スタッフコラム

EXで脱炭素物流、そして「国家安全保障」へ Part① Energy Transformationのトンデモ革命的価値を検証する!!

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

◆ 再エネへのEXで、日本は…

昨年12月のCREフォーラムの講演「物流環境激変!2022年にあるべき姿は?」で、筆者はアフターCOP26の脱炭素/物流SDGsとDX展望を語らせてもらいました。1月には要約レポートもアップしてもらったんですが、その中で一番お伝えしたかった中身の1つが、分量の関係で軽く触れる程度になってたのと、当日もてんこ盛りの材料を突っ走ってお話ししたのでたぶん、あまり刺さってなかったかもな……という気がしてきました。それに、もっと説得力のある判断材料を加えないと、「大げさな、ウソだろ~」と思ってしまう人もいるのではないか……とか、ますます気になってしかたない。

そこで!本テーマでコラム2回分のスペースをもらい、改めてじっくりゆっくり、メッセージを送らせてもらいますね!

それは資料でたった1枚の内容、「EXの『国家的安全保障』価値」のテーマです。筆者はここで5つの項目を根拠に、
【再生可能エネルギーへのEX/GXによって日本は、自立したサステナブル社会へとX(トランスフォーム)できる!】
と結論しています。反対論も多いせいなのか、学識経験者の発言でもあまりこの点に触れてくれてなく、「再生可能エネルギー(以下、再エネ)へのEX」の巨大な価値が、世の中で見落とされている気がしてなりません。

筆者が訴える「脱炭素物流」「物流EX」の大目的は、このままでは大惨事が起こると科学がエビデンスを示した、気候破壊の進展を2030-2050年までに食い止め、人類社会と産業の持続可能性を獲得すること。でも、それだとちょっと話が遠くて…という向きもあるかもしれない。だったら、私たちが住むこの日本の産業社会が、脱炭素EXによってトンデモないほどのメリットを獲得できると理解してもらえば、もっとジブンゴトとして実感し、物流脱炭素化へのモチベーションアップにつながるんじゃないか…と考えました。

学者でもない私が用意できる根拠は不十分かもですが、再度エビデンスを検証しては固め、異論には堂々反論し(再反論大歓迎)、つらつらと書いてみますね。「再エネへのEX」によってニッポンは……。

① 年間20兆円前後に及ぶ化石資源の輸入費用を大幅に削減できる

日本の化石燃料(石油、石炭、天然ガス)輸入額は、2014年に27.7兆円とピークをつけた後、太陽光など再エネ発電が軌道に乗ってきたこともあって減少に転じ、ビフォアコロナの2018年には「19.3兆円」に。それでもこれは同年の日本の「全輸入額の4分の1弱」に達する額です(環境省「エネルギー白書」による)。年により違いますが、これは日本の貿易の稼ぎ頭である自動車など輸送用機器の輸出額に匹敵ないし凌駕するレベルで、一国の経済をそのまま左右する巨大な要素であることは間違いありません。

統計には「化石燃料」をまとめたその後の数字がなかなか出てこないので、筆者が2021年エネルギー白書のエクセルデータから自分で手計算してみたところ、2019年の化石燃料輸入額は16.8兆円、コロナ禍で一時経済がストップした2020年は11.2兆円と激減した異常値になっているので、ここでは数字が揃った2018年のデータで話を進めます。

この年の化石エネルギー依存度は「88.6%」。日本のエネルギー自給率は、2013年の6.5%を底として再エネ発電の増加に従って上昇に転じ、2017年9.4%、2018年11.7%、2019年12.1%となっています。今までは国内で消費するエネルギー資源の「約9割を輸入に頼ってきた」というのが現実なんです。

では「再エネEX」、その中でもとりあえずは「再エネ発電への移行」によって、この巨額の輸入費用を筆者が言うように「大幅に」削減できるのか?検証してみましょう。

エネルギー白書から、化石エネルギーのうちどれだけが発電に使われたか年ごとに集計し再計算することもできるんでしょうが、素人にはちょっと大変だ。なので、資料はないかとネットを渉猟していたら…ありました。常葉大学名誉教授の山本隆三さんがWedge infinity(有名な雑誌「Wedge」の発行元が運営)というサイトに2020年1月に書かれた記事です(※1)。

