スタッフコラム

物流DX Part① ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

◆ウィズコロナは3密回避・非接触化!

コロナ禍が収まりませんね……。まったく困ったものですが、産業社会の基盤を守るエッセンシャルワークの1つ、われらが物流倉庫の現場では、それぞれに現実をしっかり受け止め、懸命の対応が続いています。検温から消毒・手洗いうがい、パーティション、食事の時間も分けて3密を回避し離れて座る……などなど。でも、いくつかの物流センターでクラスターが発生してますね。こうなると担っていた物流がストップしてしまい、大変なことになります。

アマゾンのDistant Assistantモニタ画面

最近の私の講演などで紹介している事例ですが、米アマゾンでも春先に複数倉庫でクラスターが発生。そこで同社は得意のデジタル技術力を発揮して、6月までにすごいシステムを稼働させています。3DのAR(拡張現実)技術を使い、監視カメラの大型モニタ画面に映る、行き来する人の周囲に直径6フィート(約1.8メートル)の円環を浮き出させます。で、人が動いてこのグリーン円環が接すると、真っ赤になってアラームが出るのです。この「ディスタンス・アシスタント」という仕掛けを各センターに導入し、従業員の近接・接触回避に努めているというわけ(なるほど)。

またモバイル端末を全員が持つ現場向けには、 互いの近接具合を端末で測定・記録し、密度が閾値を超えたらアラートをかける/もし感染者が発生した場合は近接コンタクトの過去履歴をさかのぼって接触者を特定できる、という仕組みも登場しています。

紙文書や伝票の「対面でのやりとり」での感染を防ぐには、何といっても「紙をなくす」ことが一番!
そう、ペーパーレス化です。

紙のやり取りをハンディ端末やスマートフォン、音声端末等でのデジタル入出力に置き換える「非対面化・非接触化」はとても有効ですね。入荷車両受け付け、バース指定、入出荷検品、パレット枚数管理、ピッキングリスト、入出荷伝票など、アナログ物流現場の紙伝票は枚挙にいとまがありません。最近は、賞味期限など日付・数量・社名など伝票の印刷+手書きの文字もハンディやスマホで読み取れ、デジタル入力可能な「AI-OCR」の技術開発が進展し、使いやすくなっているのでおススメです。

◆デジタル化から自動化・DXへ

上にご紹介したのは、「情報」(状態含む)をデジタル化し、ハンドリング(ここではデータの取得・通信・保管・加工・分析を含む広義の概念とします)を自動化する情報通信システム技術、ICTとくくっていいでしょう。この意味では事務作業を自動化するRPA(Robotics Process Automation)や、リモートワーク、遠隔監視・管理ソリューションなどもこの「情報のハンドリング高度化・自動化」に含めていいかと思います。

  *   *   *

さて物流非接触化の手段には、情報に加えてもう1つの巨大なカテゴリーがあります。
それは、「モノのハンドリング自動化」です。

入荷したモノを人が運び、保管し、ピックし、仕分け、検品、梱包し配車・出荷するのが物流センター作業なのですが、これをぜんぶ手作業でやるなら、どうしたって人海戦術で人が密集・近接してしまう。とくに波動で作業が集中し、短時間に高パフォーマンスを上げねばならないときなど、てきめんにそうなります。

これら物理的な構内物流作業を自動化したり非接触化するのが、いわゆるマテリアルハンドリング(マテハン)機器。コンベヤ、産業車両など搬送機器、クレーンなど荷役機器、自動ラックなど保管機器といった種類があります。そして、この発展形として今、大きく期待が集まっているのが、物流ロボティクスなのです。

最近は、さかんにDX(Digital Transformation)の必要性が叫ばれ、バズワード化していることはご存じでしょう。DXとは、デジタル技術を基盤として、業務、事業、そして企業・ビジネスモデル全体を新次元に変革すること。そのゴールは企業変革=CX(コーポレートトランスフォーメーション)、ないしビジネス変革=BX(ビジネストランスフォーメーション)により、顧客体験=UX(ユーザーエクスペリエンス)価値を変革することにあります。厳しく言うと、デジタル機器やロボットを買ってきてその場で使うだけ、会社の仕組みや体制は少しも変わっていない、なんて場合はDXと呼べないのです。

