(レポート)脱炭素・デジタル社会の物流ビジョン ~「スーパーシティ」の物流像とSDGs/再エネ/IoT・スマート物流~
私たちが追い求める「あるべき社会」とは
今後、私たちが追い求める「あるべき社会」とはどのような姿でしょうか。以下の順番で考えてみました。
①まず「持続可能で公正な、あるべき社会」のイメージを自由にふくらます
②それを夢でなく現実とするため、いま、物流に関わる私たちがなすべきことを考える
③バックキャストで、そのギャップを埋めるための課題と今後を展望する
今回は、「あるべき社会」の一例として、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)と内閣府「スーパーシティ構想」をもとに要件を固めていこうと思います。
スーパーシティと物流・ロジスティクス
第1章は、「あるべき社会」としての「スーパーシティ」と物流・ロジスティクスです。
「スーパーシティ」とは、最先端技術を活用し、第四次産業革命後に、「国民が住みたい」と思うより良い未来社会を包括的に先行して実現するショーケースを指します。従来の「スマートシティ」がエネルギーや交通など、個別分野での取り組みにとどまっていたのに対し、「スーパーシティ」は生活全般を対象とします。
私は「スーパーシティ」の概念を、DX(Digital Transformation)とSDGsを掛け合わせたイメージでとらえています。そこには「健康」「教育」「エネルギー」「経済成長と雇用」「インフラ・産業イノベーション」「持続可能な都市」「持続可能な消費と生産」「気候変動対策」など、SDGsの多くのゴールが内包されているからです。
「スーパーシティ」構想が設定する、物流関連目標例と取り組み状況は以下の通りです。
※「スーパーシティ」構想の実現に向けた有識者懇談会(最終報告)より講師作成
また「スーパーシティ」におけるデータ連携基盤は以下のようなイメージです。スマートシティと異なるポイントは、国家戦略特区データ連携基盤が標準API(Application Programming Interface)によって都市内で各種サービスと連携するだけでなく、他の都市同士とも相互接続できる点にあります。
※内閣府、 「スーパーシティ」構想について より引用
「スーパーシティ」構想に全国から寄せられた提案のうち、ベストプラクティスは「つくばスーパーサイエンスシティ構想」ではないかと私自身は感じています。特に、現実世界をデジタルデータ化し、サイバー空間で様々なシミュレーションにもとづいて実空間の最適コントロールを可能にしようという「デジタルツイン」構想は、DXの究極点ともいえ、安全で持続可能な都市空間をつくる上でとても重要でしょう。
※スーパーシティ区域の指定に関する地方公共団体からの提案内閣府 地方 より引用
※スーパーシティ区域の指定に関する地方公共団体からの提案内閣府 地方 より引用
脱炭素・デジタル社会の前提 ~再生可能エネルギーで「EX」!
「スーパーシティ」の実現は重要ですが、そこで使われるエネルギーはすべて「再生可能エネルギー」でなければ意味がありません。第2章では、脱炭素・デジタル社会の前提となる、再生可能エネルギーによるEX(Energy Transformation)の実現について語ります。
現在、政府はエネルギー基本計画の見直し中で、再生可能エネルギー供給比率を旧計画よりも拡大し、2030年度には電源構成のうち36~38%まで高めようという動きがあります。企業も動きを加速しており、たとえばYahoo! JAPANは、「2023年度に100%再生エネルギー化する」というチャレンジ宣言を出しました。
再生可能エネルギーの中で今、期待されているのは「洋上風力発電」です。「洋上風力の産業競争力強化に向けた官民協議会」は昨年末、洋上風力発電量を2030年までに1000万kWh、40年までに3000万~4500万kWh(大型火力・原発45基分)とする導入目標を掲げました。生産や供給サプライチェーン、地元との調整など課題も多いのですが、計画進捗に期待したいところです。
では再生可能エネルギーはどう送配電され、共有されるべきでしょうか。この問題を解決するのが「スマートグリッド」です。
「スマートグリッド」は、太陽光発電等の供給システム、送配電ネットワーク、IoT機器、蓄電設備、データ保存装置、機器保守管理システム、これらを管理するエネルギーマネジメントシステム(EMS)等から構成されます。
(出典)経済産業省『次世代エネルギー・社会システムの構築に向けて』
スマートグリッドにおける、分散型エネルギーモデルの構成要素は以下になります。多様なリソース・技術を連携することで、脱炭素・デジタル社会の神経・血管網となります。
(出典)分散型エネルギープラットフォーム事務局資料より
脱炭素・デジタル社会の物流・モビリティDX
第3章では脱炭素・デジタル社会の物流・モビリティDXについて触れます。
まずはMaaS(Mobility as a Service)です。様々な形式の移動サービスを一連の交通手段として統合、シームレスに利用可能にする交通・物流の近未来構想で、多くの「スーパーシティ」構想に取り入れられています。これが物流でもTaaS(Truck as a Service)として応用されることが期待できます。
(出典)『MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ』(日経BP)
自動配送車によるデリバリーは技術開発が進展しています。2021年2月には、ENEOSホールディングスが、ロボットスタートアップのZMP、デリバリースタートアップのエニキャリと連携し、自動配送サービスの実証実験を実施しました。
