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“物流DX”って… フツーの”DX”と違うんですか?

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」:新・総合物流施策大綱のざんねん項目と今後への期待

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」:新・総合物流施策大綱のざんねん項目と今後への期待

去る6月15日、待ちに待った「総合物流施策(しさく)大綱(2021年度~2025年度)」が閣議決定を経て発出されました。物流大綱(と、以下は略しますね)は言うまでもなく、その4-5年間にわたる我が国の物流政策の基本方針を定める、業界の最重要文書の1つ。1997年に第1次が策定されて以来、今回で第7次となります。コロナ禍、DXの波、SDGs/ESG、気候変動対応…とビジネス環境が音を立てて大変化を遂げている今回、どんな項目が書き込まれるかと私はこれを楽しみに待っていました。が…その直前、楽しみが「ざんねん」に変わった事情が1つ、あるんです。
それは、「DX」という用語の使い方です。具体的に説明しましょう。

◆経産省の定義と違う? …いやセーフか?

全41ページの新大綱の本文と別表には、検索してみると「DX」の語が21か所に出てきます。そしてDXの定義抜きに、自明の言葉として第1章でいきなり「現状では、我が国のデジタル化の遅れは顕著であり、社会全体のデジタル・トランスフォーメーション(DX)の推進が急務となっている」と使われ始めている。その後しばらく、どうやら普通に「デジタル化・機械化を頑張ること」と区別のつかない書き方になっていまして(それ自体が問題だ~)。本大綱で初めてDXの定義が出てくるのは、中ほどに差し掛かったころの出現9回目。そこに、ようやく、こんな風に書かれています…

①新物流大綱のDX定義

物流の機械化・デジタル化は、輸送情報やコストなどを「見える化」することを通じて、荷主等の提示する条件に従うだけの非効率な物流を改善するとともに、物流システムを規格化することにより収益力・競争力の向上が図られるなど、物流産業のビジネスモデルそのものを革新させていくものである。こうした取組によりこれまでの物流のあり方を変革する取組を「物流 DX」と総称する。(新物流大綱P.14)

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…なるほど。で、これを、政府文書として発表順でも、内容のち密さでも先輩格である、経済産業省の有名なDXレポート2に引かれた定義と比較してみましょう。

②経済産業省のDX定義

DXの定義として、2019 年7月に取りまとめられた「DX推進指標とそのガイダンス」では、「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立する」こととしている。

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どうでしょう。②にある「顧客や社会のニーズを基に」が①に欠落しているのが私は不満(私の定義では物流DXの目的を「UX(顧客体験)とEX(従業員体験)を革命的に進化させること」、加えて「地球と人間社会の環境保全/サステナビリティ確保に貢献すること」としているので)ですが、①で「物流産業のビジネスモデルそのものを革新させていく」「これまでの物流のあり方を変革する」と書いている点で、ちょっと弱いがギリギリ整合性セーフかな、という感じです。

その前後、新物流大綱では「物流DXの推進のためには、物流を構成するソフト・ハードの各種要素の標準化が重要なポイント」と、「標準化」とペアで進めるべきことが語られているのは、評価できます。私は去年から、大綱を議論策定する「2020年代の総合物流施策大綱に関する検討会」メンバーの複数の知人に、「<モノと情報と業務プロセスの標準化>が物流協働化・全体最適化の必須条件だから、絶対入れてよね!」とうるさく進言していました。

また「物流DX推進には高度人材が必要」との記載も大賛成ですね。物流、サプライチェーン・ロジスティクスで博士号を取れる機会がほとんどないのではと思うくらい、我が国の物流・ロジ教育は先進諸国にも中国・韓国にも後れを取っているのですよ。ようやく東大で講座ができたのは画期的なことで、早く後を続けてほしいものです。

もう1つ。「物流業務の自動化・機械化やデジタル化により、物流DXを実現…」と、DXのための手段をDXレポのようにIT/ICT系ソフトウェアやシステムに限らず、ロボティクスやマテハンによるハードウェアも明確に範囲としている点も賛成です。経産省は製造業を軸とする荷主産業界を対象としていてDXレポートもソフトウェア視点で書かれているのに対し、現物を取り扱うフィジカルな物流では、デジタル制御するハードウェアもDXの有力な手段に含める、と私も定義しています。

