逆に、日本の貨物量は、実は緩やかに減少していることをご存じでしょうか。

「物流の22024年問題」について語られるときによく、「貨物量が増えているので、ドライバーの負担が増えている」といわれますが、実はこれは正しくありません。貨物量は減っているのです。

また、「ECの爆発的拡大により増加している」と思われている宅配便も、実は思ったほどは増えていません。

ちなみに、宅配便は「特別積合わせ貨物」の約3割程度に相当しますが、この「特別積合わせ貨物」が日本の総貨物の中で占める割合はわずか1.6%です。宅配便は、日本の物流における代表的存在ではないのです。

これらを踏まえたうえで、ドライバーの拘束時間を見てみましょう。

国土交通省がトラック輸送状況の実態を調査したところ、ドライバーの半数近くが「手待ち時間がある」と回答しています。彼らの拘束時間は約13時間半ですが、運転する時間はその半分の6時間40分ほどしかありません。つまり、拘束時間の半分程度しかお金に変えられておらず、手荷役作業などはタダ働きしているのです。

トラック運送事業に代表される一般貨物運送事業は、人件費比率が極めて高い労働集約産業です。それなのにトラック運送事業者の従業員の給与はいまだ低いのが現状で、規模の小さい事業者ほど利益率が低くなっています。

そのような状況にも関わらず、2024年問題に関する認識を調査すると、荷主企業は「貨物量が減るのに、運賃が上がる」と考えており、特に中小荷主企業においては、半数以上が2024年問題に対してまともに取り組んでいないのが現状です。

一方でトラック運送業界は、ドライバーの高齢化と次世代の採用・育成に苦しんでいます。平均年齢は40代後半で、「2030年には、今よりも30%ほど貨物が運べなくなる」といわれています。

トラックドライバーの供給不足を鑑みると、モーダルシフトは必須の状況です。ただ、鉄道や内航海運が得意とする地域間流動は、実は思ったほど大きくないため、構造を変えてシェアを上げる必要があります。

日本の物流の生産性、品質および国際的評価

日本の物流は「労働生産性が低い」といわれています。日米の運輸業等の労働生産性比較(1時間あたりの付加価値)を見てみると、日本はアメリカの約半分ほどしかありません。

その理由は、日本型物流が「オートクチュール型」「すり合わせ型」なのに対し、欧米型物流は「プレタポルテ型」「プラットフォーム型」であるため、といわれています。欧米では物流を標準化することで生産性を上げているのです。

物流の生産性と標準化

それでは、先進7カ国中、最も労働生産性が高いアメリカの事例を見てみましょう。

そもそも日本は、荷台と運転席が一体となったトラック(単車)でモノを運んでいます。

一方でアメリカは、荷台とトラクターを分離できるトレーラーでモノを運んでいます。これによりコンテナの中身を出し入れすることなく、陸上・海上輸送が可能となります。荷主戸前でDrop & Pullをするだけでいいので、ドライバーには荷役・手待ちの時間がありません。

「送り状」「パレット」「バーコード」なども標準化されており、コンテナ輸送は北米を中心に合理化・標準化が進み、いまや世界標準になっています。

このように述べると、「島国の日本では無理だ」と言う方がいますが、実はトレーラーシステムは日本よりも狭いイギリスでも採用されています。また近年は中国を中心にアジア諸国でもトレーラーの時代に入ってきています。

ロジスティクスにおけるイノベーションの変遷

産業革命とともに、ロジスティクスもイノベーションを起こしてきました。現代はLogistics 4.0の時代で、倉庫ロボットや自動運転の普及による省人化が進み、物流の装置産業化が起きています。

そして今後は、下記のような「物流業界の近未来」が予想されています。

・製造業を中心に、コンピュータの処理能力向上/通信技術の発展/センサー技術の高度化による大量データの取得・分析が容易になりつつある

・これらの技術により無人化/自動化の進展、そして段階を踏みながらAIの導入が進む。ただ、ロジスティクス分野でAIが導入されるものはほとんどなく、立ち遅れている(データ取得もままならない状況、また何を取ればよいのかわからない)

・今後5年以内にAIを用いた無人化/自動化システムが多く市場に登場する

・自動搬送(自動倉庫含む)→自動ハンドリング(デバンニングやピッキング)→自動運転といった流れで物流の自動化が進んでいく。同時並行で予測/計画精度(フォーキャスト・スケジューリングなど)も向上する

・ただし、取得データ、取得技術、分析技術の標準型ができると加速度的に導入が進むことが想定される。ヨーロッパの大手メーカーの多くも今後5年間でIoTを具現化するシステムができると予測している

・世界のロジスティクス企業の中から、製造業のIoTにかかわる技術のトレンドを常に捉え、知見を蓄積し、即時対応ができ、業界をリードできる体制(技術開発含む)を整えた企業が生き残る
 