それによると…

◆ 日本で発電に使用されている化石燃料は、天然ガス消費量の66%、石油の11%、石炭の57%
◆ 仮に、全ての電源が再エネに変わり、電力部門の化石燃料の消費がゼロになったとしたら、節約可能な燃料代金は2018年の価格を基準にすると6兆円程度(趣意)

…だそうです。「6兆円!」。分母が19.3兆円なので、30%以上の「大幅削減」ですよね、ハイ。もちろん、すぐ再エネ電力100%に切り替えられるわけではないので、③項でその移行期間の削減プロセスを検証します。

実際には、発電以外の用途で使用されている石油、石炭、LNGも、EV/FCV化、バイオ燃料やメタノール/アンモニア/水素活用などのイノベーションでどんどん脱化石化されていくはず。さらに、私が論拠とする「WWFJ2050ゼロシナリオ」(次項参照)では、「2050年に電力、熱、輸送用燃料などすべてのエネルギー需要について100%自然エネルギーで供給可能」としているので、その場合は発電分以外を含む化石燃料購入費用(2018年の数字で19.3兆円)が最終的にはぜんぶ!不要になります。ですがその分、再エネ設備・システムへの投資も必要になるので、とりあえず「6兆円以上」として進めましょう。

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で、同先生、じつは次の段で『電力構成比の5%程度の再エネ導入に必要であった国民負担額が2兆円を超えていることから考えれば、再エネ導入が燃料代金節約よりもはるかに大きい国民負担を招くことは明らか』と強烈な再エネ否定論を展開されてるんです。もしそうなら看過できないけれど、ホントかな?

よおし、検証しましょう。

まず冒頭の「電力構成比の5%程度の再エネ」とは何か?再エネ電力比率のことなら18年度で16.9%、水力を除いても10%弱だけど?そうか、もしかして太陽光発電だけを考えてるのかな?と思って調べると、2018年の太陽光だけの発電比率は6.0%。まさかと思って2017年のデータを見てみたら、5.25%。ここだけ2017年の古いデータを、しかも対象から太陽光だけを抜き出して使ったんですかね?それとも別の数字?

いずれにしても、文脈から判断すればこれは不適切で、FIT制度の対象になるすべて(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を含めなければ筋が通らないので、「電力構成比の16.9%を占める再エネ」が正しい表現ではないかと思われます。先生の論旨の説得力はガタリと落ちますが、仕方ありません。

問題は後半です。『再エネ導入に必要であった国民負担額が2兆円を超え』というのは、これが再エネ賦課金を指しているのなら、資源エネルギー庁資料でその通りだと確認できました。再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)とは、電気事業者がFIT電気の買い取りのため負担する費用をまかなうため、私たち国民や事業者が電気料金に加えて支払っているもの(電気代の請求書に書いてありますよ)。再エネ導入支援策ですね。

そして最後に一番の問題は、『再エネ導入が燃料代金節約よりもはるかに大きい国民負担を招くことは明らか』と、えらく自信タップリに指摘されてるとこです。実際に賦課金が今より激増して合計電気代が上がってしまうのなら、困りますよね。でもそれが「燃料代金節約よりもはるかに大きい負担になる」って?どうも怪しいなあ…そう思って、筆者はさらに調べてみました。山ほどの資料を、気持ちにハチマキ巻いて漁ります。

…そして、信頼に値する記述をやっとこさ見つけました。あの孫 正義さんが設立者・会長を務める公益社団法人 自然エネルギー財団のHPに掲載されている「再エネ賦課金の疑問に答える」(※2)(木村啓二 自然エネルギー財団 上級研究員、2021年4月16日)です。木村さんは、先の先生のような疑問に答え、こう書いています。

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『2030年度までに自然エネルギー電力の割合を45%まで増やしたとき賦課金がどこまで増えるかを推計した(同時に原発・石炭火力はフェーズアウト※筆者注・前記のWWFJのシナリオとほぼ同じゴン攻め想定です、次項参照)。その結果、賦課金は4兆円近くまで増える可能性がある、という結果となった(2019年度の実績では2.3兆円)』

