スタッフコラム

物流脱炭素化へ “モーダルシフト”に新たな戦略的価値 ~共同物流との合わせ技/海運活用でBCP~

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

◆モーダルシフトは「省エネ」から始まった

今さら、さらさら…と思われるかも知れませんが、今回のお題は「モーダルシフト」。物流関係の皆さんには耳タコかも知れませんね。けれど「脱炭素時代」の本格到来で、そこに新しい「戦略的価値」が生まれているのでは…というのが今回の万華鏡の視点です。改めて、国交省の定義からスタートしましょう。

「モーダルシフトとは、トラック等の自動車で行われている貨物輸送を 環境負荷の小さい鉄道や船舶の利用へと転換すること」

歴史をたどると、第1次オイルショック(1979~)以降に「同じく石油を使うなら、トラックよりたくさん運べる船や鉄道に」の必要性が認識され、1981年の運輸政策審議会の答申で省エネ対策として初めて「モーダルシフト」の言葉が登場したようです。当初は「脱炭素」の切り口ではなく、石油が足りないから節約、「省エネ」という文脈だったんですね。

それが1997年のCOP3/京都議定書締結をめぐる議論を契機に、環境施策としてのGHG(温室効果ガス)排出削減の機運が高まります。で、2001年7月の第2次総合物流施策大綱で初めて、地球温暖化対策として「モーダルシフト」が明記され、取り組みが進んできたという経緯があるのです。

ところが今や、筆者が以前のコラム「脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part② 再エネ供給の爆速拡大から始めよう!」(※1)で主張したとおり、GHG削減を爆速で進めないと、気候破壊が進んで人間社会が持続可能でなくなってしまう、という現実が科学的に明らかになり、今やけた違いの危機感が世界を満たしている。だから本稿では、「新たな角度で、モーダルシフトにもう一度光を!」と提案したいのです。

◆物流はどれくらいCO2を排出しているのか?

国土交通省HP『運輸部門における二酸化炭素排出量(2019年度)』によると、日本のCO2総排出量は「11億8000万トン」。うち、運輸部門からの排出量は2億600万トン(間接排出量)で18.6%を占めています。一国の排出量の2割弱を占めるのだから、これは大きい。運輸部門の中では自動車全体が86.1%(日本全体の16.0%)、その内訳で旅客自動車が49.3%(日本全体の9.2%)、貨物自動車が36.8%(日本全体の6.8%)を排出しています。旅客の方が多いんですね。

さて運輸部門の排出量を輸送モード別の比率でみると、「自動車86.1%/航空5.1%/内航海運=船舶5.0%/鉄道3.8%」となっています。国内物流では自動車輸送が圧倒的な比率を占めていることが分かりますが、合計より「同じ量を運んだ時、どれだけCO2を排出するのか」で見ないと公平に比較できません。そこで、各輸送モードの輸送量当たりのCO2排出量を比較したのが図表1です。これは「貨物輸送において、各輸送機関から排出される二酸化炭素の排出量を輸送量(トンキロ:輸送した貨物の重量に輸送した距離を乗じたもの)で割り、単位輸送量当たりの二酸化炭素の排出量を試算」したものだそうです。

輸送量当たりの二酸化炭素の排出量(2019年度、貨物)

輸送量当たりの二酸化炭素の排出量(2019年度、貨物)

図表1

これはつまり「1トンの貨物を1km運ぶ(=1トンキロ)ときに排出されるCO2の量」なわけですね。トラック(営業用貨物車)が225gであるのに対し、鉄道は18g(約1/13)、船舶は41g(約1/5)と、かなり低いことがよく分かります。つまり、貨物輸送の方式=輸送モードを、転換=シフトすること(=モーダルシフト)で、同じトンキロを運んでも鉄道利用で92%、船舶利用なら82%もCO2排出量を削減することができる、というわけです(以上、国交省HP「モーダルシフトとは」をもとに筆者加筆)。

◆「2050カーボンニュートラル」へ、物流大綱でもKPI

経産省資源エネルギー庁は本年2月、『2050年カーボンニュートラルの実現に向けた需要側の取組』において、2018年度実績で3.39億kl(原油換算)だった国内の総エネルギー需要(うち、運輸は0.79億kl)を、年率1.7%と高めに仮定した経済成長の中でも、「2030年に3.26億klに削減」する新目標を打ち出しています。

運輸部門の設定目標をみると、18の対策により▲1,607万kl (CO2▲0.46億t)としており、2018年度時点の進捗率は2013年度比で「27.6%」とされています。18の対策には「モーダルシフト」も含まれ、2030年の省エネ見込みとしては「45.8kl(3%)」となっている(図表2)。「対策の6割を占める次世代自動車の普及の加速化が必要」と見出しを打って強調されているのですが、それは炭素排出を元から断つ最重点施策だから当然で、私もEV/FCV強硬推進派。対してモーダルシフトで3%とはちょっと影の薄い感もありますが、港湾対策や自動運転と肩を並べ、重点施策の一翼を担っているわけです。

