安い貸し倉庫の特徴とは?相場やデメリットを分かりやすく解説
「なるべく安い倉庫を借りたい」──多くの企業が抱える課題ですが、相場より低い賃料には必ず背景があります。アクセスが不便であったり、建物の老朽化や設備不足が後から判明するケースも少なくありません。目先のコスト削減が、かえって物流効率を下げてしまう場合もあるのです。本記事では、物流施設に強みを持つシーアールイーが、安い貸し倉庫の特徴や注意すべきデメリットについて、業界ならではの視点でわかりやすく解説します。
「安い貸し倉庫」を理解するために知っておくべき市場の仕組み
倉庫賃料を左右する主要因
貸し倉庫の賃料は単純に面積や築年数だけで決まるものではなく、複数の要因が複雑に絡み合っています。なかでも最も大きな影響を及ぼすのは立地条件です。特に首都圏・関西圏・中京圏の大都市圏では、高速道路ICまでの距離や都市部へのアクセスが、輸配送効率を左右し、それが直接的に賃料へ反映されます。需要が集中する立地では坪単価が上昇しやすく、反対にアクセスの低い倉庫は相場より安くなるのです。また、建物仕様も無視できません。天井高が5.5m以上あるか、トラックバースが十分に確保されているか、庫内床荷重が最新の物流機器に耐えられるかといった要素は、オペレーション効率やBCP(事業継続計画)に直結します。そのため、同じエリア内でもスペックの高い倉庫ほど賃料は高く設定されるのが実情です。
首都圏における貸し倉庫の相場格差とその背景
首都圏の貸し倉庫賃料を細かく見ると、地域によって顕著な差が存在することがわかります。

出所:株式会社シーアールイー|「倉庫・物流不動産 マーケットレポート(β版) Ver.202506」
上記の表は、シーアールイーが独自に実施した調査に基づくもので、全国の総賃貸面積1万㎡以上の賃貸物流施設(BTSを含む)の物件情報をデータベース化し、四半期ごとのデータをもとに分析した結果を示しています。2025年6月末時点における調査では、首都圏全体の平均は坪あたり4,772円であり、全国水準と比較しても高い水準にあります。しかし、その内訳に目を向けると二極化が進んでいるのが実態です。たとえば東京都内湾岸エリアでは、平均賃料が8,282円と突出しており、最小6,500円、最大では9,500円と非常に高額です。これは港や消費地へのアクセスがきわめて良く、物流効率が極めて高いため、テナント需要が集中することが背景にあります。一方で、首都圏の外縁部に位置する茨城南西エリアでは、平均3,663円、最低水準は3,100円と相対的に安価です。都心部への距離があるため輸配送効率は劣るものの、土地利用コストが低く、在庫型の利用や補完拠点として選ばれるケースが目立ちます。
このように、首都圏の貸し倉庫市場は、同じ「首都圏」であっても坪単価3,100円台から9,500円まで幅が広く、立地・交通インフラ・物件仕様の三要素が価格を大きく左右しています。
安い貸し倉庫が生まれる背景と特徴
立地条件の制約と輸配送効率への影響
安い倉庫の多くは、立地条件に起因しています。物流施設において立地は最重要要素であり、高速道路ICや幹線道路からの距離は配送効率に直結します。特に首都圏・関西圏では「ICから5km以内」が物流施設選定の目安とされる一方で、安い倉庫は10km以上離れているケースも珍しくありません。結果として、配送車両の走行距離が延び、燃料費や人件費が増加し、トラックドライバーの労働時間規制にも悪影響を与えることになります。つまり、賃料は安くても輸配送コストの増加により「トータルコスト」が上昇する構造が存在するのです。また、都市計画上の工業専用地域や準工業地域に立地する倉庫は比較的安価ですが、用途制限や近隣住民との調整が必要になる場合があり、運用上の制約要素となる点も無視できません。
建物スペックの不足とオペレーション制約
