スタッフコラム

食品物流、「途絶」の危機を乗り越え持続可能に!~(食品コラム後編)冷食/食品通販物流サステナブル化への戦い~

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

菊田一郎氏の連載コラム「物流万華鏡」

前編「嫌われた加工食品物流」(※1)に続き、今回の食品コラム後編では③冷凍・冷蔵食品の低温物流、④食品の通販物流に焦点を移し、「食品物流と産業社会のサステナブル(持続可能)化」に向けて頑張る、各社の事例を取り上げます。

低温物流サービスを持続可能に~ニチレイロジグループ

トラックドライバーの残業可能時間短縮に伴う「物流2024年問題」を前に、危機感を強める状況は、同じ加工食品カテゴリの冷食物流業界もまったく同じ。

そんな中、国内トップの食品低温物流事業者であるニチレイロジグループでは、「強みを最大限に活用して持続可能な低温物流サービスを提供する」ために本年5月、輸配送システムの革新に着手したと発表しました。まさに本テーマにぴったしの中身なので、同社リリースから要点を紹介します。

その名は、次世代輸配送システム「SULS」(サルス)。これは「S&U Logistics System」からの造語で、
「S」は、
・Speedy(よりスピーディに)
・Sustainable(持続可能な)
・Solution(課題を解決) ……の「3つのS」
「U」は、
・Utility(より効率よく)
・Usability(より使いやすく)
・User Experience(高い体験価値)……の「3つのU」
の意味を込めたもの。「3つのS」の強みで、社会や顧客に「3つのU」を提供するんだ…という決意を示しています。

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ではでは、「SULS」とは、どんなシステムなのか? そのキモは、グループの拠点間輸送において…

◆ 荷台部分の切り離しが可能なトレーラーを活用すること
◆ 荷積み・荷下ろし等の作業はドライバーではなく、拠点側人員で行うこと

これにより、今まではドライバーが担当させられていた荷積み作業が不要になるので、「ドライバーの拘束時間を大幅に短縮」できる。2024年問題への有力な対策になりますね。このトレーラーは同社グループで保有し、中継拠点に「常に荷積みされた状態のトレーラー」を用意しておく。なので、車両到着後、ドライバーは長時間かかる荷積み作業や待ち時間なしに、トラクタヘッドにトレーラーをつなぐ/つなぎ替えるだけで即、次の目的地に向けて出発できる(写真)。結果としてドライバーの時間外労働削減、輸送能力の大幅な拡大につながることが期待されます。

それを実現し、しかも持続可能にできるのは、同社グループが「全国約80か所の自社運営拠点」と「国内最大規模のベースカーゴ」、それに「全国95社の運送協力パートナー」という強みをもっているから。「SULS」はまずは東名阪の拠点間輸送から整備を開始し、全国へ順次拡大していくとのことです。

荷積み作業を拠点側で行うルール

この仕組みの重要ポイントを、もうちょっと掘り下げます。本事例のような専用トレーラー以外に、数年前にニトリの物流子会社・ホームロジスティクスが導入して話題になった「スワップボディコンテナ」でも同じ運用が可能なので、併記していきます。

①ドライバーが拠点に到着する前に、"拠点側人員"がトレーラー(またはスワップボディコンテナ)に貨物の積み込みを完了しておく
②ドライバーが到着したら、トラクタヘッドに満杯のトレーラーを"つなぐだけで”(満杯のスワップボディコンテナをキャリアに"載せるだけで")、すぐに出発する

…という運用がミソなんです。いいですよねえ、物流センター運用が全部こうなれば、2024年問題も1/3くらいは解決できそうにも思えてしまう。でも今まで当業界には、この「あったらいいな」業務フローの実現を阻む、高い厚いカベがあったのですね。

もちろん物流事業者の方はようくご存じなのですが、そもそも、「荷積み・荷下ろし」作業はトラックを運転してきたドライバーが無料サービスで、もしくは低料金でやるのが当たり前、という商慣習がこの国には蔓延していたからです。それをドライバー(運送会社)ではなく、拠点側(荷主、物流子会社または元請企業など)の人員が担当する「運転と荷役の分離」ルールへと、天地をひっくり返す大転換をさせなければ、実施できません。だってトラックが「到着する前」に荷積みをしようとする時、ドライバーはまだ、そこにいないんだから。

トラック1台分の積み下ろし作業は、パレットなしの直積み貨物の場合、1人では数時間もかかる重労働。この作業を荷主など拠点側の役目に切り替えれば、もちろん拠点側のコスト負担は上がります。けれどもドライバーをこき使って疲弊させ、結果として運送会社から忌避され、「運んでもらえなくなる」ことに比べたら、はるかにマシじゃないでしょうか。今日・明日、今月・来月といった超短期的視点を、数年の中期視点に切り替えるだけで、結論は余りにも明らかです。