運輸部門の2030 年度の省エネ見込み(万kl)

運輸部門の2030 年度の省エネ見込み(万kl)

図表2

その途上の2025年中間目標となるわけですが、前回コラムでも取り上げた「総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)」のKPI別表に、ちゃんとモーダルシフトの指標も書かれているんです。「3:強靭性と持続可能性を確保した物流ネットワークの構築(強くてしなやかな物流の実現)」の「(3)地球環境の持続可能性を確保するための物流ネットワークの構築」の項に、「モーダルシフトに関する指標」がこう出ています。

==物流大綱2021に設定されたモーダルシフトKPI=======================
①鉄道による貨物輸送トンキロ
 <現状>184億トンキロ(2019年度)→<目標値>209億トンキロ(2025年度)
②海運による貨物輸送トンキロ
 <現状>358億トンキロ(2019年度)→<目標値>389億トンキロ(2025年度)
=====================================================

…これをどう見るか?5年前発出の前物流大綱(2017-2020)の推進プログラムに書かれていた、モーダルシフト指標と比較してみましょう。

<物流大綱2017-2000の指標>
*鉄道によるモーダルシフト貨物の輸送量
…2016年度 197億トンキロ ➡ 2020年度 221億トンキロ
*海運によるモーダルシフト貨物の輸送量
…2015年度 340億トンキロ ➡ 2020年度 367億トンキロ

オーマイガー……。
2020年はコロナ禍による一旦停止、の影響もあるのでしょうが、特に鉄道ではJR貨物のリソースに限りがあるせいか、遅々として進んでないわけですね~。

「なぜ日本でモーダルシフトが進まないのか」とは昔から言われ続けてきたことですが、筆者の見るところ、ドアツードアトラック輸送の余りの利便性の高さ・フレキシビリティ(=我が国運送事業者の努力の賜物)に対し、物流2法改変による参入爆増・レッドオーシャン環境で運賃が下がり荷主メリットが激増する中、積み替えの手間がかかりリードタイムの長い船舶や鉄道へのシフトは経済合理性を捻出できなかったのでしょうか。

◆blah‐blah‐blah…グダグダ言ってる場合じゃない!

けれど、ビジネスの前提/企業活動の目的がいま、音を立てて変わりました。経営のパラダイムシフトがすでに、起きています。あの旧時代、企業の目的は「利潤の増大/株主利益の最大化」だと臆面もなく断言したミルトン・フリードマンの言葉に、世界は同調していた。私は中学の社会科の授業(はやウン10年も前!)で、「企業の目的は、利潤の獲得。これは、明らかなことだね~」と温厚な青山先生が話すのを聞き、「え、え~?」と未来への重い暗い予感にとらわれた。若き私の直感は間違っていませんでした。

その深い闇がついに打ち払われ、現在では企業の存在意義、目的は第一に「人類社会を持続可能にすること」であるべきだとの地球的コンセンサスが、グローバルビジネスの世界ではほぼ、成立しています(疑う人は筆者の10/4付日本海事新聞コラム『WBSCD「ビジョン2050」が示す未来への道~地球の限界内で生きられる世界へ』(※2)を参照ください。

だって、地球環境を破壊から守らなければその上に立つ人間社会も、健全な社会の上に初めて成り立つ経済も、持続できないのだから。健全な企業自身もまた持続可能であるように、適切な利益を獲得し続ける必要があります。それは努力によって可能です。顧客/消費者、そして投資家が皆さんを支持するからです。

だから地球と社会を守るため自社に可能なあらゆる対策に、企業は取り組む必要がある。CO2排出量が確実に減らせるんだから、モーダルシフトの可能性も今一度、追求すべきだと思います。ちょっと不便とか面倒だとか、四の五の言ってる場合じゃない(英語では同じ意味でblah-blah-blahと言います)。グレタ・トゥーンベリさんがつい先日、COP26の会場外演説でグダグダ言って逃げている組織や人を非難してそう言ったんです。ジョンソン英首相もこれを引用して議論を進めようとした)。発荷主・物流・着荷主が一緒になって、経済合理性と環境保全を両立させる方途を必死に考えるべきなんです。

◆ライオンの共同物流×モーダルシフト合わせ技

実はそのお手本ともいえる素晴らしい実例が、手元にあります。先日、ハコベル企画の対談ウェビナー出演を私からお願いしご一緒してもらった大手日用雑貨メーカー、ご存じライオンの平岡真一郎執行役員の講演資料から、許可を頂いたので2例を紹介します。

