スタッフコラム

EXで脱炭素物流、そして「国家安全保障」へ Part② Energy Transformationのトンデモ革命的価値を検証する!!

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

③ 化石資源の輸入費用の削減分で、再エネ発電システムの構築に必要な投資額の大きな部分を賄える

再エネEXがニッポンにもたらす巨大な価値をめぐって、前回の①②に続いてお送りします。まず、2050年をめどに電力の完全な再エネ転換が実現されるまでの移行期間では、毎年どれくらいの化石燃料の輸入費用を削減できそうなのか。見通しを検証しましょう。

①で見た2018年のデータ「再エネ比率16.9%」で、再エネ輸入額は「19.3兆円」でした。そして2019年は「再エネ比率18.1%」で、輸入額は筆者の計算で「16.8兆円」でした。大変おおざっぱで恐縮ですが、1つの目安として、ここから「化石燃料発電比率1%あたりの輸入費用」を単純計算することで、ごく簡易的に見当をつけることにします。図表1を見てください。

図表1 再エネ比率向上で削減される化石燃料輸入額(2018-2019年)

図表1 再エネ比率向上で削減される化石燃料輸入額(2018-2019年)

というわけで、この2年間分だけで単純に計算した場合の推測結果とし、平均輸入金額は「化石燃料発電比率1%あたり0.24兆円」となります。エネルギー価格はいまムチャクチャ高騰しているように、ボラティリティが高く確たることは言いようがないので参考値程度ではありますが、日本のビフォアコロナの条件下では、
【再エネ電力比率を1%上げると、0.24兆円程度の化石燃料輸入費用が削減できる】
という見当がつくかと思います。当たらずとも遠からずでしょう。

2030年の再エネ電力比率目標は、[A]政府の第6次エネルギー基本計画では「36~38%」。前回紹介した[B]2030 年度(SDE)シナリオなら「45%」です。2019年の18.1%からの11年間でならすと、[A]では年平均1.6~1.8%向上(間を取って1.7%としましょう)、[B]では年平均2.4%向上、となる。

したがって、この目標達成に向けて私たちが着実に歩みを進めれば、削減額は平均で
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  [A]0.4兆円/年以上  [B]0.58兆円/年
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となります。なるほど~、筆者が例示した「年1兆円」は電力転換だけでは容易でないことが分かります。暫定的に再エネ電力のみの転換過程での輸入費用削減額は「年0.5兆円程度」としておきましょう。

ただし、前回示したWWFジャパンの2050ゼロシナリオは、電力だけでなく「2050年には電力、熱、輸送用燃料などすべてのエネルギー需要について自然エネルギーにより100%供給可能になること」を示していて、発電用以外の化石燃料もすべて「ゼロ」にできると断じています。となると、前回示した「2018年の化石燃料輸入額19.3兆円のうち、発電用途の輸入額は6兆円程度」から概算し、残る13.3兆円が発電以外の用途ですから、電力用の化石燃料の2.2倍になる。それがもし、電力と同じペースで削減されると仮定したらの話ですが、単純計算で「0.5兆円×2.2=1.1兆円/年」。これと電力分の「年0.5兆円程度」を合わせたら、全合計で平均<1.6兆円/年程度>が削減可能、という計算になります。

いずれも仮定の話なので確たることは言えませんが、全エネルギー需要を再エネで代替完了するまでの過程で、「化石燃料輸入額を1兆円/年削減」を達成することは十分可能だと言えそうです。

現実として、今まで化石資源を輸入してきた商社やエネルギー・電力会社が、減らせた購買予算を再エネ電力供給力の拡大投資に振り向け、新たな収益源を整備していくことは極めて合理的です。私などが言うまでもなく、既に各社とも再エネ分野への積極投資を開始してますね。さらに国が指導やインセンティブをつければ加速できるはず。のみならず、しっかりした計画なら世界中のESG投資家たちが先を争って投資してくれます。

