(レポート)荷主企業におけるロジスティクス人材育成 ~企業事例からロジスティクス人材育成のあり方を考える~

CREフォーラム レポート
公益財団法人流通経済研究所/株式会社J-オイルミルズ/Fujita Office

(レポート)荷主企業におけるロジスティクス人材育成 ~企業事例からロジスティクス人材育成のあり方を考える~

公益財団法人流通経済研究所
特任研究員
荒木 協和 氏

株式会社J-オイルミルズ
執行役員 SCM統括部長
畑谷 一美 氏

Fujita Office
代表
藤田 正美 氏

基調講演/物流人材育成とSCM人財育成 過去と未来の人財育成における課題(公益財団法人流通経済研究所 荒木 協和 氏)

●物流環境の変化と政府対策

トラックドライバー不足問題など、現在の物流環境を生み出したきっかけは1990年代にあります。1990年、物流会社の規制が緩和され、物流会社が急激に増加しました。それに合わせて、値引き競争が発生し、リードタイム短縮などの無理なサービスも向上。その結果、荷主の物流費比率は大きく下がり、拠点も集約されました。

当時の荷主企業の物流責任者は、おもに3つの役割を担ってきました。

1.「物流コスト削減」
物流会社との契約単価を下げ、「荷札を貼らせる」「仕分けをさせる」「格納させる」などの作業の押しつけ。

2.「サービス向上」
「午前中(朝一)納品」「翌日配送」「長時間待機」といったサービス向上を強制。

3.「物流品質向上」
事故が起きたときに、物流会社へ事故の責任を追及。
 

これらの値引きと押しつけの結果、物流コストが下がるとともに、ドライバーの給与は大幅に減少。労働時間も20%悪化しました。ドライバーの有効求人倍率は悪化し、2024年6月時点で2.6まで上がっています。

これに対して政府は、働き方改革関連法案など物流関連法案を改正し、トラックドライバーの待遇改善や運賃適正化などを企業に働きかけています。これからの物流責任者は、3つの役割に対する考え方を以下のように変えなければいけません。

1.「物流コスト削減」
運賃価格は上げつつ物流コストを削減し、ドライバーに作業をさせない。

2.「サービス向上」
過剰サービスを止め、適正なサービスに変えていく。

3.「物流品質向上」
事故が起きたときに、物流会社に責任を押し付けず、根本的に対策を講じる。 

全体として、物流の配送費は増加させ、その代わりに、受注段階で「受注業務を簡素化し間接費を下げる」「返品などを抑制する」、在庫に関して「在庫を削減して保管料を下げる」「余分につくらず廃棄をなくす」などの対策を講じ、トータルコストを下げていく必要があります。そのためにも、エリアやブランド、カテゴリ、チャネルなど全体を見ながら進めていけなければなりません。
企業としての使命(物流コスト削減・競合との差別化・物流品質向上)に加えて、これからは社会的使命(値上げをする・作業をさせない・サービスを下げる)も意識する必要があります。

●SCM人財の育成 CLOへの育成は可能か

物流は、製造や営業、マーケティングなど、さまざまな部署が行動をとった結果であり、それぞれの部署の動きで新たな課題が生まれます。その課題に対処するために、SCM(サプライチェーンマネジメント)はCLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)を立てて経営に直轄し、各部署を見渡せる位置にいる必要があります。ではCLOを育成するためには、どうすればよいでしょうか。

この30年、荷主企業の組織では、属人化を解除して「標準化を目指す」べく、人材の教育・育成が行われてきました。組織の5%に相当する経営層にまで上り詰めるためには、マネージャー以降、自力で成長を重ねていき、学歴や労務管理、調整力、財務力、忖度力などを身につける必要がありました。

そして荷主企業の多くはいま、製造や財務出身など物流のことを知らない役員に、物流統括管理を任せようとしています。しかしそれでは到底、「物流の配送費は増加させ、トータルコストを下げる」というミッションはクリアできません。

