スタッフコラム

間違いだらけの物流DX② ~DX推進における3つの落とし穴~

間違いだらけの物流DX② ~DX推進における3つの落とし穴~

みなさま、こんにちは。ascend株式会社 代表取締役の日下です。来る2022年1月CREフォーラム にて、弊社が取り組む物流DXについてのセミナーを開催させていただく予定になっております。
前回は、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の実現が、物流業界の存在意義を左右しかねないというお話をさせていただきました。本日は、DX推進において陥りがちな3つのポイントを解説して参ります。

DXとは何か?

DXとは単なるデジタル化ではなく、「業務や製品・サービスのデジタル化による、新しい製品・サービスの実現」を意味します。経済産業省は『DXレポート2』の中で次の通りDXの全体像を定義しています。

出所)経済産業省『DXレポート2』を基に筆者作成

ここでのポイントはDXが多層的な概念であること、つまり、「いくつものステップを重ねることで、最終的に新しい製品・サービスに到達する」という点に、その核心があります。まずはアナログな情報をデジタル化する「デジタイゼーション」があります。次に業務プロセス全体をデジタル化する「デジタライゼーション」、そして最後にDX(=デジタルトランスフォーメーション)という順番になります。

受注業務を例に考えてみると、電話・Fax・紙で受領していた受注情報をエクセル等のツールに転載することがデジタイゼーションです。これにより一部の情報をデジタル情報として蓄積することができます。次に契約管理から受注・請求まで、受注に関わる一連の業務をデジタル化すること、これがデジタライゼーションになります。プロセス全体の効率化を図ることともに、予定データや実績データ等、デジタル化される情報量も増えていくことになります。これらのデータを活用して荷主への請求金額や契約内容の変更、配車計画の見直しやポートフォリオの最適化等、収益改善に繋げていく一連の活動が、デジタルトランスフォーメーション、DXと言えるでしょう。

ここで重要なのは、デジタイゼーションとデジタライゼーション、DXの3点は、相互に連関しており、DXの実現を目指す過程では切り離して考えることができないという点です。DX、すなわち「デジタル化による経営やビジネスモデルの刷新」には、業務におけるデジタルデータの蓄積やデジタル技術によるオペレーション改革が実現していることが不可欠であるため、デジタイゼーションとデジタライゼーションがDXの土台となります。また、土台である以上、上物となるDXが何を目指すものであるかによって、実施しなければならないデジタイゼーションやデジタライゼーションの内容も変化します。従って、DXの各種取り組みは、最終的に目指すDXの定義に合わせて、総合的にデザインされる必要があるのです。

それでは、DXが何であるかを再確認できたところで、DX実現の際に陥りがちな罠を見て参りましょう。

DX推進におけるよくある間違い

筆者はこれまで大企業から中小企業まで多くの企業のDX推進をサポートしてきました。その中で「目標設定」、「推進方法」、「成果導出」の各過程においてそれぞれ陥りがちな失敗を目にしてきました。下の図で示した6つの観点に思い当たる点はないでしょうか?

出所)筆者作成

陥りがちな罠1:「目標設定」における失敗

まずは、DXの目標設定における失敗をご紹介します。目標設定の失敗例として代表的なものとして、「流行りの技術を調べるところから始めてしまうこと」や「とにかくスピード重視でプロジェクトを開始しようとしてしまうこと」が挙げられます。いったいこれらの何が問題なのでしょうか。

「流行りの技術を調べるところから始めてしまうこと」の問題は、DXプロジェクトによって実現することやその課題を明確にする前の段階でソリューションに飛びついてしまっている点です。前段に述べた通り、DXが目指すものは表面的なデジタル化ではなく、その先にある経営手法の改革や全く新しい枠組みの製品・サービスの開発です。従って、まずは目指すところとその道のりにある課題を明確にした上で、最適なソリューションや技術の選定を始める必要があります。また、課題を明確にする際には、目下の頭痛の種だけを見るのではなく、業界全体の10年後、20年後を見据えた中長期的な視点も必要です。せっかくの取り組みの効果が数年で薄れてしまうようなことを避けるためにも、先の課題をしっかり見据え、解決策としての技術やソリューション選定を行いましょう。

次に、「とにかくスピード重視でプロジェクトを開始しようとしてしまうこと」についてですが、こちらの問題点はDXプロジェクトの性質と深く関わっています。DXは自社の経営やビジネスモデルを根幹から変革する取り組みであるため、プロジェクトは複雑で中長期的なものになります。会社が日々のオペレーションを抱えている中で、目的に向かってプロジェクトが着実に進行していることを確認するためには、プロジェクト開始前に適切なKGI(重要目標達成指標)及びKPI(重要業績評価指標)が設定されている必要があります。これらの指標が適切に設定されていない場合、表面的あるいは定性的な評価でプロジェクトのPDCAが行われ、蓋を開けたら業績改善に全く貢献しない取り組みになってしまうといった恐れがあります。スピードは、ほとんどのビジネスの取り組みにおいて重要視されますが、こういった重要なプロセスを省いてまで早期着手にこだわることは、まさに本末転倒であると言えます。

