インタビュー

サンスターグループ 荒木室長に聞く、日雑物流のリアル|物流クロスオーバー【日用雑貨物流編】

日用雑貨業界の物流課題は山積、 発着荷主と物流の相互連携をもっと!

日用雑貨業界の物流課題は山積、 発着荷主と物流の相互連携をもっと!

連載取材コラム「物流クロスオーバー」

 「物流企業と荷主業界の垣根を超えた相互理解、連携と問題解決を支援し、産業界全体の発展に寄与する」ことを目指す名物企画、「物流クロスオーバー」。過去3回でお送りした冷凍・冷蔵物流シリーズに続き、今月からは日用雑貨物流に目を転じ、製・配・販・物のサプライチェーンを追いかけます。そのトップバッターとして今回は、オーラルビューティケア製品などで知らぬ人はない「サンスター」さんから、Logistics研究室の荒木室長をゲストにお迎えしました!
 同社は「常に人々の健康の増進と生活文化の向上に奉仕する」をグループ社是に幅広い製品を提供していますが、中核事業である健康・生活関連の日用雑貨業界において、物流高度化・共同化の推進に大きな役割を果たしてきました。それは「物流の2024年問題」などで物流の持続可能性が問われる今、ますます重要な使命になっています。
 荒木室長は業界リーダーの1人として様々な取り組みに挑み、期待を集める注目の人。その最新動向を詳しく聞き出します。ぜひご一読下さい!
(インタビュー・企画構成/エルテックラボ 菊田一郎)

今回のゲスト サンスターグループ Logistics研究室 室長 荒木 協和 氏  サンスターグループ

発・着荷主と物流が危機回避のためにすべきこと

サンスターグループ Logistics研究室 室長 荒木 協和 氏

サンスターグループ Logistics研究室 室長 荒木 協和 氏

世間一般でも「物流の2024年問題」の認知度は高まっているようです。先日「週刊SPA!」がその特集をするというのでインタビューを受けました(1月30日号に掲載)。

荒木室長  それだけ世の中の関心は高まっているんですね!

ただ、昨年までの2年間、国内物流需要は停滞し、トラック需給に余裕があったため、多くの荷主企業の危機感はさほど高まっていないように気もするのですが…。

荒木室長  そうなんですよ。私はいっそのこと一度、本当に物が運べなくなってしまった方がいいんじゃないか、と思うこともあるんです。今は身の丈に合っていない物流サービスを現場の対応と頑張りで何とか解決してしまっているので、危機感が高まっていない。海外のように、できないものはできない、ときっぱり断られた方が荷主も本当の物流の現実に直面し、本気で対策を取るのではないかと。

将来の危機を事前に回避できないのであれば、ご指摘通り「運べない」という現実を受け入れる方が早いかもしれませんね。

荒木室長  今回の物流危機について、政府資料で使われるNX総合研究所さんの調査によると、「2024年問題」の労働時間削減とドライバー数の減少で「2030年には輸送能力が34.1%不足する」と予測されています。この予測を分解すると次のグラフのようになります。これを補う対策の大方針としては、①物流サービスレベルを下げる(翌々日配送など)、②運行効率を上げて必要台数を減らす、③ドライバー数を増やす(運賃を上げ給料を上げる)、の3つしかないと思います。そのために発荷主、受荷主、物流の3者各層がそれぞれ打つべき具体的な対策を整理してみたのが図表1と2です。

 2024年問題対策なら①のサービス水準を下げて必要な台数・ドライバー数を減らすこと。ドライバー減少への対策なら②の運行効率・作業生産性を上げることであり、両方合わせて図のような具体策が考えられます。そのうち、発荷主である我々メーカーができる対策は、図中に赤字で①~④の番号を振った次の4つになります。

① 波動を押さえ平準化…連休前の出荷量調整で出荷量を平準化
② 納品時の作業生産性向上…荷下ろしを考慮した出荷を行う
③ 回転率・実車率・積載率を向上…発注コントロール ➡ 中ロットの共同物流
④ 納品時の作業生産性向上…ASN(出荷事前情報)➡ 伝票電子化・ノー検品

 これらの対策をすべて打ってもなお足りない部分は、運賃単価を値上げする、という総合的な対策が必要だと思います。

図表1 24年・30年に供給できるトラック台数の減少とそれぞれの対策

図表1 24年・30年に供給できるトラック台数の減少とそれぞれの対策

図表2 発・着荷主と物流会社の連携による物流危機の具体的な回避策

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<解決策①>出荷量の波動を押さえ平準化する

物流のピーク時には、どのような対策を講じていますか?

