インタビュー

日本冷蔵倉庫協会・土屋理事長に聞く業界の今|物流クロスオーバー【冷食物流編】

電気代高騰、人手不足、環境保全…課題に向き合い堅実で持続的な発展へ

電気代高騰、人手不足、環境保全…課題に向き合い堅実で持続的な発展へ

連載取材コラム「物流クロスオーバー」

 「物流企業と荷主業界の垣根を超えた相互理解、連携と問題解決を支援し、産業界全体の発展に寄与する」ことをミッションに走り出した「物流クロスオーバー」。前回に続き冷凍・冷蔵物流分野にスポットを当てる今回のゲストは、一般社団法人 日本冷蔵倉庫協会の土屋理事長です!
 同協会の会員事業所数は1,188 ※1、所管容積は国内の冷蔵倉庫の約2/3に及ぶなど、まさに国内コールドチェーンの「ノード」の大半をカバーする中心団体です。冷蔵・冷凍倉庫業界の現状と課題を全体視点でお聞きするのに、これ以上適切な方はない!と、取材班は喜び勇んで協会をお訪ねし、たっぷりお話を伺いました。
 現在までの業容推移から人手不足、倉庫老朽化、エネルギー危機への対応など喫緊の課題まで、具体的に語っていただいた内容を、以下にばっちりまとめてお送りします。
※1 2023年3月末時点
(インタビュー・企画構成/エルテックラボ 菊田一郎)

今回のゲスト 一般社団法人 日本冷蔵倉庫協会 理事長 土屋 知省 氏  一般社団法人 日本冷蔵倉庫協会

協会設立50年、食材・食品の扱い量は3倍に

(一社) 日本冷蔵倉庫協会 理事長 土屋 知省 氏

(一社) 日本冷蔵倉庫協会 理事長 土屋 知省 氏

本シリーズ第1回では冷凍食品メーカーの日清食品冷凍さんにインタビューしたのですが、冷蔵・冷凍食品業界はしばらく堅調な成長が見込めそうだと聞きました。それら荷主の商品の保管業務を担っておられる冷蔵倉庫業界の皆さんも同様かと想像しますが、まずは貴協会と業界全般の歩みと現状について教えてください。

土屋理事長  当協会は1973年に設立され、今年でちょうど設立50周年を迎えました。当時、高度成長期の終わりごろ、増大していた輸入食材を受け入れるため、冷蔵倉庫の庫腹の拡充が求められる中、政府の指導も受けて冷蔵倉庫事業者が当協会を設立しました。冷蔵倉庫の保管容積は、設立後2000年までは、水産物の輸入拡大や貿易自由化進展の流れで右肩上がりに成長しました。日本の人口がピークに達しつつあったからか、その後伸びが止まり、2008年くらいまでは足踏み状態になりました。それが最近は冷凍食品の需要拡大で流通系を中心に倉庫容積が増加しております。その中で事業者数は微減、事業所数は減少傾向が続き、規模の大きな冷蔵倉庫が増えていますね。

 会員構成をみると、9割以上が中小事業者で資本金5,000万円以下が特に多くなっています。現在の業界大手20社(所管容積)には、運送系で非会員の企業2社も含まれますが、これで国内全容積の4割程度を占めています。全般的な傾向としては、地球温暖化対策のため自然冷媒化を進めるなか、近年は電気代の高騰に悩まされ、設備投資や固定資産税等の負担が企業体力上、厳しい環境になっています。

図表1 冷蔵倉庫の容積と事業所数の推移(日本冷蔵倉庫協会提供)

図表1 冷蔵倉庫の容積と事業所数の推移(日本冷蔵倉庫協会提供)

なるほど、推移と現状がよく分かりました。一口に冷蔵倉庫といっても機能などの違いがあると思うのですが、なにかの分類法はあるのですか。

土屋理事長 当協会では、冷蔵倉庫のタイプを以下のように整理しています。

◆港湾型冷蔵倉庫:貿易港のそばで、輸入食材・食品を保管。主要港所在の都府県では、庫腹の約7割が臨港地区にある。
◆産地型冷蔵倉庫:野菜、果物の産地、漁港のそばで、収穫物・漁獲物を保管し、適時に出荷する。(例・北海道の鮭、ジャガイモ、タマネギ保管倉庫など)
◆流通型冷蔵倉庫:高速道路のインターチェンジ周辺に立地し、スーパー、コンビニに食品を配送する。

