(レポート)2024年問題 荷主企業における物流効率化への取組み
Fujita Office 代表
藤田 正美 氏
今回の物流危機について
「2024年問題」とも呼ばれる今回の物流危機は、「3度目の危機」といわれています。1度目は「高度成長期」に輸配送の需要が増えて物流危機が発生しましたが、1973年の石油危機による成長減速により収束しました。2度目は「バブル景気」に発生しましたが、こちらもバブル崩壊による成長減速により収束しました。
しかし今回の危機である「2024年問題」は、「物流ドライバーの担い手が大幅に不足することで物流が滞る危機」であり、過去とは性質が異なります。
メーカーの話でいうと、これまでのメーカーは「商品を開発し、作り、売る」ことに重きを置いてきました。そしてメーカーの物流部門は「欠品を減らす、在庫を圧縮する、受発注精度を上げる、物流コストを削減する」ことをミッションとしてきました。商品を運ぶこと自体は物流事業者に任せており、メーカーは課題解決を行わず、それが物流現場を苦しめることにつながりました。
物流危機は、実は平時に始まります。平時に輸配送能力や物量などの需給バランスが徐々に変化し、業界の一部で虫食いのように破綻が起きるのです。そしてそのことに気付かないまま、繁忙期に急に危機が表面化します。
一度現場が破綻すると、細かな対応は困難となり、荷主物量を一律減量するケースも発生します。また、このときに周囲に応援を求めても、周りにも余力はないので、一度物流危機が発生すると、加速度的に機能不全に陥ります。そうなってしまうと、対応に忙殺されて負のスパイラルに陥り、信頼が低下し、企業の業績にも影響が出てしまいます。
「運べない」ことは経営リスクです。自社への影響にとどまらず、着荷主である届け先や費者、さらには日本経済にも影響を及ぼす可能性があります。これは社会的課題であり、政府も国内約3,200社の特定荷主企業に対して、「物流統括管理者の選任」を義務付けることにしました。
物流統括管理者の役割は、「物流の適正化・生産性向上に向けた取組の責任者として、販売部門、調達部門等の他部門との交渉・調整を行う」とされています。
物流統括管理者の役割・対策
物流統括管理者の役割は、「リーダーシップを社内外で発揮し、物流危機の対策に取り組む」ことで、物流危機に対しては「ドライバーの担い手を増やす」「徹底して、物流生産性を高める」ことが必要だと考えています。そしてその実現には、以下の3点が特に重要です。
1. 荷待ちと荷役の時間改善
ドライバーの荷待ちが発生するのは、着荷主の構内であり、その原因は発荷主と着荷主の間の商取引にあります。したがって物流事業者ではなく、発荷主が主体的に、着荷主である届け先と検討を行う必要があります。具体的に発荷主が行うべきことは以下の4点です。
A. 自社物流の実態を認識する 物流事業者と連携し、実態を把握する。現場確認を行い、意見や提案が出やすい関係性を構築する B. 多品種小ロットの納品を見直す 発注頻度や発注ロット、配面配段、年月化などの発注方式を見直し、アイテム数を適正化する C. 荷降ろし作業、検品作業を見直す 「荷主と運送事業者の協力による取引環境と長時間労働の改善に向けたガイドライン」などの政府ガイドラインを参考に、ドライバー業務と荷受け業務の役割を整理する D. 繁忙期や入荷処理能力以上の発注による長時間待機を見直す 着荷主と、発注の計画化や前詰め納品を検討する |
2. 輸配送効率を高める
トラックを有効活用するために、配送効率、輸送効率を向上させることが重要です。自社で主体的に取り組みつつ、同業他社とも連携して効果を増幅させましょう。具体的には以下の3点を行うとよいでしょう。
A. イベントや繁忙期における「物量の波動」をできる限り平準化させる 物量のピークを小さくするように、前詰めの計画的な納品を着荷主に働きかける(自社営業を通じて、得意先と調整する) B. 往路復路の物量を調整する 発荷主の企業間コミュニケーションにより、「行きは満載、帰りは空車」などをなくし、往路復路のバランスを効率化する C. 具体的な効率化事例を取り入れる 商慣行を見直す、リードタイム延長、異業種との連携によるモーダルシフトなど |