荒木室長  このうち①平準化に関して、当社で出荷量の波動を実際に調べたところ、ゴールデンウイーク前、お盆休み前、年末など年に数回、大きなピークができていました。とくに年末の大手卸店への納品では、12月後半、特に28日、29日の納品量がキャパシティを越え、現場では荷下ろしする場所も無い大変な状況になり、長時間の待機が発生していました。
 そこで、ピークを解消するため、メーカー物流を休んでいた大晦日の12月31日に運ぶテストを実施しました(受ける卸企業は365日稼働)。このセンターは入荷が4万ケースを超えるとキャパオーバーとなることが分かったため、1.5万ケース(10トン車約15台分)を休日に繰り延べ納品することで、物流ピークを解消しました。

 でも実は、卸店から小売店への出荷量はメーカーから卸の出荷量程、波動はないんです。

 では、なぜメーカーからの出荷量にこんなにも波動が出るのか。それはメーカーが土日・祝祭日に休むため、金曜や連休前、年末に出荷が集中し、ピークが生み出されていることが原因です。だから土日・祝祭日に納品を実施することで、この問題は解決できます。なお、メーカーは先に受注さえもらっておけば、会社は休みでも物流会社に休日出荷してもらうことは可能です。

 ただ、運送会社にはドライバーが交代で休める仕組みにしてもらわないといけません。また休日出勤手当を出すなど、給料を上げる必要があるでしょうね。

物流波動の原因については、よく「ブルフィップ効果」が指摘されていますね。市場の需要変動が小売、卸、メーカーと上流に反映されるたびに余分な安全在庫が上乗せされ、変化量が牛にあてる鞭のように跳ね上がって増幅される、という考え方です。
しかし、メーカー側が自己都合で過剰な出荷をしていたとすれば、問題はメーカー側で解決できるということですね。

荒木室長  もしもこのような山崩しによる平準化が各分野で進めば、現在のトラック数で2024年問題の解決につながる策になると思います。同様に、共同物流で貨物をまとめて積載率を上げると運賃も上がり、更に空くトラック便が出ます。

ドライバーの労働時間削減のため、発荷主が直接的にできることは、他にありますか?

荒木室長  難しいのは距離の問題か、時間の問題かの判断です。輸送距離を短縮するなら拠点を増やすしかありません。我々としては時間の観点からリードタイム延長を受荷主に求めてきましたが、日雑業界では卸売業の理解でリードタイム48時間が普及してきました。それなら中継輸送も可能になります。残る課題は待機時間の短縮で、現在取組中です。
 でもいろいろな対策を進めて、だいぶ減りましたよ! 先ほど挙げた平準化のための年末の休日配送でも車の集中を減らし、短縮の成果が出せました。平準化の努力を続ければ、何とかできそうです。

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<解決策②>納品時の作業生産性を向上させる~荷降ろしを考慮した出荷

次に、「納品時の作業生産性向上」の対策についてお願いします。

荒木室長  メーカー出荷拠点では、商品を品種ごとにピッキングし、パレットに積載してから出荷バースに出てきます。多くの場合、ドライバーは積載率向上のため、商品の品種を問わずにパレットに混載し、荷崩れしないように組み合わせてトラックに積み込みます。そうしないと積み切れないからです。(図表3)

 そして着荷主の拠点に着いたら、これをまた元通り商品ごとにパレットに組み直して積みつけます。とても時間がかかりますが、顧客には商品単位にパレット分けを行い、スキャン検品をして納品する必要があるため、避けられません。

 このような二度手間を掛けないと効率的に積めないので、ドライバーは、半ば「自発的に」工夫せざるを得ないのです。ところが、発着荷主はこのような作業が行われていることを認識しておらず、現場の実態を把握していないケースが多く見受けられます。(図表4) 

図表3 納品の現状/品種別パレットをトラックには混載して積む

図表3 納品の現状/品種別パレットをトラックには混載して積む

図表4 パレットに複数SKUの商品が混載された例

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他の食品物流会社でも、似たような実態があることを聞きました。顧客の要求に応じて品種別・日付別にパレットを分けて納品する必要があるため、ドライバーが積み込み時に効率的にパレットを分ける工夫をしています。しかし、多品種少量発注により、商品は1パレットに1段分くらいしかなく、トラック1台に積むパレット数が120枚にもなる「超ミルフィーユ出荷」という問題が生じています。

荒木室長  現在は「ドライバーに荷役作業をさせるなら別料金に」という方針が出されています。事前に付帯作業込みの料金を明確化することで、ドライバーが荷役作業にも対応してくれる運送会社に委託するケースも多いです。当社では、付帯作業が短時間であれば荷役込みの通常料金で、1時間以上かかった場合は別料金というルールを設けています。

 以前、私は当社の製品を納入する卸さんの倉庫現場を視察した際、驚いたことがあります。荷下ろしの荷役作業はドライバーにさせず、倉庫側が要員を手配していて、その人は先の例のように、品種別に商品をパレットに積み分ける作業をされていました。でもよく見るとSCMラベルを横向きに貼ったり縦に貼ったりと、区別しているんです。