…以上合わせて、「再エネ転換でEXに必要な莫大な投資の大きな部分が賄える」との筆者の主張の根拠は示せたかと思います。

④ 産業社会の基盤エネルギーの大部分を外国に頼る不安定さと、局所的な地政学的環境変化の影響を脱することで、エネルギー安全保障に加え、政治/経済安全保障のレベルを大きく向上できる。

これはまさに今や、全世界を震撼させている地政学的リスクに係る、超重要論点に浮上してしまいました。エネルギー安全保障がこれほど、政治と経済、国民生活(とりわけ欧州の)を直撃する問題になるとは……。ご存じの通りウクライナを巡るロシアと欧米諸国の対立が一触即発状態の綱渡りを強いられている現在(2/10時点、ここ数日でどうなるかは予見不能)なのですが、この問題の重要性を世界人類が思い知る契機となる意味はあるかも知れません。

このテーマについて筆者は、顧問を務める日本海事新聞の2/3付コラム【菊田の眼 Logistics Insights⑳/再エネEXで地政学的危機克服、持続可能+強靭な社会へ】(※1)で詳しく書いたので、ここにはその要点だけまとめておきますね。

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気候変動と地政学的緊張がいま、世界のエネルギー・サプライチェーンを揺るがす危機的事態を惹き起こしています。脱炭素・ゼロエミ社会へのトランジション(移行)期間の経過的措置として、世界中の民生・産業電力用途で石炭・石油からLNG(液化天然ガス)への転換需要が増大中で、日本では発電用燃料の約4割をLNGが占めています。

それに輪をかけているのが、気候と地政学的環境の変化です。欧州各地では昨年夏以降、異常気象が原因とみられる風力の減退が広範囲で発生。スペイン、英国、ドイツなどで広く普及している風力発電量が減少し、補うためにLNG発電需要が高進。これが世界的なLNG価格高騰の発端の1つになりました。

そこにきて、ロシアとウクライナの国境を巡る地政学的懸案が東西一触即発の緊急事態に。ドイツがほどなく運用開始とみられていたロシアの欧州向けガスパイプライン、ノルドストリーム2の認可手続きを昨年11月に一時停止後、欧州天然ガス価格は2割近く上昇。つい先日、バイデン大統領はもしロシアがウクライナに侵攻したら、新パイプラインは稼働しない、と明言しましたね。

欧州は天然ガスの4割以上をロシアからの輸入に頼っています。万一今後、既存のパイプライン輸送にも支障が生ずれば? 現在欧米各国はLNGの新たな調達先を募りサプライチェーンの見直しに躍起です(日本も輸入LNGの一部を欧州に譲ることに)。ただでさえ欧州各国は厳冬で暖房エネルギー需要が拡大していました。原油価格もコロナ禍を経て高止まりしているし、地政学的エネルギー危機は今しばらく続きそうです。
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そこで!前回触れたWWFJの2050ゼロシナリオなんです。「2050年には電力、熱、輸送用燃料などすべてのエネルギー需要について自然エネルギーにより100%供給可能になる」。これは日本の将来をシミュレートした結果ですが、どの国でもこれを達成できたなら、「燃料の輸入がほぼ不要」になるのです。

原油や天然ガスなど化石資源の主産出国は、米豪を除くと中東、ユーラシア、南アジア、中南米など、東西世界の東側と、南北世界の南側に偏在してますよね。政治的不安定さ、予測不可能性の高さから、数十年にわたって先進諸国はその対応に苦慮してきました。今現在に至るまで歴史的に、「エネルギー問題は地政学的条件の変数」だったのです。産業経済は常に政治判断や駆け引きの結果に翻弄(ほんろう)されています。

この苦しい事情が、再エネEXで革命的に変貌する可能性があるのです。非化石資源といっても、化石資源から生産されるグレー/ブルー水素・アンモニアetc.であれば当然、調達先は石油・ガス産出国と変わりありません。でも化石資源によらないグリーン水素・アンモニアetc.に移行する/そして自然エネ100%に向けて前進するなら、事態は一変します。達成できた分だけ私たちは、きな臭い地政学的変動に惑わされる恐れ、化石資源産出国の脅しにビクつき・媚びへつらう必要性から、解放されるからです。

