物流効率化法とは?背景から認定手続き、最新の改正ポイントまで総合解説
人手不足や消費者ニーズの多様化など様々な課題がある物流業界において、課題の解決を後押しする仕組みとして、発案・施行された法律に「物流効率化法」があります。
本記事では、物流効率化法の概要や施行背景、2025年4月から施行された新物流効率化法のポイントについて解説します。
物流効率化法とは
物流効率化法は正式名称を「物流の総合的な効率化の促進に関する法律」といい、1990年代後半に定められた仕組みをベースに、その後の改正により徐々に変化してきました。
この法律では、モーダルシフトや中継輸送、共同輸送などの推進を支援する制度が含まれており、物流に関わる企業における輸送手段の最適化や人手不足の改善、CO2排出の削減等を実現する一助となります。
また、輸送効率化以外にもDX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)の取り組みを後押しし、企業が新技術や環境配慮型設備を導入しやすいよう、認定制度と補助金・税制優遇の二段構えでサポートする仕組みも整備されています。
物流効率化法の目的と背景
物流効率化法がなぜ必要となったのか、その背景にある物流業界の現状や課題を掘り下げてみます。
物流業界は消費者ニーズの多様化やEC市場の拡大を背景に、輸送回数や配送ルートが急増している一方で、トラックドライバーの不足や労働環境の改善など多岐にわたる問題を抱えています。中でも深刻化しているのが、人材の確保と長時間労働の是正であり、こうした現状への対応が各企業に求められるようになりました。
こういった状況に対して「輸配送の合理化により流通業務の効率化を図りつつ、流通に伴う環境負荷の低減や省力化を図る事業」の促進を目的として定められたのが物流効率化法です。
物流効率化法の認定対象となる施策
物流効率化法では、大きく分けて輸送手段の最適化、施設と情報の集約、そして環境負荷低減に貢献する設備やデジタル技術の導入が認定の対象となる施策の柱となります。
対象となる取り組みは、国から認定を受けることで前述したように補助金や税制優遇などのメリットがあり、初期の導入コスト等を軽減することができます。
ここでは対象となる代表的な施策について簡単に説明します。
輸送網の集約
物流効率化法の重要な柱のひとつとして輸送網の集約があります。これは、従来は企業ごとにバラバラに構築されていた輸送ルートや物流拠点を、複数の荷主や物流事業者が連携して再編・統合する取り組みを指します。
異なる物流業者を使っていたり、拠点が点在していると配送ルートが複雑化し、輸送効率やコストが悪化してしまいます。これらの集約し、一本化することで積載効率を高めたり、配送ルートの重複を避けたりすることができ、全体の走行距離を削減し、物流の生産性向上と環境負荷の低減を同時に達成することを狙いとしています。
輸配送の共同化
輸配送の共同化は、輸送効率の向上という意味では前述した輸送網の集約と近しいですが、複数の企業が協力し、同じトラックやコンテナを共有して荷物を輸送・配送することで、物流資源を効率的に活用する取り組みを指します。
実際に共同化を進めることで、輸送コストや環境負荷の低減といった直接的なメリットに加え、納品時間の調整による効率的な配送、ドライバーの拘束時間短縮といった副次的な効果も期待されています。
モーダルシフトによる効率化
モーダルシフトとは、トラック中心の輸送を鉄道や船舶などに切り替える施策を指します。これにより、長距離輸送でのドライバー不足の緩和やCO2排出量削減を実現し、企業のコストカットにつなげることが可能です。
また、鉄道や船舶を活用する場合は一度に大量輸送ができ、中長期的に見れば燃料コストの抑制や、道路の渋滞緩和といった社会的なメリットも期待できます。荷主側から見れば、従来のトラック依存から脱却することでBCP観点でのリスク分散にもつながります。
認定を受けることによるメリット
物流効率化法による認定を受けると、以下のような支援を受けることができます。
補助金・財政投融資などの支援
認定を受けた取り組みに対して、設備の導入費や施設整備費の一部を国や自治体が補助する制度です。計画した取り組みに関する事業の運行経費の補助や、長期低利子・無利子貸付などを活用することができ、初期投資のリスクや資金繰りの不安を大きく軽減できます。
特定流通業務施設の整備促進
これは物流施設の設備や開発に関する税制や規制が一部緩和される仕組みです。例えば、市街化調整区域等で物流施設の開発を行う場合、事前に自治体との十分な調整が必要なものの、都道府県知事による許可を得る際に配慮がなされるようになります。(※1)
他にも、運営する倉庫に関係する固定資産税等の標準課税を軽減する特例措置もあります。当然、軽減される対象やその規模・条件にもよって効果は変わりますが、数百万~数千万円の減税効果が出るケースもあります。
これらの支援制度を活用することで、事業に必要な時間的・金銭的コストを抑えて事業を推進することができます。
※1.開発許可自体は物流効率化法による認定のほか、市区町村の条例による規定等を一定以上クリアすることでも得られる
2025年度の法改正で注目すべきポイント
2025年4月に施行された物流効率化法の改正は、物流分野の構造改革を一段と加速させる内容となっています。今回の改正では、単なる制度の見直しにとどまらず、企業に対する具体的な行動を促す仕組みが数多く盛り込まれました。ここでは、特に押さえておくべき4つのポイントを解説します。
DX・GX設備や車両等の導入支援
前段で触れた3つの代表的な認定対象の施策に加え、デジタルトランスフォーメーション(DX)およびグリーントランスフォーメーション(GX)の観点から、物流の効率化・脱炭素化に資する設備や車両等の導入を後押しする支援策が新たに追加されました。
具体的には、配送ルートの最適化を可能にするシステム、積載効率を可視化するIoT機器、さらにはEVトラックや水素燃料車などの次世代車両の導入に対し、財政融資が適用されるようになりました。
努力義務の追加
改正により、荷主や物流事業者に課される「努力義務」の範囲が大幅に拡大されました。従来は推奨事項とされていた取り組みが、実質的な法的責任として明文化されたことで、各企業には一層の対応が求められます。
例えば、モーダルシフトや共同輸配送の推進、さらにはデータ連携による業務の効率化などが努力義務の対象とされ、これらに消極的な姿勢を取る企業に対しては、今後社会的な評価が厳しくなる可能性も出て来ます。
特定事業者の設定
努力義務に続き、荷主・物流事業者における「特定事業者」の制度が明確化され、一定の規模以上の荷主や物流事業者が新たな規制の対象となりました。
この特定事業者には、輸送量や取引金額など一定の基準を満たす企業が該当し、国に対する中長期計画の提出や実施状況の報告などが義務付けられました。対象となるかどうかは事業規模や業態によって異なりますが、該当しているにもかかわらず、対応が遅れたり不十分な場合は国から勧告・命令が実施されることがあります。
まとめ
物流効率化法は、単なる物流コスト削減の枠を超え、業界全体の持続可能性を高めるために重要な法制度です。人手不足や環境対応といった構造的な課題に対して、官民が一体となって解決に取り組むための土台となるものであり、今後の企業経営においても無視できない存在となっています。
2025年の法改正により、努力義務の拡大や特定事業者制度の導入など、対応の重要性はこれまで以上に高まっているため、自社の物流戦略を見直し、再構築するきっかけとして認定制度や支援策を活用していきましょう。