 疑問に思って理由を尋ねたところ、縦貼りのラベルはパレットラック行き、横貼りのラベルはコンベヤ行きと、品種別に商品を区別してパレットに積み分ける必要があるとのことでした。1パレットに1SKUだけ少量ずつ積み分けるスペースはないため、1パレットに複数商品を混載します。縦貼りの箱は、どれからでも取り出せるように縦に棒積みして品種を分けるルールです。(図表5)
続いて図の右中段の写真のように、積み分けたパレットから品種ごとにドーリーに積んで、棚入れのため運び出す作業に備えているんです。

 パレットで品種別に商品が納品されても、着地での荷受け・棚入れ作業のために、手間のかかる工夫が必要となります。これが、現場の実態です。

図表5 ある着地の荷下ろし現場ではこんな作業が行われていた

図表5 ある着地の荷下ろし現場ではこんな作業が行われていた

荷主の管理者層は、そんな現場の実態を知らないですよね。

荒木室長  荷主はもちろん、物流側のセンター長も管理者も、多くは知らないでしょうね。実際の作業を行う現場の作業者、パートさんしか知らない。発荷主と受荷主がやりとりする物流の不合理な問題点を、現場の人が頑張って解決してしまっているんです。だから現場以外の人には問題が見えないままになっている、というのが現実ですね。

荷主が思い及ばないサプライチェーンの矛盾は、「物流現場の努力」によってかろうじて解消され、ぎりぎりの状態で維持されている現状が、日本中に潜んでいるのでしょうか。しかし物流現場の場合、このままでは持続可能ではありませんね。

 

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<解決策③>回転率・実車率・積載率を向上させる

次に「回転率・実車率・積載率の向上」についてお願いできますか。

荒木室長  各業種メーカーの、あるひと月の直送トラック積載率を、物流会社が調べたところ、日雑メーカーで67%、飲料メーカーで66.2%なのに対し、自動車部品メーカーではジャストインタイム配送が求められるからでしょう、47.4%という結果でした。

 この積載率向上対策を考えるとき、都市部と地方では大きく条件が違います。問題は地方です。日雑業界では全国的に卸の統廃合が進展し、地方では卸店数が激減しています。出荷は10トントラックに積むにも中ロットの半端な量にしかならず、低い積載率の納品車両数は多く、着地では待機が発生していました。四国におけるサンスターの平均積載率は52%と低い数字でした。

 そこである卸店が、運行経路上に出荷倉庫があり、2社合計で10トン車に高効率で積めるメーカーの組み合わせを選び出し、同日発注にして共同配送を実施しました(図表6)。その結果、積み合わせることで積載効率が向上し(Ⓐ)、車両台数削減でCO2削減、納品時間固定で待機を削減(Ⓑ)、同じドライバーでも作業時間を削減(Ⓒ)、という成果が生まれました。

 物流共同化はこのように地方・過疎地域の輸配送で不可欠になっています。北海道では日雑メーカーの業界13社が共同保管・共同配送をしています。都市部では全13社の商品を保管できる巨大倉庫も集車能力もないので、4社ずつなどで共同化しています。荷主の共同物流は商品カテゴリごとに進んでいますが、売り手は出荷量をコントロールできないので、共同物流は買い手の着荷主主導で進めることが有効だと思います。

図表6 地方の中ロット配送の積載効率向上施策の成果

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<解決策④>納品時の作業生産性を向上させる ASN・ノー検品

最後に、「納品時の作業生産性向上策」についてお願いします。

荒木室長  物流2024年問題を解決するには、物流機能の効率化だけでは不十分です。やはり顧客の着荷主との「取引制度」まで踏み込んで改善する必要があります。そのポイントは、「リードタイム延長」と「ANS(事前出荷情報)送信」だと思います。

① 納品リードタイムを48時間に延長
 …計画的配車が可能に
② ASNの送信で納品予約時間を自動化
 …待機時間を削減+ノー検品で検品時間と承認印の待機時間を0時間に改善
 …伝票電子化による紙媒体の削減(SDGsへの貢献)
 …バース予約システムとの連動

 これらの対策を合わせることで、従来のドライバーの1日の拘束時間「11時間」を、「9時間」程度に削減することが可能だと考えています。(図表7)

 私自身も他社メーカーと一緒に構想の実現策を練ってきましたが、これからも頑張っていきたいと考えています。

図表7 ロジスティクスEDIによる商流・物流情報の連携と共同化

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今回のお話では、荷主も管理者も知らず、物流現場に解決を委ねたままの問題もあることを聞き、驚きました。本「物流クロスオーバー」でも「発着荷主と物流の相互理解・連携」にもっと貢献できるよう、頑張らなければ!と決意しました。日雑物流の未来構想の実現に向け、前進されることを願っています。本日はありがとうございました!

 

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト

㈱大田花き 社外取締役、流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問(20年6月~23年5月)、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。

著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。

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ロジスクエア久喜Ⅲ

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