危険物倉庫の市場と関わる基準と規制|危険物の定義までわかりやすく解説
危険物の保管には、法令にのっとった倉庫が必要です。それでは、危険物を保管できる倉庫とは、一体どのようなものなのでしょうか。
本記事は、危険物倉庫に必要な知識として、危険物倉庫の市場や、危険物の定義、危険物倉庫に関する規制や注意点について、詳しく解説します。危険物倉庫について正しく理解し、自社に最適な倉庫を見つける際にお役立てください。
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危険物倉庫需要の拡大
近年、サプライチェーンのコンプライアンス体制を強化する動きや、脱炭素化に向けたEV車の新車販売推進に伴うリチウムイオン電池の保管需要の増加などにより、危険物倉庫のニーズが高まっています。下記のグラフは国土交通省の倉庫統計季報の2019年6月時点以降の危険品倉庫の所管面積推移をまとめたものです。データからもわかるように、過去5年で3割近く面積が拡大しています。
危険物倉庫とは
危険物倉庫とは、特別な許可を得た危険物のための保管場所です。危険物による火災や爆発、有毒ガスの発生などを回避するため、法律の規定に則って整備する必要があります。
危険物の取り扱いが可能な場所は、以下の3つです。
・危険物を製造する「製造所」
・危険物を大きな指定数量倍数で保管する「貯蔵所」
・小さい指定数量倍数で扱う「取扱所」
危険物倉庫は貯蔵所に該当し、貯蔵所にはタンク式や地下タイプ、移動式タンクなどの種類があります。また、指定数量とは、消防法が適用される基準の数量を指します。危険物は、指定数量の何倍の量を取り扱うかによって、さまざまなルールが適用されます。指定数量については、後ほど詳しく解説します。
危険物とは
危険物は、消防法により具体的に定義されています。引火・発火する性質を持ち、火災・爆発・中毒などのおそれがある物質です。危険物と言えば、工業用の薬品などをイメージしがちですが、香水や、化粧品、ヘアスプレーなど成分によっては、まとまった数量保管で危険物として扱われることもあります。
危険物は、性質によって第1類〜第6類に分けられています。
第1類:酸化性固体 | それ自体は燃焼しないが、他の物質を強く酸化させる。可燃物と混合すると、熱や衝撃、摩擦により分解し、激しく燃焼させる危険性がある。 |
---|---|
第2類:可燃性固体 | それ自体が燃えやすい、あるいは40度未満の低温でも引火しやすいもの。燃焼速度が速く、消火が困難。 |
第3類:自然発火性物質及び禁水性物質 | 空気に触れると自然発火するもの。あるいは、水に触れると発火もしくは、可燃性ガスを発生するもの。 |
第4類:引火性液体 | 引火性のある液体。引火点250度未満。 |
第5類:自己反応性物質 | 加熱分解などによって、比較的低温度でも多量の熱を発生する、あるいは爆発的に反応が進行するもの。 |
第6類:酸化性液体 | それ自体は燃焼しないが、混在する他の可燃物の燃焼を促進するもの。 |
危険物の指定数量とは
危険物の指定数量とは、消防法の適用を受ける規定量です。指定数量は危険物の種類ごとに定められており、「倍数」という考え方で法令・条例の適用が変わります。
指定数量倍数とは、取り扱う危険物が指定数量の何倍かを示す数値です。計算結果が1以上のときに、消防法の適用対象となります。指定数量倍数が0.2〜1の場合は少量危険物となり、自治体の規制を受け、0.2未満なら基本的に規制は受けません。利用される場面が多い灯油やモーター油などが該当する「第4類引火性液体」の指定数量は、以下の通りです。
品名 | 指定数量 |
---|---|
特殊引火物 | 50L |
第1石油類 | 200L |
アルコール類 | 400L |
第2石油類 |
非水溶性:1,000L 水溶性 :2,000L |
第3石油類 |
非水溶性:2,000L 水溶性 :4,000L |
第4石油類 | 6,000L |
動植物油類 | 10,000L |
危険物を保管できる倉庫の基準
危険物を保管できる倉庫は、法律で基準が設けられています。以下では、順守しなければならない3つの基準を解説します。
危険物倉庫の「位置」に関する基準
危険物倉庫は、周辺からの安全確保が最重要です。火災・爆発等の災害が発生した場合に備えて、周囲にある重要施設や民家等の保安対象物に対して被害や延焼を防止するために確保しなければならない「保安距離」や、消防活動や延焼防止を目的に、危険物の指定数量倍数に応じて一定の空地を確保しなければならない「保有空地」などの基準が定められています。保有空地には、どのような備品も置くことはできません。危険物倉庫は、一棟あたりの面積が定められていることから、複数棟の建設が必要な場合がありますが、危険物倉庫が隣接する場合は危険物規制に関する政令の第10条第1項第2号(屋内貯蔵所の基準)※1で定めるところにより、空地を減ずることができます。
また、危険物倉庫は建設できる場所が明確に定められています。建設可能な場所は、用途地域の工業地域と工業専用地域です。危険物の種類や数量によっては、住居系地域の第2種住居地域や準住居地域、商業系地域の近隣商業地域や商業地域でも建設可能ですが、所管の消防への事前協議が必要です。