出所)筆者作成

出所)筆者作成

陥りがちな罠2:「推進方法」における失敗

今度は、DXプロジェクトの推進過程に目を向けてみましょう。この領域で陥りがちな罠は、「まずは付き合いのあるパートナー企業に声をかけてしまう」ことや、「社員を鼓舞するため、壮大な(抽象的な)目標を掲げてしまう」こと等が挙げられます。

「まずは付き合いのあるパートナー企業に声をかけてしまう」ことは、良い点と悪い点の双方を含みます。良い点としては、外部のパートナーの知見を得てプロジェクトを進めようとしている点です。DXの設計や実現には、物流とIT双方に関する深い知見が求められるため、ITに関する知見を外部に求めることは正しい選択であると言えると考えられます。むしろ、落とし穴はその先に潜んでいます。例えば、相談した先の既存取引先が、自社製品ありきの回答しかしない専門家であった場合はどうでしょうか。貴社が抱える課題に真摯に向き合うことや貴社の業務を深く理解することなく自社製品を売りつけようとするベンダは少なからず存在するため、導入したものの使えないシステムといった、「名ばかり成果物」が生まれてしまう可能性があります。従って、相談先のパートナーは、自社が抱える課題と照らし合わせて選定する必要があり、それは必ずしも付き合いのあるパートナー企業とは限らないということです。

加えて、DXならではの留意点として、自社内のIT人材の育成まで配慮を行えるパートナーを選ぶべきであるが重要です。DXは経営判断の仕方を変ることや新しいビジネスモデルを作り出すものであるため、DXの成果として生まれた仕組みやサービスを継続的に運用するためには、社内IT人材の育成が不可欠です。社内人材の育成を疎かにし、全てをITベンダに任せっきりにしたDXプロジェクト推進を実施した場合、得られる果実は限定的になってしまいます。

次は、「社員を鼓舞するため、壮大な(抽象的な)目標を掲げてしまう」ことについてです。前述の通り、DXは中長期的かつ大規模な取り組みになるため、社員のモチベーション維持は非常に重要なポイントです。しかし、壮大すぎて実現性を疑われてしまったり、抽象的でわかりにくいゴールを大々的に掲げるだけでは、進捗がわかりにくく、社員の士気は長続きしない恐れがあります。先のKGI及びKPIの設定とも関連しますが、目標を具体的かつ細分化された形で設定し、小さな目標達成を少しずつ積み上げていくことで、社員の士気は健康的に維持され、経営者にとっても状況が把握しやすくなります。目標設定や社内共有の際には、この点をしっかりと意識しておきましょう。

出所)筆者作成

陥りがちな罠3:「成果導出」における失敗

最後に、DXの成果導出についてもお話ししておきます。この段階における代表的な失敗はシンプルなもので、「プロジェクト完了後は定期的なレビューを実施しなくなってしまう」というものです。

DXが結果としてシステムの導入を伴う場合や、新しいサービスの提供を含むものになったとしても、その本来の目的である「収益への貢献」を蔑ろにしてしまっては元も子もありません。KGIやKPIに基づく継続的なレビューサイクルを形成し、DXプロジェクト完了後も、取り組みの成果が収益改善という形で継続的に表れていることを担保する必要があります。

これまで紹介してきたポイントのおさらいにもなりますが、「課題と成果指標を明確化し、手段の目的化を未然に防ぐ」こと、「改革推進時にパートナー企業に依存せず、継続的改善の仕組み作りや人材育成を行うこと」に加え、取り組みの本質的な意義、すなわち継続的な収益改善を目指す取り組みであることを関係者に周知しておくことはとても重要です。DXとはつまるところ「人とソリューションとの掛け算」です。継続的な改善サイクルの形成こそが、DXの本質的な要素になります。

出所)筆者作成

連載3回目のご案内(2021年11月予定)

今回は、DXとは単なるデジタル化ではなく「業務や製品・サービスのデジタル化による、新しい製品・サービスの実現」を意味することを再確認しました。その上で、DXプロジェクトが陥りがちな罠を複数紹介して参りました。技術は手段であり、目的に応じて必要な手段は異なるということ、DXは中長期的な改革であり、知識の内製化を目指し、具体的な課題から着実に成果を出すことが求められること、継続的な改善サイクルの形成がDXの本質であることをご理解いただけたのではないかと思います。来月の最終号では具体的な事例からDXの本質に迫っていきたいと思います。

連載コラム:間違いだらけの物流DX

1 間違いだらけの物流DX➀ ~運送業界を待ち構える3つの悲観シナリオ~

執筆者 日下瑞貴(くさかみずき) 氏 ご紹介

執筆者 日下瑞貴(くさかみずき) 氏 ご紹介

1990年4月、北海道江別市生まれ。2016年3月早稲田大学政治学研究科修了、PwCコンサルティング、野村総合研究所を経て、2020年3月ascend株式会社を創業 代表取締役社長、現職。論文「フィジカルインターネットによる物流課題の解決」にてヤマトグループ総合研究所 審査員長特別賞受賞。物流ニッポン「物流DXの進め方」を連載中。その他に物流DXに関する講演多数。

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