◆ざんねん、「物流DXのKPI」

問題は、今回の新大綱の目玉となった、別表の「KPI」に潜んでいました。今までの大綱でも、それなりに数値目標を立てて進捗度合を評価しフィードバックする建て付けにはなっていたのですが、それが明確化されたのはホントに歓迎すべきことです。本文Ⅲ章末に「これらの施策の推進によってどの程度本大綱で掲げた様々な目的が達成されているかを定量的に把握するための指標を設定し、それを各ステークホルダーが定期的に確認しながら、施策の調整等を図ることが重要」として、「大綱の代表的な指標(KPI)を、別表のとおり設定する」とあります。

で、別表のKPIですが。DXに係る第1項「1:物流DXや物流標準化の推進によるサプライチェーン全体の徹底した最適化(簡素で滑らかな物流の実現)」の冒頭項目を抜き出しますね。

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①物流業務の自動化・機械化やデジタル化に向けた取組に着手している物流事業者の割合
 └目標値…100%(2025年度)

②物流業務の自動化・機械化やデジタル化により、物流DXを実現している物流事業者(物流業務の自動化・機械化やデジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革などの効果を定量的に得ている事業者をいう。)の割合
 └目標値…70%(2025年度)

③物流業務の自動化・機械化やデジタル化に向けて、荷主と連携した取組を行っている物流事業者の割合
 └目標値…50%(2025年度)

(新物流大綱P.36、丸数字は筆者追記)
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①と③で「物流業務の自動化・機械化やデジタル化」と、DXという語を使っていない点は良いのです。繰り返しますがP.14で「物流産業のビジネスモデルそのものを革新させていく」「これまでの物流のあり方を変革する」のがDXだと定義しているんですから、そこまでは行かないけれど頑張っている物流事業者も評価し認めてあげて、進捗実績に数えるために、と解釈すれば。

それが②では、「物流業務の自動化・機械化やデジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革などの効果を定量的に得ている事業者」が「物流DXを実現している物流事業者」となっている…???!!

【えええっ? 物流DXって、オペレーション改善のことなの??!! (キクタの声)】

「ビジネスモデル革新」「物流のあり方変革」はどこに行ったの? 話の次元が違う…(泣。

これでは、「物流DXって、DXとは違うんだ?」となってしまう(いや確かに、物流大綱は荷主対象でなく、主に国交省が物流事業者を対象とし策定したものだから、違ってていいんだという強弁も成り立つのかな??)。大綱の検討会メンバーには当然、経産省も参加されてたわけで、国の文書同士で整合性が取れてないことがなぜ問題にならなかったのか? ちょっと分からない。

どうやら、私の講演でしょっちゅう引いているあの図を、もう一度示さないといけないようです。

DXは、ビジネスのあり方をデジタルベースで根本変革すること

再び経産省DXレポート2から引用します。この定義は現在、世界的に共通理解されているグローバルスタンダードに基づいているようで、私も採用し常々用語の混乱回避のため説明しています。

<経産省DXレポート2/DXの構造>

<経産省DXレポート2/DXの構造>

右手の枠に私なりの解釈を入れました。「物流業務の自動化・機械化やデジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革などの効果を定量的に得」ることは、普通には現場発の管理マターで、実行=オペレーションレベルの「デジタイゼーション」でしょう。前後のプロセスを連携した「デジタライゼーション」に進めば、ようやく事業部門の戦術レベルになります。

DXは、違うんですよ。

図の通り、「社内組織横断あるいは組織全体」で、「事業やビジネスモデルの変革」を行うこと。完全に、経営マターです。トップが決意し号令をかけ、管理者と社員に理解させ、やる気にさせて(意識変革)、全社で取り組まなければできません。「ビジネスモデルの変革」とは例えば、こういうこと↓を言うんです。

◆NetflixのDX

単なるレンタルDVDチェーンだったNetflixが、ビデオオンデマンド方式によるストリーミング配信サービスを展開(在庫・ピッキング・出荷・返却の物流不要)、さらに独占配信や自社オリジナル作品の制作も開始、個客の嗜好に応じて組み換え可能な「無限ストーリー」も実現へ…。
→レンタルDVD屋が【デジタルエンタメサービス開発・発信のプラットフォーム】へビジネスモデル大変革

◆ワシントン・ポストのDX

米ワシントンD.C.最大の日刊紙。Amazon創業者ジェフ・ベゾスが2013年に買収しDXを開始。記事作成から写真などコンテンツ管理、校正・校閲ほか制作プロセスの管理まで、新聞社が必要とする業務をクラウド上で一元管理できるSaaS型の基幹業務管理ソリューション「Arc Publishing」を開発、外販開始し大成功。
→ただの新聞社が「両効きの経営」で【クラウドデジタルソリューション】という新ビジネスモデルを開拓

…では物流企業のホントのDXとは?

