スタッフコラム

脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part① 「スーパーシティ」の物流像とSDGs

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

◆てんこ盛り過ぎた講演の話を補足します…

去る6月22日にワタクシ、本稿と同じタイトルで第69回CREフォーラムの講演をさせてもらいました。準備でちょっと力みすぎまして、話せば90分はかかる濃密な資料を作りこんでしまい、無理やり45分で詰め込もうとしたのですが、そうは問屋が卸さず、多くの方に消化不良の思いをさせてしまいました。ゴメンナサイね。

ちょうど今月から数回、このコラム寄稿の機会をもらえたので、リカバリの意味も込めて、きっちり補足と解説を書かせてもらうことにしました。すでに文章でアップされているフォーラムレポートとかぶるところも若干ありますが、初公開新ネタも投入して再構成しますので、講演聞いてくださった方も初めてご覧になる方も、ぜひ、ご一読ください。

講演レポート 脱炭素・デジタル社会の物流ビジョン ~「スーパーシティ」の物流像とSDGs/再エネ/IoT・スマート物流~

あるべき社会の姿からバックキャスト

私たちが今、2030年に向けて目指すべき社会は、「脱炭素・デジタル社会」である――。
ここに議論の出発点を置くことに、多くの皆さんが賛同してくださるのではと思います。その根拠は、先般出たばかりの政府方針と合致すること、2015年に国連の全加盟国が参加し全会一致で承認された人類共通の指針/2030年のマスト達成ゴール集である「SDGs(持続可能な開発目標)」の大方針に整合していることです。

もちろんSDGsには「飢餓・貧困・不平等/教育・衛生・健康」など、よりベーシックな重点目標も多数ありますが、国内/物流にフォーカスするこの場では、この2点に的を絞り込むことをご容赦ください。

さてここで、その具体像についてゼロから「あるべき社会ってなに?」と議論するのは話が遠すぎる。そうだ、先人たちが作ってくれた先行モデルを活用しようと、私がたどり着いたのが、「スマートシティ」とその発展形である「スーパーシティ」、そしてそれらのベースとなった「Society5.0」の構想です。ここに描かれた「あるべき脱炭素・デジタル社会の理想形」から物流テーマを引き出して整理すれば、バックキャストで今、物流に係る私たちが採るべき策を見いだせるのではないか――そう思い至ったのでした。

スーパーシティと物流・ロジスティクス

「『スーパーシティ』構想の実現に向けた有識者懇談会」最終報告書には、この言葉が以下のように定義されています。

**************************************
「スーパーシティ」とは
◆最先端技術を活用し、第四次産業革命後に、国民が住みたいと思うより良い未来社会を、包括的に先行して実現するショーケース。

◆従来の「スマートシティ」がエネルギー、交通など個別分野での取組にとどまっていたのに対し、「スーパーシティ」は生活全般を対象とする。
(対象分野の例)
①移動、②物流、③支払い、④行政、⑤医療・介護、⑥教育、⑦エネルギー・水、⑧環境・ゴミ、⑨防犯、⑩防災・安全… 

◆住民が參画し、住民目線で 2030年頃に実現される理想の未来都市を丸ごと作ることを目指す。

**************************************

同報告に書き込まれた分野別の設定目標・現状の一覧から、物流関連項目を抜き出してまとめてみました(図表1)。「スーパーシティ」ではデジタル/ロボティクス技術の活用でどんな社会サービスを実現しようとしているのか、おおよそのイメージが浮かべられるのではと思います(物流・流通関連に絞ったのでエネルギー関連項目は抜いています)。

図表1 「スーパーシティ」構想が設定する物流関連目標例と取組状況

図表1 「スーパーシティ」構想が設定する物流関連目標例と取組状況

◆SDGsとスーパーシティ

物流以外の分野も含めてスーパーシティ構想とSDGsとの関連を見ると、以下のように多数のゴールが該当しています。
*SDG③健康 *SDG④教育 *SDG⑦エネルギー *SDG⑧経済成長と雇用 *SDG⑨インフラ、産業イノベーション *SDG⑪持続可能な都市 *SDG⑫持続可能な消費と生産 *SDG⑬気候変動対策 …などなど