この「中期視点」を我が国の荷主業界はなかなか持てずに来てしまった。物流2法改正以来の新自由主義的参入規制緩和で運送事業者数が爆増し、レッドオーシャン化した市場では運賃がたたき合いで下がり続け、面倒作業の負担は運送事業者に押し付ければ済んでいた。運送事業者も文句を言えば、「あ、そ。じゃ、さいなら」で切られてしまうから、従うしかなかった。代わりはいくらでもあったからです。

その結果、トラックドライバーの労働時間は全産業平均より2割長いのに、賃金は1‐2割低くなってしまった。そんな仕事につきたいと思う人は、減る一方で……悲しい悲しい暗黒の歴史が、つい足元まで刻まれていたのです。そして「このまま」では、2030年までに数十万人のドライバーが足りなくなる。そして、、、「運んでもらえなくなる!」のです。

トレーラー、スワップボディにもっと注目を

もう1点ぜひここで補足したいのが、実は上記のトレーラー/スワップボディコンテナ方式が、ヨーロッパ各国ではとっくの昔に、私の知る限りで少なくとも40年くらい前(たぶん実際にはもっと前)から、ごくごく当たり前の定番物流方式として、倉庫やセンター現場で実運用されてきた、という事実です。私がこの目でスワップボディコンテナを見たのは、1986年のドイツが最初だったと思いますが、以来毎年のように欧州の物流現場を視察して回ったところ、スウェーデン、スイス、オーストリア、フランス…もうどの国のセンターに行っても、入出荷バースには細い6本足で立つスワップボディコンテナがずらりと並び、トラックを待っていました。

荷積みが終わっていたら、取りに来たトラックはそれをトレーラーに装着してすぐ、出られる。当時の私にはまだ、その見事なまでの合理性がよく理解できませんでした。でも800×1200mmの標準ユーロパレットにピッタリ整合化された、400×600mmのプラスチックコンテナやカートンボックスを載せ、あるいはパレットのハーフサイズのカゴ車をトラック荷台に積み合わせる(そのためにパレットサイズから逆算し、そのパレットにぴったり積み付け可能なモジュールサイズの輸送荷姿にできる製品寸法設計がなされます。これが本物のデザイン・フォー・ロジスティクス=DFL)、というカンペキなユニットロードシステムが、欧州でははるかな昭和の昔から実現されていたことには、感銘しました。低コストで人にも環境にも優しい物流システムは、空気のように自然で当たり前のものになっていた。ユーロ圏内の多くの国の間では、それが国境を越えて実施されているのです。

誰か学者さんか研究組織が日欧の社会的な物流システムの圧倒的な差異をしっかり研究し、もし欧州式のユニットロードシステム/DFLが国内物流で実現されたなら、どれほど物流コストが削減できるのか、試算を出してくれないものでしょうか? その期待効果は、モノと情報とプロセスを標準化し、モジュール荷姿で自在な組み合わせ・組み換えを可能にするユニットロードシステムを前提とした究極の物流協働オープンプラットフォーム、「フィジカルインターネット」実現への投資を正当化する根拠にできると思うからです。

持続可能な食品通販めざして~パルシステム

さあて、次に注目するのは食品の通販物流。代表選手として取り上げるのは、パルシステム生活協同組合連合会(以下、パルシステム)です。関東周辺の13都県を事業エリアとする生協の事業連合組織で、総事業高は2,569.1億円、組合員数は168.3万人。生協としての供給規模(単協・事業連合を含む)では国内6位ですが、安全・安心・高品質の商品とサービスでトップクラスの高い評価を得ています。

筆者は先日、ある対談ウェビナで同連合会の茂木洋介物流部長をゲストにお招きし、あれこれと語り合ったのですが、食品物流と産業社会の持続可能性にコミットするその信念と活動に感動。他の機会にも紹介させてほしいとお願いしたところ、資料引用の快諾を頂いたので、まとめて紹介させてもらいます。

そもそも「消費者が支えあい、よりよいくらしの実現を目的とする非営利組織」が生協の出発点。中でもパルシステムは「消費者との共創による社会課題解決」を事業活動の基本的な考え方としているのに加え、「一人ひとりの行動が持続可能な地域社会をつくり世界の平和につながる」というメッセージを込めたパルシステム2030ビジョン「『たべる』『つくる』『ささえあう』ともに生きる地域づくり」を掲げています。なので、SDGsとの親和性の高さは一般企業以上なんですね。

生協のビジネスモデルは皆さんご存じと思いますが、「毎週1回・同じ曜日に、前の週に注文した商品が届く」というもの。パルシステムの場合、圏内約80万世帯に商品を配達しています。指定曜日を適切に切り分けることで、一定の物流平準化コントロールが可能なのと、一週間という十分なリードタイムを確保できている(翌日配送などの一般的ニーズはあるとしても)ことで、計画的な調達物流・幹線輸送・保管・セット・ラストマイル配送が可能になる。とりわけ物流視点から見て、極めて優れたビジネスモデルだと、私はかねてから高く評価していました。