建物スペックも安価な倉庫の特徴を形づくります。例えば、天井高が5m以下ではパレットラックの段数が制限され、同じ床面積でも収納できる量が限られてしまいます。倉庫の賃料は平米(坪)単価という「平面」で算出されますが、実際の保管効率は立米という「立体」で決まるため、天井高の低い倉庫は保管効率に劣り、結果として賃料も比較的安価に設定されやすいのです。また、トラックバースが片面で同時接車台数が少ない場合はピーク時の荷待ちが発生し、結果的にドライバーコストや作業人員の残業が増える要因となります。さらに、床荷重が1.5t/㎡に満たない場合、重量貨物やマテハン機器の導入が困難となり、昨今の自動化・省人化の選択肢が狭まる可能性があります。このようなスペック不足は、倉庫賃料の安さの裏に潜む「隠れた機会損失」と言えます。
築古倉庫の耐震性と老朽化リスク
安い貸し倉庫の背景には、築年数の古さも大きく影響しています。国土交通省の調査によれば、全国の営業用倉庫の約20%が築40年以上を経過しており、冷蔵倉庫においては築40年以上が約34%を占めています。こうした築古倉庫では、現行の建築基準法で求められる耐震性能や防火区画、断熱性能を満たしていないケースが少なくありません。
さらに、築古倉庫は建物や設備の劣化も進行しています。屋根や外壁の防水性能低下による雨漏り、シャッターや搬送設備の故障・劣化は代表的な課題であり、入居後に補修や更新を迫られるリスクがあります。これらは表面的な賃料の安さとは裏腹に、長期利用において追加コストを発生させ、結果的にコストメリットを損なう可能性が高いといえます。築古倉庫を検討する際には、耐震性の確認や修繕履歴の精査を含めた慎重な検討が不可欠です。
安い貸し倉庫のメリット
リスクを抑えた小規模展開に最適
新規エリアへの進出や拠点立ち上げを検討する際、最初から高額な物流施設に投資するのは大きなリスクを伴います。需要予測が定まらない段階では、賃料を抑えた倉庫を活用することで、小規模から拠点を展開できる点が大きなメリットです。安い貸し倉庫は立地や仕様に制約がある一方で、初期投資を抑えながら事業を始める拠点として有効です。例えば、首都圏外縁部の低賃料倉庫を利用すれば、配送ルートやリードタイムの実態を把握しつつ、事業規模に応じて柔軟に拠点を拡張していくことが可能です。その後、需要が安定してからより高機能な倉庫へ移行することで、拠点立ち上げに伴うリスクを最小限に抑えることができます。こうした小規模から始めて段階的に拡大していく方法は、成長企業にとって現実的かつ合理的な選択肢といえるでしょう。
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固定費の削減による財務リスクの低減
倉庫賃料は物流コストの中でも固定費として大きな割合を占めます。高機能な物流施設は利便性が高い一方で、賃料水準も高額になりがちです。結果として、荷量が減少すると高い固定費が収益構造に負担を与えるケースが少なくありません。その点、安い貸し倉庫を選ぶことで、一定水準の賃料負担を抑えられ、財務的な柔軟性を確保することが可能です。特に経営環境の変化が大きい中小企業や新規事業では、キャッシュフローを安定させることが最優先となるため、低コストで利用できる倉庫は経営上のリスクヘッジとして有効です。また、投資余力を抑えられる分、浮いた資金を販売促進や設備投資など成長分野に回すことも可能です。
仕様条件がニーズに合えば最適解となる
安い貸し倉庫は必ずしも劣っているわけではなく、荷物特性や運用条件によっては合理的な選択肢となります。例えば、段積みができない荷物を扱う場合、天井高の制約は大きな問題にならず、むしろ賃料を抑えられる分メリットが大きくなります。また、天井高が低い倉庫は空調効率に優れるため、温度管理が求められる商品では運用コスト削減につながる場合もあります。倉庫の価値は単純な築年数や設備水準だけで決まるものではなく、取り扱う荷物の特性や求める作業環境に適合しているかどうかが重要です。したがって、安価な倉庫であっても仕様条件がニーズに合致すれば、効率的かつ合理的な保管拠点として十分に機能します。
安い貸し倉庫の注意点