私が経験した中で、「商慣行を見直し、リードタイムを延長した」事例をご紹介します。私が働いていた加工食品業界では、過去30年以上に渡り、「翌日納品」を商慣行としていました。しかし、受注から納品までの時間が短いため、効率的な配車計画を組む余裕がなく、車両ロスが発生し、荷役作業も夜間に行うことが常態化していました。
そこで受注時間を変更し、リードタイムを緩和し、「翌々日納品」としました。その結果、緩和時間を活用することで、車両効率・積載効率の向上や日中の荷役作業、ASN作成・活用による検品荷降し時間短縮などを実現できました。
また「異業種モーダルシフト」では、業界を超えて3社の輸送運用を合わせることで積載効率を99.5%まで高め、人材・車両を最大限に活用し、ドライバー不足、CO2排出量62%低減などの社会貢献につなげました。
3. 中長期計画、自主行動宣言
政府の物流関連2法改正を受けて、さまざまな企業が自主行動宣言を発表しています。たとえば日本加工食品卸協会(日食協)と食品物流未来推進会議(SBM)の共同宣言では、「物流の適正化・生産性向上に向けた自主行動計画」として、「メーカーと卸の取組み」「卸と小売りの取組み」「製配販3層での取組み」を発表しました。
●物流統括管理者への期待
物流統括管理者は、上記の対策と併行して、以下の4点に取り組み、特に経営層に向けて働きかけましょう。
A. 経営レベルで物流リスクを認識する 業界視点・中長期視点で自社のリスクの大きさを経営レベルで認識し、企業活動としてとらえる B. 物流コストに対する認識を改める 過去30年以上の間「物流はコストダウン」と考えられていたが、これを「リスク回避のための必要費用」と認識する C. 物流を改革する風土を社内に醸成する 変化を避けたがる前線や実務を経営レベルから納得させる D. 文化の異なる社内外の組織とも連携 業界動向や外部環境を知り、同時に自社のレベルを把握する。業界のキーパーソンとコミュニケーションをとる |
今回の物流危機はチャンスです。事業活動、経済活動、消費者の重要インフラの持続が厳しい構造の物流を見直し、喫緊の課題である 「リソースを増やす」「物流の生産性を高める」ことに注力しましょう。そして個社も業界も、持続的発展のために体質を強化するチャンスと捉え、無駄なことはせず、価値あることに集中し、収益・効率を高めることに集中しましょう。
具体的には、「商慣行見直しの継続・強化」を行い、「需給を合致させて、ムダを運ばない工夫」をすることが重要です。今はまだ困っていないかもしれませんが、「ドライバーが34%不足する」推計される2030年を見据えて、各業種で機運が高まり、新しい取り組みが活発化することを期待します。
物流統括管理者や物流部門のリーダーは、サプライチェーンの業務プロセスを幅広く見ることができる立場にあります。従来の常識を改めて見直し、不合理を見逃さず向き合い、物流の持続性を推進していきましょう。
Fujita Office 代表 藤田 正美 氏
募集要項
イベント名 | 11/20 オンライン:2024年問題 荷主企業における物流効率化への取組み |
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日時 | 2024年11月20日(水) 16:00~17:10 |
会場 | オンライン受講(Zoom) |
参加対象者 | 荷主企業、物流企業、運送事業者 様 |
参加費/定員 | 参加費無料 / 定員100名 |
本件に関するお問合せ
- お問合せ先:
- 株式会社シーアールイー マーケティング部
- 担当:
- 杉本(スギモト)
- メール:
- leasing_mail@cre-jpn.com
- 電話:
- 03-5570-8048