必要なのは「プロフェッショナルと言う属人化」です。入社から何のプロになるかを見定めて勉強し、SCMのプロとして、自分で考え、進んで行動し、成果を証明できる人材を育てていかなければいけません。そのためにも「標準化を目指す」ことから脱却し、オンリーワンの技術を持つ人材をどう育成するかを考える必要があり、プロフェッショナル人財の協調で組織が成り立つと思っています。

公益財団法人流通経済研究所 特任研究員 荒木 協和 氏

プレゼンテーション①/JOYLにおけるSCM人財の育成について(株式会社J-オイルミルズ 畑谷 一美 氏)

●JOYLの特徴

J‐オイルミルズは、2002年に味の素製油、ホーネンコーポレーション、吉原製油の3社が統合合併した企業で、食用油や油粕などの製造を行っています。従業員数は1275名(2023年度末)で、売上高は2307億円です。

当社には、SCM専門の部署はなく、原料(調達)部が購買し、製油部が製品化し、マーケティング部が供給計画を立てるなど、それぞれの部署がサプライチェーンの各工程を担っています。原料のほぼ100%を海外から輸入しているために、原料調達のリードタイムが長いのが当社の特徴で、調達と販売、この需要と供給のバランスをどう取っていくかが、全社的な経営課題になっています。

●JOYLの人財育成

当社は、3社が統合合併した経緯もあり、各部署の人財が半ば固定されており、社内異動が活発ではありませんでした。そのために、それぞれのベテランが自分のやり方を続けており、新しい知識を取り入れていない状況にありました。

また社内における構造改革と成長戦略(事業モデル変革)や、業界における「高度物流人材」の高まり、社会におけるキャリア志向とコース別採用などの流れもあり、2020年から「市場価値のあるSCM人財の育成」に取り組み始めました。

目指すべき人財像として設定したのは、以下のとおりです。

「個別パーツの専門家に留まらず、前後工程を理解し、俯瞰的視野から業務管理(業務改善を含む)と組織要員対応ができるロジスティクス人財の育成を目指す」

この5年半で行ってきたおもな取り組みは、以下のとおりです。

2020年~2021年は、属人化が強く人財が固定化していた環境を変えるべく、まずは業務の規格化とマニュアル化に取り組み、マルチスキル化を推進。たとえば生販管理部においては、業務を棚卸しして業務内容を把握し、約400工程に分け、4年間かけてマニュアル化しました。

その結果、最長滞留を5年まで短くし、人財流動化を促進。2024年度の総労働時間を、2022年度比で11%削減することができました。

また「SCM全国会議」という、物流社外環境を共有し、社内の取り組みを議論する場を設け、営業や工場、事業の社内関係者約200名が参加しました。

2022年~2023年は、「SC人財会」を立ち上げて異動活性化を図り、簡易な業務をアウトソーシングして正社員の期待役割を変更し、先に述べた「ロジスティクス人財」像を提示し、人財評価の軸としました。

また、受注物流業務や需給業務、業務改善といったテーマで他社との実務者交流会を開始し、従業員の意識変化を促しました。

2024年以降は、業務でロジスティクスに触れており、ある程度理解をしている従業員に向けて、社外講師による「ロジスティクス講座」を開始。100名以上が受講し、実務では習得し切れない知識を体系的に教育してもらいました。

また、他社の管理職女性をロールモデルとして招き、座談会を実施。45名が参加し、ワーク&ライフバランスへの理解を深めてもらいました。

また当社では、定期的な従業員ヒアリングやエンゲージメント調査を行い、個々の施策がロジスティクス人財の育成に寄与しているのか評価しながら進めています。

株式会社J-オイルミルズ 執行役員 SCM統括部長 畑谷 一美 氏

プレゼンテーション②/荷主企業における ロジスティクス人材の育成について(Fujita Office 藤田 正美 氏)

●ロジスティクス・リーダーについて(統括管理者、CLO、組織について)