輸配送効率の低下可能性
安い貸し倉庫の最大のデメリットは、輸配送効率の低下です。立地が主要道路やICから遠い場合、配送ルートが伸び、車両の稼働時間と燃料コストが増大します。特に都市部への配送が多い業態では、わずか数キロの差が年間で数百万円規模のコスト増につながることもあります。安さを優先することで生まれる「隠れコスト」は、見積段階では表に出にくいため、事前の輸配送シミュレーションが不可欠です。
オペレーション効率の低下可能性
設備スペックが限定的な倉庫では、入出荷作業の効率が低下します。天井が低いことでパレット多段積みができず、同じ床面積でも収納可能な貨物量が減少。結果的に広い面積を借りざるを得ず、安い坪単価にもかかわらず賃料総額が高くなる逆転現象が起きます。また、トラックバースが少ない倉庫では荷待ちが常態化し、ドライバーの拘束時間や人件費が増える要因になります。
安い貸し倉庫を探す際のポイント
相場情報を多角的に把握する
まず重要なのは、エリアごとの相場を複数のデータソースで把握することです。国土交通省の「不動産価格指数」や「営業倉庫関連統計」、さらには民間調査機関のレポートを組み合わせることで、賃料水準のレンジを把握できます。特に「平均坪単価」と「築年数別賃料」の関係を分析することで、提示された倉庫が本当に割安かどうかを客観的に判断することが可能です。情報を自社で探すことが難しければ、プロの不動産屋に頼るのも一つの手です。
総コストで比較する視点を持つ
賃賃料が安い倉庫を確保しても、輸配送費や人件費が増加してしまえば、トータルでのコスト削減にはつながりません。そのため拠点選定時には、単純な坪単価ではなく、配送距離やドライバーの拘束時間、車両運行コストを含めた「総コスト」で比較する視点が欠かせません。近年では、候補地ごとに配送ルートや作業効率を事前にシミュレーションし、数字として検証する取り組みが一般化しています。こうした検討を行うことで、見かけの賃料の安さに惑わされず、長期的に合理的な倉庫選定を行うことが可能になります。
施設状態を現地確認する
貸し倉庫を選ぶ際には、募集図面や契約条件だけで判断せず、必ず現地視察を行い建物の状態を直接確認することが欠かせません。特に築古倉庫は、図面だけでは分からない経年劣化が見え隠れする場合があります。例えば、床面のひび割れや不陸はフォークリフト走行の安全性や荷役効率に影響し、修繕が必要になればコスト負担につながります。シャッターも開閉速度や作動の安定性を現場で確かめる必要があり、故障が多ければ入出庫効率の低下や突発的な修繕費用を招く可能性があります。
一方で、築年数が古くても、適切にメンテナンスされている倉庫は十分に実用的なケースも少なくありません。そのため、屋根断熱や雨漏り跡の有無など、実際のコンディションをしっかり確認することが大切です。こうした現地確認を通じて、賃料の安さだけにとらわれず、リスクとメリットを見極め、長期利用を見据えた総合的な判断を行うことが求められます。
効率的に貸し倉庫を探すなら「CRE倉庫検索サイト」
安い貸し倉庫を効率的に探すためには、信頼できる情報源を活用することが不可欠です。単に賃料の安さだけで比較すると、前述のような輸配送効率などの落とし穴に気づかず、後々大きな損失を被る可能性があります。その点、株式会社シーアールイーが運営する「倉庫検索サイト」では、立地条件・建物スペック・築年数・用途地域など、実務担当者が確認すべき情報を網羅しています。相場との比較はもちろん、将来の利用計画を踏まえて物件を絞り込めるため、コストだけでなく総合的に最適な倉庫選びが可能になります。
まとめ
地域特性や設備内容を踏まえ、現場のニーズに合った最適な貸し倉庫を見つけることで、費用対効果を最大化しましょう。
また、契約時には、敷金・礼金・更新料などの初期費用や解約条件、違約金の有無をしっかり押さえることが大切です。必要なセキュリティや設備面をちゃんと満たしているかどうかも確認し、複数物件を比較検討することで有利な条件を獲得できます。