(レポート)DX挑戦の軌跡 〜現場が導いた最適化とその先〜

CREフォーラム レポート
芳誠流通株式会社・アセンド株式会社

(レポート)DX挑戦の軌跡 〜現場が導いた最適化とその先〜

芳誠流通株式会社
情報システム課 課長
DX戦略推進担当
柴田 幸太郎 氏

アセンド株式会社
取締役COO・CPO
森居 康晃 氏

●はじめに──芳誠流通について

弊社は1979年に、神田青果市場において運送会社の有志が独立して設立された会社です。その後、1990年に神田青果市場が閉鎖となり、市場の移転に合わせて大田市場へ拠点を移しました。最近でいえば、築地市場が豊洲市場へ移転したのと同じような流れです。

それ以来、青果輸送を主軸に事業を展開し、取引先の皆さまの発展とともに成長してきました。現在では、グループ会社を含めて約230台の車両を保有し、300名を超える従業員に支えられながら事業を行っています。

青果市場特有の商慣行や、日々変動する物量に柔軟に対応してきた経験と実績が、弊社の強みです。主な取引先としては、大手スーパーマーケット様、大手商社様、市場関連業者様、大手物流会社様などがあり、スーパー各店舗への配送をはじめ、市場間輸送、各地物流センター間の輸送を行っています。

●青果物流ならではの難しさと、システム化の考え方

私たちが日々向き合っている青果物流には、構造的な難しさがあります。
この青果流通が「特殊」と言われるゆえんを、少しご紹介いたします。

同じ品目であっても産地によって箱のサイズや荷姿が異なり、積載効率が変わります。こうした違いを現場では長年の経験で判断してきましたが、正直なところ、すべてをルール化してシステムに落とし込むのは非常に難しいと感じています。

そのため、「できない部分を無理にシステム化しない」ことを意識してきました。一方で、実際に走った結果として残る出荷実績や配送実績といったアウトプットのデータは、確実に価値があります。このデータをどう活かすかが、DXの出発点になると考えています。

●2016年のシステム導入──成果と大きな反省

2016年に弊社では初めてのシステム導入を行いました。
その際に、当時次の3点を目標に取り組んでいきました。

1.配車版をなくす

1.配車版をなくす

他の運送会社様でもよくある光景かと思いますが、配車が結構流動的に変わるにつれ、配車マンはその度にマグネットを貼り替え、事務員さんはその変更点をExcelで修正し続ける、というような作業をしていました。
また、このホワイトボードは他の営業所からは見られない情報になっていたので、システム化することで他の営業所との情報共有もできるようになりました。

2.終了コールをなくす

2.終了コールをなくす

店舗での納品が完了すると、終了報告として電話を事務所にかける運用を行っていたため、スーパーさんの開店前である時間帯にこの終了コールがひっきりなしにかかってきて事務所業務が回らなくなっていました。
リアルタイム動態管理を導入することで終了報告を一切無くしました。

3.デジタコの導入

3.デジタコの導入

前段の動態管理を導入するにあたって、通信機能の付いたデジタコを全トラックに導入しました。
ドライバーさんの手間は増えてしまったが、終了コール自体がなくなることで結果的に負担軽減につながり、最終的にはドライバーさんにも好評でした。

上記の「配車版をなくす」「終了コールをなくす」「デジタコの導入」3点と合わせて、出退勤のアルコールチェックと連動した勤怠システムなども導入しました。
ただ、そういったシステムを一元管理するものが2016年当時は無く、ベンダーさんと一緒にスクラッチ開発を行い、各システムを連携させました。結果、当初の目標は達成されましたが、システム部分だけでも数千万円以上のコストがかかってしまったという結果になりました。

●2024年、パッケージシステムへの再挑戦

構築したシステムも最初の頃は良かったですが、時間の経過とともにさまざまな問題が発生してきました。

この経験から強く感じたのは、物流の専門家とシステムの専門家”だけ”で作った仕組みには限界がある、ということでした。

こうした反省を踏まえ、2024年に私たちはパッケージシステムである「ロジックス」の導入を決断しました。
今回の判断軸は明確で、以下の4点になります。

     ① システムコストを抑えられること 
     ② 日々の業務に無理なくフィットすること 
     ③ 実績データを活用できること 
     ④ 将来的な法令変更や環境変化に対応できること 

実際に使い始めて感じたのは、「最初から完璧を目指さなくていい」という安心感でした。配車入力の時間は大幅に短縮され、法令対応などもパッケージ側でアップデートされていく。スクラッチ開発で苦労した身としては、この点は非常に大きな違いだと感じています。

●現場と一緒に進めた導入プロセス

今回のプロジェクトで最も意識したテーマは、「社内の各営業所や各部門をしっかり巻き込むこと」です。そのため、各営業所・各部門からキーマンを選任し、社内のプロジェクト推進体制を構築しました。