…この意味で私としては、 
【 DX × SDGs ≒ Super City 】
と解釈できるのでは考えます。そのベースとなった「Society5.0基本計画」は、2015年のSDGs承認翌年の2016年に発出されたのですが、SDGsの諸目標を大幅に取り込んでいるからです。方やDXについては、社会的デジタルデータ連携のイメージを見ておきましょう(図表2)。

図表2 Society5.0におけるデータ連携基盤の全体イメージ

図表2 Society5.0におけるデータ連携基盤の全体イメージ

(内閣府「Society 5.0実現に向けたデータ連携基盤 現状と課題」より引用)

実はスーパーシティ構想も完全に上の枠組みをなぞったものになっているので、全体像をつかむにはこれで十分かと思います。できれば細かな項目も一通り目を通してください。こんなデジタル社会が実現できたら、確かに素晴らしいことですよね?(具体的な技術ポイントと応用法については次回以降に書きます)

講演ではここで、スマート/スーパーシティの稼働イメージとして、トヨタ自動車が富士の裾野に建設計画中の「Woven City」の動画をご覧いただきました。URLを上げておきますのでお時間あれば見てください。こんな人工都市に住みたいか否かは別として…。

脱炭素・デジタル社会の前提~再生可能エネルギーで“EX”!

さて、わが政府は「2050年にカーボンニュートラル実現」「2030年度の温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減」という意欲的な脱炭素(温室効果ガス=GHGにはCO2以外のガスも含まれますが、排出量と削減余地の大きい炭素を象徴として挙げています)方針を決定しました。

経産省他の「グリーンイノベーション戦略推進会議」では2020年12月21日の第4回会議で、今後このテーマで2030年、そして2050年にかけて成長が期待される産業として以下の14分野を挙げています。なんとその半分以上が、陸海空の物流に係るテーマなんです!(海事産業は洋上風発やアンモニアなど新エネ対応で沸き立ってます)

●エネルギー関連産業
①洋上風力産業(風車本体・部品・浮体式風力)
②燃料アンモニア産業発電用(バーナー/水素社会に向けた移行期の燃料)
③水素産業(発電タービン・水素還元製鉄・運搬船・水電解装置)
④原子力産業(SMR・水素製造原子力)

●輸送・製造関連産業
⑤自動車・蓄電池産業(EV・FCV・次世代電池)
⑥半導体・情報通信産業(データセンター・省エネ半導体/需要サイドの効率化)
⑦船舶産業(燃料電池船・ EV船・ガス燃料船等/水素・アンモニア等)
⑧物流・人流・土木インフラ産業(スマート交通・物流用ドローン・FC建機)
⑨食料・農林水産業(スマート農業・高層建築物木造化・ブルーカーボン)
⑩航空機産業(ハイブリット化・水素航空機)
⑪カーボンリサイクル産業(コンクリート・バイオ燃料・プラスチック原料)

●家庭・オフィス関連産業
⑫住宅・建築物産業/次世代型太陽光産業(ペロブスカイト)
⑬資源循環関連産業(バイオ素材・再生材・廃棄物発電)
⑭ライフスタイル関連産業(地域の脱炭素化ビジネス)

◆再生可能エネルギーへのEnergy Transformation[EX]

しかし! ここで重要な問題があります。上の期待分野の中で一番、私たちに身近な例として自動車産業を考えましょう。自工会の豊田章夫会長は昨年から再三、記者会見で短兵急なEV化への否定的発言を打ち出し、政府をけん制してきました。その中で筆者がショックを受けながらも説得力を感じたのは、「国内400万台の乗用車をすべてEV化するとしたら、その製造過程で莫大な電力を使い、夏季には原発10基分の電力が不足する」「化石由来の国内電力で製造した車はEUなど先進国から不利な扱いを受け競争力が落ちる」「それでもEV化を進めると言うなら、(化石由来電力中心の)エネルギー基本計画の抜本的な見直しが必要だ」とする主張でした。