そしてポストコロナ時代においては、B2B物流の大量輸送化のトレンドが顕在化します。

日本では、「狭い国土の中で、きめ細かく、少量の貨物を高頻度で運ぶ」ことが良しとされてきました。しかし今後はそうではなく、「鉄道輸送や船舶輸送にモーダルシフトするために、大量輸送化のトレンドに乗っていく」必要があります。

「物流の2024年問題」を越えて、日本の物流が乗り越えなければならない課題

「物流の2024年問題」があろうが、なかろうが、日本の物流は変わっていかなければいけません。

国土交通省など官側も、トレーラーの普及に向けて重量制限の緩和や、コンテナ輸送における許可基準の見直しなど、さまざまな取り組みを行っています。

その中にはドライバーの時間外労働の上限規制や、時間外労働の割増賃金率の引き上げなどが含まれており、これらが「物流の2024年問題」といわれています。

この「物流の2024年問題」を解決するために、手待ち時間の改善や手荷役・付帯作業の改善、輸送システムの見直し、運賃の適正化などが検討され、対応されていますが、根本的には、日本の物流のあり方を欧米に近づけていく必要があります。

そのためにも、たとえば仕事への考え方は、限りなくミスを少なくする「フールプルーフ」だけでなく、ミスが起きることを前提に対応策を準備する「フェイルセーフ」もあると認識し、取り入れていくことが必要です。

ほかにも、欧米に比べて著しく低い「人材への能力開発費」(企業内外の研修費用等)や、OJT(特に女性)の実施率を高めていく必要があるでしょう。

日本の物流業界が目指すべき進路をまとめたので、ご確認ください。

①他産業と同等以上の労働条件で、特に高度な知見や技術を持つ専門家、女性、高齢者の選択肢にあがる魅力ある業種への改善・転換
先端技術の導入、安全を軸とした「コンプライアンス」の徹底、長時間労働・低賃金からの脱却、労働条件改善に必要な原資の確保(適正運賃の収受)、荷主への積極的な提案など

②生産性向上のための仕組みづくり
輸送のシステム化・標準化(共同配送、モーダルシフト、中継輸送、トレーラ化)、トレーラーやコンテナなどの輸送容器、パレットなどユニットロードデバイスの標準化、荷役作業の標準化(一貫パレチゼーション、機械化、ロボット化)、物流の取引条件の見直し(手待ち料・荷役料の収受)、データ形式・コード体系などの標準化

③高度な知見や技術を持つ専門家を積極的に採用する体制への転換
経営者のものの見方・考え方の転換、採用形態・給与形態・教育体制などの見直し

④物流事業に対する正しい理解に向けたPRやイメージアップ方策の実施
社会全体にこの仕事の正しく理解してもらうためのPR

⑤労働力の安定的確保(労働力の減少に追いつかないAI・IoTなどによる省人化)
 

また、日本で標準化を進めるにあたっては、以下の課題が考えられます。

①トレーラー、コンテナなどの輸送容器、パレットなどユニットロードデバイスの標準化
行政が担うべき中長期的課題は、都市計画による工場・物流施設立地のコントロール(市街化区域における用途地域の見直しも
含む)で、大型トレーラーやコンテナによる貨物輸送をより容易にできるようにする。
民間・業界団体が担うべき当面の課題は、運送事業者・架装メーカーごとに微妙に異なるトラック、トレーラー、コンテナの仕様を標準化する(国際標準に合わせる)ことで、インターチェンジをより容易にする。また、これと並行してパレットなどユニットロードデバイスも標準化し、貨物のバラ積みをできる限り廃し、ユニットロードデバイス単位の積み降ろしを推進する。

②データ形式、コード体系の標準化
取引関係にもとづく垂直方向の標準化のみならず、業界内・業界横断的な水平方向の標準化を推進する。そのために、まずは食品業界・飲料業界・日雑品業界などの各荷送人荷主業界内の標準化から始め、次に荷送人荷主業界の横断的な標準化を推進していく。最終的にはサプライチェーン全体の標準化を実現する。
 

日本の物流には、見直さなければならない部分がたくさんあります。課題解決を端的にまとめると、「標準化」が重要で、単車からトレーラーの世界に入っていく必要があるでしょう。

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■講師
株式会社NX総合研究所
リサーチフェロー 田阪 幹雄 氏

募集要項

イベント名 3/14 オンライン:日本の物流を取り巻く課題と将来への指針
日時 2024年3月14日(木) 16:00~17:00
会場 オンライン受講(Zoom)
参加対象者 荷主企業・物流部門 、物流企業 様
参加費/定員 参加費無料 / 定員100名

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティンググループ
担当:
浅沼(アサヌマ)
メール:
leasing_mail@cre-jpn.com
電話:
03-5570-8048

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