ここでは、それを物流分野に適用して業務と事業の変革を目指すチャレンジを、「物流DX」と呼ぶことにします。私だけでなく、概ねの論調では物流分野のDXを、上記の「情報の物流DX」と「モノの物流DX」を包含するコンセプトととらえていますので、ご了解ください。ロボットやマテハン機器を使うには結局、意図や情報をもれなくデジタル化して、コンピュータソフトや機械に指令することになるのですから。

 

◆モノの物流DXとロボティクス

以下は「モノの物流DX」にフォーカスします。中でも焦点を、注目のロボティクス系に絞りましょう。
私は最近書いた論文(流通経済大学「物流問題研究 69号」所収)や講演で、物流ロボティクスのカテゴリー5分類の案を出しました。技術開発のスピードはめざましく、次々に新たな機能が出てくるので、すぐまたアップデートが必要になるかもしれません。以下にはそれをより分かりやすくかみ砕いて補足した現時点での最新版、2020年12月バージョンをご紹介します。

従来この分野では、「GTPとAMR」(以下を参照)という2大分類で語られてきました。そこから敷衍してこんな風にしてみたものです。ちょっと長くなりますが……

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 物流自動化・ロボティクスの5カテゴリー
(202012v./筆者作成、©2020 L-Tech Lab,Kiku)
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①GTP (Goods To Person)

モノを自動化システムで人の手元に搬送し、歩かない・探さない・考えないピッキング作業を支援する仕組み。自動倉庫・コンベヤによる従来方式と、③の自立搬送ロボット(AMR)、ないしテープ・レーザ反射板などでガイドされる従来型のAGV(Automatic Guided Vehicle;無人搬送車)による方式があります(AGVをGTPに入れない人もいるでしょうが、機能的には入れておかしくない)。シャトル自動倉庫によるGTPが、LIPニュース連載インタビュー第5弾で紹介された、AMSさんの事例ですね。

②GTR (Goods To Robot)

同じく自動化システムでモノを搬送するが、着地が人でなく、自動ピッキングロボット(後述④のAPR)の手元に供給する場合、運用法で区別し、こう呼ぶことがあります。

③AMR (Autonomous Mobile Robot)

SLAM(Simultaneous Localization and Mapping;自己位置推定とマッピングの同時実行)等の制御方式と各種センサにより、無軌道で自律走行する搬送ロボットが、ピッキングエリアなどで人と共同して搬送作業を支援するもの。従来のコンベヤや、人手によるカートピッキングのカートに代わる使用法を念頭に開発されました。先述のガイドAGVとはいちおう区別しますが、AMRでもGTPでもQRコードなどを床面に貼ってガイドするタイプもあって、厳密には判別できないものもありますね。

④APR (Autonomous Picking Robot)

ケース、ピース単位でモノを自動ピッキングする自律型ハンドリングロボット。これは筆者の造語ですが、「自律」には3Dビジョンセンサの「眼」、モノを把持し運ぶ「腕・手」、最適な搬送動線をモーションプランニング技術等により瞬時に計算しロボットに指示する「脳」を備え、ティーチレスで自ら考え自律的に作動する、との意味を込めています。

⑤ASR (Autonomous Sorting Robot)

これも新カテゴリーのため筆者の造語ですが、自律搬送ロボットの台車上面にチルトトレイまたは薄型ベルトコンベヤ等の仕分けユニットを取り付ける。従来はこれらユニットを備えたコンベヤがライン上で仕分けしていたものを、ロボットが自在に走行して所定のシュートに仕分けるもの。  

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 いかがでしょうか。え? 文字だけでは分からない? そーですよねえ…。では次回、写真や動画付きでそれぞれ具体的に紹介していきますね。お楽しみに!

連載コラム 物流DX Part② ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?(その2)

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト
(㈱大田花き 社外取締役、㈱日本海事新聞社 顧問、
流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問)

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。

著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。

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