倉庫移転の全体像|スケジュール策定と実行プロセスの重要ポイントを解説
「倉庫移転を任されたけれど、何から始めればいいのかわからない」 そのような不安を抱えている物流管理者の方も多いのではないでしょうか。
昨今、EC事業の成長に伴い物流倉庫の移転を検討する企業が増えています。倉庫の立地やスペースがビジネスの成長を支えきれなくなった場合、より広く、利便性の高い倉庫への移転を通じて業務の効率化が可能です。しかし、スケジュールを誤ると、在庫管理の混乱や出荷ミス、顧客対応の遅れなど、現場に大きな影響を与えかねません。
本記事では、EC物流の倉庫移転を実現するための「スケジュール」と「進め方のポイント」を 筆者の経験を踏まえた独自のポイントも交えて解説します。これから移転を考えている方はもちろん、倉庫移転時の計画・実行の全体像を知りたい方にぜひご覧いただき、安全・確実な移転の参考になれば幸いです。
物流倉庫移転の全体イメージ
物流倉庫の移転は一般的には3カ月から6カ月の準備を要します。このスケジュール感は、規模や移転の背景、対象となる在庫量、関係者の数などによって前後するため一概には言えませんが、以下のようなおおまかなフェーズに分けて考えると、全体像を把握しやすくなります。

まずは移転を進めていくにあたり関係するメンバーが大きな流れを理解し、自身がどのタイミングでどのようなことを行う必要があるのかをイメージするところから始めるとよいでしょう。次章からは、各フェーズについてもう少し詳しく解説していきます。
移転3ヵ月前~6ヵ月前:倉庫移転に必要な要件を洗い出し、移転の全体感をつかもう
まずは、移転の全体感をつかむため、必須となる要件の定義とそれに基づく計画の策定を行っていきます。物流倉庫は販売サイドや仕入先、輸送業者や各種取引先と非常に多くの関係者で成り立っています。そのため、倉庫移転を行うということは、倉庫単独の都合のみで実施することはできません。関係者間で移転に必要な要件を洗い出し、影響範囲を特定することで、以降の実施方法の検討や全体スケジュールの確定、各種工程の設計が可能となります。
移転の要件定義
要件定義は移転を行うにあたっての出発点です。要件定義で移転を行うにあたっての必須要件を定義することで、影響範囲の特定や以降の実施方法の検討、全体スケジュールの確定と各種工程の設計に移ることが出来ます。
代表例として、定義する要件は下記のようなものが挙げられます。

移転準備作業の洗い出しとスケジュール策定
定義した要件をもとに、移転準備作業の洗い出しとスケジュールの策定を行っていきます。移転本番までの準備すべき作業内容を洗い出すことで、実際の準備の規模感や難易度の把握、準備の抜け漏れの確認、各関係者の役割の明確化、作業同士の関連性の把握が可能となります。さらに、洗い出した作業を基にスケジュールを策定することで、各時期に必要な作業や期限、リソースの必要時期や工数感などが視覚化され、プロジェクト進行において抑えるべき箇所が明確になります。
また、倉庫移転ではカレンダー上の祝祭日や連休に移転日を設定することが多いです。これはメーカー・仕入先が休みで入荷への影響が少ない、販売サイト側での受注が比較的少なめとなる傾向などがある為です。
ここでのポイントは、移転スケジュールを立てる際、予備日を設けるなどして余裕を持たせることです。もし予備日が不足していると、移転作業中に予想外のトラブルが起きた場合、仕入先やユーザーにまで二次被害が及ぶおそれがあります。そのため、無理のないスケジュールを意識して計画を立てましょう。