物流2024年問題を受け、政府は、物流統括管理者に向けて、「荷待ちと荷役の時間改善」「輸配送効率を高める」「中長期計画、自主行動宣言」の3点を物流対策の軸とし、指針を示しました。

各社のロジスティクス・リーダーはいま、喫緊の課題となっているこの物流問題に向けて、速やかに対処していかなければなりません。そしてそのためには、決裁権限のあり方に関わらず、経営管理の起点からロジスティクス部門の担当領域を超える横串で、SCの全体最適(社内・業界)に取り組む必要があります。

ロジスティクス・リーダーに求められる人材要件は以下のとおりです。

「高い視座で、ロジスティクス機能の高度化を通し、自社の経営体質の強化および業界レベルでSCの全体最適にむけて、リーダーシップを発揮する」

行動面では、社内の部門横断の取り組みで効率化を図り、業界課題にも主体的に関与し、全体最適・変革に向けた戦略を策定し、実行します。

そのためには、下記の能力が必要です。

①ITデジタル・財務の知見を持ち、マーケティング・営業・生産・調達・開発・人事にも主体的に関与できる能力

②製配販物、業界機関、行政へ主体的な働きかけができるコミュニケーション能力

③ロジスティクスの人材育成の推進力

④胆力、熱意、突破力、構想力、実行力 

●社内理解、実績(プレゼンス向上)、自己研鑚について

私は2006年当時、キユーピー株式会社でロジスティクス部門長を担当しました。当時の物流部署は営業部門の傘下にあり、受発注、需給管理、コスト削減がおもな業務で組織体制は脆弱で受け身体質でした。それを2013年以降にロジスティクス本部に組織改編し、グループ横断で能動的に自社の体質強化を推進できる組織に変革しました。

当時、私がロジスティクス・リーダーとして意識して取り組んだことは、以下の3点です。

・ロジスティクスの重要性の社内理解
・ロジスティクスで実績をつくり、プレゼンスを向上させる
・自己研鑚(リーダーとして自身の成長) 

また、グループ全体の体質強化を目指し、以下をテーマとし取り組みました。

①グループ横断で最適化への取組み強化
②グループの総たな卸資産の削減
③中計(2016~18年)、次期中計の利益創出
④成長分野である海外事業の物流ネットワーク/SCM構築
⑤その他、アイテム管理、自部門の効率化、自社グループのBCPなど 

③に関しては、営業部門や生産部門とKPIを共有化し、徹底した定量化・可視化、コミットと引き換えに他部門から人材を確保することで目標を達成。これらの取り組みの結果、ロジスティクス機能が強化され、プレゼンスが向上しました。

●人材育成の留意点(次世代リーダー、幹部候補)

ロジスティクス人材は、サプライチェーン全体・業界全体の最適化を担っていく人材です。したがって「人的資源管理(HRM)にロジスティクス人材を加える」ことがとても重要です。

そしてロジスティクス・リーダーを育成するためには、全社人事管理システム、自職場内のOJT、ロジスティクス系の外部研修機関、通信教育などを前提としたうえで、下記に留意して進めていきましょう。

リーダー候補は、本人に告知はせずに次世代・次々世代の候補を立て、経営層・人事部と共有しましょう。そして本人には、ハードルが高めで重要なテーマを任せ、予算や人事異動権も与えて社内外での活躍を後押し、経営についても学んでもらいます。

同様に幹部候補に対しても、本人に告知はせずに選出し、グループ会社や海外、各部門をローテーションで回り、重要会議や研修に参加するなど経験を積みながら成長してもらうことが重要です。

Fujita Office 代表 藤田 正美 氏

募集要項

日時 2025年5月30日(金) 14:00~17:00
会場 日本消防会館 大会議室
参加対象者 荷主・物流企業・運送会社 様
参加費/定員 参加費無料 / 定員100名

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティング部
担当:
杉本(スギモト)
メール:
leasing_mail@cre-jpn.com
電話:
03-5570-8048
 
 

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