プロジェクトは、会社全体の取り組みとして位置づけ、情報システム課を中心に進めました。情報システム課に一度情報を集約しながら、アセンドさんをはじめ、他部署や各営業所と随時連携を取りつつ、プロジェクトを進行していった形です。

また、アセンドさんとは積極的に情報交換を行い、弊社の業務内容や課題を共有しながら、それに対する提案や回答をいただき、双方で理解を深めていきました。進め方やスケジュール感、懸念事項についても多くの提案をいただき、実務面ではかなりお任せした部分が多かったと感じています。

では、実際に弊社で行った詳細な取り組みの一部をご紹介します。

全ての運行業務の洗い出し 請求から遡って、全ての運行業務の洗い出しを行いました。
並行して、配車業務・請求業務・取引先との連絡などの事務方の業務洗い出しも行っていきました。その上で、請求が発生しない仕事の洗い出しも行いました。
それらを統合して、必須の業務の切り分けと改善点の把握をし、その部分をロジックスでどのように運用していくかをアセンドさんと共同で落とし込みしました。 
現場への落とし込み 全ての方針が決まった後に現場への落とし込みを行いました。
旧システムと並行稼働させながら、「この業務がこういう風に変わるんだよ」ということを明確に出しながら現場の理解度を深めて微修正を繰り返していく、というような進め方をしました。 

切り替えは一気には行わず、パイロット拠点での並行稼働を経て段階的に進めました。現場の負担が一時的に増えることは避けられませんが、「まずは1か月だけお願いします」と正直に伝え、情シスとしても可能な限り現場に入り込み、一緒に作業を進めました。

●DX推進に必要だと感じた人材と体制

この取り組みを通じて、DXを進めるうえで重要なのはシステムの知識よりも、業務を横断的に理解する力だと実感しました。現場の言葉をそのままベンダーに伝えるのではなく、背景や意図を含めて整理し、双方の認識をすり合わせる役割が不可欠です。

また、経営層には感覚論ではなく、数字でメリットとデメリットを示し続けました。現場と経営、それぞれに違う説明が必要だという点は、DXを進めるうえで非常に重要だと感じています。

●データがもたらす対外的な価値

DXによって得られる価値は、社内の効率化だけではありません。青果物流では、なぜ追加便が発生したのか、なぜ積み切れなかったのかといった理由を、データで説明できることが荷主様との信頼につながります。

労務管理や適正運賃への関心が高まる中で、事実を数字で示せることは、これからの物流事業者にとって重要な要素になると考えています。

●おわりに──DXは継続的な取り組み

最後にお伝えしたいのは、システム化はDXの一部でしかないということです。本質は、業務の進め方や考え方をどう変えていくかにあります。

今回のロジックス導入は、あくまで第一歩です。今後も現場の声を起点に、小さな改善を積み重ねながら、変化に対応できる物流会社であり続けたいと考えています。

ロジックスの導入により、弊社ではこれまで利用していたスクラッチ開発の配車システムから、パッケージシステムへ完全に移行することができました。その結果、コスト削減、業務効率化、そしてシステムの安定化を実現しています。
自社向けにスクラッチで構築してきたシステムを、パッケージシステムへ置き換えるというのは、改めて振り返ると、なかなか大きな取り組みだったのではないかと感じています。

一方で、弊社としては、まだDX化の「一本目を踏み出した段階」に過ぎないとも考えています。
ロジックス導入の背景の一つでもあった「実績データの分析と活用」については、今後も継続して取り組んでいきたいテーマです。日々蓄積されるデータを、業務改善や意思決定にどう生かしていくかが、次のステップだと捉えています。

「システム化=DX化」と捉えられがちですが、システム化はDXの中の“D”の部分に過ぎず、本質は“X”、すなわちトランスフォーメーション=改革・変革にあると思います。
今後は、業務改善や企業価値の向上、市場環境の変化への対応といったテーマに対して、社内外の関係者をさらに巻き込みながら、DX化を継続的に推進していきたいと考えています。

芳誠流通株式会社 情報システム課 課長 DX戦略推進担当 柴田 幸太郎 氏

募集要項

イベント名 12/10 オンラインセミナー:DX挑戦の軌跡 〜現場が導いた最適化とその先〜
日時 2025年12月10日(水) 16:00~17:00
会場 オンライン受講(Zoom)
参加費/定員 参加費:無料/定員:100名〈先着順〉

本件に関するお問合せ

お問合せ先:
株式会社シーアールイー マーケティング部
担当:
杉本(スギモト)
メール:
leasing_mail@cre-jpn.com
電話:
03-5570-8048
 
 

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