棚卸差異が起こる原因と対策｜差異を減らすためにすべきこととは
棚卸差異とは、倉庫などの在庫管理において実際に保管している在庫数と、帳簿やシステム上で把握している在庫数の2つの間に発生する差異のことをいいます。
この差異は企業の在庫管理精度や業務オペレーションの問題を可視化する重要な要素です。
本記事では、物流分野に強みを持つシーアールイーが、棚卸差異の発生原因と企業に与える影響、それに対する対策・改善策まで幅広く解説します。
棚卸差異の種類
棚卸差異には、数量差異と品質差異の2種類があります。数量差異は、在庫の数が足りない、または余分にあるという状態を指します。一方、品質差異は、在庫数が合っていても破損や不良があり、販売可能な良品に含められない状態を指します。次のセクションからは、数量差異の発生要因について解説します。
棚卸差異の発生原因
棚卸差異が起こる背景には、さまざまな要因があります。ここでは代表的な原因を取り上げます。
庫内作業時のヒューマンエラー
庫内作業におけるヒューマンエラーは、入荷時・保管時・出荷時のそれぞれのタイミングで起こり得ます。
入荷時であれば、検品のミスや商品の数量・品番の入力ミスにより誤った情報がシステムに入力されることにより発生し、保管時は、棚入れやピッキングなど在庫数が変わるタイミングで記録ミスなどにより発生します。在庫を保管するロケーションの指定を誤ってしまった際には、倉庫全体の数量は一致しているもののロケーション単位で差異が生じます。また、出荷時には出荷指示と異なった品番の商品・数量を誤って出荷してしまう誤出荷のケースがあります。
作業を行うのが人である限りヒューマンエラーの発生をゼロにすることは非常に困難です。運用ルールが適切に履行されているかなど日々の運営の積み重ねが重要です。
在庫管理システムとの連携エラー
倉庫管理システム（WMS）と会計システム、もしくはフロントエンドの販売システムなど複数のシステムを連携させている場合、それぞれの同期が不完全だと棚卸差異が発生します。
発生原因としては、そもそも設計仕様に不備があるケースが多いと言えます。現場のオペレーションとシステム仕様の前提が食い違っていたり、システム外で発生する作業の運用を考慮していない等で差異が生まれてしまいます。その他、連携相手のシステムに更新や仕様変更があった場合は、それまで問題が無かった連携が上手くいかず、エラーが出てしまうこともあります。
適切な連携のためには、定期的なシステムメンテナンスとテストが欠かせません。また、導入前の要件定義や運用フローの確立も重要なステップです。
棚卸差異が及ぼす影響
損失計上と営業利益の低下
棚卸差異は在庫損失として計上されるケースが多く、直接的に企業の利益を押し下げる要因となります。特に差異の数が大きい場合には、営業利益や最終損益に大きなインパクトを与えてしまいます。決算期に大きな差異が判明すれば、社内外における企業の信用にも影響を及ぼしかねません。
キャッシュフローの悪化
帳簿上の在庫数が実際の在庫数と異なると、適切な量を発注することができず、過剰発注のリスクや余計なコスト負担も上乗せされる可能性が高まります。在庫を過剰に抱えてしまった場合、その分だけ資金が在庫という形で固定されることになり、財務体質を圧迫するだけでなく、資金繰りに余裕がなくなる場面も少なくありません。
欠品による販売機会損失
実際には在庫があるはずなのにシステム上は在庫切れと表示される、あるいはその逆のケースが発生し得ます。いわゆる欠品のアラートが誤って出てしまうと、受注機会を逃すなど、販売機会の損失につながります。一度顧客を失うと、次回の販売機会にも影響が及ぶため、欠品情報の精度は販売戦略において極めて重要です。
顧客満足度やブランドイメージへの影響
棚卸差異によって欠品が増えると、顧客からのクレームや不信感を招きやすくなります。これが繰り返されるとブランドイメージが悪化し、長期的な売上低下につながる可能性があります。企業としては販売機会だけでなく、信用も失いかねない状態に陥ることも懸念されます。