なるほど…。

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『他方で、自然エネルギーの普及により、卸電力価格は下がるため、小売電気事業者の電力調達費用は低減することが見込まれる。結果として、電力コスト(再エネ賦課金+電力調達費用)は2019年度と同程度に収まる可能性がある(図表1)。もちろん化石燃料の価格や電力需要の状況など他の要素によって結果は大きく変わるが、現在と比べて大幅に電力コストが上昇する可能性は低いと考えられる』

図表1)2019年度と2030年度の電力コストの比較(出典・自然エネルギー財団HP)

図表1)2019年度と2030年度の電力コストの比較(出典・自然エネルギー財団HP)

注)2030 年度(SDE)とは、「2030 年度の持続可能なエネルギーミックス」を指し、自然エネルギーを45%、原子力と石炭をフェーズアウトさせるシナリオ

つまり、再エネ発電拡大で2030年度に賦課金が4兆円になっても、再エネ電力の普及と技術開発で見込まれる調達費用の低減幅の方が大きく、電力コスト全体では「燃料代金節約よりもはるかに大きい負担になる」可能性は低い(むしろグラフのように下がる可能性がある)。さらに木村さんは、2030年代前半から「再エネ特措法」による買取期間が終了しはじめ、賦課金は急速に減少していく…という確定した未来を示しています。

大変恐縮ですが、先の先生には以上を論拠とし、反論させてもらいますね。

↓↓↓キクタの反論↓↓↓
『再エネへのEXの過程で、再エネ賦課金の増加によって国民負担額は一時的にアップするが、調達費用の低減がそれを補う。よって国民と事業者が負担する電力コストが大幅に高騰することはなく、安価な自然エネルギーによる電力供給が実現する可能性が高い』

② ほぼ全量を外国からの輸入に頼っていた産業社会の基盤エネルギーを全て、「国内産」の太陽光、風力等、自然エネルギーに転換することは可能(WWFJ)

これは講演でも紹介したWWF(世界自然保護基金)ジャパンさんの「脱炭素社会に向けた2050 年ゼロシナリオ」(※3)から、結論を引いたものです。上記URLからぜひシナリオをご覧いただきたいのですが、ここでは同じ部分から図表2を引用しておきます。2030年に再エネ電力比率を47.6%に、2050年にはそれを100%にして「脱・化石燃料+脱・原子力」を実現することは可能!だと、綿密なシミュレーション結果をもとに力強く結論しています。

図表2)WWFジャパン『脱炭素社会に向けた2050 年ゼロシナリオ』が示すエネルギー需供構造 ― 2050 年に脱化石燃料、脱原子力は可能

図表2)WWFジャパン『脱炭素社会に向けた2050 年ゼロシナリオ』が示すエネルギー需供構造 ― 2050 年に脱化石燃料、脱原子力は可能

これが実現されれば?2018年の数字でいうと19.3兆円の化石燃料購入費用が毎年、不要になるのです。自然エネルギーは「調達費用ゼロ」「物流費用ゼロ(送電費除く)」の無限公共財なのですから、輸入・購入してなくいい!!そして削減できた費用は再エネ供給体制づくりと維持費に投入できる。全体収支は最悪、変わらなくても、「脱炭素社会達成!」という超巨大な成果が得られてしまう…ものすごいメリットではないでしょうか?

その再エネ供給力と利用を爆速で拡大するため、「脱炭素物流」をたった今から、一歩ずつでも始めよう!というのが私のメッセージです。(パート②へ続きます)

バックナンバー

1 物流DX① ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?
2 物流DX② ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?(その2)
3 脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part① 「スーパーシティ」の物流像とSDGs
4 脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part②再エネ供給の爆速拡大から始めよう!
5 “物流DX”って… フツーの”DX”と違うんですか? 新・総合物流施策大綱のざんねん項目と今後への期待
6 物流脱炭素化へ “モーダルシフト”に新たな戦略的価値 ~共同物流との合わせ技/海運活用でBCP~

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト
(㈱大田花き 社外取締役、㈱日本海事新聞社 顧問、
流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問)

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。

著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。

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