移転手順の確定(システム機能、手順)
移転元倉庫と移転先倉庫で運用するWMS(Warehouse Management System)が同一(*1)か異なるかによって、移転手順は大きく異なります。手順によっては移転用のツールや機能の開発が必要になるでしょう。
WMSが同一の場合、在庫のロケーション移動機能を用いることで、WMSから出庫をすることなく移転が出来る為、作業手順を組み立てやすいです。一方、WMSが異なる場合、移転元で出庫作業を行い、移転元で受け入れる形が一般的です。この場合、移転元での出庫方法によって準備が異なります。また、移転先での受け入れは、入荷機能を用いるのか、移転用のツールを作成し入荷機能を用いずに在庫調整機能等で在庫化するなど、選択肢が出てきます。入荷機能を使用する場合は、販売側のシステムで入荷の2重計上とならないよう、移転在庫の入荷実績データに対する工夫も必要です。システム観点では、WMSだけでなく関連するシステムとの整合性も考慮しましょう。
(*1)インスタンスのことを指しています。WMSのインスタンスとは、個別の倉庫や事業所などが独立して利用するために、WMS(倉庫管理システム)のソフトウェアやサービスが設定・構築された環境のことです。
移転1ヵ月前:移転に向けて、必要な手配をしよう
移転1ヵ月前では、作成したスケジュールを元に具体的な移転の詳細手配を進めると共に、移転本番に向けて細かい最終調整を行っていきます。移転の在庫量を販売で減らす以外の方法として、移転までの残日数で必要な在庫を残し、それ以外の在庫を先行して移転しはじめるということも行う時期です。
移転車両や移転用什器・備品の手配

移転作業を円滑に進めるためには、車両や什器・備品の手配を事前にしっかりと行うことが重要です。車両については、すでに必要な台数や運行スケジュールの見積もりが済んでいることが前提となりますが、移転の時期や時間帯によっては手配が難しくなる場合もあるため、余裕をもって確保しましょう。また、手配時にはキャンセル期限などの契約条件も事前に確認しておくと安心です。
移転用什器・備品については、オリコンやパレット、台車などの什器・備品が使用されるケースが多いです。また、移転元での在庫の払い出し作業、移転先での受け入れ作業と両拠点の作業を一つのプロセスとして実施していくこと、かつ物理的には場所が離れていることから想定以上の数が必要となる場合が多いです。 こういった什器・備品は移転時に一時的に必要数が増大するので購入以外にレンタルなどの選択肢を考えるとよいでしょう。
システムテストの実施(WMSやEC基幹システムの検証)
WMSをはじめとする各システムの移転準備が完了した後は、 必ずシステム的なリハーサルを実施しておきましょう。在庫の移動に合わせて上位のECシステムとの連携が手順策定時に想定した挙動通りであるか、移転用のツールや機能開発を行っている場合、大量のデータでも想定時間内で機能するかどうかなどがテストの主旨となります。
また、移転の際には大なり小なり在庫を探す、目の前の在庫がどのような状態であるのかなどの調査が発生します。このテストのタイミングで調査手順についてもおさらいしておきましょう。
移転作業人員の手配、シフト調整
移転においては、日頃から従事している作業者に加え、移転時のみ参加する作業者も必要になるケースがあります。日頃から従事している作業者の方は商品や在庫知識が高く、システムの習熟度も高いので移転時の中核となってもらいたい人材です。直前まで通常運営をしている状態であることから、移転のスケジュールに合わせて事前にシフト調整を行い、移転時の各工程での安定化を図りましょう。
作業マニュアル作成
移転時には初めて倉庫で働くというスタッフも少なくありません。移転元、移転先の倉庫それぞれで作業マニュアルを作成、配置しておきましょう。作成する際のポイントは初めて見る人が理解しやすいようにNGの場合の写真等を交えてシンプルにすること、判断を伴う複雑な工程についてはまずはリーダーに聞くなど最低限抑えてもらいたい箇所に注力して作成すると運用しやすいです。
ユーザー告知の準備
いよいよ移転前のこのフェーズでは、ユーザーに対する具体的な告知について販売サイドと詳細を固めておきましょう。移転元での最終出荷、新倉庫での出荷開始、受注残への対応、返品の案内等が主な検討対象になります。ユーザー告知をおろそかにすると、移転中または移転後の問い合わせが増大します。この期間は、倉庫側でも安定稼働に向けて細かなトラブルシューティングを行っている時期です。ユーザーコミュニケーションを円滑にすることは移転先倉庫での早期の安定稼働につながります。
先行移転
移転する在庫量が多い場合、SKU単位で予め一定数量を先行移転することも本移転時の負荷を減らす有効な手段の一つです。熟練の作業スタッフのみで小規模で始めることで、本移転前の良いトレーニングになると共に、移転本番に向けて作業工程やシステムの実用視点でのチェックをすることが出来ます。
移転当日~1週間後:本番移転開始、移転後の対応も忘れずに
さまざまな事前準備を経て、ようやく移転当日を迎えることができます。本番移転の期間中は想定外のトラブルが発生する可能性があるため、スケジュールに余裕を持たせながら対応しましょう。
また、移転後1週間から2週間程度は特に物量が多く、移転作業を起因とした問題も発生しやすい時期です。移転当初は、問題発生を見越した運営体制で臨むことが移転後の運営安定化への有効な手段となります。次からは、移転作業中に特に注意すべき事項について解説していきます。