 また、貨物の回転率が年6回転以下、つまり在庫期間2か月以上のものは保管型、12回転以上が流通型、などと分けることもあります。

 これを地域別にみたデータによると、神奈川が最多で東京、大阪、兵庫、福岡、愛知と続きます。また寄託物の種類としては、ほとんどが農水畜産物の原料を含む食材・食品で、この50年で3倍に伸びました。近年、伸び率は鈍化していますが、2000年代に入り、冷凍食品が顕著に増加しています。加工の海外移転の影響から加工品の割合も増えました。12大都市別にみると、この3年の変化では、設備能力は上がった反面、回転数は下がっており、コロナ禍とウクライナ問題もあって在庫率は上昇していましたが、在庫調整が進んで現在はピークアウトした模様です。

 なお、ご参考までに、農林水産省による食料消費の将来推計によると、今後の人口減少・高齢化等により、食料消費総量は長期的に減少していく見込みです。一方、加工食品の利用や外食などのライフスタイルの変化により、1人当たりの食料支出は増加見込みです。ただし全体としては、人口減少の影響が大きく、食料支出総額は微減の傾向になると思われます。

 足元では、コロナ期の巣ごもり需要の増加もあって、冷凍食品の需要が伸びてきたわけですが、今後もバラ色かと言うと、用心が必要だと思っています。これから期待されるのは、インバウンド需要の復活です。寿司チェーン店の刺身もほぼ冷凍食材ですからね。

図表2 食糧支出総額と1人当たり食糧支出の将来推計

図表2 食糧支出総額と1人当たり食糧支出の将来推計

進む倉庫の老朽化、フロン冷媒の入れ替え

では現在から将来に向けての課題に移りたいと思います。1つは倉庫の老朽化の進展具合と、フロン類から自然冷媒への入れ替え問題について、教えてください。

土屋理事長  会員事業所の築年数をみると、地域により拡充の時期が異なるため老朽化の進み具合が異なります。東京、千葉、愛媛などは40年超の割合が増えています。原料保管は臨港地区の立地が有利ですが、立て替えのためのB&S(ビルド&スクラップ=倉庫は現在の在庫を移さねばならないので、先に建ててから壊す順になる)用地などはかえって少ないなどの難点があります。50年経つから建て替えだ、となるかというと、いろんな考え方があり一概には言えません。今後の事業継続を見極めていく場合などもあると思います。

 冷媒については、当初アンモニアを使用していましたが、事故が多く発生したため、フロンへの切り替えが進められました。ところが、大気中に放出されたフロン※1がオゾン層を破壊することが分かり、1987年のモントリオール議定書※2で、規制物質ごとに定められたスケジュールに従って生産量・消費量を段階的に削減・全廃することが決まりました。同時にフロンは地球温暖化係数が高いため、政府の補助金を得て自然冷媒への転換が進められているのです。

 特定フロンは2020年に製造禁止になっており、今は残された在庫を使っている場合もあります。実際には2021年度末時点では、依然として46%が特定フロン※3R22であり、代替フロン(HFC※4)は安価なこともあり微増傾向にあります。フロン冷媒の切り換えも、倉庫をあと何年使うのかで判断が変わります。短期間なら高価な自然冷媒でなく、安価な代替フロンで(温暖化係数は高いから削減すべきだが)現在の設備を持たせようという人もあるわけです。

 根本的な解決策になるのが自然冷媒で、アンモニア・CO2、または空気を冷媒に使います。自然冷媒の設備に入れ替えると効率がよくなることが多いのですが、-50℃以下で使用の空気は機械が高価なのが難点ですね。

