物流倉庫のセキュリティ対策:リスクの種類や倉庫の選び方を解説
物流倉庫は企業の重要資産を保管する拠点であり、そのセキュリティ確保は企業活動の継続に不可欠です。商品や原材料を扱う倉庫は企業活動の根幹を支える拠点であり、一度のトラブルがサプライチェーン全体に影響する可能性があります。特に、近年はEC市場の拡大や個人情報を扱う荷物の増加により、セキュリティ水準を確保する重要性がますます高まっています。本記事では、物流分野に強みを持つシーアールイーが、倉庫に潜むリスクの種類と具体的な対策方法を幅広く解説します。セキュリティ対策を高める倉庫の選び方や実際の導入事例やコスト面、運用上のポイントもあわせて紹介します。
物流倉庫における代表的なセキュリティリスク
倉庫には多くの人や商品、そして情報が行き交うため、それぞれに関連したリスクを把握しておくことが重要です。
リスクごとに個別対応するのではなく、外部侵入防止、内部統制、システム防御、従業員教育を組み合わせた包括的な対策をとることで、予測しづらい多様なリスクに備えることができます。
不正侵入や盗難の危険性
物流倉庫は、高価な商品や企業の重要な資産を大量に保管していることから、不正侵入や盗難のリスクが高い施設です。家電製品や精密機器、ブランド品など換金性の高い商品を扱う倉庫では、外部からの標的になりやすい傾向があります。また、幹線道路沿いや工業地帯など人目につきにくい立地や、敷地が広く出入口が多い倉庫では、侵入経路が増えることでリスクが高まる場合があります。
不正侵入や盗難は、夜間や休日など人の出入りが少ない時間帯に発生しやすいと考えられがちですが、それに限りません。日中の稼働時間帯でも、トラックの入出庫や作業員の往来が集中する中で、第三者が作業関係者を装って敷地内に紛れ込む可能性があります。作業が同時多発的に進行することで、誰がどこにいるのかを把握しづらくなり、不審な行動が見過ごされやすい状況が生じます。その結果、侵入や物品の持ち出しに気づくまでに時間を要するケースもあります。
サイバー攻撃と情報漏洩リスク
現代の物流倉庫では、在庫管理システムや入出荷管理、発注・配送指示など、多くの業務がITシステムに依存しています。これらのシステムはネットワークを通じて外部と接続されているため、不正アクセスやサイバー攻撃の影響を受けやすい環境にあります。例えば、システムへの不正侵入やデータの改ざんが発生した場合、在庫数量や出荷情報が正しく把握できなくなり、業務の混乱や誤出荷につながるおそれがあります。また、顧客情報や取引先情報、商品データなどが外部に流出するリスクもあり、被害は倉庫業務にとどまらず、企業全体の信用問題へ発展する可能性があります。
さらに、ランサムウェア攻撃によってシステムが使用不能となり、入出荷業務が長時間停止するケースや、フィッシング攻撃によってIDやパスワードなどの認証情報が不正に取得される事例も増えています。物流倉庫では、商品発送のために氏名や住所といった個人情報を日常的に取り扱うため、こうした情報を狙った攻撃の対象になりやすく、情報漏洩リスクが常に存在している点に注意が必要です。
人的ミスや内部不正のリスク
物流倉庫におけるセキュリティリスクは、外部からの侵入やサイバー攻撃だけに限られません。日々の業務を担う従業員や関係者による人的ミス、あるいは故意による不正行為が発生する可能性もあります。例えば、操作ミスによる在庫データの誤更新や、誤った出荷処理によって本来外部に出るべきでない情報や物品が流出するケースが考えられます。また、業務上の権限や倉庫内の動線を把握している立場であることから、情報の持ち出しや物品の不正な搬出が周囲に気づかれにくい状況が生じることもあります。
倉庫は入出荷が頻繁に行われ、多くの作業者や車両が同時に稼働する環境です。そのため、人の入れ替わりや作業の集中によって管理が行き届きにくくなり、人的ミスや内部不正が発生・拡大しやすい特性を持っている点も、セキュリティ上のリスクとして捉える必要があります。
物流倉庫における、物理的セキュリティ対策
倉庫は外部との入出荷をする拠点であり、また多くの作業者が従事しているという特性上、建物や設備そのものに対する物理的な対策を強化することが、倉庫セキュリティの基本です。
フェンス・囲い・セキュリティゲートの導入