あくまでも「たとえば」ですが、「ただの運輸倉庫会社が、発荷主・着荷主のオーダー情報と顧客ニーズをとらえ、物流・ロジスティクスに関するあらゆるお困りごとを解決するクラウド+リアルサービスを展開、ロジスティクス総合サービスプラットフォーマーに変身する」……なんて感じでしょうかね。

◆進言間に合わず、無念の閣議決定へ…

で、ワタクシ、このことに気づいたのが6月初め。ちょっと忙しくて確認を漏らし、なんとパブリックコメント受付けがわずか1週間で打ち切られる(国民の声を聞く気があるなら短すぎ)ことを知らず、その日はもう締め切りの翌日だったのでした。いやいや、これからパブコメのまとめと検討会での審議調整があるはずだから、まだ間に合うかなと思い、くだんの検討会メンバーの知人に本件を伝えたんです。

すると知人はすぐ理解してくれ「ホントですね~、分かりました、今度の会合で言っときますね」と請け合ってくれ、ホッと胸をなでおろしました。

ところがです。10日くらいして、知人から連絡が。「すんません。会合の前にもう閣議決定になっちゃうみたいです。まだ機会あると思ってたんですけど…」

…なんてこった…(涙

というのが話の顛末です。私はこの時、「物流DXのKPIを採るのなら、自動運転のレベル0~5の定義みたいに、<物流DX-レベル0~3>とかを作ろうよ、とけっこう具体的な提案まで知人にしていたのです。調べてみれば経産省ではとっくに、「DX推進指標」を設定し、「DX推進の枠組み」(定性指標)、「DX推進の取組状況」(定量指標)まで作っていました。相当に綿密ですよ。こちらご覧ください。

いや、「物流業務の自動化・機械化やデジタル化により、従来のオペレーションの改善や働き方改革」もいいんです。というか不可欠です。ホントは厳しいDXの定義通りに考えれば、大事過ぎてなかなかできるものではなく、だからDXレポート2で「95%の企業がDXに未着手ないし途上」というショッキングな数字が出たんです。「そんなことムリだよ」と尻込みしてしまうことがないよう、私も「いきなりDXじゃなく、デジタイゼーションでもデジタライゼーションでもいいんだ、とにかく、何かをすぐやろうよ。ダメならまたやり直そうよ」と呼びかけてきました。とくに、製造業など荷主に比べてさらにデジタル化が遅れているとされる物流業界の底上げをしようというのだから、ハードルを下げて誘引しよう、との政策意図はようく理解できます。ただし、概念をごっちゃにして「これもDX、あれもDX」とDXを何かのソフト・ハードを買ってきて入れる、という単発行動と勘違いしていては、関連ベンダーの餌食になって表面的な「DXやりましたアリバイ作り」になってしまう危険性があることを、ご承知おきください。

新物流大綱は本文の結びに<「簡素で滑らかな物流」、「担い手にやさしい物流」、そして「強くてしなやかな物流」の実現に向け、取組をこれまで以上に強力に、一気呵成に推進していく>と宣言しています。心から期待してます。だから物流に係る私たちは、できることからでいい、とにかく何か「DX(の方向を向いた)チャレンジ」を始めよう。そして日本の物流をさらに一歩、前進させよう。でないと、アフターコロナに再燃する「物流クライシス」「物流2024年問題」に対応できなくなる。今が『ラストチャンス』かも知れないのです。中小を含む業界各社の健闘を、心から期待しています。

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執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

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代表 菊田 一郎 氏

1982年、名古屋大学経済学部卒業。83年流通研究社入社、90年より月刊「マテリアルフロー」編集長、2017年より代表取締役社長。2012年より「アジア・シームレス物流フォーラム」企画・実行統括。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、「物流センターシステム事例集Ⅰ~Ⅵ」(流通研究社)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。2017年より大田花き㈱ 社外取締役(現任)。2020年6月1日に独立、L-Tech Lab(エルテックラボ、物流テック研究室)代表として著述、取材、講演、アドバイザリー業務を軸に活動開始。同6月より㈱日本海事新聞社顧問、同後期より流通経済大学非常勤講師。

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