※1 フロン フルオロカーボンの略。炭素とフッ素からなる化合物で、冷媒や溶剤、スプレーの噴射剤などに使用される。 
※2 モントリオール議定書 オゾン層を破壊する物質の排出を削減するための国際条約。 
※3 特定フロン モントリオール議定書で規制対象となっているフロン。CFC-11、CFC-12、CFC113、CFC114、CFC115 
※4 HFC ハイドロフルオロカーボン(Hydrofluorocarbon)の略。オゾン層を破壊しないが、地球温暖化係数が高いフロン。 

太陽光発電の導入が拡大中

次に、冷蔵倉庫における再生可能エネルギーへの転換状況はいかがでしょうか。私は倉庫業界に向けて「設置可能なすべての倉庫に太陽光パネルを導入し、ゼロエネルギー倉庫にしよう!」と訴えています。冷蔵倉庫は使用電力量が大きいので全部を賄うことは無理ですが、購入量をかなり減らせると思います。

土屋理事長  冷蔵倉庫は、規模にもよりますが経費の1~3割が電力費なので、最近の電力代高騰の直撃を受けています。かつての太陽光パネルは重くて、屋根の強度が十分でない倉庫には設置が難しかったのですが、最近は軽量で載せやすい施工法も開発され、設置が容易になりました。政府の補助メニューも拡大され、自家設置自家消費や、PPA(Power Purchase Agreement)で屋根をPPA事業者に無償で貸し出すことで、PPA事業者が無償で太陽光パネルを設置し、発電した電気を使えるプランも普及してきました。これらによって冷蔵倉庫でも太陽光発電の導入が進んでいます。

 最近の導入事例によると、太陽光パネルとバッテリーを導入することで、使用電力の約23%を賄っているというものもあります。足りない分については、近隣の普通倉庫の使い切れない太陽光電力を回してもらう手もあると思います。近所なら送電ロスも減らせますしね。バッテリーはまだまだ高価ですが、全固体電池など技術開発により、今後単価が下がることを期待しています。

※PPA Power Purchase Agreement(電力購入契約) 

3K現場の回避へ、自動化・パレット化

続いてぜひお聞きしたいのが、冷蔵倉庫の厳しい労務環境下、今後の人手不足に備えた3K回避と物流作業の自動化、効率化への対策です。パレット化も大きな課題ですね。これらに関する動きはいかがでしょうか?

土屋理事長  最近の物流現場におけるパートの時給の変化(三大都市圏、リクルート平均時給調査による)をみると、フォークリフトオペレータ等の構内作業員が2023年8月で1,350円超と、ドライバーの時給を大きく上回っています。

 ご指摘の通り、冷蔵倉庫の現場は寒冷環境のため、人集めが厳しい状態になっています。また低温下ではグリースが硬化したり、結露が発生したりするため、自動化機器にも不利な条件があります。冷蔵倉庫に限るとマーケット規模が小さいため、製品開発が進みにくいことや、食品単価が安いため、投資の採算がとりにくいという問題もあります。

 それでも、一部企業では無人フォークリフトなど自動化機器の導入を鋭意進めているのと、とくに深夜の作業者には外国人留学生等を活用するケースが増えています。自動化、機器の開発等を後押しする政策の進展に期待しています。

 畜産物、水産物などは重いため、高度成長時代からパレット荷役を導入しており、今では、冷蔵倉庫内でパレットに載せていない貨物を探すのが難しいほどです。当初から1,200×1,000mmの12型パレットが主流で、現在も約73%が12型です(図表3)。

図表3 冷蔵倉庫で使われているパレットの規格

図表3 冷蔵倉庫で使われているパレットの規格

12型のサイズはどこから来たかと言うと、水産会社が使っていた昔の「トロ箱」に合っていたからだと聞いたことがあります。

土屋理事長 それが定着したものと言われています。

メーカーから商品が倉庫に届く際に、初めからパレットに積まれているのですか? 

土屋理事長 食品メーカーが商品をパレットに載せて倉庫に届けてくれるケースは、まだ少ないですね。メーカーが調達する原料にはよく使われています。

 冷蔵倉庫業界では倉庫の建物自体も、柱間間隔や通路、ラックなど、12型パレットに合わせて設計されている例が多いです。最近では、12型と11型パレット兼用で使える施設、ラック、自動化倉庫等も出てきています。

前回のゲスト、日清食品冷凍さんは11型でパレット出荷を開始されています。冷凍車の側壁は厚くて12型パレットを横2枚積めないので11型を選んだそうです。

続く問題は、メーカーからパレット輸送で届いたとしても、それを積み替えなしに倉庫に棚入れして保管にも使用する、一貫パレチゼーションにできるかだと思うのですが?