①ライオン、キユーピーとJPR他連携で共同物流×海運モーダルシフト

従来<Before>はライオンが四国の坂出工場から埼玉の流通センターへ、キユーピーが茨城の五霞工場から佐賀の鳥栖倉庫へ、そして両社が利用するJPRのパレットは鳥栖から兵庫の東条デポへ/さらに東条から坂出へと、それぞれ単独にトラックを片道手配し陸送していました。

それを共同化した<After>では、ライオン坂出工場からJPRパレットに積んだ製品を埼玉へトラック輸送。空パレットをキユーピー五霞工場まで移動した上で、製品と合わせて今度はフェリーで、鳥栖まで航送。空パレットは鳥栖からライオン坂出工場に供給する……2社の製品輸送とレンタルパレットの供給・回収循環利用を合わせ、海運へのモーダルシフトを含めてなんと「往復実車率99.5%」を実現した、文字通り「ワザあり!」の見事な共同物流実践事例です。

②ライオン×花王、ライバル共同物流を海運モーダルシフトで

販売ではガチに競い合う業界の両雄が、物流で協働するという注目チャレンジです。

従来<Before>はライオンが坂出工場から埼玉の加須・千葉の柏などの流通センターにトラック2~3台/日で陸送、花王は川崎工場から四国の坂出ロジスティクスセンター(LC)へ、JRコンテナ2~8基の鉄道輸送を行っていました。

それを共同化した<After>では、ライオン坂出工場から徳島港へトレーラで陸送後、RORO船に貨物を積んだシャーシだけを載せ、東京港まで無人で航送。東京港でトレーラがこれを引き取りライオン流通センターへ。トレーラは空のシャーシとともに花王川崎工場へ移動して製品を積み込み、東京港から徳島港へシャーシだけを無人航送。そこから花王坂出LCまでトレーラが陸送し、トレーラは空シャーシを坂出工場まで運ぶ……輸送単位容器となるシャーシの供給・回収循環利用と組み合わせた製品の東西間の共同物流に、RORO船による海運を活用した素晴らしい事例です。CO2削減に加え、遠隔地間のトラック幹線輸送は宿泊を伴う長時間労働となりドライバーの過重な負担となるところを、海運の活用で日帰り可能な近距離輸送にできる「ホワイト物流」の意味も大きい。

平岡氏によると両事例は実証実験にとどまらず現在も継続実施されているそうで、筆者の言うSDGsの核心「地球と人の環境保全」を物流分野で実践した、模範的事例だと思います。

◆海運へのモーダルシフトはBCPに一役

こうした「海運へのモーダルシフト」には、GHG削減と同時に、災害で陸の物流が途絶した際の緊急輸送路の確保、というBCP視点の価値もある、と筆者は大いに重視しています。海は道路や線路のように断裂しないので。たとえば現在、高い確率で発生が予想されている南海トラフ巨大地震では、太平洋側の都市と物流インフラに壊滅的な被害が及ぶとされています。その時、日本海側の港を結ぶ海運をフル活用することで、機動的な物資輸送を実現できるのではないか(これはサンスター理事・荒木協和氏の発案を私が応援し、あちこちで提案しているアイデア)。

でも、普段使っていない航路を緊急時だけ突然、動かすことはできません。モーダルシフトで適切なルートによる海運会社のサービスを利用して航路を日ごろから確保しておき、維持・育成していく必要があるのです。日本海事新聞は本年9/21付「内航・フェリー特集」で内航フェリーとRORO船の航路をマップ付きで紹介したのですが、フェリーでは12船社19航路、RORO船では6船社22航路が現在稼働していて、全国を網羅する充実した「もう1つの貨物輸送網」を築き上げていることが一目で分かります。

もし鉄道へのモーダルシフトが難しいようなら、物流BCPの一端を担うこともできる「海運へのモーダルシフト」を検討してはどうでしょうか? みんなでやれば、新しい可能性が拓けるかも知れません。

バックナンバー

1 物流DX① ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?
2 物流DX② ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?(その2)
3 脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part① 「スーパーシティ」の物流像とSDGs
4 脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part②再エネ供給の爆速拡大から始めよう!
5 “物流DX”って… フツーの”DX”と違うんですか? 新・総合物流施策大綱のざんねん項目と今後への期待

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

エルテックラボ L-Tech Lab
代表 菊田 一郎 氏

1982年、名古屋大学経済学部卒業。83年流通研究社入社、90年より月刊「マテリアルフロー」編集長、2017年より代表取締役社長。2012年より「アジア・シームレス物流フォーラム」企画・実行統括。著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、「物流センターシステム事例集Ⅰ~Ⅵ」(流通研究社)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。2017年より大田花き㈱ 社外取締役(現任)。2020年6月1日に独立、L-Tech Lab(エルテックラボ、物流テック研究室)代表として著述、取材、講演、アドバイザリー業務を軸に活動開始。同6月より㈱日本海事新聞社顧問、同後期より流通経済大学非常勤講師。

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