エネルギーの約9割を外国からの輸入に頼る現在の日本産業社会は、根底でレジリエント(強靭)なサステナビリティを確保できていません。調達・物流費用ゼロで輸入不要な無限公共財、再エネ=自然エネへのEXは、「地政学的リスクの克服と国家のレジリエンス獲得」という、巨大なメリットをもたらしてくれるはずです。

⑤ 再エネ施設とリスキリング教育への集中投資で、化石資源関連の座礁資産、産業・人的リソースを新分野に振り替え、経済成長・雇用の維持拡大と環境対策を両立できる。

こうして再エネEXを進めるほどに、世界を揺り動かすような産業構造の転換が起こるのは必然です。100年に1度のエネルギー「革命」なのですから。従来の化石資源産業と市場は縮小していきます。いや、そうしなければ地球環境を人間にとって持続可能にできないのだから。この大命題を私たちは粛然として受け入れ、決意して大変革に向け前進するしかありません。

「いやだ、変わりたくなんかない!」「ウチの会社がつぶれたら、どうしてくれるんだ!!」

…そんな声が社会各層から起こるかも知れません。だからこそ、経営者は時代を読み、このディスラプティブ(破壊的)な変化に迅速に対応し、人も組織も革命的に進化させなければいけない。でないと生き残れない時代に、すでに入っています。

19世紀の産業革命期、失業者達が「俺たちの仕事を奪った!」と機械を逆恨みして打ち壊す「ラッダイト運動」を起こしたことは、誰もがご存じでしょう。20世紀初頭、馬車が自動車にとって代わられた時、馬丁たちは失業したけれど、自動車工場ほかで膨大な雇用が生み出され、社会は異次元に発展した。それくらいの大変化が起こります。けれど決して「21世紀のラッダイト運動」を起こしてはならない。だからこそ私は「CREフォーラム」でも毎度、「地球と人の環境保全」が目下最大の課題なんだと訴えてきました。従業員が誇りをもって働ける待遇と職場環境なくして、企業に持続可能性はありません。

そしてもう1つ。この再エネ革命EXに不可欠なのがDX、デジタルトランスフォーメーションです。脱炭素に向け最新デジタル技術の活用で再エネ供給力を爆速で拡大すると同時に、その電力を需要変化に応じていつも安定して送電・供給可能にするには、IoTほかのデジタル技術を満載にしたスマートグリッド/マイクログリッドなどのシステムが不可欠です(詳しくはCREフォーラムレポートを参照)(※2)

つまり、「DXなくしてEXなし…No DX、No EX!」なのです。
こうしてEXに取り組む中で、再エネ分野に全世界で巨大な需要=巨大な成長市場が生み出されます。化石資源に係り座礁資産となる産業リソースと人的リソースを、この成長市場にいかに取り込みスムーズに転換するか。これが国と産業界にとって残る半面の大きな課題となります。環境対策と経済成長の両立へ、軟着陸を何としても成功させねばなりません。

EX成功の彼岸には、明るい未来が拓けている。人にも地球にも産業社会にも。
私はそう確信し、EXの推進を鼓舞し続けます。

(※本コラム内、見出し④・⑤の記載項目は、CREフォーラム講演レポート資料の項目から、2022/2/1改訂版に改善しています)

バックナンバー

1 物流DX① ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?
2 物流DX② ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?(その2)
3 脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part① 「スーパーシティ」の物流像とSDGs
4 脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part②再エネ供給の爆速拡大から始めよう!
5 “物流DX”って… フツーの”DX”と違うんですか? 新・総合物流施策大綱のざんねん項目と今後への期待
6 物流脱炭素化へ “モーダルシフト”に新たな戦略的価値 ~共同物流との合わせ技/海運活用でBCP~
7 EXで脱炭素物流、そして「国家安全保障」へ Part① Energy Transformationのトンデモ革命的価値を検証する!!

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト
(㈱大田花き 社外取締役、㈱日本海事新聞社 顧問、
流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問)

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。

著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。

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