その通り。グリーン事業をいくら強化しても、それが化石由来エネルギーで駆動していたのなら、意義が半減してしまう。「だからこそ!」化石由来エネルギー比率を劇的に削減し、再生可能エネルギー比率を爆速で高める必要があるのです。それがEnergy Transformation[EX]です。

従来のエネルギー基本計画は、2030年の再エネ構成比率を「22~24%」としていました。2018年度ですでに17%であったのに、これでは「日本はやる気ありません」と国際的に宣言していたようなもの。とんでもない話です。幸い、政府の方針転換を受けて、春以降、見直し作業が進められていまして、とりあえず「36~38%で調整中」と聞こえていたのですが、7/21に新エネルギー基本計画の素案が発表されました。「36~38%」のままでしたね……。もちろん一気に倍増というのは容易でないのは分かるけど、もうひと頑張りが欲しかった。SDGs/ESG、そしてパリ協定と、世界が今、これだけ脱炭素に躍起になっているのには理由があるんです。それが「ティッピングポイント」の存在です。

◆ティッピングエレメント/ポイントとは

「ティッピングエレメント」とは、気候変動が進行し、ある「臨界点」(ティッピングポイント)を過ぎた時点で、不連続的かつ急激な変化が生じ、大惨事を引き起こす可能性がある気候変動の要素を指します(環境省資料の定義より)。

IPCCによれば産業革命前と比較した世界の平均気温は、すでに現在までに約1度上昇しています(それだけでこんなに大雨が増えている!)が、このままではさらに上昇を続け、ティッピングポイントを迎える……それをエレメント別に見たのが図表3です。左側の囲みを見てください。西南極氷床、グリーンランドの氷、夏季北極海氷、山岳氷河は上昇度合が1.5℃あたりから融解の勢いを増し(すでに相当融け出している)、サンゴ礁は1.5℃上昇で90%、2℃上昇で99%死滅すると言われます。そして、一度ティッピングポイントを超えたら、もう戻れない。不可逆的に暴力的な負のサイクルに陥り、取り返しのつかない環境破壊が進む、とされているのです。だからパリ協定で「産業革命前と比較し2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求」としていた目標を「1.5℃以内」に改めようとの話も出ています。

図表3 その時、何が起こるのか~ティッピングエレメント/ポイント

図表3 その時、何が起こるのか~ティッピングエレメント/ポイント

(出典/環境省 地球環境局低炭素社会推進室「地球温暖化の動向について」)

問題は、2030年までに下準備を終えなければ「1.5℃」のティッピングポイントを超えてしまう=間に合わなくなる!ということなんです。放置すれば世界中の氷が融け、海面は2100年までに1m前後上昇するとの研究報告があります。その時、日本中の砂浜は消失し・海抜0m地帯は危機的状況に、モルディブとマーシャル諸島/米ホワイトハウス/ベネチアのサンマルコ寺院は海に沈み、インドネシアの首都ジャカルタは2050年に完全に水没……だと。北極海航路が使えるようになるぞ、と喜んでる場合ではないのです。

……私たちには未来の世代に、社会と生活が維持できる持続可能な地球環境を残して引き継ぐ/そのための準備は現在の世代でやり終える、という責務があります。そんな義務感・使命感などどこ吹く風/やってるフリだけでお茶を濁す化石のような粘土オヤジたちに対して、グレタ・トゥーンベリさんがあれだけ怒っているのは、「私たちの住む未来の世界を、これ以上壊さないで!」という人類の生存を賭けた叫びであるからです。耳をふさがず、傍観せず、形だけ・ポーズだけの「グリーンウォッシュ」「SDGs/ESGウォッシュ」ももうやめる。未来を正視し、堂々、前進するしかない!のです。     (つづく)

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執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト
(㈱大田花き 社外取締役、㈱日本海事新聞社 顧問、
流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問)

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。

著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。

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