コールドチェーン(低温物流)とは?メリットや施設構築における注意点を解説
コールドチェーンとは、温度管理が必要な商品を、生産から保管・輸送・販売まで一定の温度帯で管理する物流の仕組みを指します。では、コールドチェーンについての理解は、なぜ今の物流現場で不可欠なのでしょうか。背景には、EC需要の拡大や、温度管理の高度化が求められる医薬品流通の変化があります。本記事では、物流分野に強みを持つシーアールイーが、コールドチェーンの基本的な概要やメリット、そして施設構築における注意点などを、詳しく解説します。
コールドチェーンとは
コールドチェーン(低温物流)とは
コールドチェーンとは、生鮮食品や冷凍食品など、低温管理が必要な商品を所定の温度(低温、冷蔵、冷凍)を保ったまま管理して、流通させる仕組みです。「低温ロジスティクス」や「生鮮SCM(サプライチェーン・マネジメント)」とも言われています。
特に、食品や医薬品のカテゴリーでは必要不可欠な仕組みであり、常温物流では実現できない広域範囲への配送や、長期保存などが可能になります。この仕組みにより、消費者は高品質で安全な商品を受け取ることが可能になります。
近年では、新型コロナワクチンの流通において、コールドチェーンが注目を浴びました。例えば、殆どのワクチン製品は、2℃から8℃といった温度帯で保管しなければならず、サプライチェーン全体を通じた温度管理が不可欠となっています。
コールドチェーンがもたらすメリット
以下では、コールドチェーン導入がもたらすメリットついて解説します。
食品の廃棄ロス削減
コールドチェーンの進化により、食品の廃棄ロスの削減が可能です。食品の流通や加工、保存過程では、適切な温度管理を行わないと品質が劣化し、消費に適さない状態になってしまうことがあります。また、コールドチェーンは低温を一定に保ちながら輸送・保管する物流システムであるため、本来の販売期限に従い流通させることが可能になります。身近な例として近年スーパーマーケットやコンビニ店舗などで冷凍食品の棚が増えていることが挙げられます。
商圏の拡大
コールドチェーンの整備によって温度管理しながら輸送することができれば、品質を保ちながら遠方にも商品を運ぶことが可能です。近年インターネットを使用した商取引の拡大影響もあり、これまで販路を限定されがちであったメーカー企業であっても山間部や離島などへの商品流通も可能となりました。さらには国内だけでなく海外へ販路を広げることもでき、特にASEANなどの生鮮・冷凍食品の需要が高いエリアへの参入も可能になっています。
コールドチェーンの現場を支える2社が抱える現場課題とは|事例も踏まえて解説
コールドチェーンは、生活に密着したインフラである一方、その現場では今、深刻な人手不足や作業環境の厳しさといった課題が顕在化しています。以下では、人手不足の現状や、コールドチェーンの現場を支える2社(日清食品冷凍株式会社、株式会社ヒューテックノオリン)の取り組みを通じて、業界が直面している課題とその打開に向けた方向性を解説します。
コールドチェーンの人手不足の現状
すでに人手不足が常態化している物流業界において、高齢化の進行や若年層の就業離れ、長時間労働といった背景から、ドライバーや構内作業員の確保が年々難しくなっています。パートの時給の変化(三大都市圏、リクルート平均時給調査による)をみると、倉庫内で荷物の積み下ろしや搬送を担うフォークリフトオペレーターの時給が高騰しており、2023年時点では主要都市圏で1,350円を超え、ドライバーの時給を上回る水準になっています。その中でも、コールドチェーンの現場は特に人手不足が深刻です。低温管理が必要な商品は、マイナス20℃前後という極めて低温の環境下での作業が求められるため、身体的な負担が大きく、労働条件の厳しさから他の現場以上に人材確保が難しくなっているのです。
2社が取り組むコールドチェーン現場の人手不足解消策
コールドチェーン現場の人手不足に対応するため、各社では限られた人員で物流を維持するための対策に力を入れています。中でも重視されているのが、パレット規格の標準化です。自動搬送機器などを効果的に導入するには、扱うパレットの仕様を統一する必要があり、これが効率化の前提となります。たとえば日清食品冷凍株式会社では、マイナス20℃の冷凍倉庫内における出荷業務を、パレット単位で完結させる仕組みを整備し、人手を介さない自動搬送の実現を目指しています。その前提として、出荷時のパレットを11型に統一し、納品先にも同様の規格対応を依頼することで、上流から標準化を進めています。一方、株式会社ヒューテックノオリンも自動倉庫による保管・出庫の効率化を進めており、将来的なパレット規格の一本化に備えて11型対応設備を整備しています。省人化とパレット標準化を一体で捉え、継続的に現場改革を進めているのが各社の共通した姿勢です。