無人配送システムとしてはドローンも期待されています。ヤマトホールディングスは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)や米ベル社と連携し、ドローンによる貨物空輸の実現に向けて開発を進めています。またセイノーホールディングスは、2021年4月末に山梨県小菅村で、マルチコプター型のドローンを活用した配送サービスを実際にスタートしました。
輸配送トラックの脱炭素に関しては、佐川急便が2021年4月に、配送用の電気軽自動車のプロトタイプを公開。現在の約7200台を2030年度までに全てEVに転換する予定です。またアサヒGHD、西濃運輸、NEXT Logistics Japan(NLJ)、ヤマト運輸、トヨタ自動車、日野自動車などが、燃料電池(FC)大型トラックの走行実証を2022年春から行うことで、昨年合意しました。
モビリティDXにおいては、IoTの本格活用が不可欠です。V2X(Vehicle to X)という、「車両」(V)と「他の車両や歩行者、インフラなど」(X)との相互連携システムを用いた、物流や道路、気象、電力データなどを共有管理できるシステムが研究開発されています。
あるべき脱炭素・デジタル社会 by「物流DX × 物流SDGs」
最後の第4章では、物流DXと物流SDGsによる「あるべき脱炭素・デジタル社会」についてお話しします。
まず、「あるべき脱炭素・デジタル社会」での物流機能は、車両、交通インフラとネットワーク連携+ビジネスデータ連携により、下記のような姿に変貌すると予測します。
●EV/自動運転の時代に。各種車両、船舶等はIoTでネットワークに常時コネクト。OTA(Over The Air)でスマホのOSやアプリ更新同様、EVは購入後もソフトウェア更新で進化し続ける。
●貨物トラックは、運行/作業状況・位置情報のトラッキングに加え、様々なセンサ・カメラを駆使して、貨物情報、積載容積・重量(=空き具合)・温度・位置情報等の可視化、共有/荷主情報と連携しサプライチェーンを最適化。
●車両に加え、信号機・標識、電柱・街路樹、道路地下等に張り巡らせたセンサで、①渋滞・工事・事故/道路やインフラ施設の現在状況/天候/ランドマーク店舗や施設の新設・廃etc.の状況を検知、②国・自治体は道路等敷設・工事予定・結果を公開…以上によって、電子地図データを常に最新状況に自動アップデート/輸配送ルート最適化システムや信号機制御にフィードバックし渋滞緩和/災害時も即状況把握、避難と支援指示/天気予報、インフラのメンテナンス計画に活用
さて、具体的にSDGsを物流の諸活動にどうつなげるか。私の自己流ですがSDGsをマッピングしたテーマの落とし込みを下のように考えてみました。
成功する物流DX!
まとめとして、まず物流DXの成功に必要な要件は以下の通りです。
①UX(顧客体験価値)起点で、EX(従業員体験)と合わせ、物流DXの提供価値を設計する
②CX(Corporate Transformation)/SDGsまでを射程に、経営・業務・ITの三位一体で推進する
③一部の生産性向上・DX「チャレンジ」からのスタートもあり
④まずやってみる、ダメならやめるが成功するまで諦めない
⑤スモールスタートで成功を重ね、全社展開へ
⑥改善サイクルをアジャイルに回し「変わり続ける組織」になる
成功する物流SDGs – CX!
最後に、物流SDGsおよびCXの成功に必要な要件をまとめてみます。
①地球と社会の持続可能化に貢献する「正しいこと」を、パーパス(企業の存在意義・目的、使命)に設定する
②パーパス起点で自社の事業ポートフォリオを再編成する
③「正しいこと」をして競争力を確保でき、適正な利益を得られるビジネスモデルを、UX/EX視点で構築する
④ SDGsマッピングで、自社が貢献するゴールを具体的に狙い定め、KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)を設定・報告する
⑤業界、国・自治体はもちろん、国際連携も視野に仲間たちとともに闘う!
菊田氏執筆コラム掲載のお知らせ
今回のフォーラムの講演内容を補足するコラム記事を、講師の菊田一郎氏に執筆頂きました。
フォーラム開催時点ではまだ公開していなかった新たな情報も加えて再構成されております。
是非、あわせてご一読ください。
講師紹介
菊田 一郎 氏
L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト
(㈱大田花き 社外取締役、㈱日本海事新聞社 顧問、
流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問)
1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。
2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。
著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。
募集要項
日時 | 2021年6月22日(火) 15:00~16:00 |
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会場 | オンライン受講 (参加費無料) |
参加対象者 | 荷主・物流企業 様 |
参加費/定員 | 100名 |
本件に関するお問合せ
- お問合せ先:
- 株式会社シーアールイー マーケティングチーム
- 担当:
- 立原(タチハラ) 佐藤(サトウ)
- メール:
- leasing_mail@cre-jpn.com
- 電話:
- 03-5570-8048