棚卸差異率の把握
棚卸差異率（在庫差異率）は以下の計算式で求めることができます。
計算式 棚卸差異率＝（実際の在庫数－帳簿上の在庫数）÷帳簿上の在庫数
例）実際の在庫数が95個、帳簿上の在庫数が100個の場合
（95－100）÷100＝-0.05 → 差異5%
この差異率が少なければ少ないほど適切な在庫管理がされていると言えます。
算出した現状の差異がどの程度の損失または過剰価値を持つのかを把握するためには、この差を数量ベースで把握した後、単価や仕入コストを掛け合わせて金額を算出しましょう。こうして算出した棚卸差異による事業への影響の実態を把握し、棚卸差異率がより低くなるよう事前の対策や改善策を実施することが重要です。
棚卸差異を抑えるための対策
棚卸差異を最小限に抑えるためには、現場の体制整備やシステム導入など総合的な取り組みが重要です。
在庫管理は企業の競争力を左右する重要な業務であり、棚卸差異を適切に制御するための対策を計画的に実施する必要があります。ここでは、具体的に取り組むべきポイントを紹介します。
業務ルールの徹底とマニュアル化
ヒューマンエラーを最小化するためには、作業手順をマニュアル化し、ルールを厳守する文化を定着させることが不可欠です。スタッフが交代しても同じ品質で作業できるよう、ロケーションの指定や伝票の記入方法、システム入力フローなどを標準化しましょう。
研修や定期的な教育プログラムの実施により、現場レベルの在庫管理精度を底上げすることも可能です。
定期的な棚卸調査の実施
棚卸を年に1回だけ行う企業もありますが、棚卸差異に起因する事業リスクを最小化させるために、商品カテゴリごとにスケジュールを分散させ、小規模な棚卸を定期的に実施する方法が選ばれることもあります。
小まめに棚卸を実施することで、差異が発生した際に原因を絞り込みやすく、迅速な是正措置を講じられるというメリットがあります。
WMSのリプレイス
差異発生の原因でも触れたようにWMSと他のシステムがリアルタイムに連携ができなかったり、物流の高度化によって現行のWMSの仕様では対応しきれなくなってきた場合は、WMSを別のシステムに載せ替える（リプレイス）ことも手段の一つです。WMSのリプレイスによって課題であったリアルタイムな在庫状況の連携などが実現されれば、棚卸差異の低下にも寄与します。
また、WMSのリプレイスにはシステムに関する専門知識とともに、現場のオペレーション知識も必要です。技術やオペレーショントレンドを取り入れるという点で第三者を交えた検討も有効です。
当社シーアールイーのグループ企業であるストラソルアーキテクトでは、WMSの導入支援からサプライチェーンの戦略立案、物流センターの構築支援などを行っています。WMSの載せ替えのほか、物流構想の見直し等をご検討の場合はお気軽にご相談ください。
棚卸差異が発生してしまった時の会計処理
現場の数え漏れや記録違いを放置すると、経理上の数字に大きな誤差が生じ、決算処理や原価計算、会計上の棚卸資産額に支障をきたす場合があります。財務諸表では、小さな差異でも累積すれば大きな金額となるため、定期的な在庫調整が必要です。棚卸差異が見つかった際は、帳簿上の在庫数を実際の在庫数に合わせるために適切な勘定科目で仕訳処理を行いましょう。
在庫原価を修正し、当期の損益に反映させる仕組みの一環です。
まとめ
棚卸差異を正しく把握し、迅速に対策を打つことは企業の経営安定に欠かせません。日頃から在庫管理の精度を高め、差異を最小化する取り組みを続けることが重要となります。
棚卸差異は、帳簿と実際の在庫が一致しないという単純な現象ですが、その影響は財務面や顧客満足度、企業ブランドまで幅広く及びます。原因の多くは人的ミスやシステム管理の不備に起因しているため、精度を上げるための具体的な施策を行うことで改善が期待できます。
在庫管理システムの導入や定期的な棚卸調査など、組織として長期的に運用できる仕組みを整えることが大切です。適切に棚卸差異をコントロールし、無駄なコストや信用損失を未然に防ぐことで、安定した事業運営につながります。