移転作業中の注意事項①(進捗管理)
計画していた時間、処理数量や工数に対して乖離が発生していないかをチェックします。基本的には時間単位で追いかけていくとよいでしょう。また、傾向としては作業の開始1時間程度は慣れの観点から処理数量は少なく、徐々に数量が伸びていく曲線となります。一つの工程でみるのではなく、スループットを意識し、リソース配置の調整していくことが必要となります。
移転作業中の注意事項②(作業品質)
二つ目は、作業品質です。移転作業の品質は、移転後の安定化に直結します。移転先倉庫では移転作業終了後にすぐに入出荷作業が開始されるため、作業時の生産性を考慮した格納が必要だからです。
移転時には作業慣れしていないスタッフもいますし、作業慣れしていても使用するシステムや機能が異なる等により、ミスは発生しやすい環境にあるといえます。数字上は計画通りに進行しているように見えても、作業品質に問題がある場合、それはユーザーにも影響が発生しやすい環境にもなり得ます。一定タイミング毎に、サンプルチェックするなどして品質確保に努めておくとよいでしょう。
移転作業中の注意事項③(問題発生時の対応)
三つ目は、問題発生時の対応です。移転作業中には、システム不具合や作業ミス等、大小さまざまな問題が発生します。
移転作業中に問題が発生した場合、全体に関わることか、目の前の商品のみが問題となのかという観点で、まず切り分けを行うと良いでしょう。目の前の問題の解決にかかりきりになり、より大きな問題の検知が遅れることもありえます。倉庫では多数のスタッフが動いていることから、全体に関わることで問題が発生した場合、時間経過とともに影響範囲が拡大していきます。トラブルに対して判断することは移転中の管理者にとって最も重要な仕事のひとつです。
移転先倉庫での通常稼働の開始
移転作業が終了したらいよいよ新倉庫での本格稼働がはじまります。
移転後すぐの環境ではピッキング作業時に商品が見つからない、全体の生産性が想定通りに出ない等の現象が通常よりも多く発生しがちです。 本格稼働開始から1~2週間程度は、運営体制に余力をもった状態での臨むとよいでしょう。
まとめ
倉庫移転は、単なる「場所のお引越し」ではなく、物流全体の見直しや最適化にもつながる重要なプロジェクトです。十分な準備期間と、各フェーズにおける緻密な計画が移転成功のカギを握ります。 この記事で紹介したスケジュールやポイントを参考に、自社に合った移転計画を立て、スムーズかつ効果的な移転を実現してください。
事業の立ち上げや成長に伴い、最適な物流拠点や貸し倉庫をお探しの際は、「CRE倉庫検索」をぜひご活用ください。
CRE倉庫検索は、全国の賃貸倉庫物件を掲載し、利用者が簡単に目的に合った物件を見つけられるプラットフォームです。物件の詳細条件に基づいた検索が可能で、事業の成長や運営効率化も考慮した物件を探せます。倉庫の規模や施設の特性を詳しく調べたい場合や、特定の地域での倉庫探しが必要な場合にも、CREの検索機能が役立ちます。
「CRE倉庫検索」には、物流に関するお役立ちコンテンツを豊富に掲載していますので、ぜひご活用ください。