土屋理事長  従来はメーカーからパレットなしの直積みで入荷する商品を、軒先渡しで庫内用のパレットに手積みしてもらい入庫していました。それが初めからパレットで入荷するようになる場合、運用上の課題は、そのパレットを紛失させずに回収する管理ができるか否かです。パレット1枚は7,000~8,000円するため、紛失すると利益が吹き飛んでしまう。管理状態が信頼できない相手には渡せないので、パレットに積んでいても、手積み、パレットチェンジャーで庫内パレットに積み替えることになります。

 ですから今の冷蔵倉庫は多くの場合、「一貫」ではなく、倉庫内だけのパレチゼーションなんです。しかし、例えば10tトラックの荷役をパレット化することで、手作業で2-3時間かかっていたトラックの積み降ろしの荷役時間が30分程度で済むようになります。これによりトラックが2回転、3回転できるようになるといった効果が期待できるため、近隣同士のやりとりであれば、一貫パレチゼーションが可能になると考えています。そのためには、メーカー、卸、倉庫が連携して、レンタルパレットを活用することが最適ではないかと考えています。運用のルールと管理がしっかりしていますから。

 これまでメーカーがパレットに載せて届けてくれなかった理由のひとつは、トラックへの積載率が下がってしまうからでした。食品は安いのでコスト負担力がなく、とくに中小メーカーはパレットどころではない、という実情もあったでしょう。それをパレット化するためには、パレット荷役によって荷役時間、結果として全体の待機時間を短縮し、トラックの回転率を向上させるなど、積載率の低下を上回るメリットを生み出す仕組みを構築する必要があります。

 冷食メーカーの中には、グループの低温物流企業と連携して、確実なパレット管理を行える体制を構築している例があります。こうした仕組みが拡大していければと思います。

きめ細かな温度帯分類基準が適用へ

なるほど、現状と課題がよく分かりました。その他、今後の展開として何か新たな動きはありますか?

土屋理事長 はい、近々に冷蔵倉庫の温度帯の分類がよりきめ細かい基準に更新される予定です。これまでの温度帯区分は10℃刻みで、例えば-20℃が1つの区切りになっていました。しかし、冷凍食品は-18℃で十分に保存できます。1℃につき3%程度のCO2削減効果となり、この温度帯の商品の取扱いがもっとも多いので、この「2℃」の違いだけでも、大きな削減となります。さらに10℃刻みの冷凍の3つの温度帯全てを分割するので、合計でCO2排出が「14%」も異なると試算しています。

 また冷凍マグロの保管は、従来-50℃以下とされていましたが、東京海洋大学、青森と島根の産業研究所などの研究結果によると、天然マグロの場合、-45℃でも品質が保たれるとの結果でした。それなら-45℃帯の区分を設定すれば、CO2排出量を下げられるはずです。このようなことから、当協会から国交省に温度帯区分の変更を提案し、近く改正されることになりました。2024年4月から新基準が適用される予定です。

電気代が高止まりする今、それは大きな効果が期待できますね。当面は堅調なビジネス動向が予想される冷蔵倉庫業界ですが、油断は禁物とのお話も確かです。
人手不足や環境保全などの課題に対応しながら、今後も冷蔵倉庫業界が堅実に・持続的に発展されることを願っています。
本日はありがとうございました!

 

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト

㈱大田花き 社外取締役、流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。

著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。

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ロジスクエア久喜Ⅲ

ロジスクエア久喜Ⅲ

ロジスクエア久喜Ⅲは埼玉県久喜市にて開発予定のBTS型冷凍・冷蔵倉庫の対応可能な物件です。
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ロジスクエアふじみ野C棟

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ロジスクエアふじみ野C棟は埼玉県ふじみ野市にBTS型として開発予定です。
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