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さて、そんな生協の食品通販ビジネスは、国内でどんな位置づけにあるかご存じでしょうか。2020年度の食品無店舗販売市場とシェアに関する調査結果によると、その全体市場規模は前年比113.1%となる4兆3,507億円。コロナ禍のせいで急拡大していますね。で、そのシェアを見ると、ショッピングサイト(いわゆるネット通販)が39.7%で1位ですが、生協全体で37.2%と僅差の2位につけているんです。

2020年度の食品無店舗販売市場シェア

さらに筆者が驚いたのは、次の図です。2020年度の通販食品売上動向をみると、パルシステムはあの超有名な宅配お弁当、超大手EC企業、ネットスーパーなどなどを大きく上回る事業規模になるんです(先述の通りこれ以上の規模の生協も5つある)。食品通販は生協抜きには語れないということですね。

2020年度・通販の食品売上動向

食品物流でSDGs達成に貢献

パルシステムはこれまでの成長に伴い、温度帯別のセットセンターなどの拠点・物流システムと物流ネットワークの拡充・高度化を進めてきました。加えて、「持続可能な生産と消費の確立」というビジョンの達成に向け、SDGs達成につながる数多くの施策を推進してきました。そのいくつかをご紹介します。

① フードロス削減

・消費期限が短いパンや冷蔵品は受注後製造。店舗のように過剰な在庫が発生しない
 …「受注生産」はフードロス撲滅の決定打。それができるビジネスモデルなんですね。
・計画製造/計画購入による流通/家庭でのフードロス削減
 …これも生協モデルだからできることです。

② リサイクル・リユース

・保冷箱やコンテナなど物流資材、リユース瓶を使い捨てず繰り返し使用
・紙パッケージなどは毎週の宅配時に回収し、リサイクルして活用
 …週1回の配達後に、安定的に回収できる仕組みであることが他にない強み。

③ 社会的包摂就労(ダイバーシティ&インクルージョン)

・100%出資の物流子会社パルラインにて、障がい者や長期無業者の雇用促進
 …杉戸センターのカタログセット業務では法定雇用率2.3%に対し、14.78%を達成!

④ 物流2024年問題の克服に向けて

このテーマはそもそも、過重なドライバー残業時間を減らして労働環境を改善することが目的です(24年4月から残業は年960時間以内となるのですが、これは月平均にしたら80時間、短くなっても過労死ラインなんです!)。ようやく第一歩だけれど、「人間らしい尊厳と働きがいのある仕事=ディーセント・ワーク」推進を掲げるSDG8「働きがいも経済成長も」の達成にそのままつながる課題です。パルシステムではこんな対策を推進しています。

・ドライバーの拘束時間削減へ…入荷バース予約システム導入、パレット納品の推進
・共同配送センター活用による納品時間削減…一括納品・在庫、一車単位納品なども可能に
・納品車両の大型化による輸配送効率化、冷凍ハイブリッド車(写真)の導入による低炭素化

市民・消費者も巻き込みながら、宅配事業でSDGs達成に挑むパルシステムの取り組みに、心からエールを送りたいと思います。

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…以上、今回は「食品物流の持続可能化」のテーマから、「地球環境」と「物流で働く人」を持続可能にする取り組みを通じて、物流事業・ビジネスをも持続可能にするチャレンジを追ってみました。「運んでもらえない食品物流」になってしまう悪夢の事態を避けるには、係るあなたがいま立ち上がり、すぐできることから行動を始める必要があるのではないでしょうか。

バックナンバー

1 物流DX① ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?
2 物流DX② ”物流DX”で 会社と物流を変えますか?(その2)
3 脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part① 「スーパーシティ」の物流像とSDGs
4 脱炭素・デジタル時代の物流ビジョン Part②再エネ供給の爆速拡大から始めよう!
5 “物流DX”って… フツーの”DX”と違うんですか? 新・総合物流施策大綱のざんねん項目と今後への期待
6 物流脱炭素化へ “モーダルシフト”に新たな戦略的価値 ~共同物流との合わせ技/海運活用でBCP~
7 EXで脱炭素物流、そして「国家安全保障」へ Part① Energy Transformationのトンデモ革命的価値を検証する!!
8 EXで脱炭素物流、そして「国家安全保障」へ Part② Energy Transformationのトンデモ革命的価値を検証する!!
9 “嫌われた”食品物流、 途絶の危機を乗り越える!~(前編)加工食品/ビール物流の持続可能化への戦い~

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介

L-Tech Lab(エルテックラボ)代表、物流ジャーナリスト
(㈱大田花き 社外取締役、㈱日本海事新聞社 顧問、
流通経済大学 非常勤講師、ハコベル㈱ 顧問)

1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。

著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。

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