倉庫の敷地外周を物理的に区切るフェンスや囲い、セキュリティゲートは、物流倉庫における物理的セキュリティ対策の基本となる設備です。敷地の境界を明確にすることで、関係者以外の立ち入りを防ぎやすくなり、不審者や不審車両の侵入を抑止する役割を果たします。特に、フェンスやゲートが適切に設置されていることで、無断侵入が困難であるという視覚的な印象を与えられる点も重要です。これにより、侵入そのものを未然に防ぐ効果が期待できます。
監視カメラの効果的な配置と活用
監視カメラを設置する際には、外部からの侵入を抑止したいのか、倉庫内部での不正やトラブルを把握したいのかといった目的を明確にすることが重要です。目的が曖昧なまま設置すると、必要な映像が記録できず、十分な効果を得られない可能性があります。また、監視カメラは人の目による確認を補完する役割を持つため、作業者の動線や目が届きにくい場所を意識して配置を検討する必要があります。出入口や荷捌き場、通路の交差点など、状況把握が求められるポイントを優先的に押さえることで、限られた台数でも効率的な監視が可能になります。
一方で、多数のカメラを無計画に設置すると、映像の確認や管理が煩雑になり、運用負荷やランニングコストの増加につながります。そのため、最適な画角や設置台数を検討し、どのエリアをどの範囲までカバーするのかをあらかじめ整理しておくことが重要です。さらに、実際の運用を見据え、モニタリングシステムの操作性や録画データの保存期間、必要な映像を迅速に検索できるかといった点も考慮する必要があります。クラウド連携の有無なども含め、倉庫全体の運用に適した形で活用できるかを総合的に検討することが求められます。
入退室管理システムで権限を厳格化
物流倉庫では、すべての従業員や外部業者が倉庫内の全エリアに立ち入る必要があるわけではありません。そのため、業務内容や役割に応じて立ち入り可能なエリアを明確にし、必要な人だけが所定の場所へアクセスできるよう管理することが重要です。入退室管理システムでは、IDカードや認証情報を用いて人の出入りを制御する仕組みが多く採用されています。これにより、誰がいつ、どのエリアに出入りしたのかを把握しやすくなり、倉庫内の人の動きを可視化することが可能になります。
また、倉庫では人員の異動や配置転換、外部業者の入れ替わりが発生しやすいため、権限設定が実態と合わなくなるリスクもあります。異動や退職、契約終了といったタイミングに応じて権限を適切に見直さなければ、不要なアクセス権限が残り続けるおそれがある点にも留意が必要です。
倉庫内動線による対策
物流倉庫の敷地内には、庫内作業スペースに加え、事務所や休憩所、喫煙所など、用途の異なるエリアが併設されているのが一般的です。これらを無秩序につなぐのではなく、建物全体の動線を整理したうえで、人の移動経路を制御することも有効な対策の一つです。例えば、作業エリアと管理エリア、共用スペースの動線を分離し、意図しないエリアへ容易に行き来できない構造とすることで、立ち入り範囲を自然に限定できます。動線上に不可逆化ポイントを設け、一度通過すると別の経路を通らなければ戻れないようにする手法も、倉庫内の人の流れを管理するうえで有効です。
特に、ボックスタイプの倉庫や、エレベーター・階段を備えた多層構造の拠点では、階層ごとに動線を分ける設計がしやすく、動線管理による効果が発揮されやすいといえます。一方で、動線を限定する際には、災害発生時の避難経路が阻害されないよう、非常時の人の動きにも配慮した設計が求められます。
物流倉庫における、サイバーセキュリティ対策
不正アクセスやデータ漏洩を防ぐためには、在庫管理や発注、防犯カメラ、入退室管理などのデータを守る、最新のファイアウォール導入や不審な通信の自動検知・遮断が重要です。また、企業全体のITセキュリティポリシーを明確化し、倉庫に常駐するスタッフや外部業者が適切にルールを守れているかを定期的にチェックする体制や継続的な教育も不可欠です。倉庫で多いのはIDとパスワードの使いまわしによる、なりすましログインの可能性です。パスワードの定期的な変更という基本に立ち返ることは倉庫セキュリティにおいては有効です。
ファイアウォール・侵入検知システムの導入