改善が進むコールドチェーンの今
近年、物流業界では様々な課題を背景に、コールドチェーンの運用効率や品質管理の改善が進んでいます。
冷凍・冷蔵トラックのレンタル活用

コールドチェーン物流において、温度管理が徹底された車両の確保は非常に重要です。しかし、必要な時に適切な冷凍冷蔵トラックを自社で保有・管理するのはコストや手間がかかります。こうした課題に対し、冷凍・冷蔵トラックのレンタルサービスが注目されています。たとえば株式会社A-TRUCKでは、冷凍・冷蔵EVトラックを必要なタイミングで貸し出すことで、物流波動による車両不足やコスト負担の課題を解決しています。とくに需要が集中する夏季や年末には生鮮食品や医薬品の輸送で活躍し、逆に閑散期にはレンタルを抑えることで無駄な維持費を削減できます。さらに、レンタル車両は最新技術を取り入れた高性能モデルが増え、庫内温度の精密な管理や冷却効率の向上が進んでいます。その証拠に催事などのイベントでも冷凍・冷蔵庫として使用されることもあるほどです。
※株式会社A-TRUCKの冷凍・冷蔵トラックの一例
温度モニタリングやIoTによる見える化と効率化
従来は、ドライバーの目視や簡易センサーによる確認が主流でしたが、昨今ではIoTやクラウドを活用したリアルタイム温度モニタリングが広がりつつあります。例えば、IoTセンサーを冷蔵トラック内に配置すると、輸送中の温度データをリアルタイムで収集および分析することができます。このシステムによって、温度変動が規定範囲を逸脱した場合には即座にアラートが送信され、食品の品質劣化や廃棄のリスクを未然に防ぐことが可能です。IoTを活用したコールドチェーンの仕組みは、近年のDX化の流れと一致しており、物流業界全体の変革を進める重要な要素となっています。
コールドチェーン施設を構築する際の注意点
コールドチェーン施設を構築する際には、効率的な運用とコスト削減を目指した注意深い計画と設計が不可欠です。以下では、注意すべき3つのポイントについて解説します。
扉の大きさ
繊細な温度管理が求められるコールドチェーンの施設は、扉の開放による外気の侵入によって温度や湿度に大きな影響を与えます。通常、倉庫では搬入車両のために扉を大きくしますが、コールドチェーン施設では庫内の冷気の流出量と外気の流入量を考慮し、扉は搬入に最低限必要なサイズにしておくことが重要です。
また、扉の大きさが搬入する商品のサイズに合わないと、商品が傷ついてしまうほか、取扱時にトラブルが発生するリスクが高まります。例えば、パレット単位で荷物を扱う物流システムでは、フォークリフトや搬入用台車がスムーズに扉を通れることが求められます。もし扉が狭すぎれば、人力での荷物運搬が増え、効率が大幅に低下するでしょう。このような事態を避けるために、扉のサイズや構造を目的に応じて最適化することが必要不可欠です。
動線
コールドチェーン施設では、外部に漏れる冷気の流れや冷熱の循環の工夫を取り入れた倉庫内の導線づくりも重要です。例えば、作業者が頻繁に行き来するエリアを最短距離でつなぐレイアウトを採用することや、搬入エリアと搬出エリアを分けて設計することで、作業効率性と温度管理の適切さを両立する動線づくりを心掛けましょう。また、倉庫内で常温商品も管理する場合は、冷蔵・冷凍倉庫からの出入りで流出する冷気をうまく活用し、常温部分の室温管理をすることも効率的です。
メンテナンス性
コールドチェーン施設をよい状態で稼働させるためには、日々のメンテナンスも大切です。特に、冷凍機フィルターの目詰まりやビニールシートの破損、冷媒の漏れが見られる際は適切に対処しましょう。また、冷凍機や冷蔵庫がアクセスしにくい場所に設置されている場合、作業スペースの狭さや設備の配置によって点検や修理が困難になることがあります。このような状況下では、メンテナンス効率が悪化し、修理のためのダウンタイムが長期化してしまう可能性があります。メンテナンス性を考慮した設計は、設備の長寿命化に寄与しますので、定期的に必要な点検や修理が行いやすい環境を整備することが重要です。
まとめ
コールドチェーンは、適切な温度管理によって生鮮食品などの鮮度を長期間保ち、常温では管理できない商品をより広範囲に配送するためになくてはならない低温物流システムです。コールドチェーンの導入目的や導入後のコストを明確にして、導入を検討してみましょう。
また、コールドチェーン施設の導入を検討する際は、貸し倉庫の賃貸情報サイト「CRE倉庫検索」をご活用ください。冷蔵冷凍倉庫を探すことはもちろん、自社に合った冷蔵冷凍倉庫が無い場合、BTS型を建てる相談をすることも可能です。また、周辺の労働人口やBCPに関わるハザードマップなどの情報も踏まえた倉庫の提案もいたします。お気軽にご相談ください。