危険物倉庫の「構造」に関する基準
危険物倉庫の規模や構造は、以下のように厳しく定められています。
・軒高:6m未満で平屋
・床面積:1000平方メートル以下
・屋根:不燃材料(軽量金属板など)を用いる
・壁・梁・床など:耐火構造
・窓:防火対策を施す。ガラスは網入りを用いる
・天井:設けてはいけない
・床面:水の侵入や浸透を防ぐ構造、傾斜をつけて漏れた危険物を貯められるように「ためます」を設ける
危険物倉庫の「設備」に関する基準
危険物倉庫に必要な設備基準は、次の通りです。
・避雷設備:取り扱う危険物の指定数量が10倍以上の場合
・蒸気排出設備:引火点70℃未満の危険物を取り扱う場合
・警報設備:指定数量の倍数が10以上の場合
・明るさ・採光:危険物の取り扱いに十分な明るさを確保
・掲示板:危険物の類、品名、貯蔵最大数量、危険物保安監督者の氏名又は職名を表示
・消化設備:製造所等の区分、規模、危険物の品名、最大数量等により適応したもの
法律が定める基準以外にも、各自治体が条例で別途、ルールを定める場合があります。法律と条例を順守した倉庫の確保が重要です。
危険物倉庫に関するその他の注意点
危険物を取り扱う場合、倉庫の基準以外にも気をつけなければならない規則があります。たとえば、消防法の指定数量を超える量の危険物の取り扱いには、危険物取扱者などの有資格者と基準を満たす貯蔵庫が必要です。指定数量未満の危険物であれば、資格を持った者がいなくても取り扱えますが、市町村の条例に基づいた基準を満たす、少量危険物保管庫での管理や、消防署への届出が必要です。
危険物が被害を引き起こさないよう、規則を確認し、しっかり守って取り扱いましょう。
危険物を保管する倉庫の建築には申請が必要
危険物倉庫を新しく建築する場合、消防署や自治体に所定の届出が必要です。おおまかな手順は、以下の通りです。
・所轄消防署と事前協議する
・建築予定の自治体へ設置許可を申請する
・設置許可が下りれば許可証を受領し、着工する
・基礎工事完了後に中間検査を実施、「中間検査合格証」を受領する
・危険物倉庫の完成後、完成検査を申請する
・完成検査を受ける
・完成検査証を受領する
危険物倉庫は、自治体の設置許可証を受け取ってから着工しましょう。先に着工してしまうと、着工後に不備を指摘された場合、やり直しの工事が必要になります。危険物倉庫の建設には、さまざまな基準を満たす必要があり、おもに消防署のエリアや担当者によって基準が異なる場合があるため、消防署と連携を取り、慎重に進めることも重要と言えるでしょう。
危険物倉庫に関連する法令・条例6つ
危険物倉庫に関して、基準や規則を定める法律・条例は全部で6つあります。安全を確保するためにも、1つひとつが定める内容を確認しておきましょう。それぞれが定める内容を、簡潔に解説します。
1.消防法
消防法では、危険物を定義し、危険物の貯蔵や取り扱い、運搬方法などに関する規則を定めています。危険物関連の基本方針を示しており、細かいルールは「危険物の規制に関する政令」で別途定められています。
2.建築基準法
建築基準法は、用途地域の観点から危険物の製造や貯蔵量を規制します。用途地域とは、土地を用途によって13種類に区分した規制です。13区分のうち、危険物の規制がない用途地域は2つのみ(工業地域・工業専用地域)です。大半の用途地域は、建築基準法によって、危険物に関する規制を受けます。
3.都市計画法
都市計画法とは、開発に関する規制を定めた法律です。建築基準法と同様に、用途地域によって危険物の製造や貯蔵量を規制しています。細かく具体的な規制は、別の法律が規定します。
4.港湾法
港湾法は、臨港地区の土地利用を規定する法律です。臨港地区は建築基準法が定める用途地域の制約を受けません。そのため港湾法および、港湾法に基づく市町村条例が、臨海地区の区分や建築物の用途を規制しています。
5.火災予防条例
火災予防条例は、自治体が火災予防を目的として定める条例です。危険物を取り扱う設備や器具、取り扱い方法などを規定します。また、地域事情によって規制が必要なケースも定めます。
6.危険物の規制に関する政令
危険物の規制に関する政令は、消防法が定める危険物について必要な規定を、別途定めた政令です。届出が必要な物質の指定や指定数量も、危険物の規制に関する政令が定めています。
危険物倉庫以外で危険物を保管できるケース
危険物倉庫以外の場所で、危険物を保管できるケースもあります。ここでは、危険物倉庫以外で危険物を保管できるケースについて詳しく解説します。
危険物が指定数量以下
消防法は、指定数量という単位で危険物の保管場所や取り扱い方法を定めています。取り扱う危険物が指定数量以下であれば、危険物倉庫以外の場所でも保管しても大丈夫です。一例として、灯油は消防法が定める危険物に該当しますが、一般家庭で少量の灯油を保管しても問題にはなりません。
まとめ
消防法が定める危険物の保管には、基準を満たした倉庫が必要です。危険物倉庫は建設可能地域や建設位置、構造や設備など、細かく要件が定められています。安全に危険物を取り扱うためにも、法令・条例を順守した倉庫を手配しましょう。
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