物流倉庫で利用される業務システムやネットワークを外部の脅威から守るためには、ファイアウォールや侵入検知システムの導入が基本となります。ファイアウォールは、外部との通信を制御し、不正なアクセスや不要な通信を入口段階で遮断する役割を担います。これに侵入検知システムを組み合わせることで、通常とは異なる通信量や不審な挙動を検知し、異常が発生した段階で管理者へ通知することが可能になります。これにより、被害が拡大する前に状況を把握しやすくなり、迅速な初動対応につなげることができます。
一方で、こうした仕組みは導入しただけでは十分に機能しません。運用を続ける中で、通信ルールやセキュリティポリシーが実態と乖離したまま放置されると、防御効果が低下するおそれがあります。そのため、ポリシールールの定期的な見直しやシグネチャの更新など、導入後の継続的な管理が重要となります。
データ暗号化と定期メンテナンスの重要性
物流倉庫では、顧客情報や取引先データ、在庫情報など、機密性の高いデータを日常的に扱っています。これらの情報は、保存時やシステム間で送受信する際に暗号化しておくことで、万が一不正アクセスや情報流出が発生した場合でも、内容を読み取られるリスクを大きく抑えることができます。暗号化は倉庫内の基幹システムだけでなく、在庫管理や配送管理に外部のクラウドサービスを利用している場合にも重要です。クラウド環境では、通信経路の暗号化やデータ保管時の暗号化方式、セキュリティ認証の仕組みがどのように設けられているかを確認する必要があります。
また、システムを安全に保つためには、日常的な運用だけでなく、定期的なメンテナンスも欠かせません。ソフトウェアのアップデートやシステム点検を怠ると、既知の脆弱性が修正されないまま残り、攻撃の入り口となるおそれがあります。計画的に更新や点検を行い、常に最新の状態を維持することが、倉庫システム全体の防御力を保つうえで重要です。
セキュリティを考慮した物流倉庫の選び方
物流倉庫のセキュリティを考える際には、防犯カメラや入退室管理といった設備だけでなく、どのようなタイプの倉庫を選ぶかが大きなポイントになります。倉庫は大きく「一社専用倉庫」と「マルチテナント型倉庫」に分けられ、それぞれに特徴やセキュリティ上のリスクが存在します。ここでは両者の特徴から、セキュリティの観点で倉庫を選ぶ際のポイントを解説します。
一社専用倉庫(BTS(Build to suit)倉庫)、BOX型倉庫のメリット
高価なブランド品などを取り扱う場合、一社専用での倉庫利用がセキュリティ上、望ましいです。一社専用として検討する際に多いのがBTS倉庫やBOX型倉庫です。BTS倉庫は自社の運用を建物に組み込む余地があり、BOX型倉庫は倉庫を出入りするバースが限定できる特徴があるためどちらもセキュリティ観点において優れています。一棟まるごと自社単独の利用であれば、他社の作業員が倉庫内に出入りするリスクを排除でき、入退室管理も自社基準で徹底できるため、情報漏洩や内部不正のリスクを最小限に抑えられます。また、セキュリティ設備も自社仕様にカスタマイズしやすいことが利点です。
マルチテナント型倉庫のリスクと対策
マルチテナント型倉庫では、複数企業の作業員が同じ倉庫を利用するため、区画管理とアクセス制御を適切に管理することが重要です。セキュリティゲートの設置や各社専用の入退室管理システムの導入、区画間の遮蔽強化など、物理的・運用的な工夫が必要です。防犯カメラによる死角のないモニタリングも、マルチテナント型倉庫においては特に重要な対策のひとつです。こうした工夫により、マルチテナント型であっても一定水準の安全性を確保することができます。
まとめ
倉庫は企業活動を支える重要な拠点であり、外部・内部のリスクから守るためのセキュリティ対策が不可欠です。物理的防御とサイバーセキュリティの強化に加え、従業員教育や定期点検も組み合わせた安心・安全な倉庫環境を維持・強化することが重要です。
デベロッパーが開発する物流倉庫には、基本的な物理的セキュリティ対策は実装されています。そのうえで、自社の運用に照らし合わせ、必要な対策が実装された倉庫を選ぶことも、セキュリティ対策における重要なポイントです。例えば、一棟借り可能な倉庫や堅牢な構造を持つ物件を選ぶことで、より高い防御力を確保できます。
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